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第80話 どうやらセツナちゃんは怒っているようです

ご返信が遅れましたが、誤字脱字報告していただき、本当にありがとうございます。

助かっておりますし、参考にもさせていただいております。

 ミィエルは頭の回転も速いし、俺なんかよりよっぽど深い思考ができるのに、なぜこうも人を紹介するのがテキトーになってしまうのだろうか。


 謎だ、と思い悩む俺。気持ちを察してくれているのだろう、『兎人族(ウェアラビット)』のヴィーちゃんが紹介とは言えないミィエルの”紹介”に言葉を続けてくれる。



「改めまして、“妖精亭”所属、“妖精の護り手(アルフ・ガーディアン)”のオリヴィア・ポデスタと申します。隣の彼はウォーガルド・フラウエンです」


「ウォーガルドだ。間違っても“ガルちゃん”呼びしたら殺す」



 愛想の良い柔らかな笑みを浮かべるヴィーちゃん(オリヴィア)とは対照的に、ギロリと射殺すような視線で応えるガルちゃん(ウォーガルド)。冒険者であり男としても“ちゃん付け”が気に食わない気持ちがわからないわけでもないが、そこまで殺気を込めなくても良いんじゃないかな、と俺は思ったりする。割と現世――もとい前世(?)の日本では、“ちゃん付け”で呼ばれることが多かったからなぁ俺。特に女性から。だから意外と忌避感はなかったりする。



「初めまして。俺はカイル・ランツェーベルです」


「“カイル様の従者”セツナと申します。以後お見知りおきを、オリヴィア様」


「今日付けで“妖精亭(ここ)”に所属することになった、リル・フール―よ。こっちが弟のウルコットよ」


「ウルコットだ。ヨロシク、頼ム」



 こちらもそれぞれが自己紹介を告げる。ウルコットもカタコトながらも共通語だ。



「え~! なんで~、ミィエルが紹介(しょ~かい)~する前に~、言っちゃうんですか~?」



 むーっとミィエルはむくれるが、ミィエルに任せると話が進みづらいので致し方ないのだ。許せミィエル。



「確か4人パーティーだと聞いていたんだが、残りのメンバーはどうしたんだ?」



 ミィエルの話では“妖精亭”に所属している冒険者の数はミィエルを除けば4名だったと記憶しているのだが。



「確かにあと2人私達のメンバーはいます。今は冒険者ギルドに報告に行っていますので」


「成程。アーリアさんが研究ばかりでギルドへの報告を怠ったということか」


「あははは……」



 苦笑いを浮かべるオリヴィアからは否定の言葉が続くことはなかった。まぁアーリアさんらしいっちゃらしいけども。



「それだけ皆さんを信用していると言うことなのでしょうね」


「ったりめーだ。姐さんとの絆は、どこの馬の骨ともわからネェやつとは違ェんだよ」



 俺を睨みながらも誇らしげに嘯くウォーガルド。しっかし呼び方が「姐さん」かぁ。アーリアの人となりを知っているからこそ違和感を感じないものの、傍から見たら小学生を姐さん呼びするチンピラと言う絵面になるんだよなぁ。面白いと言うよりかは、ウォーガルドが不憫に思えるな。



「ヴィ~ちゃん達が~、戻ってきたって~ことは~、掃討戦(そ~と~せん)は~終わったんですね~?」


「はい。南の森林内部の危険な『蛮族』や『魔神』はあらかた処分を終えましたので、こうしてザード・ロゥへ戻ってまいりました」


「お疲れ~さまでした~。なら~これで~、フレグト村の〜復旧作業が~行えますね~」



 「よかったですね~」と笑みを向けられたリルも、嬉しそうに笑顔で頷いて返す。



「もしかして――」


「えぇ。私達はフレグト村の者よ。皆さんのおかげでまた生まれ故郷で暮らせるようになるわ。本当にありがとう」


「いえいえ! それが私達が受けた依頼(クエスト)ですから。報酬はいただいておりますので、改めてお礼を言われるようなことではありませんので」


「そうかもしれないけれど、気持ちの問題でもあるのよ。だから気にせず受け取ってもらえると嬉しいわ。特にこれから、同じ冒険者の宿の仲間になるんだから」


「……そう言うことでしたら」



 リルの言葉にオリヴィアは、はにかみながら頷いて感謝の言葉を受け取ってくれる。う~ん、良い娘だねこの娘も。



「先輩としていろいろ頼らせてもらっていいかしら?」


「ミィエルからも~、お願いします~」


「っ。はい! 私でよければ喜んで!」



 どうやら女性陣は何の問題もなく打ち解けられたようで何よりだ。それに引き換え男性陣(こちら)と言えば――



「しっかし姐さんは、なーんでこんな雑魚を所属させたんだろうナァ!? 低レベル(ひよっ子)は嫌いだろぅがヨォ?」



 いちいちガンを飛ばして絡んでこなきゃ気が済まないようで。正直言って面倒くさい。と言うか、俺が関わる男性冒険者って基本的にこういうのばかりな気がするんだが……。



「誰だって最初はヒヨッ子から始まるものでしょう。貴方だってそうだし、俺だってそうです。多少腕を上げたぐらいで見下すのはどうかと思いますよ?」


「……言うじゃネェか、クソ人間(ヒューム)。ぽっと出の分際で我が物顔で俺様達の領地(テリトリー)に土足で入り込んで来やがってヨォ!? ナメてんじゃネェぞ“劣等種”ガァッ!」



 恫喝しながら俺の胸倉へと左手を伸ばし――



「穢れた手で主様に触れないでください。それと、今までの暴言への訂正と謝罪を要求いたします」



 ――その手は俺に届くことなく、セツナの右手に掴まれることで止まっていた。



「アァ?」


「それとも言葉が通じませんでしょうか? あいにくセツナは犬人族(・・・)の言語は学んでおりませんので、共通語にて失礼いたします。再度、訂正と謝罪を要求いたします。お解かりいただけませんか?」



 「この(アマ)……」と青筋を浮かべてセツナへと殺気を飛ばすも、すでにマイナス域まで下がった藍色の瞳は揺るがない。代わりにセツナの右手がメキリッとウォーガルドの左腕を白く染めていく。体格的に不利なのはセツナだが、完全に力でウォーガルドを押し返している。



「訂正と謝罪を」


「ぐっ……」


「あっ! こら~! 何~セっちゃんに~、乱暴(らんぼ~)してるんですか~!?」


「っ!? 放し、やがレェ!」



 リルとオリヴィアの仲を取り持っていたミィエルがこちらに気づき、慌てて距離をとるウォーガルド。セツナも掴んでいた右手を下すも、その視線はまっすぐに彼の姿を外すことはない。



「女の子に~暴力を振るなんて~、見損ないました~! ガルちゃん~!」


「けっ! 冒険者に女も男もネェだろうがヨォ!」


「だとしても~! これから~、歓迎会をするって~言うのに~! な~んで~、仲良く~できないんですか~!?」


「はっ! 認めてもいネェ余所者を歓迎なんかできるかヨォ! やりたきゃ勝手にやるんだナァ!!」


「む~。ガルちゃんは~、い~っつもそ~なんですから~」



 頬をぷくーっと膨らませて怒るミィエルに威厳の欠片もないが、ウォーガルドには効果があるようだ。目を逸らして悪態を吐く程度の反抗しか見せていない。



「っるせーよク――いでぇっ!」


「五月蠅いのはあんた達よ」



 さらに悪態を吐こうとしたウォーガルドの頭上に、手のひら大の石礫(ストーンバレット)が勢いよく腰を下ろす。非常に良い音が響き、蹲るウォーガルドの背後からアーリアが顔を出す。



「喧しいから帰ってきてると思ったわ。とりあえずカイル君に手伝ってもらいたいことが――」



 俺の顔を見て、次にセツナの顔を見たアーリアの言葉が止まる。そして頭を抱えて蹲るウォーガルドに視線を向け、溜息を一つ。



「あたし言わなかったかしら? 『あたしが認めた(・・・・・・・)4人組が、“妖精亭(うち)”に所属することになったから、ウザ絡みはやめなさいよ』って。まぁあんたが絡まずに済むとは思ってなかったのだけれど」


「でもよ姐さん!」


「実力だって折り紙つきよ。あんた達が帰ってくる前だったけれど、《決闘》で“鮮血鬼”に勝利しているのよ? それの何が不満なのよ?」


「ストーカー野郎に勝ったぐレェで認められるカヨ! 勝つだけ(・・・・)なら俺様だってできるんだからヨォッ!」



 彼の言葉に「面倒くさいわね相変わらず」とアーリアは嘆息するが、俺は逆に感心させられた。先程俺もウォーガルドに関しては解析判定(挨拶)を行っている。その結果、彼の冒険者レベルは「6」だと判明している。レベル差「4」――つまり基準値「4」以上の差をものともしないと言うのは、それだけ戦術や戦略に自信があると言うことだろう。



「だから俺様が直々に見てヤロゥってんだヨ! 姐さんッ!」


「……結局あんたはそこに落ち着けたいだけじゃない」



 「どうしたものかしらね」と顎に手を当てて考える仕草のアーリア。もう答えは見えているんだけどねぇ、この流れだし。



「仕方ないわね。カイル君――」


「俺は面倒なんで嫌ですよ」



 食い気味に返答すれば、アーリアも「やるのはあんたじゃないわよ」と苦笑いを返し、視線を俺ではなくセツナへと向けて続けた。



「セツナちゃん、カイル君の代わりにこの馬鹿を黙らせてみる気、ない?」


「セツナが、ですか?」



 あの視線はそういう意味だったのか、と妙に納得する俺とは別に、「ふざけんナ!」と代わりにウォーガルドがアーリアに食って掛かる。



「あんたの頭のデキよりはふざけてないわよ」


「ふざけてんだロ! なんでそのクソ人間の代わりにこんなガキを――」


「自己紹介されてないのかしら? セツナちゃんはその“クソ人間”の従者なのよ。正確に言えば、彼女は彼が使役する“バトルドール”なの。だからカイル君の実力(ちから)と言って差し支えないのよ」



 「オリヴィアには解るでしょ?」と促せば、彼女は口元に手で覆って「嘘……」と明らかな動揺を見せた。



「おいオリヴィア!」


「本当に、カイルさんが使役する召喚獣(ユニット)、です。信じられません……こんなに、普通の女の子なのに……」


「マジ、かヨ……」



 「納得したみたいね」と悪戯が成功した少女のような不敵な笑みを浮かべ、一度だけ俺に視線を送った後にアーリアはセツナにもう一度問う。



「どう?」


「アーリア様、よろしいのですか? もしかしたら使い物にならなく(・・・・・・・・)なってしまう(・・・・・・)かもしれませんが?」


「ぷっ……ふふふふふ、構わないわ。一応死ななきゃ好きにしていいわ」



 肩を震わせながら頷くアーリアの返答に、セツナは迷うように一度、俺へと視線を上げる。



「主様?」


「……セツナの好きにすると良い」


「っ! はいっ! では二度と口答えができないよう、躾けてまいりますね!」



 ぱぁっと眩しい笑顔を浮かべて頷いた。



いつもご拝読いただきありがとうございます!

また、なんやかんやで1年書き続けられることができました。これも皆さんのおかげでございます。

これからも継続して投稿していきますので、よろしければ下の☆に色を付け、ついでにブックマークをよろしくお願いいたします。

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