第78話 ガンショップ”火薬の芳香”
買物回がようやくこれで終わります。
「到着~ですよ~」
ガンショップ“火薬の芳香”。
ザード・ロゥで唯一の〈カテゴリー:ガン〉専門店であり、試射するための射撃場が備えられているためか、街の中でも外縁寄りに店を構えていた。“アドベントストア”からは徒歩ではなく馬車で移動するべきだったんじゃないか、と言うぐらい離れていた。最も道中はミィエルのおかげで話が盛り上がっていたため、なんの問題もなかったわけだが。それよりも――
「おぉ……っ!」
訪れた“火薬の芳香”の店内を見て、俺は感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。
海外旅行などあまり行かなかった俺は、本物の銃なんて見たことは数えるほどしかない。身近なものと言えばモデルガンやエアガン程度が関の山である。
しかし今目の前には、棚や壁に陳列された本物の銃器に心が躍らずにはいられなかった。
いやー、“炎鉄工房”の時もそうだったけど、ついついテンションが上がっちゃうなぁ。ぶっちゃけ俺、現実世界の銃器とかそこまで興味なかったんだけど、いざ目の当たりにしてみるとコロっと心境って変わるもんだなぁ。
1つ手に取って解析判定をしてみれば、返ってきたデータは俺の記憶とほぼ相違ないこともわかる。品揃えも良いし、パッと見て突飛なものもなさそうだ。これなら目当てにしていたものもあることだろう。
「凄いわね。【銃】ってこんなにもいろんな種類があるのね」
物珍しさから、壁に掛けてある長銃を手に取ってみては「思ったより重いのね」と呟くリル。ウルコットも手に取ってみるものの、どう使えばいいのかと疑問符を浮かべていた。
「カイルくんは~、どんなのを~買いに~、来たんですか~?」
「ん? そうだな、なるべく装弾数の多い【1H銃】と、射程と威力が比較的高い【2H銃】かな。一応一点目的にしてる物もあるんだけど」
〈カテゴリー:ガン〉は【短銃】も【長銃】も基本的に使い方は変わらない。1ターン攻撃できる回数は1回であり、装弾数を使い切れば、再装填に1ターンを費やすことになる。当然、攻撃回数が1ターン1回である以上、フルオートできる銃は存在しない。
デザインは【1H】なら回転式拳銃や自動式拳銃、単発式拳銃。【2H】であれば小銃や散弾銃、狙撃銃と元の世界と似たデザインで作られている。
ただし、ゲームバランスのためか元の世界よりも装弾数は少なく、装填できる弾丸の数は多くても4発まで。そして必要筋力量が低い、または威力が高くなるほど装弾数は減っていく傾向にある。故に威力が高いからと単発式など使えば、2ターン毎にしか攻撃できなくなるなど気をつけなければならない。
一応銃本体を複数購入することによって、撃つたびに持ち替えるなどすれば解決できるが、資金力に余裕がなければそんなことはできないからね。
それらを考慮して――
【武器】サウスフルール 価格:5,000G
カテゴリー:ガン ランク:B 用法:1H 必要筋力:8 威力:15 命中補正:0 ダメージ補正:+8 クリティカル性能:B 射程:20m 装弾数:3 カスタムスロット数:1
耐久値:90/90
〈効果〉
一般的な回転式拳銃。
まずは一点目。軽量級でありながら装弾数も「3」発と破格の性能と価格をもつ【サウスフルール】だ。初心者ガンマンおすすめで、資金力が揃うまではこれで良いと言われる品だ。ちなみに色は鈍色だがフォルムは日本の警察が持っているリボルバーに似ている気がする。
【武器】グロウゼンド 価格:25,000G
カテゴリー:ガン ランク:A 用法:1H 必要筋力:15 威力:35 命中補正:-1 ダメージ補正:+15 クリティカル性能:B 射程:30m 装弾数:2 カスタムスロット数:1
耐久値:150/150
〈効果〉
威力に主体を置いた大型自動拳銃。
次は見た目デザートイーグルの大威力タイプ【グロウゼンド】。二丁拳銃使いが火力を求めて行き着く武器がこれだ。高い固定値のおかげで【グロウゼンド】を両手からぶっ放すだけで最低でも「30」点のダメージが入る優れものだ。
確か統計で、見た目の人気もあってか、ハンドガンの中でもトップ3に入る使用率を誇っていたんだっけな。事実性能も優秀だしな。
【武器】ハリケーンバスター 価格:12,000G
カテゴリー:ガン ランク:B 用法:2H 必要筋力:17 威力:20 命中補正:0 ダメージ補正:+14 クリティカル性能:B 射程:60m 装弾数:3 カスタムスロット数:2
耐久値:160/160
〈効果〉
一般的な小銃。
二脚を使用して固定することで、移動できない代わりに必要筋力を無視して使用可能。
これは中級者――主にLv5ぐらいまで扱いやすいライフルタイプで、初心者装備から買い替えることを考えるなら、まず目指すところのがこの【2H銃】だ。
種族によっては移動しながらでも問題なく打てるため、逃げうち適している素晴らしい武器と言える。うちのパーティーでも使える人間は多いし、想像するだろう“バトルドール”にも持たせやすい。そして最後が、
「――あった。これが一番欲しかったんだ」
俺は壁に飾られていた一丁の【狙撃銃】を手に取る。
【武器】テンペストブレイカー 価格:96,000G
カテゴリー:ガン ランク:A 用法:2H 必要筋力:20 威力:40 命中補正:+1 ダメージ補正:+22 クリティカル性能:B 射程:90m 装弾数:2 カスタムスロット数:1
耐久値:180/180
〈効果〉
威力、射程、重さ、全てのバランスを高ランクに纏め上げられた逸品。
二脚を使用して固定することで、移動できない代わりに必要筋力を無視して使用可能。
それはランク、価格、性能、全てが高水準であり、並居るTRPGプレイヤーが「もうこれで良いんじゃないか?」と言わしめた逸品。俺が知っているデータと変わりない、Sランクなどなくていいのでは、とまで言われた店売りで買えるAランク銃で最も強力な装備だ。
数値で表してみるとより分かりやすいだろうか。
例えば、Lv13がスキルなし、バフなしで【ルナライトソード+1】による攻撃を行った際に出せるダメージ期待値は凡そ「28」点となる。
【テンペストブレイカー】を装備できるレベルは、アビリティである〈ガンマスタリー〉さえ習得すれば適うため、最短でLv1。〈ターゲティング〉で安定させるならLv3って所だろう。そしてこの銃におけるダメージ期待値は「32」点となる。しかも「90m」先からこのダメージが飛んでくるのだ。近づく間に2~3回は攻撃できる計算となる射程距離だ。不意打ち狙撃から、一方的に相手を殺害することも可能と言える。
これだけでいかに優秀な武器か、おわかりいただけるのではなかろうか。使用者のステータスやレベルに左右されずに、武器そのものの固定値によってダメージを叩き出せるからこその強さ、そう言えることだろう。固定値信者御用達ってね。ちなみに俺は振れ幅の大きい、ギャンブル性の高いものの方が好みです。
ただまぁ低レベルから装備できると言っても、この装備を購入する資金がこのレベルで貯められるのかと問われれば、正直難しいんだよね。報酬を全てため込んだとしても、手に入るのは冒険者レベルが平均して「6」前後で手に入るかなー、って金額だし。弾丸だって1発当たり最低でも10Gかかるし、入手までにはそれなりに険しい道と言えるかな。
かなり余談にはなるけど、【テンペストブレイカー】のコンセプトデザインは、“ロシアで恐れられた白い死神”なるものを基にしたとかで、デザイナーの思い入れが殊更に反映されているのではないか、などと一部で話題に上がっていたっけ。
まぁそんなことは置いといて。俺個人としては優秀な装備は大歓迎だ。早速セツナにこれを――
「あら~。噂よりも通でイケてるじゃない? ミィエルちゃんのパートナーさん♪」
手にした銃をセツナへと差し出そうと振り返れば、「は~い♪」としなを作りながら手を振る蜥蜴面――俺よりも長身であり、その身をポンチョのような民族衣装で覆った――赤い鱗のリザードマンがそこにいた。
「ふふ~。お邪魔~してますよ~、ジェリ~」
「うふふ、邪魔なんかじゃないわ、ミィエルちゃん♪ 貴女ならいくら居てもらっても構わないもの♪ むしろ、これを機に銃に目覚めてくれないかしら?」
「ふっふっふ~。それは~、大丈夫ですよ~! なんせ~、セっちゃんが~今後~、使って~くれますから~!」
「ね~?」とセツナの腕に抱きつくミィエルに、目を白黒させるセツナ。「あら、この娘が? 嬉しいわ~♪」とウインクがリザードマンから飛ぶ。なんというか、濃いなぁ存在が。
「あー、ミィエル? とりあえず紹介してもらえるか?」
「そ~でした~! こちら~、”火薬の芳香”の店主さんの~、ジェリ~さんです~」
「相変わらず舌足らずな感じが可愛いわね~。そんなミィエルちゃんからご紹介に与った〈ガンスミス〉のジェリーよぉ。よろしくお願いね♪」
「そして~、こちらが~ミィエルのパ~トナ~の~、カイルくんと~、従者のセっちゃんで~。パ~ティ~メンバ~のリルと~、ウルコット~です~」
身体いっぱいを使って互いを紹介してくれたミィエルに、セツナだけは紹介になってない、と内心で突っ込む。とりあえず、
「改めましてカイル・ランツェーベルです」
「ご紹介に与りました、“カイル様の従者”セツナです」
「リル・フールーよ。私の隣にいるのが弟のウルコット。ごめんなさい、弟は共通語が話せないの」
リルの言葉に追随するように頭を下げるウルコットに、ジェリーは『大丈夫よ♪ ワタシ話せるから♪』とエルフ語を喋りながら投げキッス。ウルコットよ、せめて顔を引き攣らせない努力はしようぜ? まぁジェリーも気にした風ではないけども。
「ドワーフ、妖精、小人、ドラゴン語までなら対応できるわ」
想像以上に多言語話者なリザードマンだな。
「語学堪能なのですね! セツナもこれから様々な言語を勉強しようと思うのですが、覚えるのに何かコツなどあるのでしょうか?」
「そうねぇ……コツは、他種族の良い男を口説きたいと思うことかしらね♪」
「こら~! セっちゃんに~、なんてこと~教えてるんですか~!」
うふん♪ としなを作りながら答えるジェリーに、ミィエルが両手を上げて抗議する。まぁ動機は兎も角としても、モチベーションを維持するって助言自体は間違いではないんだよな。
「ジェリー様はそのお気持ちを胸に、今の自分まで磨き上げられたのですか?」
「そうよ~。数多の出会いを求めるに至って、言葉が通じないことには始まらないものん♪ 今は巨人語を勉強ちゅうよん♪」
次のターゲットは巨人とは、精力的だなぁ、をい。
「ま、モチベーションは人それぞれだからな」
「ふふん♪ 話がわかるじゃない」
「カイルくんまで~! も~、いいですか~? セっちゃんは~、ジェリ~を見習ったり~しちゃ~、ダメですよ~?」
「何故でしょう? セツナはジェリー様のことを見習いたいと思いますよ?」
「ふぇえっ!?」
セツナの発言にミィエルの瞳が零れてしまいそうなほど見開かれる。いや、ミィエルだけでなく、リルもウルコットも驚いたように視線を向けていた。かく言う俺もちょっと驚いた。ただまぁ、セツナのことだからそう言うんじゃないとは思うよ。
「? ミィちゃん?」
「あー……つまりは、だ。どんな理由であれ、セツナは学び、自分を磨き続ける姿勢が立派だと思った。だから自分も見習って頑張ろうってことだろ?」
「はい! ジェリー様のように、理想の自分に近づけるようなりたいと思います!」
「大丈夫、セツナならできるよ」
「っ! はい! 頑張ります!」
胸の前で両手を握り、全身で気合を入れるセツナが、あまりにも微笑ましくて思わず頬が緩む。そしてミィエルも「そ~ゆ~ことですね~」と肩の力を抜いた。全く、セツナが誰彼構わず男を誑かす様な娘になるわけがなかろうに。
「うふふ、ミィエルちゃんに負けず劣らずの可愛い娘ちゃんね」
「まぁな。さて、話が逸れまくったが、ジェリーさん? こいつを含めたいくつかの購入を頼みたい」
俺は手に持っている【テンペストブレイカー】を〈ガンスミス〉であるジェリーへと渡しつつ、先程見ていた他の銃の名称も挙げる。
「お買い上げありがとうございま~す。確認なんだけど、全てセツナちゃんが使用するのよね? なら、セツナちゃんに合わせて調整したほうがいいわね」
そう言ってジェリーはメジャーを取り出し、慣れた手つきでセツナのサイズを測っていく。
TRPG時代ならサイズなんて全く気にする必要はなかったのだが、普通に考えて小柄なセツナには確かにグリップ等のサイズの調整は必要だろう。正直、ジェリーに指摘してもらえて助かった。
「そうだ。せっかくだから、リルとウルコットも測ってもらっとくといいんじゃないか? 今すぐでなくても、いずれ選択肢には入るんだし」
「あら、そうなの? ならカルテを作らせてもらえるかしら。その方がワタシとしても助かるし」
セツナを測り終えたジェリーに、リルも「じゃあお願いしようかしら」と頷いて、セツナと交代する形で採寸を行う。ウルコットも同様に採寸されていく。
『カイル、お前は良いのか? お前なら銃器も扱えるんじゃないのか?』
ある程度測り終えたタイミングでウルコットから疑問が投げられる。そしてその問いに関しては俺も正直に悩んでいる所なのだ。
個人的な気持ちで言えば、銃を扱いたいとは思っている。現状余っている経験点で〈ファミリア〉を作成できるレベルまで消費したとしても、〈シューター〉技能を習得する余裕は確かにあるのだ。
それに〈シューター〉技能Lv1だとしても、俺自身のDEX値の高さからLv6相当――バフ込みならLv8相当の命中率は叩き出せるんだよねぇ。だから【狙撃銃】って言う選択肢は持っていても損はないのだ。
「考えてないわけじゃないけど、俺が色々チャレンジするにしてもパーティーが落ち着いてからだろうな」
ただこのパーティーは魔法関係がどうしても弱めになってしまうから、どちらかと言えばそっち方面の不足を補うのが優先されるかな、とも思う。まぁ焦る必要はないし、皆で連携等を見ながら考えていけばいいんでないかな。
「はいお待ちどうさま。終わったわよ」
セツナ、リル、ウルコットの採寸を終えたジェリーに、俺は礼を言って代金を支払う。
「セツナちゃんへの調整は、部品の都合もあるからぁ――5日は欲しいわん。試射しながら最終調整をしたいから、5日後以降にウチに寄ってもらえないかしらん?」
「わかりました。では5日後以降、手が空いた時に寄らせてもらいます」
「よろしくねん♪」
「今後とも“火薬の芳香”を御贔屓に」と最後には投げキスを振りまいてくれたジェリーに、女性陣は笑顔で、ウルコットは苦笑いを浮かべながら店を後にした。
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