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第7話 少しの思考と知らない魔法

『旅の方。本当、命を救ってくれてありがとう』


『疑いの眼差しを向けて悪かった。リルの言った通り、あんた本当に強いんだな』



 初対面の時とは打って変わった、にこやかな表情を向けてくれるエルフ達。エルフ語が分からない体でいる俺は、取り合えずお礼的なことを言ってくれてるのかな、的な表情をしておく。



「助けてくれてありがとう。実力を疑ってすまなかった、だって」


「気にしてない、無事でよかったと伝えてくれ」



 リルに対応を任せ、”ジャイアントヴァイパー”の死体から素材の剥ぎ取り――剥ぎ取り判定(ドロップダイス)を行うこととする。

 ゲームではダイスを振り、その合計値にてドロップが確定していた。ならこの世界ではどうなるのか? ”グリズリー”で試していなかったので早速試みてみようと思う。


 ジャイアントヴァイパーの死体の傍で膝をつき、じっくりと確認する。直感的に「ここだ!」と思った箇所にナイフを突き立てて解体を行い始める。結果皮をはぎ取ることで【上質な蛇の皮】を入手することに成功した。直感と共に自然と体が動いて解体を始めてしまったが……これもっと意識的に知識を持って行えば、より上位な素材を手に入れられないだろうか? 暇があれば検証してみたいところだ。


 解体した皮を雑囊(マジックポーチ)に仕舞いながら考察していると、背後から近づく気配に俺は、別の危険(・・・・)を感じてその場から飛び退き振り返る。

 視線の先にはジャイアントヴァイパーに巻かれていたエルフが、驚いた表情で差し出していた手を止めていた。恐らく俺の肩を叩くか組もうとしたのではないかと思う。いやはや危ないところだった。

 俺の突然の反応に気づいた他のエルフやリルが『どうしたんだ?』「どうしたの?」と声をかけてくる。



『えーっと、脅かすつもりはなかったんだ。礼を言おうと思っただけでさ』


「リル、悪いんだけど彼に伝えてもらえるか。不用意に俺に触れない方がいいって。正確にはこのローブに」


「っ! もしかしてそれって――」


「ご明察。無差別なんだ」



 グリズリーとの戦闘を見ていたリルだからこそ、すぐに思い至ったのだろう。慌ててエルフ達に『許可なく触れると魔法攻撃が飛んでくるので気をつけなさい』と忠告を飛ばしてくれる。


 そう、俺の防具である【荊のローブ】は敵味方問わず、装備者に接触を図ろうとすると自動的に魔力の茨でダメージを与えてしまうのだ。せっかく命が助かったのにお礼を言ったら、ジャイアントヴァイパーよりも致命傷を受けた……なんてことになったら冗談じゃすまない。本当、早めに気づけて良かった。



「それで、ジャイアントヴァイパーはどうするんだ?」


「味はともかく貴重なたんぱく質だし、調理次第では食べれるから隅々まで解体しようと思ってるわ。ほしい素材があれば優先的に渡すけど」


「いや、さっき皮を少し頂いたからあとは村で使ってくれ」


「ありがと。じゃあ2人に2体のヴァイパーの運搬を任せて、他の食料と警邏をやってしまいましょう」


「了解」



 頷いて準備を終えたエルフ達と再び村近辺の森を警邏する。


 結果としては村に害をなしそうな『動物』や『魔物』は、これ以上見当たらなかった。しっかりと食材になりえる兎や鹿、カエルなどを仕留めることができたし、結果としては上々と言えるだろう。



「お疲れ様カイル。後は夕飯が出来上がるまで休んでいて頂戴」


「あぁ、そうさせてもらうよ。ただ手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ。手は空いてるからね」


「ふふ。カイルはお客様な上に一番働いてくれたんだもの。でも、手を借りたくなったら声をかけるわね」



 バファト宅にリルと共に戻り、俺は1人屋根裏部屋へと戻る。お言葉に甘えて休ませてもらうつもりだ。

 最も、休むというより色々と試したいこと、考えたいことがあったので休んでいる場合ではないのだが。


 俺は少しだけ分けてもらったグリズリーとジャイアントヴァイパーの戦利品(ドロップアイテム)を床に並べながら、本日の戦闘を振り返ってみる。



 まず当たり前のことではあるのだが、この世界が現実である以上、戦闘はリアルタイムバトルと言う事実。

 LOFではTRPGの特性上、戦闘は全てターン制バトルだった。リアルタイムバトルなんてどう頑張ったってGMが管理しきれるものではなかったし、それじゃ紙とペンとサイコロ、あとはルールブックさえあればできるゲームとはならなくなってしまうからだ。


 リアルタイムである以上、戦闘において互い互いに行動する“ターン”なんてものは存在しない。グリズリー戦では状況把握のために敢えて距離を空けたが、あのまま畳みかけるように攻撃することも可能だったと感覚でわかる。つまり移動力や先手を取ったり回避を行うために必要だっただけのAGIのステータスは、より自分の戦闘速度と機動力に直接影響を及ぼすため、AGIが高ければ高いほど相手より1手も2手も多く攻撃を行うことができるのだ。


 このキャラクターは回避を主体としたビルドのため、当然AGIへステータスを多く振っている。と言っても、LOFは基礎ステータス成長に関してはダイスで決めていたため、狙った成長にならないことは多々あった。一番上げたいAGI(43)よりもDEX(47)の方が成長しているのはご愛敬だろう。おのれダイスの邪神め……


 LOFでは1セッション――つまりは1つのシナリオをクリアした段階で経験値と基礎ステータス成長、技能レベルの成長を行えるようになる。しかし技能レベルの取得は先程経験値さえあればいつでもできることが確認できた。なら基礎ステータスの上昇はどうすればよいのだろうか。筋トレとかすればSTR上がるのかな?



「逆に老いればステータスは減少するって可能性高いよな。それ以上にトレーニングさぼったら下がったり……?」



 身体を慣らすためと言うのもあるが、ステータスの減少を抑えるためにも、ある程度のトレーニングは日課にした方が良いんだろうなぁ。俺、筋トレとか継続できたことないんだけど。命かかってるし、頑張ろう。



「あー、これがフルダイブ型VRゲームとかだったら、そんな心配もないのかなぁ」



 俺が生きている間に開発されることを望んだけど、ついぞ夢は叶わなかったなぁ。いや、むしろリアルで体験していると言っても過言ではないのか。閑話休題(それはともかく)


 考察再開。

 次に、取得経験値を確認してみる。TRPG時代は討伐。ないしは撃退したレベルに応じた経験値が取得できていたが……お、入ってると言えば入っている。しかし、どうやらTRPG時代よりも取得経験値量が低いようだ。

 TRPG時代の半分ぐらいかな、これ? んー、考えられることとしてはレベル差かなぁ。MMOとかだとレベル差がある相手とでは、得られる経験値が少なかったりしたよなぁ。あれみたいな感じか? 検証したいが、世界観的にそう高レベルの魔物が出る場所なんてそうそうないよな。

 兎にも角にも経験値を取得できると分かったこと自体が重畳だ。



 さて戦闘面だ。攻撃によって生じるダメージ次第で、は怯むこともあればノックバックすることもある。スキルや特技でしか行えなかった転倒状態も、攻撃の仕方次第ではいくらでも再現できる。

 もしかしたらHPが0以下になったら「気絶」と言う状態も、HPが残っていても起こりえるのではないだろうか。脳を揺さぶれば意識は飛ぶわけだし、今度気絶付与攻撃(ノックアウト)を狙ってみるのもいいかもしれない。

 ……つか、自由度が上がりすぎている点に、俺自身も注意しなければならないよなぁ。不意打ちに気づけず、後頭部への一撃で気絶――なんて笑えない。



 次に“判定”と言う概念はなくなったのかと言えばそうではない。意識、無意識問わず直感的な“判定”する感覚はある。

 先制判定(イニシアティブダイス)の成功は、相手の動きを直感的に察知することで機先を制する感じだった。

 先制をとることで起動する〈イニシアティブアクション〉では、続く動きを効率化して隙のない行動を行うことができるイメージだ。一時的にAGIにバフがかかる感じかな。


 決定的成功・攻撃(クリティカル)も条件を満たしていれば感覚的に気付けるのもわかった。グリズリー相手に蹴りを2回叩き込んで、内1回は明らかに手応えが違った。ならば致命的失敗・被弾(ファンブル)はどのような感じになるのだろうか。



「出来れば負けられない戦闘とかじゃない、模擬戦とかで体感できれば理想なんだけど」



 まぁそう旨い話はないか。TRPGなら6面ダイスか10面ダイス振ってりゃ、割と高確率で出てたもんだが。いや、高確率で出てほしいわけじゃないんだけどね!

 いやぁプレイヤー側のターン全員がファンブルでターン終了したときは笑ったなぁ。


 思考がずれてしまったが、改めてステータスウィンドウを確認する。




名:カイル・ランツェーベル 17歳 種族:人間 性別:男 Lv13

DEX:47(+2) AGI:43(+1) STR:36 VIT:35 INT:24 MEN:27

LRES:18 RES:19(+2) HP:76/76 MP:60/77 STM:36/100




STMは現状36。思えばこれ、100近くまで回復したことないんだよなぁ。どうすればいいんだ? 単純に空腹値だけじゃないっぽいのだけはわかるんだけど。まぁいいや。次に装備品の耐久値を確認する。


 【荊のローブ】は変化なし。【ルナライトソード】も変化なしか。【ソードスパイク】は……これも減ってないか。2回しか蹴ってねぇもんなぁ。むしろ2回蹴って減少してたら220発蹴ったら壊れる計算になるしな。それは困る。耐久値の回復手段も見つけねばなるまいて。

 まぁこの辺りは街についてからだな。



 よし、んじゃもう一つ試したかったことをするとしよう。俺は巾着バッグから〈アルケミスト〉に必要な錬金道具一式を取り出して、戦利品を加工してみることにする。


 〈アルケミスト〉技能――これは文字通り錬金術を扱うための技能で《サブ技能》に属している。〈アルケミスト〉は基本的には有用な補助魔法が大半を占めいる。しかも自前のMPを消費することなく扱え、詠唱も必要としない。専用の道具を金で揃えさえすれば、手軽にパフォーマンスを上げることが可能な技能として、前衛後衛問わず嗜むことが多い。そう、金さえあれば(・・・・・・)


 〈アルケミスト〉技能を十全に使うためには、消耗品である【魔石】が必要となる。と言うか魔石なしでは何もできない。そして上等な魔石を使えば使うほど、効果が上がる。そして魔石の入手方法は基本金を積んで購入することだ。


 【魔石】には等級が存在し、上から特級・一級・二級・三級と4種類に分別される。お値段は上から300,000G・30,000G・3,000G・300G。

 LOFの通貨価値は日本円に換算すると凡そ1G=10円程だったはず。つまり特級魔石は1つで300万円と言う計算だ。ちなみに中級(5~6)レベルの冒険者の依頼報酬平均が凡そ10,000G程。命張って一級ですら買えないのだ。

 しかもそれだけではない。魔石には等級以外にも属性が存在し、使いたい錬金術ごとに必要な属性も変わってくる。そして属性は全部で7種類もある。


 さて、もうお分かりだろうか。〈アルケミスト〉技能を使用するには魔石は必須。各属性を必要数揃える必要があり、最低の三級魔石でさえ1つにつき300Gかかる。つまり使用するたびに最低でも300Gを散財する、札束ゲーをするのが〈アルケミスト〉技能なのだ。

 ちなみに使う錬金術によっては魔石の消費は1つとは限らない。特級を2つ以上使わなければ発動しない錬金術とかもあったりするのだ。その分効果は折り紙付きだけど。

 ちなみに俺の現在の所持金124,230G。残念ながら特級を購入する余裕は、ない。

 

 ならどうすれば良いのか。それは倒した魔物の素材を、直接魔石へと錬成してしまえばいいのだ。

 魔物の素材や魔法のアイテムは冒険者ギルドにて魔物の討伐証明となったり、売り渡すことができる。鍛冶屋に持ち込む、あるいは生産系技能である鍛冶師を取得していれば、素材を使って装備を作ることもできる。


 同様に〈アルケミスト〉も錬成によって、素材から魔石を作り出すことができるのだ。そしてこの錬成の利点は、冒険者ギルドで素材を買い取ってもらうよりも、高価な魔石を錬成できることがあると言う点だ。つまり素材の価値さえわかっていれば、売却したほうが良いのか、錬成したほうがいいのかがわかってくるのである。



「もっとも、魔物の素材を入手するには戦闘は必須。しかし〈アルケミスト〉は単体では戦えない技能ってところが悲しいけどな」



 さて、先程譲ってもらった素材を六芒星が描かれた金属製のプレートの上に置き、錬成を開始する。

 錬成に詠唱は必要ない。必要なのは素材と道具と時間だけだ。最低でも10分は必要となる。


 ゲームでは処理が面倒なのでちゃっちゃと済ませたことにしていたが、実際やってみると時間が必要だということがよくわかる。素材から余計な要素を抜いて、純然たる魔石にする工程はわりと集中力を要するようだ。それとMPもしっかり消費する。


 なんとなく中断してみたら素材がごみへと変貌した。あぁ、ジャイアントヴァイパーの皮が黒ずんだゴミに……。安全なところでやらないと、高位な素材を錬成に使えないなこれ。


 とりあえずまだ素材はあるので残りを錬成。20分を使い、二級魔石と三級魔石を1つずつ錬成することができた。MPの消費も等級により消費量が違うようだ。三級でMP2、二級でMP4ということは、これ2の乗算分必要になるのかな?


 作り終えた魔石を解析してみれば【粗製魔石・三等級】と頭の中に表示された。そうだった、素材から錬成すると粗製アイテム扱いになるんだった。まぁ使う分には問題ないからいいんだけど。確か売却するときの値段が、販売されてる魔石の半分になるんだっけな?

 需要と供給のバランスで、地域によっては価値が違ったりするのだろうか。知りたいことが多すぎる。



 次に〈アルケミスト〉技能で扱える錬金術を確認する。戦闘で行える補助魔法の立ち位置が強い〈アルケミスト〉は、当然俺も戦闘に重きを置いたものを取得している。




【アルケミスト・取得魔法】

 オルタレイト:アイテムを錬成し、粗製魔石を作成する。

 ポーションクリエイト:魔石と素材に応じた効果をもつポーションを作成する。

 アタックオブフューリー:一時的に物理攻撃力を上昇させる。

 スタンハウル:一時的に対象のAGIを減少させる。

 ヴォーパルサイト:一時的に武器のクリティカル性能を上昇させる。

 ブロッキングハード:一時的に防御力を上昇させる。

 ギアブースト:一時だけAGIを上昇させる。

 ヒールギフト:HPを一定値回復する。

 エンサイクロペディア:INTを用いる判定にプラス補正をかける。

 マナコンバート・リペアチャージ:MPを消費し、魔力を宿すアイテムの耐久値を一定値回復する。




 ……ん? 知らないのがいくつかあるぞ。〈オルタレイト〉はまぁ、粗製魔石を作るための魔法――ちなみにゲームでは存在しなかった――ってのはわかるんだけど。〈ポーションクリエイト〉とか、すげぇ〈アルケミスト〉らしい魔法だな。ゲームにはなかったけど。

 それと最後の〈マナコンバート・リペアチャージ〉。これは魔法の武器や防具の耐久値を回復してくれる魔法ってことかな?

 あれ? 俺が持ってる装備大半が魔法強化されてるから、こいつがあれば耐久値の心配いらないんじゃない?



「すげぇ! マジかよ神スペル――」



〈マナコンバート・リペアチャージ〉

金属性魔石×5+MP 射程:接触 効果:一瞬

等級に応じて魔法アイテムの耐久値を回復する。


三級魔石×5+MP5:耐久値を1回復する。

二級魔石×5+MP15:耐久値を5回復する。

一級魔石×5+MP35:耐久値を25回復する。

特級魔石×5+MP75:耐久値を全回復する。


このスペルは1つのアイテムにつき、1日に1回だけ使用できる。



「――…………魔石5つ、だと?」



 しかも1アイテムにつき1日1回まで。150万Gと俺の全MPを注ぎ込めば耐久値を全回復する、ね。なるほど。なるほど?

 そっと【ルナライトソード】を見る。こいつは俺が扱いやすいようにカスタムし、強化できるだけ強化したオーダーメイドの武器だ。当然かかった金額は相応のものではある。確か50万Gくらいか? ……買いなおした方が安くね?

 いやいや待て待て。多分だが耐久値の回復は専門職で、且つ金と時間がかかるわけで。それを考えたら一瞬で耐久値を回復できるこの魔法は間違いなく神なのではないか? だってこれ、戦闘中にも使えるんだろう。神じゃん。金はすこぶるかかるけど、それはもう〈アルケミスト〉だから仕方ないと諦める。


 毎日少しずつ三級を使ってこまめに回復するのが一番っぽいね。まぁ修理代金と期間がどれぐらいかによると言えばよるけど。



「これ、もしかして俺の知らない魔法がまだあるのか? 例えば覚えている他の技能で」



 これは全部改めて見直さないといけないな。とりあえず俺は三級魔石を消費しつつ耐久値の回復をしながら、他技能の確認を改めてすることにした。



「カイル、ご飯できたわ――よ……」



 そして錬金術と魔法の実験場によって、大量のアイテムとゴミの山を作ってしまった俺は、屋根裏部屋に訪れたリルに呆れた表情をさせてしまった。


いや、そのつい楽しくなってしまってね……ごめん。


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