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第89話 話し合い(物理)終了。そして無駄なロールをさせるこの世界のGM

 【スモーク・ボール】にて魔法攻撃の射線を防ぎ、【蝙蝠ピアス】で敵を認識し、適度に敵を間引きながら走る。

 勿論半径10mほどしか効果がない【スモーク・ボール】では、敵全てを煙幕で隠すことはできないため、都度追い【スモーク・ボール】で煙の範囲を広げていく。



「くそ! 邪魔な煙だ!! 魔法職! 何でもいい! 煙をはらすだけの魔法を撃てぇ!」


「互いに背を預け、周囲の警戒を怠るな! 移動はなるべく控えろ! 煙が動く方向に奴はいる!!」



 前者は誤射や巻き込みを気にせず魔法を撃てと言い、後者は現状況でも耐えうる指示を出す。そして冒険者達は後者の指示に従うようだ。俺の知覚範囲内の動きからも良く分かる。ただ、まだこの場からの離脱は考えないらしい。俺としては、冒険者連中には離脱の指示を出してほしいんだけど……。全滅させるのは手間だからなぁ。


 俺は的確に貴族の関係者のみを切り伏せながら、次点で〈プリースト〉技能を持つ冒険者の意識を刈り取っていく。



「ぐぁ……」


「これで12っと」



 相手の人数は残り14人。内2人はまだ潜伏中である以上、現状見える限りでは半数を片付けた計算だ。うちのパーティーメンバーを「犯す」だ「売り払う」だ言った輩は、全員潰し終わったかな? 後は――



「くそっ! 邪魔な煙だ!! 何をしている!? 魔法でもなんでもいい! この煙を吹き飛ば――がッッ!?」


「はいはいお静かにねぇ」



 こいつには訊きたいことがあるため、サクっと気絶していただいた。さて、これでいけるかな? 未だ潜伏する2名への仕掛けもそろそろ行われる頃だしな。


 俺は【スモーク・ボール】をバラまくのを止め、目の前に転がるリーダー格の男をロープで縛りあげる。

 徐々に煙が晴れ、俺の肉眼でも周りを視認できるようになると、俺は剣を収めながら声を大にして提案する。



「あんたらを監視する傭兵連中は片付いたが、まだ戦るか? 引くなら、こっちもこれ以上は追わないぞ」



 完全にクリアとなった視界に映るのは、半数以上が地に伏しながらもほぼ無傷の俺と、俺の姿を見て苦虫を噛んだような険しい顔を浮かべた冒険者達だった。



「…………倒れた仲間の回収、及び治療も構わないか?」


「構わないさ。ただそっちも仕事だったかもわからんが、明確な殺意を持って襲ってきたんだ。手遅れの者に関して責められる謂れはないし、ギルドにも報告させてもらうからな。顔も名前も、しっかり覚えさせてもらったからな」


「……わかっている」


 

 今の今まで指示を飛ばしていた〈コマンダー〉の男は、苦々しい表情を変えもせず「撤退する」と告げた。



「冗談だろう!? 今手を引けば、任務失敗(フェイルド)の上にペナルティまで与えられるんだぞ!?」


「……この状況下でもまだやれると思うなら、好きにすると良い。俺のパーティーは降りる」



 指揮を執っていた男は、首を振ってこの場に背を向ける。同様に彼のパーティーメンバーらしき者たちも撤退を始める。他の者もつられるように、倒れた仲間を回収・治療しこの場を後にする。後ろを見れば、俺が最初に倒した8人も撤退したようだ。



「~~~~! くそっ!!」



 最後まで喚いていた男と、そのパーティーメンバーと思しき2人は、最後に俺を一睨みして去っていった。

 ん~、あれは逆恨みしてきそうな感じだなぁ。解析判定(アナライズ)で名前とレベル、職は解ってるから、ギルドに注意してもらうよう進言しておくとしよう。



「さて、そっちはどうだ!?」



 完全に冒険者達が撤退したことを確認すると、俺は声を上げて潜伏させていた(・・・・・・・)“バトルドール”達に出てくるよう指示を出す。すると、路地の陰からズルズルと人間を引き摺りながら、黒いローブ――【ダーカーザンブラック】を羽織る、少女の姿をした1体の“アーミー・ドール”が姿を現す。



「ターゲットヲ、捕獲シマシタ。マスター」


「ありがとう」



 俺がこの場所で“誘い”をする前。思い付きで、“隠者の花園”にて2体のバトルドールを作成した。内1体がこの“アーミー・ドール”である。


 彼女に与えた役割は、俺が店を後にした後、潜伏しながらついて来てもらうこと。【通信水晶】を使い、現場の状況をもう一方に伝えること。さらに人形と視覚を共有する〈ドール・サイト〉の魔法を利用し、隠れているだろう敵を含めた、つり出した敵の数を正確に把握し、解析判定を行えるよう動くこと。最後に潜伏している敵を、タイミングを見計らって捕獲する事。

 おかげで冒険者や貴族の傭兵たちが気持ちよく俺への判定を失敗し続けている間に、俺は“アーミー・ドール”の視界を通じて、一通りの解析判定を済ませることができ、さらには【スモーク・ボール】を後衛陣にも投げ込ませ、混乱させることも出来たのだ。

 隠密・潜伏特化の仕様にしたため、戦闘能力に多少の不安はあったが、引き摺っている男のレベルが「4」程度だったため、大きな損害もなく達成できたようだ。



「しかし、もう一体の方は……動きがないな」



 そしてもう1体作成した、一目で人形とわかるよう作成した“アーミー・ドール”には、対となる【通信水晶】を冒険者ギルドに届けること。届けた後、隠密にてこの場へ戻り、少女型の指揮下に入り協力するように指示していた。


 まだ存在しているのは感覚でわかるのだが、どうにもこちらへ出向いてくる気配がない。確か潜伏していたもう1人はレベル「6」だが、サブ技能主体であり、戦闘能力はそこまでなかったはずだが……。



「お前はこいつらを縛り上げて、死体を集めておいてくれ。俺はもう一方の様子を見てくる」


「イエス、マスター」



 自身で創造した使役獣(ユニット)ならば、意識すれば凡その位置――と言ってもほぼ方角と距離ぐらいだが――はわかるため、周囲を警戒しながら現場へと向かう。

 そこは少女型で確認していたもう1人が潜伏していた場所近く。俺が姿を現すと、片足を失った“アーミー・ドール”は、壁に凭れながら無機質な瞳を、ゆっくりとこちらに向けた。



「モウシワケ、アリマセン。トリ逃ガシ、マシタ」


「構わん。何があったか説明できるか?」



 HPはまだ「13」点と残っているものの、部位欠損からAGIが激減しており、とてもじゃないが戦闘及び追跡ができる状態ではない。黒いローブから覗く欠損部分を見れば、何かに食い千切られたような跡が残っている。



「正体フメイノ獣ガアラワレ、不覚ヲトリマシタ。ソノ後、自分ニトドメヲ刺スコトナク、逃走イタシマシタ」


「〈テイマー〉も〈サモナー〉の技能もなかったはずだが……」



 可能性があるとすれば、【スペルカード】による魔法か、【サモンクリスタル】による一時召喚アイテムだろか。解析判定では装備品は兎も角、所持品までは確認できないからな。TRPGなら特殊能力って形で紹介されるんだけど。



「一筋縄ではいかなかったか」


「モウシワケ、アリマセン」


「いや、お前の果たすべき役目は果たしたのだ。謝る必要はない。今は休め」



 ここまでの損害となると、直すよりも一度魔法を解除したほうが早い。俺は目の前の“アーミー・ドール”を解除し、素材に戻して雑囊へとしまう。念のため探索判定を周辺で行うも、大した情報は得られなかった。



「せめてレベル9の“マローダー・パペット”なら逃がさなかったか? いや、『もし』を考えても仕方ないか。まぁ名前と技能レベルは把握できていることだし、必要であれば情報屋から仕入れればいいだろう」



 自分の中で答えを出して戻ると、バトルドールの隣に宙に浮いた少年――身長50cm程の【妖精族】が、俺に向かって「おーい!」と手を振っていた。即座に解析判定を行った結果、



「あー、アーリアさんの使い魔か」


「おう! “パック”のケリーってんだ。よろしくなカイル!」



 風属性に属するレベル「6」の妖精、それが“パック”だ。〈フェアリーテイマー〉の上位職である〈エレメンタラー〉から使役することが出来、例外もあるが、凡そ術者のレベルが「8」でなければ使役することが出来ない使役獣(ユニット)だ。

 現実世界の伝承と同じく悪戯好きの妖精であることから、LOFの世界では敵を攻撃する魔法よりも、妨害したり味方を補助する魔法が得意だったりする。ちなみに姿は本人の自由に決められるも、伝承と同じく小人姿か半人半獣の姿でいることが多いとされる。



「こちらこそよろしくな、ケリー。それで、アーリアさんから何か伝言かい?」


「伝言って言うか届け物だな。ってわけで――受け取れぃ!」



 突如振りかぶって投げる仕草をするケリー。しかし彼の手から物が投げられたわけではなく、彼の後方10m程から風を纏った何かが勢いよく放たれた。勿論、対象は俺だ。ただ危険は感じないため、念のため射線から身体はズラすも、キャッチできるよう左手を差し出す。



「ナイスキャ~ッチ!」



 すると左手に当たる直前で失速し、ゆっくりと俺の手に収まった。



「あんまり驚かなくて残念だぜ! だが、確かに(ぶつ)は渡したぜぇ! 連絡よろしく! じゃ、オイラは忙しいから失礼するぜぃ!」


「お、おう。ご苦労さん」



 どうやらちょっとした悪戯のつもりだったようだ。と、こちらが理解することには風を纏い、いずこかへと飛び立っていってしまった。何ともまぁ、嵐のような妖精である。ちなみに渡された物は、【通信水晶】だった。


 とりあえず渡された【通信水晶】を使い、コールすること数秒。果たして水晶に映ったのはアーリアである。



『通信が来たってことは、無事終わったのねカイル君?』


「えぇ。取り合えず退けることはできましたよ」


『随分と派手に暴れまわったみたいじゃない? ロンネスから苦情が入ってるわよ? 「いくつ問題を起こせば気が済むのだ?」とね』



 くつくつと楽しそうに笑うアーリアだが、俺からすれば問題を起こしてるのは俺じゃないと言いたい。まぁ冒険者ギルドに知らせるために、“アーミー・ドール”に【通信水晶】を持たせてギルドに突撃させたのは俺だけどさ!



『でもそのおかげで、ギルドの動き出しが早くできたのだから、判断としては間違ってないわよ。あんたが被害者であることも伝えられたみたいだし』


「口頭で伝えるより、現場を見てもらった方が早いですからね」



 今回の一件は冒険者だけが絡んでいるのであれば、たいして心配はいらなかっただろう。ただ、貴族階級の連中が絡んでいた場合、口頭だけだと所詮平民でしかない俺に、様々な手段を使って不利を押し付けられる可能性があった。それが回避できるように、とスマートフォンでビデオ通話をするかのように、潜伏させた少女型の“アーミー・ドール”に、俺が絡まれている様子を冒険者ギルド側に届けた【通信水晶】に流させたのだ。

 勿論、通信時間は短いものを使ったので、そのあと俺が暴れた内容までは見られていない。と言うか、適度なところで通信を切るように命じておいたんだけどね。



「腕っぷしが強くても、俺は平民ですからね」


『そうだったかしらね? それで、後ろに転がっている連中が見えるのだけれど?』


「あぁ、一応貴族の関係者はご覧の通り捕えてあります。背後関係を知りたかったんで」



 「ただ、1人逃してしまいましたけど」と続ければ、『へぇ、やるわね』と感心する台詞が返ってくる。



『まぁそいつに関しては後でいいわ。後で知ってる情報を教えてくれる? 手を回しておくから』


「ありがとうございます」


『それとそいつらの処理だけど、今ロンネスがそこにギルド職員を派遣しているみたいだから、そいつらに任せちゃいなさい』


「それは構いませんが……」


『心配しなくても、カイル君が知りたい情報は吐き出させるわ。それとも楽しみだったのかしら? 尋問や拷問?』



 もしかしたら趣味なの? 的なニュアンスで問うてくるアーリアに、思わず苦笑いで「別にやりたくはないですよ」と返す。魔法による治癒がある以上、様々な方法で問うことはできるだろうけど、率先してやりたいとは思わない。面倒くさいしね。



『なら後10分もしないうちに着くから、引き渡しちゃいなさい。何より、歓迎会(こっち)の準備も終えそうなのよ。早く帰ってこないと……あの娘たち、五月蠅いわよ?』


「もうそんな時間でしたか。ではギルド職員と合流したらすぐに向かいます」



 思えばバトルドールを作成するために短縮アイテムを1つ使ったとはいえ、“隠者の花園”で最低40分は経っている以上、確かに時間的にギリギリだ。そもそも優先すべきは歓迎会であって、突っかかって来る面倒事ではない。



『今使役しているバトルドールも解除しちゃいなさい。装備品が装備品だから、このままじゃ予定以上に時間がとられるわよ?』


「……そうですね」



 確かに世間一般では使い捨てとされる創造系使役獣(ユニット)に、国王にすら見せていない【ハーミットシリーズ】を装備させているなんて知られれば、面倒事が鎌首をもたげて挨拶してくるよな。



「と言うわけでご苦労様。また何かあったら頼むな」


「イエス、マスター」



 と言うわけで“アーミー・ドール”を解除して素材に戻す。



『じゃあ帰って来るのを待ってるわ。念のため、できる限り身だしなみも整えてからいらっしゃい。多分に埃っぽくなってると思うわよ?』


「了解です。では後程」



 頷いて通信を切り、一通り返り血など付いていないかを確認し、待っている間に羊皮紙に今回参加していた冒険者と傭兵の名前とレベルを覚えている限り記入しておく。


 そうこうしているうちにギルド職員6人が到着。引継ぎに10分ほど要し、詳細は後日ギルドにて話し合うことが決まった。ちなみに、



「あ、すみません。どなたか〈ウォッシュ〉と〈ドライブリーズ〉を扱える方いらっしゃいませんか? 報酬をお渡しするので、私にお願いしたいのですが」



 ダメもとで頼んでみたところ、快く引き受けてくれた。扱える人がいてくれたことに感謝だ。恐らく戦闘帰りとはわからなくなったはず。



「ただいま~」



 そう思って“妖精亭”へ何食わぬ顔で戻ったわけだが――



「おかえりなさいませ、主様!」


「おかえり~カイルく~ん」


「タイミングばっちりね。どこに行っていたの?」


「あぁ、ちょっと“隠者の花園”にね」



 テーブルに料理を並べつつ、セツナ、ミィエル、リルが出迎えてくれる。いや本当、誰かが「おかえり」って出迎えてくれるだけ、幸せだよね。日本でも1人暮らしが長かったから、心からそう思うよ。

 そんな仄かな幸せを噛み締めていた俺だったが、続くミィエルとピクリと鼻を動かすセツナの言葉に思わず固まった。



「それで~、カイルくん~。なんで~、ロ~ブの耐久(だいきゅ~)値が~、減ってるんですか~?」


「主様、お怪我は……ないようで安心いたしました。ですが、主様が剣を抜くなんて余程の事かと存じます。何があったのですか?」



 訝しむミィエルの視線と、心配を隠しもしないセツナの眼差しが俺へと向けられる。終いには、



「確かに剣から微かに血の匂いがするわね」


「もしかして~、昼の~奴ら~ですか~?」


「主様に失礼な視線を向けていた方々ですね」



 まるで浮気を疑う妻のように匂いでリルにも気づかれ、ミィエルに図星を突かれる形で――俺が何者かと戦闘を行ってきたのがバレるのだった。



 と言うか3人とも鋭すぎない? 感覚系の判定、軒並みクリティカルでもしたんですかい? つかこんなタイミングで判定(ロール)させんなよGM!!


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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