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導の先に立て ―ダンジョン攻略して世界を救う英雄の物語―  作者: 紅咲 いつか
Area3:憎悪の水底と渡り鳥

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Point8-15「鉄壁の守護」

 ルカは身構えた体制のまま、恐る恐る目を開いた。白い靄が風に吹かれてルカの脇をすり抜けていく。足元には海らしき広大な青が広がり、頭上を仰げば海の色を反射した空があった。

「いつも思うけれど、この透けた床ってどうも落ち着かないのよね……」

 ルカが斧槍を手に己の足元を石突で叩いた。硬い、確かな手ごたえ。目には見えないが、足場があることは確かなようだ。もっとも、どこまで広がっているのかは確認しないことにはわからない。まるで合わせ鏡のような空間に、ジェイドたちは降り立っていた。

「翡翠眼の渡り鳥、ここがダンジョンの最奥で間違いないのか?」

 ハルも居心地悪そうに足元を一瞥した後、ジェイドへ声をかけた。

「ああ、そのようだ」

 ジェイドはそうして眼下を見下ろす。すると、こちらへ真っ直ぐ突き進んでくる物体があった。

 皆が見守る中、その飛来物はジェイドたちの頭上まで上り詰めると、虚空で制止する。その外見は二つの円環に包まれた金属の球体だ。

「こいつがこのダンジョンの(ボス)?」

 ルカの呟きに応えるように、球体が円環を周囲へ飛ばし、光の壁を形成する。

「天界の異形どもは結界術を得意とする。結界の継ぎ目を狙え!」

 ジェイドが武器を構えた仲間たちへ呼びかけた。

「〝炎の鉄槌〟」

 ロディルトが虚空に炎の槍を生み出すと、結界と結界の隙間へと放つ。一、二本ではヒビすら入らなかったが、三本目で目に見える亀裂が走った。

「なるほど、なかなか頑丈だな」

 ハルとユンが武器の刃に水を纏い、ロディルトが生み出した亀裂へ刃を突き込む。虚空に飛び散る結界の欠片が、光を受けて輝いた。

「ミザール!」

「風よ!」

 ジェイドの警告に、ミザールが風を生み出す。ハルとユンの身体が虚空に舞う。そこへ今まで二人が立っていた場所に向けて砕けた破片から光線が放たれた。

「くっ……えげつないものだな」

「我々の排除を第一としている。当然の対策だろう」

 顔を青ざめてゾッとしているハルに、ユンは淡々と応じた。

 そんな二人の間を、斧槍を掲げたルカが駆け抜ける。

「ルカ、正面だ! ユン! アルト!」

「〝重力荷重〟!」

 ジェイドの指示が飛び、ルカは迷うことなく目の前の壁に斧を振り下ろす。球体が生み出した光の壁が全て砕け、虚空を舞う。例によって、砕けた欠片が光を帯びた。

「〝氷の鏡護〟!」

 ユンとアルトが生み出した氷の防壁が、光線を反射させる。反射した光線は真っ直ぐ球体へと向かい、その黄金の殻を焼き貫いた。球体が大きく身を震わせ、見えない床上に落下する。金属が床にぶつかったような音とともに、球体の殻が割れた。

「え? 人……」

 球体の中から姿を現したのは、長い白金髪を背に流す男性だった。その白皙の美貌は無表情ゆえに一種の荘厳さを纏っていた。背に生えた四対の翼を広げ、天使が虚空へと舞い上がる。

「あれが本体か……」

 ハルが槍を構えると、天使は翼を大きく広げて虚空に無数の光の槍を生み出した。

「はっ、芸がないね! 剣技――〝春一番〟!」

「〝蒼舞刃〟!」

 ミザールとハルが放った風と水の槍が合わさり、氷の刃となって天使へと襲い掛かる。しかし、あと少しといったところで、氷の刃は天使の眼前で見えない壁に阻まれるようにして弾かれる。

「くそっ、また結界かい!?」

「いや、さっきのとは別格だ! 空間そのものを断絶しているんだ!」

 氷の刃を防いだ壁を見据え、ジェイドが表情を強張らせた。

「皆、全力で避けろ!」

 ジェイドの警告とともに、天使が虚空に生み出した光の槍を放った。

「〝追い風の祝福〟!」

 アリエスの風がジェイドたちの全身を覆う。不思議なほどに軽くなった足で、見えない床を蹴る。そうして降り注ぐ槍の雨の間を掻い潜った。

「〝見通しの風の祝福〟!」

 アリエスの双眸が緑色に輝く。光の槍を避けながら、天使の弱点を探るアリエスの表情が曇る。

「そんな……」

「無駄だ。相手からの探査を拒絶している。俺たちの攻撃が通じなかった原理と同じだろう」

 ジェイドが呆然と立ち尽くしたアリエスの腕を引く。彼女のすぐ傍を落下してきた槍が通り過ぎた。

「ちょっとジェイド! どうにかならないの!? あいつ、調子に乗って馬鹿みたいにこの槍打ち込んでくるんだけど!」

「しかもあの槍はこの見えない床をすり抜けるみたいだね! 厄介だよ、まったく!」

 際限なく放たれる光の槍から逃れながら、ルカとミザールがジェイドに向けて叫んだ。二人の言葉に、ジェイドはハッと虚空に浮かぶ天使を睨みつける。

「そうか。奴は最初の攻撃で俺たちに気づかれないよう、結界の中へと閉じ込めたんだ!」

「ということは、無限にこの槍は無限に生み出されているわけではなく、ただ結界の中を循環している……」

「我々の方があの天使とは別の空間に閉じ込められているから、攻撃が通用しないというわけだな!?」

 ロディルトとハルが顔を見合わせると、互いに背を預けて炎と水を生み出す。そうして迫り来た光の槍を消し去った。二人によって三本の光の槍が消滅し、心なしか光の槍の攻撃が僅かに緩んだ。天使が翼を大きく羽ばたかせ、再び虚空に槍を生み出そうとしている。

「突破口を開く! ユン、アルト、ロディルト、頼む!」

 ジェイドが剣を手に、必死に目を凝らす。槍を避けながら、必死に空間と空間が繋がる瞬間を待った。そして、ジェイドのすぐ横から光の槍がその穂先を伸ばした。

「ここだ!」

 ジェイドは手にした剣を光の槍が飛び出そうとしている空間へ突き立てた。


「〝雷の楔〟!」


 ロディルトたち三人が生み出した雷撃が、ジェイドの剣を通して空間の裂け目に流れ込む。激しい音を立てて空間が破壊されると、その先に広がっていたのは暗い星空だった。

 それまで美しい男性の姿をした天使は結界とともに消滅し、露わになった本性は白い翼に無数の茨の棘を生やし、巨大な一つ目に鋭い牙を備えた化け物だった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2023

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