第74話 オリジナル系は張り切るとやりすぎてしまう法則
久しぶりの連続投稿です。
「単なる興味なんだけど、カイルは何で〈フェンサー〉になったの?」
「あ、それ~。ミィエルも~詳しく~、訊きたいです~」
「セツナも伺いたいです、主様」
内心で、そんなことか、と思ったら思いのほか食いつきが良すぎて瞬きが増えてしまう。ウルコットまで無言で頷いている。
「その若さでこれだけの実力を手にする程努力をしたのでしょう? それだけ強い思い入れがあるのかな、と思って」
「【適正】だけじゃなさそうな気がして」と続けるリルに、鋭いような的外れなようななんとも言えない気持ちになる。
しっかし理由、ねぇ。大したことじゃないんだよなぁ……
「確か~、お師匠様は~、大反対~してたんですよね~?」
「おう、その通り。ミィエルとセツナには少し話をしたもんな」
実際俺が〈フェンサー〉を選んだ理由は簡単で、前提としてこのPCが出ているセッションに置いて、全PCが前衛職と言うコンセプトだったから。さらに他のPLが〈ファイター〉と〈グラップラー〉2人であったため、間をとって〈フェンサー〉を選び、且つやったことのない回避盾をやってみたいと思ったから。なにより回避盾構成は、〈ファイター〉よりも〈フェンサー〉の方が適性的に合っていたから――と言うのが理由である。
ただそれはあくまでPLとしてでの理由であり、PCとしてでの理由ではない。
「カイルくんの~先生は~、魔法職~だったんですよね~? という事は~、お父様が~〈フェンサ~〉だったんですか~?」
「いや……父親は〈ファイター〉で母親は〈グラップラー〉だったな。さらに言えば父親はガチガチに防御を固めた盾役だったな」
視線を天井に上げながら、そう言えばミィエルにはざっくりと魔法職を断って剣士になった、としか教えてなかったなと思い、設定をしっかりと思い出しながら言葉を続ける。
PLによりけりではあるが、俺は基本的にPCの設定はセッションやキャンペーン開始前にそこそこ考える質だ。家族構成は勿論の事、なぜこの技能を習得したのか、何を目指しているのか、好きな物と嫌いな物は何か、そして状況に応じてどう動くのか。これらをキャンペーン開始前に設定し、GMは勿論のこと、他PLにも公開している。その方がGMとしてもPCがどのように動くのか予想しやすいし、セッションのシナリオも組みやすくなるからだ。俺自身もPCの行動をブレさせないため、と言うのも理由にあるが。
セッションに追加された設定に関しては、別途追記する形で補っていた。それらを一つ一つ思い出しながら、話しても問題ない内容を語っていく。
カイルはランツェーベル家の一人息子だ。
ランツェーベル家は代々、とある御方を守護するべく存在する一族で、その歴史は長く1000年以上は〝彼女〟の守護者として仕え続けている。現在はカイルの両親が守護者として〝彼女〟の傍に仕えているが、見合う実力を手にしたならばカイルへと代替わりをすることとなっている。そのためカイルは日々体を鍛え続け、さらにさまざまな経験をすべく冒険者となった、と言うのが当初の設定だ。
当初の設定ではこれだけで、〝彼女〟も両親も登場する予定は全くなかったんだけど、セッションを重ねるうちに気づいたら〝彼女〟がキャンペーンのキーマンになってしまい、急いで両親の設定も考える羽目になってしまったんだっけな。
以前にも軽く思い出した設定を改めて明確にしていく。
〝彼女〟に仕える現守護者の父は、守護者に相応しい構成となっている。両手に盾を持ち、金属鎧で防御力を固めた〈ファイター〉の最上位職である〈ガーディアンナイト〉。さらにカイルが使う【流派】の一つである【双盾術】の師範であり、〈アビリティ〉に〈スキル〉も合わせれば「50」点程度の物理攻撃なら無傷で耐えられる防御能力を持つに至る。この状況で〈カバーリング〉などの他者を守るスキルを使い、ダメージをかばわれ続ければ物理ダメージを通すことなど全くできない。
戦闘系TRPGをやったことがあるGMならわかってくれると思うが、高すぎる防御力でこちらが用意したボスのダメージが一桁しか入らなかった時の絶望感。できることなら正直味わいたくないと思う。
身近な所で言うならば、今のカイルの1撃あたりの最大火力が「50」点前後なので、Lv13の近接職ですらこれをやられるとほぼダメージを与えることができない、と言えばイカれた数値なのが分かっていただけることだろう。まさに“鉄壁”の守護者というやつだ。
母親は”魔拳闘士”と呼ばれる、〈グラップラー〉と魔法職をメインとした、父親と対になるように主に火力役を担う構成のNPCだ。〈グラップラー〉の最上位職である〈ブラッディルイン〉を習得しており、「40」点台のダメージを〈貫通攻撃〉という〈アビリティ〉で防御力を無視して、且つ複数回の攻撃を可能としている高火力アタッカーである。つまり母親は父親の防御力ですら殴り殺せる火力役なのである。
どちらもPCとして作成できる範囲の構成であり、実際カイルの母親の弟子という設定にした友人PLのPCは、母親よりもさらに極悪な成長を遂げている。おかげでGMは敵のバランス調整に四苦八苦する羽目になったのだ。物理火力特化パーティー対策に防御力が高い敵を出しても、ほぼ意味をなさなくなってしまったのだから……
「ご両親は全くの別タイプなのね。ならどうして今のカイルになったの?」
話ながら思考が横道にそれ始めたのを、リルの質問で修正する。
「小さいの頃に街にある闘技場を見にいったらさ。丁度その時の試合が、その日限り復帰した伝説の冒険者の特別試合でな。その時見た冒険者の動きに柄にもなく憧れてさ。師匠には半端なく反対されたけどな」
「その所為で1年間口をきいていただけなかったんですよね」
「ははは! その通り、よく覚えてるねセツナ」
まぁその場面も俺が考えた〝彼女〟の性格ならそうなるだろうな、と設定したに過ぎないもので、実際に起こったのかはわからないわけだが……
なんせカイルとしての記憶があまりにも薄すぎて、俺が設定したものがどこまでこの世界と通じているのかがわからないのだから。まぁカイルの過去を知る人物はこの場にいないのだから、なんとでもなるのだけどね。
「カイルが憧れるって、相当凄い人だったのね」
「そうだな~。今の俺でも敵わないだろうな~」
なんせカイルが憧れている冒険者というのは、前キャンペーンでの最強NPCの1人なのだから。ただ当然の如く、カイルと戦闘スタイルは全く異なるわけだけど。
「どんな~人なんですか~?」とミィエルの問いに、彼女を見ながらなんて説明しようかを考える。
「戦闘スタイルとしてはミィエルに近いかな」
「ふぇっ!?」
「ミィちゃんに、ですか?」
「あぁ。ミィエル程じゃないけど、小柄な女性でね。踊るように高い回避力で相手を翻弄し、的確な攻撃で確実に相手を仕留める姿から、“剣舞の姫”って呼ばれてたのさ」
当時のステータスで鑑みてもカイルの回避力よりも数段上。且つ今では当たり前で人気の上位職だが、当時は存在しなかった〈フェンサー〉の上位職――〈サムライ〉。この職業のみが習得できる〈後の先〉と言う剣士版のカウンタースキルをも使いこなし、さらには彼女が持つ【魔剣】の効果で魔法すらも回避してのけた。
まさに「〈フェンサー〉系統でやれたら最強だよね!」を詰め込みに詰め込まれた漫画の世界のような存在なのだ。
通例として1つのキャンペーンで俺が必ず1人は登場させる“ぶっこわれNPC”。
カイルの両親もそうだが、基本的に敵対した場合にPC達が倒せるように設定されているNPC達と違い、倒せるかどうかすらわからない強さに設定されたNPC。その栄えたる一番最初の存在。それこそがカイルが憧れた冒険者なのである。
いや~、まだTRPGを初めて間もないころだったから、加減もわからなくってね。コンセプトとしては、RPG物のやりこみ要素で出てくる裏ボス的な物だったから、思いっきり「やれたらいいな」を詰め込みまくったんだよな。さらに俺が好きなゲームのキャラクターをイメージしてしまった結果、キャラクターへの思い入れも相まって性能が明らかに“ぶっこわれ”てしまったのだ。簡単に言えばあれだ――「僕が考えた最強の〈フェンサー〉」って奴だ。
いや~本当若かったなぁ……いろんな意味で。
初のオリジナルNPCで、コンセプトとイメージからして間違えていたため、GMによっては黒歴史とも言えるだろうなぁ。俺は全く後悔してないけど。
一応弁明しておくけど、セッションに登場したところで、当然PCたちの活躍を奪うようなことはなかったよ? そこは初めてだろうとも弁えてたよ? ただ、隠し要素として設定していたこのキャラクターの“体質”でPL1人が「勘弁してくれ!」と悲鳴を上げちゃったのは、まぁご愛敬かな。でもあれは何度も忠告を無視して関わったPLが悪いと思う。うん。
懐かしい記憶に思わず思い出し笑いをしそうになるのを堪えつつ、カイルとして知り得ている憧れの人の情報を掻い摘んで話せば、リルから「それって本当に人間なの?」と呆れられてしまった。
「はぇ~。カイルくんの~、周りには~、凄い人~ばかりですね~」
「そうだな」とミィエルの言葉に素直に頷く。
テレビゲームのRPGよろしく、重要なNPCは自然とPCの成長に合わせたレベルには設定される。それでも最終的にはPC達が最上位になっていくのだが――カイルが登場している今回のキャンペーンでは、過去キャンペーンのPCもNPCも割と出てきていた。当然“英雄”と呼ばれるような功績を残してきた過去PC達だし、どのキャンペーンでも割とLv15付近までセッションを重ねたので、現PC達よりも強かった。
そう考えると、カイルたちが拠点としていた都市は魔境に近かったなと思う。過去PCの登場を許した時点で、仕方のない状態と言えばそれまでなんだけども。
『話を聞くだけでも物凄い人なのは解るが、今のお前でも敵わないのか?』
「ん~……無理無理。100%敵わない」
無茶言うなよ、と苦笑いで即答する。ゲームのラスボスより強い裏ボスに単独で挑んで勝てるわけないでしょうに。
「さすがは主様が憧れる人ですね! セツナもお会いしてみたいです!」
「そうだな。アルステイル大陸に渡れたら、会いに行ってみるのもいいな」
「はい! 是非!」
瞳を輝かせて頷くセツナに、俺の頬も緩む。そのまま流れるように頭を撫でる。
むしろ存在しているのなら“生みの親”として俺の方が会いたいと思っているのを隠しながら。可能であれば、過去キャンペーンも含めて登場した人物全てに。まぁ問題としては、会えたら感動のあまり泣いてしまうかもしれんことだが。
「なら私達もそれまでには足手纏いから卒業しないといけないわね。カイルの故郷は何となく、とんでもないところのの様な気がするもの」
おいコラ待て、と言いたいところだが、今しがた自分でも魔境だと思ったから言葉にすることはできない。ただ理由はどうあれリルが強くなってくれるのは大歓迎だ。と言うか迷うことなく別大陸までついてくるんだな。
「んじゃ、まぁ説明は一通り終わったし、俺の考えも纏まったから本題の買い物と洒落込もうか」
「そ~ですね~」
「では片付けとお会計を済ませてまいります」
いい加減横道に逸れ過ぎたしな、と腰を上げれば、セツナが全員分のカップを手早く片付け、その足で支払いまで済ませてくれた。本当、良く出来た娘だよセツナは。
そうして思ったよりも長いしてしまった喫茶店から足を運び、
「今日~、紹介するのは~、ここです~!」
ミィエルに案内された店は、今まで紹介してくれた店とはまた別の店――初心者から中級者までの必需品を一手に扱う冒険者ギルド直営店“アドベントストア”だった。
いつもご拝読いただきありがとうございます!
私はTRPGを始めた頃、オリジナルのアイテムを作っては想定以上にバランスブレイクしたことは何度もあります。と言うか今でもあります。
オリジナル要素を基本的に入れない、公式オンリータイプでセッションを回すのも好きですが、なんだかんだ言ってPLの要望を聞いたり、やらせてみたいことを含めたオリジナル要素を追加するのが、私は好きですね。ボスに至っては2セッションに1回ぐらいの割合でオリジナル要素が入ります。その方が愛着も湧くので。バランスミスった時は冷や汗ものですが……
次回も早めの投稿を心がけます。
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