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導の先に立て ―ダンジョン攻略して世界を救う英雄の物語―  作者: 紅咲 いつか
Area1:悪意の森と渡り鳥

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Point1-22「ダンジョン攻略」

 ジェイドは傾いた円塔を見上げた。

 外付けにされた階段は単に壁として使用している岩を伸ばしたままにしたような有様で、頑強さに若干の不安が伺える造りであった。粗削りな円塔はどれほど昔の人間たちが生み出したものかはわからない。ただ一つ、ジェイドに言えることは人間側が敗北した「結果」がこの円塔であるということだけだった。

「……」

 ジェイドは度重なる地震で亀裂の入った石階段を慎重に登っていく。先程、遠くで火柱が上がったのが見えた。ロディルトによる合図だろう。

 ジェイドが渓谷の方に顔を向けると、宙に浮いた無数の瓦礫が、ものすごい勢いでこちらに向かってきているのが見えた。その後ろから光る無数の羽虫の群れが追いかけている。どうやら、ルカも上手く誘導に成功したらしい。

「急がなければ……」

 ジェイドは円塔の頂上まで登り切ると、足元を見下ろす。傾いた円塔の付近には、様々な模様の描かれた石畳や石壁、柱の類が散乱している。じっとそれらを観察していたジェイドの耳に、激しい爆発音が届いた。

「くっ……〝炎の断罪〟」

 森の中から走り出たロディルトが、振り向き様に炎を生み出した。己に迫った花の蔓を焼き尽くし、左右から伸びてきた蔓は身を屈めて避ける。

 木々の間を縫うように歩み寄ってきたのは、光の粒子をまき散らすキトゥスだった。己の全身から伸びる蔓の先に香しい花々を振り撒き、花蔓には円盤の欠片を後生大事に絡めとっている。

「ジェイド! 連れて来たわよ!」

 少し遅れてルカも円塔の下の広場へ姿を現した。円塔の上から状況を確認したジェイドが大きく頷く。

 これで役者は揃った。

 ジェイドは傾いた円塔が小さく震えたのを確認すると、ルカに顔を向ける。

「二人とも、これから指示するところへ瓦礫を並べるんだ! ルカ、この場にある瓦礫をすべて浮かせろ! ロディルト、まずは右の瓦礫二つと左の三つ、手前から順番だ!」

 了解、と二人からすぐさま返事が飛んでくる。

「〝重力軽減〟」

 ルカが振り上げた斧槍に呼応して、円塔周辺の瓦礫が一斉に浮き上がった。

「〝炎の弾丸〟」

 ルカに向けて突っ込んで行く羽虫を撃ち落とし、ロディルトは浮いた瓦礫の間を縫う。そこへキトゥスの放った光の蔦が瓦礫を貫通させながら追跡してくる。

「ロディルト、次は左! 真っ直ぐ……右の二つを拾って左だ!」

 ジェイドの指示を受け、ロディルトが炎を放ちながら瓦礫の間を駆け抜ける。逃げるロディルトの後ろをキトゥスの光の蔓が追う。瓦礫を貫通した蔓が引っ張られ、見下ろすジェイドの目の前でやがて元の欠片の形へと組み上がっていく。

「〝重力軽減〟」

 ルカはロディルトに迫った羽虫たちへ精霊術を放つ。唐突に重力を失った羽虫たちは明後日の方向へ散り散りになる。ロディルトがルカのすぐ傍まで駆けてきた。

「よし……ルカ! 交代だ!」

「ルカさん、頼みます!」

「任せて!」

 すれ違い様、ロディルトが掲げた手にルカも手を合わせた。パンッと乾いた音が辺りに響いた。

「ルカから近い瓦礫で、右の瓦礫だ! 次に奥三つ……最後は左二つの瓦礫だ!」

 ジェイドの指示が飛び、ルカが頷くと同時にキトゥスに向けて斧槍を振り下ろした。キトゥスの顔がルカに向く。

「さ、今度は私を追って来なさい!」

 セフィスの前に飛び出したロディルトが、両手に炎の紋章を浮かべる。

「お待たせしました。ここからは私がご案内いたします」

 ロディルトも眼鏡の奥で目を細めた。汗の滲む顔に、余裕の笑みを浮かべる。

「〝炎の誘い〟」

 ロディルトの両手から放たれた炎が、虚空を駆ける。

 羽虫たちが炎を追って上昇した。

「ロディルト、そのまま羽虫たちを円塔へ誘導してくれ!」

 ジェイドが叫ぶと同時に円塔の手すりに手をついた。そのまま円塔から飛び降りる。ジェイドが飛び降りた瞬間、ロディルトが炎の軌道を変えて円塔へと放った。追従する羽虫たちが一斉に円塔へ激突する。いくつもの光の破片が舞い散る中、傾いていた円塔が崩れた。崩れた円塔の内側から太い樹の根が伸び、まるで種から芽吹くように枝葉を広げていく。

 そこへ光の枝が一本、虚空にいるジェイドへと迫った。

「ジェイド!」

 ルカが斧槍を構え、ジェイドに迫った枝にむけて圧力を乗せた斬撃を飛ばした。

 円塔を突き破って生えた大樹に、人間の上半身が生えた。ミルティナの目が虚空で態勢を整えるジェイドに向けられる。

「ルカ、後の瓦礫の順番は右奥、中央、左奥、左手前、右手前の順で並べてくれ!」

 ジェイドはそう言い残すと、足が地面につくなりミルティナに向けて駆け出した。

「えぇ!? ちょっと、いきなり言われても覚えられないって!」

「私が覚えました! 指示を飛ばします!」

「ロディルト、あんたってすごいわね! お願い!」

「まずは右奥の瓦礫を――」

 ジェイドの背後で、ルカとロディルトのやり取りが交わされる。ジェイドはミルティナの枝を避けながらその太い幹に飛びつく。迫る枝を利用して、ミルティナの上半身が覗く幹まで登っていった。ミルティナが両腕を振るい、鋭い爪でジェイドに掴みかかる。ジェイドは腰の剣を抜いてミルティナの鋭い爪を受け止めた。

 じりじりとジェイドの足が後ろへ押されていく。

「ジェイド!」

 ルカの声に、ジェイドの目が一瞬だけ下方に向いた。

 地面の上に並べられた瓦礫と、炎を追って虚空を舞っている羽虫の群れ、そしてセフィスとキトゥスをそれぞれ牽制しているルカとロディルトの姿があった。

「仕上げだ」

 ジェイドは剣を振るうと、ミルティナの両手を弾く。そのまま剣を横一閃してミルティナの胴を切り離した。目を見開くミルティナの腕を掴み、ジェイドは彼女を真下へと投げ落とした。

「二人とも、セフィスとキトゥスを繋ぎ止めろ!」

 ジェイドの叫びに、ルカとロディルトは同時に動いた。

「〝炎の断罪〟」

 ロディルトの炎がセフィスの両足を焼いた。崩れ落ちるセフィスがロディルトとルカが繋ぎ合わせた石畳に手をつく。すると、彼女の触れた石畳の模様が輝き出した。

「あんたたちの負けよ!」

 ルカは斧槍を振り上げ、キトゥスの胴を両断する。そのまま、花蔓を伸ばして逃亡を図るキトゥスを、ルカが胸倉を掴んで地面へ叩きつける。

「観念なさい……もう、眠っていいの」

 地面に叩きつけられたキトゥスが、ルカを見上げる。ルカの苦い顔を見つめていたキトゥスが、フッと小さく笑った気がした。目を閉じた彼女の下で、石畳の模様が輝く。

 最後にミルティナが石畳の上に落ちると、ルカとロディルトの足元に並べられた瓦礫が巨大な円盤となって輝き出す。駆動音とともに巨大な円盤が回転を始めた。地面の揺れが収まり、セフィスやキトゥス、ミルティナの姿が円盤の光に溶け込んで消えていく。円盤の中央により一層眩い光が集束した。円盤の中央に浮かんだ宝珠がダンジョンの夜闇を照らしている。

「ああ……終わったのね」

 ルカが安堵の吐息をもらした。そこへ風切り音がルカの頬を掠める。目を見開いたルカの目の前で、光の中から現れた宝珠が放たれた矢によって粉々に砕け散った。

 様子を見守っていたロディルトも、ルカと同じように背後を振り返った。そこには弓を手に弦を震わせるジェイドの姿があった。

「ジェイド、あんた一体何を――」

 抗議の声を上げかけたルカは、背後から襲ってきた衝撃に吹き飛ばされた。咄嗟に受け身が取れず、迫る石壁を前にギュッと固く目を閉じる。しかし、予想していた衝撃は襲ってこない。代わりに、あたたかい腕に受け止められた。

 目を開き、顔を上げると周囲へ放たれる光を睨みつけているジェイドの顔がすぐ近くにあった。

 視界は白一色へと染まり、やがてすべての音が消え失せた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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