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第75話 お買い物Ⅰ

大変遅くなりました。後3話以内には話を進めます。

 冒険者ギルド直営店”アドベントストア”。



 武器を中心として取り扱う“炎鉄工房”や、防具全般の“隠者の花園”、そして最後に魔法道具(マジックアイテム)や消耗品を専門医取り扱う“必見堂”。それら専門店と違い、この“アドベントストア”は冒険者が必要とする装備や道具を幅広く取り扱っている、総合販売店のような店だった。いや、正確にはある意味冒険者専門店(・・・・・・)と言った方が正確なのだろう。


 武器も必要となりそうなものは全ての種類(カテゴリー)を取り扱っているし、防具も同様。ただし、初級から中級者程度が扱うだろう、比較的安価な物が取り揃えられている。装備ランクで言えばAまでの物を取り扱っているようだ。


 これは装飾品や消耗品にも言えることで、上位冒険者が大金払って買うようなものではなく、比較的手の出しやすく使い勝手の良いものが取り揃えられていた。



「なるほど。冒険者ギルドの直営店ならではの品揃えだな。確かに駆け出しからそれなりまではこの店で十分に取り揃えられるな」


「はい~。それだけじゃ~なくて~、初心者が~下手な~お店で騙されないよ~に~、価格の~指標にも~なってるんですよ~」



 ミィエルが指を指す方を見てみれば、冒険者ギルドから派遣されてきた職員がアドバイザーとして相談に乗ってくれる窓口まで存在していた。

 何でも、右も左もわからない駆け出しのサポートとしては勿論、多少なりとも実力をつけてそろそろ高価な武器を手にしたい、なんて中級者が阿漕な店で騙されないように協力してくれているのだとか。


 初心者のための講習などはギルド主導ではやらなくなったと聞いていたが、装備やアイテムの相談など、痒い所に手が届く所は素直に感心できる。むしろ所属する宿の先輩に四六時中聞けるわけではないだろうし、実に良いシステムだと思う。



「へぇ。俺も今度相談に乗ってもらおうかな?」


「……カイルくんが~、ですか~?」


「あぁ。どんな風にアドバイスしてるのか気になるし、俺の抜けてる知識もあるだろうしな」



 是非機会があれば利用しよう。と思っていると、渋い顔をするミィエル。いやまぁミィエルが何を言いたいかはわかるよ? 俺の知識量で今更アドバイスなんていらないだろ、的なやつだろ?



「違います~! ミィエルとしては~、カイルくんが~冒険者(ぼ~けんしゃ)は~、初心だって~ことを~、忘れないでほしいだけ~です~」



 店内だからか、声を潜めて訴えるミィエルは続けて「戦闘(せんと~)の~、実力はともかく~」と口を尖らせる。あまりの正論に、仰る通りですと俺は苦笑いを浮かべて頷くしかなかった。《決闘(デュエル)》にて腕っぷしは証明してしまったが、一応俺は騎士団の人間であって、冒険者(こちら)初心者(・・・)だってことになっているのだから、その辺り本当気をつけないとな。



「サンキューミィエル。セツナも俺がやらかしそうなら止めてくれな」


「主様の叡智をご披露されないように、という事でしょうか?」


「そうだよ~。そうしないと~、カイルくんに~、変なのがい~っぱい~、まるで~、“グラト・ロ~カスト”のよ~に~、(たか)って~きます~からね~」


「……それは、嫌な例えね」



 物凄い嫌悪感を含んだ表情のリルと、例えが解らず「?」を浮かべるセツナがやけに対照的だ。ちなみに俺はと言えば苦笑いを浮かべるしかなかった。


 ――解析判定:成功。

 グラト・ローカスト(Lv2)とは、言ってしまえば(イナゴ)だ。ただサイズが日本人の知る蝗の数倍と言うだけで。奴らは群れを成してひたすらに餌を求めて徘徊し、発見し次第食い荒らしてはまた徘徊を繰り返す害虫だ。


 まさかこちらの世界でも軍勢を蝗に例えるとはなぁ。個人的にはスカラベよりマシな気もするけど。


 セツナは蝗の事は想像つかなかったようだが、ミィエルが耳元で説明した瞬間、瞼がなくなるほど目を見開き、神妙な面持ちで頷いてくれた。



「かしこまりました。セツナが必ず、主様を御守致します」


「……おう、頼むな」



 何やら大げさになっている気もするが、まぁ気にしないこととしよう。



「んじゃ、早速武器から見てみようか。売り場的に近いのは――」


「近接武器~の方が~、近いですね~」



 と言うわけでまずはウルコットのコーディネイトからすることにした。と言っても今扱える武器を適当に見繕うだけなのだが。

 そこでふと訊き忘れていたことを思い出す。



「そうだウルコット。俺に任せるってことだったけど、お前的には【ハルバード】のカテゴリーは“斧”か? それとも“槍”か?」


『どちらでもあるんじゃないのか?』



 そう。確かに【ハルバード】は〈カテゴリー:スピア〉であり〈カテゴリー:アックス〉でもある、複数の属性を持つ武器だ。この手の武器は【ハルバード】に限らず、〈サムライ〉が装備する【刀】も〈カテゴリー:ソード〉と〈カテゴリー:ブレード〉と複数の属性を持っている。

 この手の武器は威力値を決定するモーションに違いがあり、尚且つ〈ウェポンマスタリー〉系の〈アビリティ〉をどちらに寄せていくかで多少なりとも路線を変わってくる。【ハルバード】なら『振り』のモーションなのか、『突き』のモーションなのかで威力値に差が出てくるのだ。



「ウルコットとしてはどちらでもある(・・・・・・・)、なんだな? どちらが良いと言う希望もないか?」


『あ、あぁ』


「わかった。なら――セツナ。この2つのアイテムを、店員さんに訊いて持ってきてくれないか?」


「かしこまりました」



 俺はウルコットの返答を聞き、内心でほぼ固めていた方向で問題ないと判断し、セツナにとある装飾品を持ってきてもらう様に頼む。セツナの後ろ姿を見送った後、早速並べられた武器から【ハルバード】を、サブウェポンとして【アイアンスピア】、そして【ショートスピア】の3本を手に取る。



「ウルコット、お前は“斧”ではなく“槍”として特化した方向へ進むんだ」



 理由はいくつかあるが、最大の要因は必筋(STR)量の差にある。

 確かにウルコットはエルフにしては高いSTRを保持しているが、他の種族に比べれば決して高いとは言えない。さらに〈カテゴリー:アックス〉――つまり威力値を『振り』に傾倒させた場合、武器の重量が比例して重くなってしまい、とてもじゃないが実用レベルに至るまでの道のりが長くなってしまう。


 代わりに『突き』に傾倒させた形であれば、比べた場合必筋量は下げることが出来る為、安定する意味でも俺はこちらを推したいと考えている。



『武器はこんなに必要なのか?』


「メインとサブを複数持つのは勿論、用途に合わせた武器を持つのは当然だ。何のための【マジックバッグ】だと思う?」



 俺だって腰には常に剣を4本佩いているし、投擲用のナイフだって仕込んである。それに【雑囊(マジックポーチ)】には魔剣を含めた他の武器も揃えてある。

 TRPGの頃にはなかった“耐久度”がある以上、特に予備は持ち歩かなければならない。途中で武器が壊れて何もできなくなった、なんてことになったら話にならないのだから。



『……しかし所持金が――』


「そこは後程相談だ。まずはどれだけの物を持てばいいのか、把握してもらうことが必要なんだよ。それに――」



 まずは【アイアンスピア】を渡して様子を見る。【アイアンスピア】の必筋値は「15」のため問題なく持てるはずだ。

 事実、彼は受け取った【アイアンスピア】も造作もなく手に持てている。では次だ。

 今度は俺が片手で持ったいた【ハルバード】をそのままウルコットに渡す。【ハルバード】の必筋値は「20」。当然、



『重い……やはりまだ俺が扱うには重すぎる』


「だろうな。お前のSTRは「16」だからな。【ハルバード】の必筋値は「20」に到達してないんだ。当然武器に振り回されてロクに扱うことも出来ないだろうさ」



 ウルコットのSTRでは条件を満たしていないため、受け取った傍から両手で抱えながらもふらついてしまう。無理をすれば振れないことはないだろうが、ゴブリンにすら攻撃を当てられなくなるだろうと予想は付く。


 武器自体は必筋が足りなくても装備することは出来る。ただし移動は制限されるし、STRとの差が「2」の倍数毎(端数切り上げ)に命中・回避判定共に「-1」のペナルティが入る。

 ウルコットの場合はSTRが「4」点足りないため、命中と回避判定に「-2」のペナルティが生じるわけだ。


 それだけではなく、現実となった今ではスタミナ(STM)も存在するため、合わない武器や防具を使えば当然消費は激しくなるだろう。正直、受けるペナルティがTRPG時代よりも危険と言える。



「だからお前には――」


『いや、ちょっと待ってくれ。何でお前が俺のSTRを、そんな明確な数値で知ってるんだ?』



 俺の言葉に被せる形でウルコットが疑問を口にする。何でって、言われてもなぁ……



「……解析す(見れ)ばわかるだろう」


『は? いや……そう言うものなの、か?』

 


 弟の視線を向けられたリルは首を横に振り、ミィエルは少し困ったように眉尻を下げる。



「少なくとも私は他人のステータスを数値で見ることはできないわ」


「……え? じゃあどう見えてるんだ?」


「さっき見た通りに見えるわ。レベルは兎も角、ステータスはみんな【わかるくん】と同じ感じよ」



 「アイテムもね」と続けるリルに、唖然として口が塞がらなくなる。視線でミィエルに問いかければ、苦笑いのまま頷かれてしまう。



「解析で~、他人の~ステ~タスを~、数値として~見れる人は~少ないです~」


「……嘘だろ?」



 あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。じゃあ何か? 今世界では相手のステータスを正確に見抜くことが出来ないで戦闘に及んでいるという事か? 見れたとしても「18~23」なら「C」と表示されるだけだ、と。



「そりゃ不便すぎるだろ。ミィエルも同じなのか?」


「い~え~。ミィエルは~、マスタ~の指導(しど~)のおかげで~、ちゃ~んと見れますよ~」



 どうやら訓練次第でしっかりと数値データとして認識できるようになるらしい。なぜこのような形になっているのかは定かではないらしいのだが、一般的な認識はレベルやHP、MP、STMは数値で見れるが、他ステータスはランク表記になるとのこと。


 不便だなぁ。だから「レベルの数値こそが絶対」みたいに認識されるってことなのか? まぁいい。ミィエルは「訓練すれば認識できる」と教えてくれたのだ。フールー姉弟にも訓練を頑張ってもらおう。特に〈セージ〉持ちのリルは絶対だ。


 ちょっとした衝撃的事実を受け止めきると、丁度良くセツナが「主様!」と頼んだものを持ってきてくれた。



「お待たせしました!」


「ナイスタイミングだセツナ!」



 両手に抱えて持ってきてくれたセツナに礼を言って受け取ると、気を取り直してウルコットとリルに向けて「これは知ってるか?」と質問を投げかける。

 1つは魔石が埋め込まれた腕輪、もう1つは魔石と金属で細工された革製の指ぬきグローブだ。



『こっちは見たことがある。【ステータス強化の腕輪】だろ? グローブの方は知らないな』


「う~ん……腕輪は【剛腕の腕輪】ね。こっちのグローブは【パワードグローブ】よね?」



 ウルコットはアイテム自体は知っているが解析判定に失敗、〈セージ〉持ちのリルのみが2つのアイテムに対して正解を導き出したって所だろうか。



「正解だ。ちなみに効果は解るか?」


「私の目には【剛腕の腕輪】は『STRが強化される』で、【パワードグローブ】は『重い武器を持てるようになる』って見えるわ」



 成程……これは重傷だな。


 あまりにもざっくりな解答に、思わず溜息を吐きたくなる。しかしこれがこの世界での一般常識だと改めて受け入れて説明を開始する。



 【剛腕の腕輪】は腕部に装備することでSTRに「+2」の修正を与えてくれる、汎用性の高い装飾品だ。

 ステータスが成長したけど、判定値への修正を得られるまで後少し足りない、なんて時にとてつもなく役に立つ。ただしステータス強化系(この手の)アイテムは、市場で手に入るのは「+2」点まで。そして残念なことにステータス強化系は同じステータス分類に重複して効果を齎せないと言う制限もある。つまり、



「ウルコットのSTRと【ハルバード】の差は「4」点だ。この差はどうあがいてもこの強化系アイテムでは覆せない」



 実際に【剛腕の腕輪】を試着したウルコットが【ハルバード】を手に持つも、先程よりは軽く感じる、程度の差しか現れない。


 そこで登場するのがこの【パワードグローブ】なのである。

 【パワードグローブ】は両手に装備しなければならないため、腕の装飾枠2つを消費してしまう欠点はあるし、ステータスそのものに効果があるわけではない。しかし腕に装備する武器に限り、自分のSTRよりも必筋が「6」点上のものまでペナルティなしで装備可能となるのだ。



「今後のSTRの成長次第では【剛腕の腕輪】に変えてもらう予定だが、当分は【パワードグローブ(こいつ)】で慣らしてもらうぞ」


『……そんなに都合よく行くのか?』


「論より証拠だな。試してみると良い」



 【剛腕の腕輪】を外し、早速ウルコットに【パワードグローブ】を装備させる。そして改めて【ハルバード】を手渡す。



「どうだ?」


『……すげぇ。さっきみたいな重さを感じない』



 【ハルバード】を手に持ち、軽く振るっても体がふら付くこともない。問題なく装備できている。



「どうだ? これで問題なく目的である【ハルバード】を扱えるだろ?」


『あぁ! これなら何の問題もない!』



 嬉しそうに瞳を輝かせるウルコットに、最低限の武器は決まったと頷き、



「次はリルだな。弓矢のコーナーへ行こう」



 次はリルの主武器となる弓矢のコーナーへと足を向けた。


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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