第87話 たった1人にこの人数でリンチってどうよ?
大変投稿が遅れて申し訳ございませんでした!
いろいろ立て込んでて込んでしまい、時間が空いてしまいました。
最低でも週一更新はしたい!
無数の閃光――正確には5発の雷光が、弾ける咆哮を轟かせながら俺の身体を貫いていく。雷光で目が眩む中、肉眼で術者の位置と距離を確認する。家屋の屋根上、距離は25m前後、撃たれた魔法は〈ソーサラー〉が覚える〈ライトニング〉か。
「お前の回避能力の高さは織り込み済みだ。だが、躱せぬ魔法の連続攻撃ならどうだろうな? あぁ、心配はいらない。死んだとしても責任を持って、我々が蘇生しよう」
男の言葉は俺へ向かってか、それとも袋叩きにしている者達への言葉か。どちらか判断しかねるが、どうやら死んだら蘇生してくれるらしい。あまりの優しさに涙が出そうだ。
「だそうだ! なら遠慮はいらないねぇ!」
左腕の宝石を輝かせながら女が叫ぶ。女に追従するように、今度は3方向から鋭い炎の弾丸――〈ファイア・ボルト〉が俺の右足、左わき腹、右側頭部を撃ち抜いていく。衝撃で思わず崩れそうになる体勢を立て直そうとした刹那、左膝裏に鈍い衝撃が奔り、思わず膝をつく。
「ははははは! やっぱり《決闘》はイカサマだったんだろうさ! ガウディさんならこの程度で膝をついたりはしないからな!」
「あははは! 前から気に食わなかったんだよ! 騎士は黙って貴族のボンボンでも護ってろよ!」
「まだまだ終わりじゃねぇぞ! 踊れやオラァ!」
複数の銃口が雄たけびを上げ、俺の身体を抉ろうと飛来するも、それらは地面を転がるように弾丸を回避。【銃】持ちは無視して、敵影を確認。さらに転がる勢いを利用して立ち上がる。瞬間、背中に着弾した炎の槍――〈ファイア・ランス〉が爆発。前に倒れそうになるも、蹈鞴を踏んで何とか耐える。
しかし狙いすましたように光の弾丸――〈フォース〉が左膝、鳩尾、右肩を貫き、弾かれた俺は思わず地面へと倒れ込む。
精神抵抗判定――全て成功。
「あはははは! 無様だなカイル・ランツェーベル! お前には地べたを這いつくばるのがお似合いだ!」
「安心しろ! お前の奴隷はちゃ~んと俺達が可愛がってやるからよぉ!」
「ふくくくく。これで可愛い奴隷付きの騎士ともあれば、あのお方も大層喜ばれることだろう」
気持ちよさそうに様々な判定に失敗している奴らの声と、追随するような笑い声が響く。
俺はそいつらを背後から視界に収めつつ、この展開について感想を1つ。
何と言うか、雑な理不尽感が半端ないなぁ……と。
例えるならば、突発セッションで細かいところまで設定を考えてなかった場面で、これ以上RPされるとアドリブが間に合わなそうだから戦闘にしちゃえ! 的な?
またはPLに、口プロレスで打破されそうになったGMの急展開回避、みたいな既視感を覚える。
これ、戦闘以外を主軸に置いた、立ち回りメインのTRPGとかでやっちゃうと白けるんだよねぇ。こう、人間性を捧げちゃうようなTRPGだと特に、ね。
まぁ元々目的が、俺をボコった上で奴隷化させて私兵にするって所っぽいし。対話を止めて実力行使で黙らせる展開もあるっちゃあるか。それにこういう展開は頭を使わなくていい分、嫌いじゃない。
さて、地面に寝そべっている俺を尻目に、彼らは「奴隷としてこき使ってやる」だの「ガバガバになるまで使ってやる」だの「楽しんだ後に売り飛ばしてやる」だの、好き放題言ってくれてるわけだが――
俺は手をついて、うつ伏せに倒した体勢からゆっくりと立ち上がる。
「ほぅ。あれ程の魔法を受けて立ち上がるか。【消魔結晶】で耐えたって所だろうが――次は耐えられるか?」
再び詠唱がそこら中から開始される。
確認は終わった。敵の数は全部で34人。未だに息を潜めているのは内2人。貴族の関係者と思しきは8人、他は冒険者だな。所属は何処かわからんけど。
遠距離攻撃可能な人数は24人。さらに魔法攻撃可能な職は16人ってところで、レベルは最大でも「6」が精々。俺を足止めする近接職も最大でレベル「7」が1人か。
たった1人の【人族】相手に過剰と言える戦力じゃないかな。こんなの、俺じゃなくても大抵の人間が先手を取られたら殺されるだろう。
先程、俺がこの身に受けた魔法の総数は13発。内訳は〈ソーサラー〉が使う〈ライトニング〉が5発、膝裏に受けたのが恐らく〈エネルギー・ボルト〉が1発。〈フェアリーテイマー〉の〈ファイア・ボルト〉が3発に、背中に着弾した〈ファイア・ランス〉が1発。その後に〈プリースト〉が使う〈フォース〉が3発。合計13発の攻撃魔法を受けているわけだ。
そして魔法攻撃は、抵抗判定に成功したとしても確定ダメージを負う特性がある。魔法毎の威力差はあれど、それを13発も受ければ当然累積ダメージは決して小さくはない。なんせ最低でも1発あたり「4」点ぐらいは俺のHPを削ってくるのだ。単純計算で、最低でも「52」点のHPが削られる。〈ディー・スタック〉で定めたHPなら残り「-1」点以下。本来の数値でも7割以上削られた計算だ。つまり後6~7名魔法職が居たら、俺のHPは消し飛んでしまうと言うわけだ。数の暴力も脅威だけども、改めて魔法は厄介だなぁと思う。
まぁ先程言われた通り、【消魔結晶】――受けた魔法ダメージを保有点数分軽減する――を使用することで、受けた魔法ダメージを軽減していたから言うほどHPは減っていない。
ただ安いアイテムでもないので、俺のお財布事情に少なくないダメージを負っているけども。と言うか、セツナが装備している【マギカハーミット】を借りてこれていれば、何もせずともダメージ「0」点だったんだよなぁ。やっぱり値段相応にぶっ壊れた性能してるわ、【ハーミットシリーズ】。お金に余裕があれば俺の分も【マギカハーミット】買おうかな? 確か色違いがあったよな。っと、そんなことは後回しだ。今は――
「放てぇえええっ!!」
号令と共に様々な方向から攻撃魔法が放たれる。だがそれより早く、俺は懐から取り出した投げナイフを一番先に潰すべき対象へと向けて投げ、誰にも聞こえぬ声で呟いた。
「――反撃開始と行こうじゃないか」
★ ★ ★
俺へと放たれた攻撃魔法が届くよりも早く、投擲されたナイフが建物の屋根へと立つターゲットの傍へと突き刺さる。高低差はあれど、射程距離30mの魔法が届く距離しか空いていない。そして投擲の射程距離は最低値10m+STR/2+DEX/2=42m。
視界が魔法で埋め尽くされる直前、俺の身体はナイフの柄に括られた【ぬいぐるみ】と立ち位置を入れ替える。
――〈キャスリング〉。
一瞬の内に見上げていた〈精霊使い〉と1歩左側へと肉薄した俺は、腰に佩いている【ブロードソード】を抜き放つ。
――さらに〈スピード・ブースト〉〈ソニックムーブ〉〈ストレングス・ブースト〉。
この場にいる相手は〈エレメンタラー〉が1人、〈ソーサラー〉が1人、〈シューター〉が2人。この中でまず無力化すべきは“魔法使い”だ。その中でも射程距離の長い魔法を使える者を優先して狩る必要があり、真横で驚愕の表情を浮かべる男こそ、16名の中で真っ先に潰す必要がある相手だ。なんせ〈フェアリーテイマー〉の上位職である〈エレメンタラー〉は、魔法職の中でも汎用性が高く、射程が長い魔法が多い。
俺はガウディとの戦闘でも抜かれることがなかった白刃が弧を描くと同時に、男の右腕肩口近くから切り落とした。装備されていた宝石が複数はめ込まれた腕輪――【魔法の発動体】と共に。
この世界はTRPG時代と何も変わらず、魔法を使うためには触媒となる【発動体】が必要となる。
種類は様々存在するが、発動体は【杖】であったり【剣】であったりする。俺の場合は扱っている【ルナライトソード】だったり、今足に装備している【ソードスパイク】が発動体となる。
近接戦闘職は武器を奪ったところで、肉体言語で戦うことができる。だが魔法技能職は武器である【発動体】を奪われれば、自身の根幹である魔法を発動することができず、近接戦闘を行えない純魔法職なんかは一般人より多少頑丈な肉壁でしかなくなる。
そして今、俺に腕を切り飛ばされて絶叫している彼の発動体は【宝石】であり、ふんだんに宝石によって装飾された【腕輪】こそが取り上げるべき武器なのだ。だから仕方なく腕ごと取り上げさせてもらったってわけだ。
ぶっちゃけ首を狩っちゃった方が楽ではあるんだけど、殺しちゃうとここ数日の記憶が飛んでしまうからなぁ……。できる限り今日と言う日を覚えておいてもらい、二度と絡んで来ないようにしたいところだ。
俺に相手の装備している装飾品を盗んだり、分捕ったりする〈スキル〉があれば、腕をぶった切ったり殺すことなく無力化出来たんだけどねぇ。ないもんは仕方がない。
斬り飛ばした腕を蹴り飛ばして屋根から落としておく。この世界は魔法で腕も繋げられちゃうからね。拾われて回復されたら面倒だ。念のため側頭部に回し蹴りをして気絶させ、次のターゲットである〈ソーサラー〉へと間合いを詰める。
「ひっ!」と短い悲鳴を上げる女性〈ソーサラー〉の発動体は【両手杖】。同じように片腕を失えば、TRPGならば装備できなくなるんだけど、念のため両手とも貰っておこうと思う。
身を守るように突き出された杖を回り込むように躱し、すれ違いざまに両手首を切断。身体を回転させつつ【ブロードソード】の柄で後頭部を殴打することで気絶させる。威力は減ってしまうが、剣の柄で攻撃しても技能職の補正は受けられることがわかって重畳重畳。
「てめぇっ!」
先程と同じように手首が付いた【両手杖】を蹴って屋根から落とすと、〈シューター〉2人がようやくこちらへ銃口を向ける。1人は【2H銃】のままだが、もう1人は【1H銃】に持ち替えている。取り回しの意味では正解かもしれないが、そもそも逃げない時点でお話にならない。
発砲音が響くも、回避判定に成功した俺に着弾することはなく。即座に間合いを詰め、右手の剣で一閃。胴を斬られたことでHPを「0」点以下として気絶した〈シューター〉をもう1人の方へ蹴り飛ばし、縺れたところを〈ハイパワー・ブースト〉でダメージを上乗せしたシザース・キックを脳天に落とすことで2人目も気絶させる。
〈魔力攻撃〉を使ってしまうと殺してしまう恐れがあるから、このあたりの加減が難しい。だがこれで4人。まだ30人いるのかと思うと少々辟易としてしまう。容赦をするつもりはないが、急がないと出血ダメージによる死亡があるかもしれないからね。最も、そうなったとしても集団リンチに加わってしまったのだから、自己責任ってことで納得してもらうけど。
「遠距離攻撃可能なものは可能な限り連射しながら魔法職を守れ! 魔法職はMPの限り魔法を打ち尽くせ!! 射程外の者は範囲内の味方を援護! 近接職は何としても奴を取り押さえろぉおお!!」
一斉に放った攻撃魔法が当たることなく、むしろ包囲網の一角を崩されたことに叫び声で気づいた〈コマンダー〉持ちの指示が飛ぶ。俺が密かに解析判定をした結果、残り30人の中で〈コマンダー〉持ちは2人。正面に現れたリーダー格らしき男と、経験を積んできた30代の冒険者だけだ。声からして冒険者の方だろう。彼の位置は俺がいた広場を挟んだ逆側だったはず。それでいて反応、状況理解ともに良く、指示も悪くはないと思う。ただ、こちらの行動の方が一手早い。
指示が飛ぶ前から右手側のグループの反応が良いことを確認している。
内訳は〈ソーサラー〉が2人、〈フェアリーテイマー〉が1人、弓持ち〈シューター〉が2人。特に〈ソーサラー〉の1人の反応が良い。手際が良い人材は早々に退場してもらおうと思う。
敵は通りを挟んだ建物の屋根上。通りの幅は4m程か。向こうの建物の方が若干大きく高いが、この程度の距離ならば何も問題はない。
効果が切れた〈ソニックムーブ〉を再び使用しながら、二級魔石を砕いて〈ギアブースト〉を使用、さらに加速。空いた左手で詠唱を開始した〈ソーサラー〉へナイフを投擲。的中を確認せずに弾丸のような跳躍でもって通りを越え、屋根へと飛び移った次の一歩で接敵。投擲したナイフが〈ソーサラー〉へと突き刺さると同時、〈フェアリーテイマー〉へ移動の勢いのままに屋根上から蹴り飛ばす。
胸部に受けた衝撃とダメージで、声すら上げられず屋根から落ちる〈フェアリーテイマー〉を尻目に、ナイフによる痛みで短く呻く〈ソーサラー〉を右の一刀で斬り捨てる。決定的成功でHPが若干多くマイナス域へ突入したが、こればかりは運なので事故処理とする。
「兄者!」
「応! 弟者!!」
何やら香ばしい掛け声をあげて、俺を挟み込むように展開する〈シューター〉2人は無視。しれっと屋根から飛び降りてこの場から距離を置こうとする、もう1人の〈ソーサラー〉へ視線を向けずにナイフを投擲。足に刺さって転ぶ〈ソーサラー〉を【蝙蝠ピアス】で確認しながら、肉眼はさらに奥で詠唱を完了した魔法職を捉える。
詠唱が完了しているのは、使い勝手の良い〈ライトニング〉と〈ファイアボルト〉。発動者は〈ターゲッティング〉を習得している以上誤射はない。想定ダメージは合計で「8~11」点。残り【消魔結晶】は「5」点分が11個。これはまだ受けて良い。
〈シューター〉2人のコンビネーションによる射撃を最低限の動作で躱しつつ、這ってでも逃げようとする〈ソーサラー〉へ追加のナイフ投げで意識を絶つ。そして飛来する〈ライトニング〉と〈ファイアボルト〉へ、自ら身体を前へ躍らせて被弾。閃光が翔け抜け、目の前に炎の花が咲く――精神抵抗判定成功。
ダメージを肩代わりした【消魔結晶】が砕け、超過分が俺のHPを削る間に、死角から放たれた矢を伏せて躱し、お礼の投げナイフを“兄者”の利き手にプレゼント。伏せた姿勢のまま滑るように炎を突っ切り、矢を的外れの場所へ番えていた“弟者”の腕を弓ごと切断し、鳩尾に肘鉄――攉打頂肘を見舞い、ノックバックにて屋根から突き落とす。受け身も取れずに地面から落ちたダメージでHP「-6」点まで追い込む。これで8人。
「……逃げるそぶりは未だ無し、か」
残り26人。貴族関連の8人は逃がすつもりはないが、冒険者集団は逃げてくれるなら放っておいてもいいかな、って思ってたんだけど……。〈プリースト〉連中も倒れた者を助けず、今立っている奴らへの支援優先か。
「倒れた者は捨て置け! まずはあの化け物を押さえるぞ! 徒党を組め! 各個撃破されるぞ!」
「どんな手を使っても構わん! 報酬も言い値で払おう! 必ず奴を押さえろ!」
「【消魔結晶】とて有限だ! 確実に当たる攻撃を叩き込め!」
冒険者の〈コマンダー〉と貴族の〈コマンダー〉持ちが通る声で指示を出す。こりゃこっちを先に潰さないとダメだな。隊列を組み始めて厄介にはなっているが、ばらけていた貴族の私兵も纏まってくれたから丁度良い。
「で、あんたはどうするんだ? この場から引くなら追うつもりはねぇよ?」
唯一同じ屋根に立っている“兄者”に問うてみる。残りの奴らに見捨てられたが、まだ戦うのか? と。
「多勢に無勢で殺しに来た俺達を助ける、と言うのか?」
「これ以上関わらないのなら見逃すさ」
死兵となって突貫されても面倒だしね。
さて、これ以上問答する時間はない。背を向け、「早くしないと舎弟が死ぬぞ?」と彼への最後の言葉を残し、
「時間も押してるんでね。ここから先は、手加減なしだ」
俺は再び屋根の上を疾走する。
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