第90話 歓迎会
引っ越し作業とインターネットの開通工事の都合から、更新が遅くなり大変申し訳ありませんでした!
それと、誤字脱字のご報告、本当に助かります。ありがとうございます!!
帰ってきて速攻で戦闘に巻き込まれてしまったことがバレた俺は、キッチンの奥にいたウルコットを交えて事情を説明。とりあえず事なきを得たことは理解してもらえた。
「では後程、冒険者ギルドに事情の説明と経過を伺いに行くのですね?」
「あぁ。背後関係を洗ってもらって、対処してもらうつもりだよ」
「その時はセツナもお供させていただきます」
「あ、うん。そうだな、お願いするよ」
「はい!」
セツナから言い知れぬ圧を感じて思わず頷いてしまう。俺としては気にせず冒険者ランクを上げるためのクエストに言ってくれた方がいいのだが……言える雰囲気じゃないんだよね。まぁいいか。ランクアップに関しては急いでいるわけじゃないし。
『後は逆恨みをされないことを祈るばかりだな』
「しそうな奴らは名指しでギルドには伝えてあるから、大丈夫だと思いたいね」
「そうは~言っても~、用心した方が~良いですよ~?」
「だよなぁ。特に俺と関りがある人物で一番危ないのはリルとウルコットなんだよな」
俺自身へ直接手を下すのは難しい、と今回の事でわかったことだろうから、もし逆恨みしてくるならパーティーメンバーを襲ってくることになるのではないだろうか。その時、自衛できない可能性が高いのは、現時点でレベルの低いリルとウルコットと言うことになる。
「しばらくは大事を取って、2人に関しては護衛をつけた方がいいよな」
「私は別にカイルの所為だとは思っていないから気にしていないのだけれど。護衛をつけるって、どうするのかしら? さっき挨拶した“妖精の護り手”にでもお願いするの?」
「いや、“バトルドール”を創造して2人に付けるつもりだ。余程複数人で囲まれない限りは、2人が逃げる時間ぐらいは稼げるだろうしな」
確かに彼らなら護衛役として十分な役割を果たしてくれることだろう。だが、想定する敵対対象の脅威度を考えると過剰すぎるし、これ以上迷惑の輪を広げたくはない。
と言うわけで、再び“バトルドール”の出番と言うわけだ。出来れば“ジェーン・ザ・リッパー”にしたいところだが、レベル詐称している以上やるべきではない。まぁそれでもオプションを護衛に寄せておけば、“アーミー・ドール”でも十分役目は果たせるはずだ。素材的にも、“アーミー・ドール”なら最悪使い潰してしまっても構わない。いやー本当に便利だね! 使役獣は!
「毎朝2体用意しておくから、セツナやミィエルが同行できない場合は、窮屈に感じるかもしれないがかもしれないが連れて行ってほしい」
「妥当なところね。外に出す数を2体までに抑えれば、バレることもないでしょう」
「……まるで毎朝最大数を創造するように言われている気がするのは気のせいですか?」
「安心して。気のせいではないわ」
ニコッと綺麗な笑顔を向けてくれるアーリアに、ですよねーとこちらも笑みを返しておく。こりゃ当分朝が一番忙しくなるかもしれないな。
「カイル君の身から出た錆よ。だからリルもウルコットも遠慮する必要はないわ。出歩く時に、便利な荷物持ちが利用できるって思えば良いのよ」
「……アーリアさんの言う通りだ。一応レベル「7」だからな。そんじょそこらの荷物持ちよりは役に立つぞ」
反論したいところがないわけではないが、アーリアの言葉に乗るように俺も頷く。
「なら、遠慮なく使わせて連れて行かせてもらうわね」
「そうしてくれ」
「気ままな妖精なんかよりよっぽど使い勝手がいいから、気に入ったのなら必要な時にお願いするといいわよ? 少なくともあたしは毎日創造してもらうつもりよ」
「マスタ~は~、少しは~自重すべきです~」
「その言葉はカイル君にこそ言ってあげるべきだと思うわよ?」
「じゃあ自重しますんで、助手用の“バトルドール”は諦めてください」
「そうね、残念だけど諦めてカイル君の本当の情報を、ギルドを通して国王陛下へ開示し――」
「いやー〈クリエイト・バトルドール〉は日課でありノルマだからなー! 頑張るぞー! それより料理が冷める前に、歓迎会を始めようぜ!」
「カイルくん~……」
ただでさえ巻き込まれがちで厄介ごとだらけなのに、これ以上は御免被りたい。それなら毎朝アーリア用に〈クリエイト・バトルドール〉をした方が百倍増しである。
「ふふ。ではカイル君の言う通り、歓迎会にしましょうか」
「ではお飲み物をお注ぎしますね!」
「っと、その前にセツナ。ちょっと部屋で手を貸してほしんだ。先に手伝ってくれないか?」
「? かしこまりました」
早速動き出そうとするセツナを止めて、先に俺の手伝いをするようにお願いする。きょとん、とした表情を浮かべるも俺の後に続くセツナ。
「すぐ戻るから、飲み物はミィエルにお願いしていいか?」
「いいですよ~。でも~、早く~始めたいので~、早く~セツナちゃんを~、返して~くださいね~?」
「わかってるよ」
俺のしようとしていることを察しているが、わかっていても一度その行為を見ているからか、視線がジトっとした色を表すミィエル。思わず「代わりにやってくれるか?」と言いたくもなるが、言った後のセツナの表情が想像できるだけに言えるわけもなく。今は甘んじてこの視線を受けることとしよう。思えばセツナが食事のたびにMPを消費していることを伝え忘れていたことだしね。
と言うわけで歓迎会開始準備はミィエルに任せ、自室に戻って早速要件――セツナの魔力補給を済ませるのだった。
★ ★ ★
「それでは、リルとウルコットの“妖精亭”所属を祝して、乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
魔力補給を済ませ、アーリアに促されるがままに乾杯の音頭をとると、全員でミィエル達の料理に舌鼓を打った。
十全なMPとなったセツナも、ご機嫌な表情で料理を楽しんでいる。これなら前回のようにMP切れで倒れるようなことはないだろう。
しかし段々と魔力補給をするたびに、艶やかな仕草をするのはどうにかしてもらいたいものだ。嬉しそうにいそいそと胸元を開けさせ、俺の右手を包み込むようにとって胸へと導き、「主様」と上目遣いをするまではまだよかった。想定内だったからな。だがMPを注いだ直後から、声を上げないように指を咥えて目を潤ませる様子は、正直にエロすぎた。この姿を見たアーリアとミィエルの反応に納得がいくレベルで。
改めて考えさせられる内容だったが……とりあえず今は歓迎会を楽しむこととする。
リルも酒を嗜むらしく、アーリアが持ち出したワインを3人で楽しむ。当然興味を持ったセツナも飲み、「美味しいですね」と口にするセツナにミィエルが驚き、ウルコットは下戸なのか早々に潰れたのが印象的だった。
「いくら何でも弱すぎないか?」
「遺伝らしいわ。私は父と同じでお酒に強いのだけれど、この子は母に似て弱いのよ」
「それにしたって、コップ一杯程度でこうなるか……」
完全に酔いつぶれてしまっているウルコットに、思わず冒険者家業は大丈夫だろうか、と不安を抱いてしまう。なんだかんだ言って、この業界は酒が飲めるに越したことはないからな。サラリーマンと同じで、さ。
「酒量については、私も久しぶりで忘れてたのよ。覚えてたらお猪口一杯で済まさせてたわ」
「どちらにしろ酒量とかいうレベルじゃない気がするが……とりあえずまだ料理もあることだし、起きてもらうとしよう」
『泥酔』は毒属性による状態異常だ。つまり〈プリースト〉が使うような〈キュア・ポイズン〉や〈アルケミスト〉が使える〈リフレッシュ〉で回復は可能なのだ。まぁそのどちらも俺は使えないわけだが……。
「アーリアさん。よろしくお願いします」
「【アンチドーテポーション】でも頭からかけてあげたらいいじゃない?」
「さすがに歓迎会の主賓にその対応は可哀そうかと」
「それもそうね」と頷いたアーリアは、対応する魔石を砕いてウルコットに〈リフレッシュ〉をかけてくれた。おかげで彼もすっきりとした表情で目を覚まし、歓迎会に復帰した。勿論、アーリアにお礼とお詫びを申し伝えている。
その後は事故もなく、お酒は飲めるアーリア、リル、俺、そしてセツナが楽しむこととなった。
「う~。セっちゃんが~、大人の階段を~上ってく~……」
「そもそもセツナは状態異常にならないからな。アルコールを気にせず飲めるってだけだよ。それよりも、俺はミィエルが酒を苦手にしてるとは思わなかったぞ?」
アーリアの飲みっぷりからして、彼女の近くにいたミィエルも酒の席には結構付き合わされていそうだと思ったし、アーリアは悪い飲み方をしないから、自然とミィエルも酒を楽しめるようになっているんだろうな、と考えていた。
「う~ん、美味し~お酒と~不味いお酒の~区別はつきますよ~? でも~、進んで~飲みたいとは~思わないですね~」
「アルコールの独特な苦みとかが苦手って感じか?」
コクリと頷くミィエルに、「それは悪いことじゃないし、嗜好の話だから気にする必要はないよ」と伝えておく。
「でも~、せっかくなら~、一緒に飲んで~楽しみたい~ですよ~」
「気持ちはわかるが焦る必要なないぞ? と言うか、苦手だと思いながら無理に飲むと、余計ストレスが溜まって嫌いになるぞ?」
実際俺は日本人の頃、サラリーマンで“飲みにケーション”を若いころから体験している。そしてビールが苦手なのに、最初は「とりあえず生でいいだろう?」と言うあれに、いやいやながら付き合い続けたらマジでビールが飲めなくなったし、日本酒好きの上司に付き合わされて飲んだ日本酒も、ハイペースに飲まされた上、しかも上司が不味いと思ったものを処理させられ続けたため、景気よくゲロを吐く羽目になってしばらく酒そのものを身体が受け付けなくなったこともあった。
おかげでお酒を飲むこと自体は好きだったのに、手のひらをポリキャップのようにくるりと回転して嫌いになったことも一時期あったからな。できる限りミィエルに同じ思いをしてほしくはない。
「それに嗜好は歳を経て変わっていくからな。今は苦手でも、ふとしたきっかけで逆に好きになることもある。事実、俺はエールやウイスキーが苦手でワインばっか飲んでたけど、気づいたらエールも美味しくいただけるようになってたからな」
「そ~ゆ~ものですか~?」
そういうもんだ、と不安そうな表情を浮かべるミィエルに、俺は力強く頷く。
「それにミィエルがチャレンジしたい時は、俺でよければいくらでも付き合うからさ。ゆっくり楽しみながら行こうぜ」
「それは~いいですね~。ふふ~、言質~とりましたからね~? 今の~言葉~、忘れないで~くださいね~?」
とても満足そうな笑みを浮かべるミィエルに、俺も笑みで返す。ミィエルと飲む機会が増えるなんてのは、むしろ俺への報酬だと思うぞ。
そんな話をしていれば、セツナも参加を表明し、リルも仲間外れは許さないと声を上げた。アーリアには「あんた本当に17?」と突っ込まれ、ウルコットに至っては『俺も酒に打ち勝つ訓練を』などと気合を入れていた。まぁある程度飲み慣れれば何とかなるかもだけど……ウルコットの場合、飲む前に生命抵抗力を上げる魔法をかけた方がいいかもな。
そうして開始から一時間半程経ち、作られた料理も食べ終え、出されたお酒も飲み干して楽しみつくした頃。
「さ、お腹もいっぱいになってきたことだし、そろそろ終えましょうか」
アーリアの「宴もたけなわ」な言葉に皆頷き、ミィエルとセツナが手際よく片付けへと入っていく。勿論俺やフールー姉弟も手伝い、短時間でスムーズに片づけが終わる。後は汗でも流して今日は寝るだけ――などと考えていたのも束の間。
キッチンから手を拭いて顔を出したセツナが、
「主様。この後、忘れないうちに模擬戦での反省会をしたいのですが?」
「……向上心が高いのは大変結構。だがパーティーの後だし、急がずとも明日改めてでもいいぞ?」
「その、できれば本日のことは本日の内にお願いしたいのです」
「ダメ、でしょうか?」と上目遣いをされたらダメなんて言えないでしょうよ! セツナさん!
俺は「いいぞ」と一言で返答し、話を聞きつけたアーリアが「ならカイル君」と前置きをして、視線を俺たち以外へと巡らせ、告げた。
「皆も乗り気みたいだし、食後のコーヒーを淹れてくれるかしら?」
同じように視線を走らせれば、ミィエルは早速お湯を沸かし、リルとウルコットも自室に戻らずテーブルへと着いていた。
いや本当、皆向上心が高いね本当! もしかして俺だけか? この後即寝ようと思ってたのって……。
何とはなしに浮かんだ考えを振り払い、「要望があれば先に言ってくれ」と皆の希望を聞きながら、俺はミィエルが待つキッチンへと足を運んだ。
いつもご拝読いただきありがとうございます!
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