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導の先に立て ―ダンジョン攻略して世界を救う英雄の物語―  作者: 紅咲 いつか
Area4:白霧の境界と渡り鳥

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Point11-19「滑り込む先は……」

「〝重力荷重〟!」

 ルカが掲げた斧槍に埋め込まれた精霊核が輝く。重力に引っ張られ、放たれた矢はルカたちに届くことなく、ずっと手前の壁に突き刺さる。

「剣技――〝春一番〟!」

 ミザールの剣風が一直線に伸びる。隊列を組んでいた天使たちの包囲網に穴が開いた。

 ジェイドたちは脇目もふらず、虚空の通路を走り回る。

「ロディルトの角灯の明かりに反射している光を追え! そこが足場だ!」

 ジェイドの指示に従い、ルカたちは誰一人足を踏み外すことなく対面の壁へと転がり込んだ。

「〝絶対零度〟!」

 ユンとアルトが振り向きざまに分厚い氷の壁を生み出す。こちらを追撃してきた矢がバラバラと弾かれた。

 ロディルトの手の中で炎が爆ぜる。

「〝炎の断罪〟」

 ロディルトの放った炎が、氷の壁を打ち破ってなだれ込む天使たちを焼き消す。

「こっちだ!」

 ジェイドの声掛けにルカたちは彼の後を追う。するとジェイドは垂直の壁を一気に駆け上っていく。

「本当、何でもありよね。ダンジョンって……」

 ルカはもう呆れ顔で、己もジェイドを真似て壁を真っ直ぐ駆け上がる。

「空間そのものがねじれていますからね」

 ロディルトも真顔で相槌を打つ。

「ジェイド! 筒を寄越しな! ユン、アルト! 同時に行くよ!」

 ミザールの呼びかけに、ジェイドは懐から取り出した筒をミザールへ投げた。

 ぱしっと虚空で半円を描いた筒を受け取り、ミザールはくるりと天使たちに向き直った。彼女の両脇から、無数の氷の槍が過る。氷の槍は追いすがってきた天使たちの身体を易々と貫く。

 ミザールが生み出した風の渦が、凍り付いた天使たちを筒の中へと誘う。

 その様子に、天使たちが警戒して距離を取り始めた。

「何だい、もう終わりかい?」

 ミザールが天使たちの行動をせせら笑う。とはいえ、ジェイドたちが先へ進み出すと天使たちも追撃してくる。天使たちから放たれる矢や槍の雨を潜り抜け、ジェイドは目の前に現れた絵画へと突き進む。

「飛び込むぞ!」

 いうなり、壁にかけられた絵画へと身を埋めた。

 ジェイドは草上を転がりながら素早く起き上がる。

 周囲を見回すと、そこはどこぞの庭園のようだった。

 手入れの行き届いた低木には小ぶりな白い花が咲き誇り、遠目にうかがえる東屋もまた白い石材を用いて建てられている。

「今度はどこに降り立ったの?」

 ルカが書物を開いて確認しているロディルトの脇で尋ねる。

「巻貝の一回り内側ですね。ここのダンジョンの侵食率はひどくゆっくりのようで、あちこちに穴があるようです」

「なら、上手くやれば道中短縮できるってわけかい」

 ミザールが嬉しそうに肩を回した。

「いっそ次は手ごたえのある大物ボスでもいいんだけどねぇ。さっきの天使たちみたいなのばかりだと張り合いがない」

「今回はその要望が叶えられそうだぞ」

 ジェイドが指を差した方角には、広い庭園の中央。本来であれば噴水などが設置されていそうな広い空間に佇む一体の天使の姿だった。

 背に三対の翼を生やし、兜で顔の上半分を覆った天使は白いドレスを纏ってこちらを待ち構えているようだった。外見こそ細身で優雅だが、今までかかった追手とは明らかに実力が違う。

「……実力で潜り抜けてみろ、ということか」

 ユンが小さく囁いた。

「ユン、ミザール、相手の手管を引き出してくれ」

「わかった」

「あいよ、任せな」

 ジェイドの指示にユンとミザールがすぐさま返事をする。

「じゃあ、私は補佐に回るわね」

「おいらもがんばるぞ!」

 ルカとアルトが互いに顔を見合わせて頷き合う。

 ロディルトは書物を手にジェイドと並んで天使の動きを観察する側に回った。

 ミザール、ユンからそれぞれ硬貨と杯を預かっている。

「さ、まずはどでかいの行くよ、ユン!」

 ミザールの合図に、ユンが虚空に無数の水球を浮かべた。

広場でじっとジェイドたちのやり取りを傍観していた天使が顔を上げる。

「剣技――〝浚いの風〟!」

 渦巻くミザールの風とユンが予め虚空に浮かべた水球が冷気によって凍り付き、無数の礫となって天使を強襲する。

 天使は三対の翼を広げると、光を纏った。氷の礫をことごとく弾く。

 双剣を手に、ユンが肉薄する。

 水を纏った刃が、天使へ振り下ろされる。ユンの刃も氷の礫と同様、天使が纏った光に弾かれた。ユンは弾かれた双剣の刃から水の膜を消し去る。そのまま、何の力も纏わぬ刃を天使へ振り下ろした。今度は天使も回避行動をとった。纏った光はそのままに、大きく後ろへと退く。

「あいつの光、物理攻撃は防げないみたいだね」

「任せて」

 ミザールの目配せに、ルカが斧槍を掲げる。

「〝重力軽減〟!」

 ルカが庭園内にあるすべての石や柱を虚空へと浮かび上がらせた。

「からの~、〝重力荷重〟!」

 浮かび上がった瓦礫が、ルカの意思に従って天使へと降り注ぐ。

 天使が両手を突き出す。そこに見慣れない方陣が現れた。

 瓦礫が天使の上に落下してくるも、すべて見えない壁のようなものに阻まれた。

「精霊術は無意識下での防御行動、物理攻撃に対しては回避か自ずと防御行動をとるのか」

 天使の動きを注意深く見据えていたジェイドが囁く。

 次は天使が動くようだ。翼を広げ、両腕を胸の前で合わせる。

 次の瞬間、ジェイドたちの足元に方陣が出現する。全員が瞬時に回避行動をとった。光の柱が立ち上り、方陣に巻き込まれた植物がジュッと短い蒸発音を出して消え去る。

 目元が覆いの下にあって表情はいまいちわからないが、天使の殺意が先程よりも強くなったのはよくわかった。

「はっ、探り行動が気に入らないってわけかい。他の連中と違って物を考えることはできるんだね」

 ミザールが風を起こし、目くらましのために砂を巻き上げる。砂埃が舞う中、ミザール、ユン、ルカが駆け出した。

 三人が同時に天使へ刃を振り下ろす。

 精霊術を纏ったものとそうでない攻撃。

 天使は瞬時にその場から消え失せ、別の場所へと転移して三人の攻撃を避けた。

 合わせ技を防ぐ方法はないようだ。

「見えたな」

 ジェイドが剣を抜き放つ。ロディルトも書物を荷の中へと収め、手のひらに炎を宿した。

「全員、畳みかけるぞ」

 合図とともに、ジェイドが天使へと突っ込んでいった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2024

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