第73話 カイル先生の技能職講習:ファイター編
やっとPCが治りました。携帯で書こうと思いましたが、あまりにもつらくて素直にPCまで待つことになりました。
「シンプル、ですか?」
セツナの疑問に俺は頷くと、「より分かりやすく言えば」と回答する。
「“紅蓮の壊王”のガウディをイメージしてくれれば良い」
俺の答えにセツナは一瞬眉を顰め、ミィエルは苦笑いをしながらも「確かに~」と頷いてくれる。ミィエルや俺への態度は置いといて、ガウディは〈ファイター〉系の1つの見本だ。
LOFでの〈ファイター〉系統、その役目は火力役か盾役だ。
回避を犠牲にする代わりに1撃の攻撃力でもって敵を叩き潰したり、高い筋力から重たい金属鎧と大楯を用いた高い防御力と高い耐久力で味方を守る。まさにパーティーの要を担う役目が多いのが特徴とも言える。
「〈フェンサー〉や〈グラップラー〉と違い、基本的に〈ファイター〉系統は、上位職になろうとも攻撃力に注力するか、防御力に注力するかに分かれるんだ」
「どちらもバランス良く、とはならないの?」
「ならないことはない。と言うよりも、〈ファイター〉は単体で見れば、装備の制限が他の職より少ない都合、装備次第で自然と前衛として高い水準を保ちやすいんだ」
〈フェンサー〉は持てる装備の重量に筋力の値に応じた制限が生じる為、重い装備は基本することができない。さらに〈剣士〉であるため、上位職は〈カテゴリー:ソード〉以外ではペナルティが発生することがある。
〈グラップラー〉はその名の通り武闘家のため、武器は拳か蹴りと己の身体だ。専用装備または無手でなければ技能修正も得られず、防具も身軽な軽装のみ。鎧なんて着た日には回避判定すらろくに出来なくなる。
しかし、〈ファイター〉にはそんな制限なんてない。数ある装備の中から、その時に合ったものを選べるほどに自由なのだ。だから自然と攻撃主体にしようとも防具次第では高い防御力を誇れるし、防御主体になっても必要筋力が高い武器を装備すればそこそこの火力を出せてしまう。ぶっちゃけ、装備の大半は〈ファイター〉の為にあると言っても良い。
それらも相まって、何も考えなくてもパーティーに貢献できる〈ファイター〉は、近接職業の中でもずば抜けて扱いやすいのだ。LOFでも初心者はまず〈ファイター〉から入ることをオススメされるぐらいに。
俺の説明に成程と頷くリル達に、「ただし」と良いことばかりではないと言葉を続ける。
「それらはあくまでステータスや装備での話だ。〈ファイター〉は他近接職よりも選択肢が広い。だからこそ重要なのは〈スキル〉や〈アビリティ〉であり、何をどう習得していくかにかかっている。なんせ攻撃型と防御型では、習得するべき〈スキル〉も〈アビリティ〉も全く異なってくるからだ」
〈シューター〉であれば〈ウェポンマスタリー〉系統を除けば、覚えるべき〈スキル〉や〈アビリティ〉はどのタイプを選んでも変わらない。リルに関して言えば、途中で【適正】が高い〈フェアリーテイマー〉へシフトしたとしても問題はない。必要になる〈アビリティ〉は魔法職と共通のものもあるし、何より〈スキル〉や〈アビリティ〉の習得枠に関しては、わりと余裕があるからだ。
しかし〈ファイター〉は装備の自由度が高い代わりに、必要となる〈スキル〉や〈アビリティ〉に遊びを作る余裕が割とない。
火力特化にするのであれば扱う武器に合わせた〈アビリティ〉や〈スキル〉選びが必要になる。例えば現在ウルコットが習得している〈全力攻撃Ⅰ〉はあと3段階の成長を残しているが、3段階目からは両手武器でなければ扱うことはできない。同様に近接範囲攻撃スキルである〈薙ぎ払いⅠ〉も両手武器でなければ使えない。
火力1つとっても、俺が使う〈魔力攻撃Ⅰ〉の方が最終的に火力が上がる可能性もあるし、片手武器の〈二刀流〉の方が単体相手なら手数の分火力が上昇する。
当然習得枠には限りがあるため、どれもこれも選ぶことはできない。自分が目指す最終着地点を見極めたうえで覚えていなかければ、決して辿り着けなくなってしまうのだ。
これは防御特化にも言えることだ。こちらに向かうなら、攻撃スキルなんて取ってる余裕はほぼない。上位職も含めれば、さらに計画的に習得計画を立てないといけなくなるレベルで間違えられない。
俺は説明をさらに続けながら、〈ファイター〉が目指す系統ごとに必要となる〈スキル〉と〈アビリティ〉を羊皮紙に書き出しながら、改めてウルコットが【ハルバード】に拘る理由を尋ねる。
「これらを踏まえた上での確認なんだが、ウルコットは何で【ハルバード】に拘るんだ? 両手武器なら他にも色々あるだろ?」
俺の問いにウルコットは指で頬を掻きながら、『単純に親父に憧れているだけだ』と告白する。
「ふむ、親父さんが【ハルバード】使いなんだな。どんな戦い方をしていたとかわかるか?」
『親父は金属鎧を纏って、重い一撃で叩き伏せたり、襲い来る狼複数を薙ぎ払ったりしていた。〈全力攻撃〉のスキルも親父に教わった』
「そう言えばご両親は元冒険者って言ってたな。目指すスタイルはやっぱり父親と同じか?」
親父さんの冒険者レベルまでは想像つかないが、凡そのスキル構成は把握できた。だから俺はそのスタイルで進むのか、と尋ねれば、ウルコットは一度首を横に振り俺を射抜くような瞳で告げる。
『親父を超える戦士になりたい。いずれは姉さんだけでなく、村の皆も守れるような戦士に』
声量は決して大きくはない。だが力強く告げられた言葉と瞳に宿る炎が、「もう二度と、あんな思いはしたくない」と言う絶対の意思をのせている。その炎が真偽判定をするまでもなく、彼の言葉が偽り出ないことを示していた。
『そのためなら、なんだってやってみせる!』
「……俺の求める基準は高いぞ?」
『望むところだ』
力強く頷くウルコットに思わず俺の口角も上がる。いいねぇ、こういう熱いのは嫌いじゃない!
「なら、お前には【ハルバード】を扱ったら、ビェーラリア大陸において右に出るものはいないレベルになってもらうぞ。つまり、ガウディ程度で満足してもらっちゃ困るぜ?」
にっと力強く笑えば、一度肩をびくつかせるがウルコットも決意を込めて頷く。その様子にリルは呆れたように「男の子ねぇ」と笑い、ウルコットの言葉をミィエルに通訳してもらっていたセツナは、「頑張ってください」と声援を送る。
頬を染めてどもりながらも返事をするウルコットに、将来的に『セツナをください』なんて言われたらどう料理しようかと思いながら、彼らの申し出に感謝もしていた。
実際、俺自身の成長方法はこの世界では異端だ。なんせステータスから直接レベルを上げることができるのだから。規定レベルさえ到達すれば対応する魔法だって学ばずに使えてしまう。
だがこの世界の住人は違う。レベルを上げるにも“ターミナル”を必要とし、成長も本人の意図とは違う可能性がある。
しかし2人の育成を俺の指示で決められるのであれば、この世界でどのように成長できるのか、俺の意図とどれ程差異がでるのかを確認することができるのだから。
〈スキル〉や〈アビリティ〉の習得にしたって、ウルコットは「親父に〈全力攻撃〉を教えてもらった」と言っていたことから、修練を重ねることによって得られるものだと予想できる。そしてそれらがもし、俺にも適用されるなら――
……まぁこの辺りは検証が終わるまで皮算用でしかないんだけどね。
どちらにしろ渡りに船な提案だったし、本人のやる気もあるのだから、しっかりと育成計画を立てさせてもらうとしよう。現在覚えているスキルも含め、彼の防御型成長を全て破棄。予定通り火力型で頭を回す。
さて、ここでウルコットのステータスを振り返ってみる。
名:ウルコット・フールー 67歳 種族:エルフ 性別:男 Lv2
DEX:20 AGI:19 STR:16 VIT:14 INT:18 MEN:19
LRES:4 RES:5 HP:20/20 MP:19/19 STM:87/100
〈技能〉
冒険者Lv2
《メイン技能》
ファイターLv2
シューターLv2
《サブ技能》
スカウトLv1
レンジャーLv1
《一般技能》
ガードLv2
【取得スキル】
〈全力攻撃Ⅰ〉
ステータスは及第点。両手武器である【ハルバード】を振り回すにはSTRが心許ないが、この辺りは装飾品等で何とかなる。つまり扱いたい武器を使えるようにするのは難しい事じゃない。
両手武器がメインとなるから〈全力攻撃Ⅰ〉も問題なく活用できる。将来的にパーティーでは俺が盾役を担うが、現状ランクが上がるまではウルコットが盾役もこなさないといけない。低ランクの任務次第だが、セツナとリルの3人パーティーから考えて彼には嫌でも金属鎧を装備してもらおう。高めのAGIを活かしたいところだが、回復役がいないうえ、スキルで回避判定にペナルティーが発生するため相性が悪い。金属鎧に慣れてもらう意味でもこれしかないだろう。俺と組めるようになったなら、攻撃力補正があり且つ回避判定にペナルティが掛からない革鎧に変えてもらうとする。
後は折角Lv2まで育っている〈シューター〉も活かしたい。となるとサブ武器として【弩】か【銃】を持たせておこう。それによって〈シューター〉が成長してしまうかも確認できるし、元々〈ファイター〉と〈シューター〉は相性が良いため、〈シューター〉が成長してしまったとしても、問題どころか利点しかない。まずはこれで良いだろう。
先々パーティー構成で考えてもウルコットに遠距離攻撃手段があるのは都合が良いしね。正直、どんな盾役でも範囲攻撃から仲間を守り切るのは難しい。その場合、遠距離でポツンと仕事なしで佇まれるよりは、本職よりは火力が下がったとしても、遠距離攻撃手段は彼にも確保してもらいたい。
盾役は俺、近距離火力役はミィエル、近・中距離火力をウルコット、支援&補助火力にリル。今でこそ前衛に据えているが、〈能力換装〉で役割を変更することもできるセツナを自由枠に置いておくって所が理想だろうか。
うん、これが良さそうだな。全距離戦士もバランス良く強かったし、今の技能職を活かす意味でも彼にはこの方向で成長を目指してみ――いや、待てよ?
ここでウルコットの【適正】を思い出す。確かこいつは〈バード〉が「A」適正だったよな? と。
……狙えるか? 狙ってみるか? 存在自体はネタとしか思えないが、実際に暴れられると存外に強い、〈バード〉と〈ファイター〉の組み合わせを。デバフと剣舞で戦場を駆ける、通称“偶像戦士”を――
「主様?」
「カイルく~ん! 戻って~きてくだい~!」
「――ん?」
ゆさゆさと肩を揺さぶられて顔を上げれば、苦笑いを浮かべたミィエルと笑顔で覗き込んでいるセツナが映った。
「や~っと反応して~、くれました~」
「くつくつ笑いながら自分の世界に入るんだもの。ちょっと怖かったわよ」
「……それは、失礼」
「でも主様、楽しそうでした」
どうやら育成計画に意識を傾けすぎたらしい。まぁ実際どう成長させていくか、考えるだけで楽しくなってしまったのは事実だ。TRPGの中でもキャラクターの成長が多いLOFならではの楽しみでもある。だが確かにいきなり己の世界に没入してしまったのは失敗だった。謝罪を述べ、今までの説明で質問が無いかを確認すると、「いいかしら?」とリルから質問の手が上がった。
「おう、なんだ?」
「単なる興味なんだけど、カイルは何で〈フェンサー〉になったの?」
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