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Point6-7「ハトラの脅威」

「ミザール! ロディルト!」

 地上からルカが手を振り、虚空に浮かぶミザールとロディルトに声をかけた。ルカの傍らでジェイドは最後の仕掛けが眠る区画(ブロック)を見回している。

「二人とも、上手く踏破(クリア)できたみたいだね」

 ミザールとロディルトがルカの傍へ降り立つ。

 二人が怪我していないことを確認し、ルカも満足そうだ。

「そっちもね。いよいよ回転するこの階層もここで最後。やっと次の階層にたどり着けるわ」

「最後の謎かけは『大地の怒りが鎮まり、祖霊の招きを受けるだろう』でしたね」

 ロディルトが懐から地図を取り出し、最後の区画の丸印を確認している。

「ジェイド、何かおかしなものとか見つけた?」

「……地図に記した仕掛けならあそこだ」

 ジェイドの指がある方向を指差す。そこには広間に設置された石の塔があった。高さはロディルトの背丈くらいだろう。表面は滑らかに磨き上げられ、石材が持つ独特の光沢が伺えた。

「……お墓じゃないわよね?」

 石の塔を見るなり、ルカがミザールの背後に隠れている。

「祖霊の招きを受ける、とあるからな……」

 ジェイドはあいまいに濁した。石の塔に歩み寄り、そっと触れるが何も起こらない。最初の試練とはまた違った起動方法なのだろうか。

「アタシらの場合は元素を纏ったうえで起動したな。ルカ、あんたの重力を軽くぶつけてみな」

「わ、わかった」

 ミザールの助言に、ルカが石の塔に手で触れ、重力軽減を行う。しかし、結果はジェイドが触れた時と同じで何の変化も起きなかった。

「仕掛けの周辺にハトラ文字らしきものも見当たりません。そうなると今度の仕掛けは、こちらの台座に何かを納める系統(タイプ)でしょうか」

 石の塔の周りの地面を覗き込み、ロディルトが言った。

「祖霊、台座……生贄か?」

 腕を組んで考え込んでいたジェイドがぼそりと呟く。

「また石の心臓を捧げろ~みたいなノリ?」

 ルカが嫌そうな顔で言った。

「まあ、普通に考えたらそうなるわな」

 ミザールも苦笑を浮かべている。

「なぁ、ロディルト。仮にこの台座に生贄を捧げるのだとして、ハトラの連中はどういった方法で生贄を捧げていたんだ?」

 ミザールが台座に張り付いているロディルトへ顔を向けた。

「ハトラ文明は石積みに関する建造物で有名な民族です」

 体を起こしたロディルトが眼鏡のブリッジを押し上げた。

「ハトラは大地の女神を信奉しており、岩を削って家などの建築物を造ることは女神の加護を受けることと同義だったと言われています」

「なるほどね。じゃあ、その女神の加護を受けられない場合ってのはどんな時だい?」

 ミザールの目が鋭さを増す。ジェイドやロディルトもミザールの言いたいことを察したのだろう。ロディルトは僅かに顔を伏せた。

「ハトラは集団としての組織形態を非常に重視します。すなわち……その輪を乱す者」

「集団から孤立した……皆の共通意識から外れた者が生贄に選ばれるというわけか」

 ジェイドが己の額をそっと押さえた。悪魔に刻印を刻まれた彼だからこそ、集団から爪はじきにされる苦しみを共感できるのだろう。

「なら、この区画で風景に『馴染まない』ものを見つければいいってわけだね。時間が惜しい。さっさと見つけようじゃないか」

 ミザールはジェイドの肩を叩くと、彼を促してさっさと歩き出した。

「ルカさん、私たちも周囲を探索しましょう」

「うん……そうね」

 ルカは後ろ髪引かれる思いで、ロディルトとともにジェイドたちとは反対の方へ足を向けた。

「さて、ハトラの特徴が岩と女神、それに関連するものだとするんなら……石の魚とか可能性はないかい?」

 ミザールは広間の噴水らしきところに設えられた魚の石像を親指で示した。

「材質そのものは石だ。この石で囲まれた空間の異物となるなら、明らかに材質から違うと思うが?」

「そういうもんかい?」

 ジェイドの指摘にミザールは噴水の上の魚を一瞥した。

「ならハトラにとって脅威となった存在っていうのから連想するのはどうだい?」

「六百年前、北大陸から東大陸北部にかけて文明を築いた民族が脅威と感じるもの……」

 ふとジェイドが目を見開く。

「……(ドラゴン)だ」

「何だって? この前のダンジョンで遭遇したあの化け物のことかい?」

 ジェイドの呟きに、ミザールが眉根を寄せた。

「竜は東大陸にその化石が発見されたことからその存在が知られた。しかし環境への適応能力が高いなら、東大陸だけでなく全世界で生息していた可能性は高い」

「……頑丈な石づくりの家を造ったのは、単純に竜の襲撃から身を守る必要があった。そういうことかい?」

「あくまで可能性だ。ただ、執拗なまでに集団での生活を守ろうとするハトラの風習は、裏を返せばそれだけ身近に命を脅かされる脅威があったという証左にはならないだろうか」

「なるほどね。それで竜かい」

「ミザール、頼みがある。もう一度、上空からこの都市群を俯瞰したい」

 ジェイドは頭上を指差すと、ミザールに頼む。

「わかった。付き合うよ」

 ミザールが即座に応じ、ジェイドと一緒に生み出した風に乗った。虚空に飛び上がり、ジェイドは石づくりの建物がびっしりと埋め尽くす空間を見回す。

「やはり……この空間全体が巨大な竜を描いていたんだ」

 回転を繰り返し、当初の街並みとはだいぶ姿を変えた空間は大きな竜が己の尻尾を飲み込んだ姿が浮き彫りになっていた。仕掛けの最期は、その竜の頭部である。そして、ジェイドたちが見つけた台座がある場所が――

「見つけ出すのは竜の〝目〟だ!」

 ジェイドは確信を持って続ける。

「竜の目が、俺たちをこの階層からの出口へ導いてくれる」

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2022

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