第84話 パーティー”妖精の護り手”
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『蛮族』
または『魔族』と呼ばれる『混沌』の勢力に属する者達は、『秩序』の勢力に属する『人族』と呼ばれる俺達とは、常に敵対関係――不俱戴天の敵である。
これは神々の代理戦争に強制的に参加させられている影響であり、常日頃から行われている洗脳教育のおかげでもあり、この世界の基盤となっているルールである。
それ故に本来だったら殺し合う人種に堂々と、包み隠すことなく自己紹介どころか、パーティーすら組んで冒険者として人族社会に属していると言う目の前の光景は、なかなか見ることが出来ない稀有な景色と言える。
まぁ、LOFの世界観を一通り読んだ俺から言わせてもらえば、『人族』と『蛮族・魔族』の違いなんざ、どちらの勢力で生まれて育ったかの違いでしかないんだけども。詳しくはまた後程とするとしよう。
『闘牛族』
LOFで作成できる『蛮族』PCの一種族で、ファンタジー世界ではお馴染みとも言える半人半牛の怪物だ。LOFでも半人半牛の獣人族として設定されており、『人族』に住まう種族を『牛人族』と呼び、『蛮族・魔族』側になると『闘牛族』と呼び名が変わる。呼び方以外にも違いはあるのだが、ここでは割愛しておく。
設定的には男性は常に獣化し、上半身が牛の姿をしていることが多く、女性は獣化をしていないことが多いらしい。実際目の前のアンジーも頭部の角以外は人間の姿をしている。ただ物凄く筋肉質なのは種族柄仕方がないのだろうか?
キャラクターデータ的には、獣人系最高のSTRとVIT、最低のINTとMENを誇り、獣人系――いや、PCとして作成が可能な種族の中でも屈指の盾役適正を持っている。
一度『蛮族』PCキャンペーンで俺自身が、〈プリースト〉メインのPCとして作成したことがある。頑なに近接技能職を獲ることなく成長させたのだが、気づいたら後衛職でありながら前線で盾役以上に盾役をこなすPCになっていた。それ程『闘牛族』の盾適正は群を抜いていると言って良いだろう。
アンジーも例に漏れることなく、レベル「6」とは思えないHPと防御力を有している。
そして『蛮族・魔族』と属する中で知らないものはいない、代表格とも言える存在――『亜竜族』。
確かデザイナーコンセプトは「敵として存在するに相応しく、群を統べる気高き種族」だったかな。故に公式でも蛮族社会の中で上位の爵位――人族社会と同じ貴族の称号を用いており、人族と違う点は、権力だけでなく爵位に応じた純粋な戦闘能力を持っている点が異なっている――を有しているものには、必ず『亜竜族』が存在している。LOFの公式リプレイなどでも、ラスボスのポジションに置かれることは一度や二度ではない。ネット上で転がっているフリーシナリオなんかでも、『亜竜族』がラスボスであることが多い程に、扱いやすくて愛されている、まさに『蛮族』の代表格なのだ。
俺の友人も『亜竜族』が好きすぎて、彼がGMをやると必ずラスボスは程、爵位を持った『亜竜族』だったっけ。実のところ、元々LOFに『蛮族・魔族』のPCって存在しなかったんだけど、追加データ集にて公式が発表した時は、狂喜乱舞で「早速キャンペーンやってくれ!」って無理やりGMやらされたのが本当に懐かしい。
話を戻し、そんな代表格の『亜竜族』のキャラクターデータはと言うと、その地位に相応しい高いステータスを誇っている。特にVITとINTが高く、他ステータスも平均的に『人族』キャラクターよりも高いため、弱点らしい弱点が存在しない。故に、どの技能職を選んでも強力なPCとすることができる。
かく言う目の前の彼――ナップもレベル「7」以上のステータスを誇っている。だがそれ以上に彼の習得している技能構成が、俺の興味を惹き付けた。
戦闘時に自身が直接攻撃できる戦闘技能をほぼ持たない技能構成。あったとしても〈ファイター〉のLv「1」のみ。
もしこれがアーリアの助言でなく、彼自身で選び取った成長であるならば、今まであった冒険者の中で一等の曲者ではなかろうか。流石はアーリアが所属を認めるだけはある。
俺は2人へと歩みより、「よろしく」と右手を差し出した。
「……驚かないのですね?」
差し出した手と握手を交わしながら、目を細めて疑問を投げかけるナップに、俺は「十分驚いていますよ」と笑みを返す。
「ただ、人族社会で暮らす『亜竜族』を他にも存じておりますので。だからすんなり受け入れられているだけです」
「はっはっは! 成程ね! 騎士様の割には随分と話がわかると思ったら、前例を知ってるんじゃそーなるわな! アタイはアンジー・バロイドってんだ。アタイとも是非手合わせ願いたいねぇ!」
豪気に笑いながら握手を交わすアンジーは、「アタイの知ってる騎士様はな」とさらに言葉を続ける。
「『蛮族』だと解った瞬間に、斬りかかってきたもんだから、ちょっとは期待したんだがねぇ」
「“名誉市民権”を得ているお二人に斬りかかるような無礼な真似はしませんよ」
挑発的な笑みを浮かべるアンジーに苦笑いで返しながら、「それに」と前置きをして先程の言葉を訂正しておく。
「残念ながら、ウォーガルドさんと模擬戦をしたのはセツナですよ」
「……マジかよ」
俺より先に地下から上がっていたセツナ達は自己紹介を終えており、アンジーもセツナが誰なのかはわかっているようだ。
視線を向けられたセツナは瞬きを数度すると、「はい。セツナがお相手させていただきました」と頷く。
「ははははは! やっぱり『人族』ってのは見かけによらないねぇ!」
「お言葉ですが、セツナは『人族』ではございません」
「おっと失礼。『小人族』だったかい?」
「いえ。セツナは――」
「違いますよアン! セツナさんは“バトルドール”なんですよ!!」
「あぁ!?」
再び気分が高揚してしまったのか、セツナが答えるよりも早くオリヴィアが答える。それもキラッキラに瞳を輝かせて。勢いのままに詰め寄られたアンジーは、「近ぇよヴィア!」と肩を押してオリヴィアから距離を取り、改めて視線をセツナに向ける。
「“バトルドール”ってぇのは、あの変態出歯亀野郎が侍らせてる雑魚どもだろ? このお嬢ちゃんはどー見ても着せ替え人形にゃあ見えないんだけどねぇ」
「だよねだよねだよねっ!? 可愛い女の子にしか見えないよねっ!? でも“バトルドール”なのっ!! だから私、弟子入りして〈ドールマスター〉になるの! そして私のセツナさんを手に入れるの!」
「ちょっと待ちな! 何でヴィアが自慢げなのかはわからねぇし、魔法オタクのあんたが興奮する理由はわかった。弟子入りでもなんでもすればいいけどねぇ。まずはいい加減落ち着きな!」
さすがパーティーメンバー。あの勢いと言うか性格崩壊に気押されることなく嗜め、落ち着きを取り戻したオリヴィアは「すみません」と再び頭を下げる。
「いえ。謝っていただくようなことではありませんので。むしろお褒めいただき、光栄に存じます。オリヴィア様、アンジー様」
「はぅ!?」
「ははは! アタイに様付けなんていらないよぉ! それよかお嬢ちゃん、次はアタイと戦らないか? ガルドをノしたっつー実力、アタイに体験させてくれよ」
「可能なら今すぐにでも!」と両手を広げて模擬戦大歓迎、と全身で表現するアンジーに、さすがに見かねたミィエルが割って入る。
「だ~め~です~! セっちゃんは~、これから~歓迎会のための~、準備をミィエルと~するんですから~!」
「おっとそいつは聞き捨てならないねぇ。勿論アタイ達も参加していいんだよなぁ? ミィエル」
「もっちろ~ん、ですよ~。でも~、働かざる者~食うべからず~、ですよ~」
ワイのワイのと話が進み、オリヴィアも加わり、リルまで参加となればそれはもう賑やかな様相を呈する。いや~、本当こういう光景は平和でいいよねぇ。
ちらりとナップを見れば、困ったように笑みを浮かべていた。「掃討戦の打ち上げがあるんですけどねぇ」と聞こえた呟きは、当然盛り上がる彼女たちには届かない。種族云々は抜きにして、このパーティーを纏めるのは大変だろうなぁ、と思わず同情する。
嘆息を1つ吐くと、ナップは視線を俺へと向け謝罪を述べる。
「……申し訳ありません、パーティーメンバーが騒がしくしてしまって」
「いえ、賑やかなのは良いことですから。なんせここは“歌い踊る賑やかな妖精亭”ですからね」
「そう言っていただけると、私としても気が楽になります。それと、もしよろしければ敬語ではなく、砕けた口調で話していただければと。同じ宿の仲間になるわけですから」
「じゃあそうさせてもらうな。俺の事もカイルで構わない。改めてよろしくな、ナップ」
「えぇ、こちらこそ。僕としても、同年代なうえ、カイルのように話が分かる『人族』で安心しました」
「敬語はいらないんじゃなかったのか?」
「これが地なもので、そこはご容赦を」
整った顔立ちで人懐っこい笑みを浮かべるナップに、こいつはモテそうだなぁと素直に思う。『亜竜族』も『エルフ族』同様、見目麗しいのが多いって設定だもんな。
「そっか、わかった。俺はザード・ロゥに来たばかりで、先輩として色々教えてもらうと助かるよ」
「僕に協力できることであれば喜んで。ガルドもご迷惑をかけてしまいましたから」
「それに関してはお互い様だから構わんさ。それよりオリヴィアさんの話は放っておいていいのか?」
「そうですね……。打ち上げに綺麗どころが二人も抜けるとなると、相当な不評を買うでしょうね」
「いや、そっちじゃねぇよ。俺が言いたいのはオリヴィアさんの成長先のことだよ」
「あぁ、そっちですか」
こいつわかっててボケただろ、と思いつつも突っ込まずに頷いておく。
彼女の発言からして上位職は〈ドルイド〉へ向かうはずだったように思える。が、“バトルドール”にベタ惚れして方針転換なんて、パーティーとして許容できるのか。俺としては打ち上げなんかより、こっちが気になって仕方がない。
「それに関しては、現状構わないでしょう。求める役割に多少の変更はありますが、修正できる範囲内と言えるでしょう。むしろ僕達としては、カイル程の実力者に手解きいただけるのであれば、ヴィアの方向転換は利点が勝ると考えておりますね」
「……“妖精亭”のパーティーリーダーに、そこまで買っもらえるのは、むず痒いものがあるな。だが俺は本職じゃないぞ?」
「本職顔負けのレベルですから、心配いらないでしょう」
堂々と言ってくれるが、〈ドルイド〉と〈ドールマスター〉では多少じゃすまない変更だと思うんだがなぁ……。
「まぁナップが認めるなら構わないのかもな。で、打ち上げはどうすんだ?」
「僕としてもこちらの歓迎会に是非参加したいところですが、付き合いというものも大事ですから」
「まぁそうだよな」
わかるよ、俺もサラリーマンだったからな。
「ですので、近いうちに良い酒屋でも紹介させてください」
「それはいいな。是非頼むよ」
「えぇ」とナップは笑顔で頷き、完全に盛り上がり切った女性陣の中に顔を突っ込んで、見事アンジーとオリヴィアを説得せしめたのだった。
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