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導の先に立て ―ダンジョン攻略して世界を救う英雄の物語―  作者: 紅咲 いつか
Area4:白霧の境界と渡り鳥

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Point10-28「『怠惰』の真意」

「剣技――〝春一番〟!」

 先手必勝とばかりに、ミザールの放った風の斬撃がルクノアに迫る。

 ルクノアは動かない。ただ、羽虫を払うような仕草をしただけだった。

 ミザールの放った風の斬撃が呆気なく霧散する。

「〝渦海舞〟!」

 素早くルクノアの背後に回ったユンが双剣を振り下ろす。ルクノアは片手でユンの振り下ろした双剣を掴んだ。その途端、彼の足元から水柱が渦を巻く。

「剣技――〝氷山(おろし)〟!」

「〝暴風渦〟!」

 ミザールとアルトが同時に冷たい風を生み出す。

 ユンが生み出した水柱が凍てつく風によって凍り付いた。ユンが氷柱の上の方からジェイドの傍へと着地する。水柱が凍り付く寸前で脱出したようだ。

 こちらが息つく間もなく、氷柱全体に亀裂が生じる。内側から激しい音を立てて割れた。

 そこには緩く腕を組んで佇むルクノアの姿がある。

 相手は魔界の十三魔将。この程度で足止めできる相手ではない。

「〝重力崩壊〟!」

 ルカの掲げた斧槍に埋め込まれた精霊核が暗紫色に輝いた。

 ルクノアを取り囲むように、シャボン玉のような黒い球体がいくつも浮かんだ。

「はぁ……面倒くさい」

 ルクノアは手近の黒い球体をその細長い指で弾いた。途端、ルカが生み出した重力の特異点が消滅する。

「はぁっ!? あんた、ふざけないでよ!」

 額に汗を浮かべたルカがルクノアの行動に非難めいた叫びを上げる。

 ルカにとって体力的にも精神的にも生み出すことがしんどい技なだけに、指先で軽くあしらわれたことが気に食わないのだろう。彼女だけでなく、ジェイドやロディルトも目を見開いている。

「重力の特異点を……ああも容易く……」

 呆然と呟くロディルトの傍で、ジェイドが目を鋭く細めた。

「ダンジョンに潜った後はできる限り、強い悪魔は倒しておいた方がいい……。巫の言葉は、これを意味していたのか」

「ジェイド、何かわかったのかい?」

 ジェイドの呟きを聞きつけたミザールがちらりとこちらに視線を寄越した。

「ルクノアは配下の能力を自分の能力にしてしまうんだ」

「……悪いけど、違うよ。何より、その言い方は誤解を生むし、僕としても気分が悪い」

 ルクノアが眉を顰めた。

「逆だよ。配下の悪魔に僕の能力を貸し与えただけ」

 ルクノアが呆れ顔で鼻を鳴らす。

「十三魔将に近づく悪魔の中にはさぁ、十三魔将の傍にいれば強くなれるって思いこんでいる奴も一定数いるわけ……。そこで馬鹿みたいにがんばる奴もいるけど、大半は十三魔将の権威を盾に好き放題したい奴が大多数なわけよ」

「……なんか似たような話を聞いたことがあるわね」

 ルクノアの物言いに、ルカが思わず感想をもらした。

 魔界だろうが中間世界だろうが、権威を嵩に着る連中はいるということだ。

「十三魔将の中には見込みのあるやつを育てている変人もいるよ? でも、そんなの面倒じゃん。どうせ使い捨ての駒でしかないのに、どうして手間暇かけて教えなきゃいけないのさ」

 そんな手間をかけるくらいなら……、とルクノアが自分の胸に左手を添える。

「自分の能力を貸し付けて全部やった方が速いじゃん?」

「……は?」

 ルクノアの言っている意味がわからず、ジェイドたちが間の抜けた声をもらす。

「僕の能力は他者に自分の力を『憑依』させ、『発展』、『改善』した後に自分のものとするもの。だって自分で努力するとか面倒じゃん? だからこそ、僕は魔王さまから『怠惰』の最高位(レウーア)の称号を頂いたわけ」

 ルクノアがニッと口角を上げた。

「僕に選ばれたと勘違いしている連中があくせくと僕の能力向上に貢献してくれる様は見ていて愉快だったけどねぇ」

「あんた、最低だね」

 ミザールが心底嫌そうに顔を顰めた。

「まぁ、僕の面倒くさがりな性格は生まれ持ったものだし、いかに楽して勝てるかを考え抜いた結果、こうして魔界の頂に君臨することになったわけなんだ。大事だよ? 楽して勝つって」

 ルクノアはくすくすと笑うと、両手を胸の前で合わせた。ぱんっと小気味いい音が広間に響き渡る。


「だから僕は、君たちが『自滅』する様をのんびり見学することにするよ」


 彼のその言葉が不気味な響きを持って発せられる。

 身構えたジェイドたちの目の前が真っ暗になった。

「精神干渉か? それとも転移?」

「ジェイド、何が起きてるの?」

 暗い空間の中でジェイドとルカが互いに背を預ける。

 ミザールやロディルト、ユンやアルトも互いに身を寄せ合っている様が見えた。

 少なくとも精神干渉ではないだろう。

「とにかく、突破してみればわかるさ!」

 ミザールが構えた剣に風を乗せる。そのまま鋭い突きを暗闇へと突き込んだ。

 すると、周囲の暗闇が晴れた。眩しい光にルカは腕で目元を庇う。

 しばらくして目を恐る恐る開けると、目の前には空があった。そして、空に無数の島が浮かび、その間を雲海が抜けていく光景が広がっていたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2024

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