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第71話 カイル先生の技能職講習:シューター編Ⅰ

 しばらくしてフールー姉弟は恙なく引っ越し作業を終えることができた。なので早速2人とセツナ、案内役のミィエルを連れてそれぞれの買い出しをすることとなった。


 【わかるくん】が齎した【適正】評価に関しては、個人的にある仮説をはじき出すことは出来たのだが、現状検証しようもないので放置である。アーリアとしても面白い結果ではあったが、所詮は俺個人のことであるため、研究する物がなくなったら考えてみよう程度に落ち着いていた。アーリア曰く、



評価オールB(これ)の原因や要員がわかることで、個々人の【適性】を飛躍的に伸ばせる――とかなれば、話は変わってくるのかもしれないけれど。現状はあんたの子種からは優秀な子が出来そうね、ってだけだものね。良かったわね」



 とのこと。その「良かったわね」の後に「あんたは優秀な種馬になれるわよ?」と続く台詞が聞こえた気がしたのは、果たして俺の心が汚れているせいなのか……取り合えず考えないこととした。



「まずは~、武具店で~、い~ですか~?」



 先導するミィエルに俺は頷き、歩きながら確認できることはしてしまおうと、リルとウルコットに質問を投げかける。



「まず2人に希望する武器を訊いておきたいんだが、何が希望なんだ?」


「私はいつも通り【弓】よ?」


『俺は将来的には【ハルバード】を使えるようになろうとは思っている』


「ふむ。ならリルには【弓】をメインに添えた今後を一旦考えてみるか。ウルコットは希望通り【ハルバード】を扱えるようにするか」



 2人の希望を聞いて、武器を見なくとも決めることが出来るリルの方から考えていく。



「まずはリルの方向性だな。リルは技能職についてはどれぐらい知ってるだ?」


「残念ながらほとんど知らないわ。一応腕を磨けば〈アーチャー〉になれることぐらいかしら?」


「ふむ。ちなみにウルコットはどうだ?」


『俺も〈ファイター〉が【ハルバード】を扱うのに一番優れている、程度しか』



 マジか。いくらなんでも情報弱者過ぎないか?

 って思ったけど、思えば普通に暮らす分には必要ないと言えばない知識なのかもな。世界観的にも、神様同士で陣取り合戦をしてるとは言え、「戦って奪え!」と言うような命令が下されているわけではなかったはずだし。Lv5を超えた実力を手に入れようとか、実際目指して手に出来る人間なんて、それこそ一握りなのかもしれん。

 そう考えれば、技能職の情報なんて調べようとも思わないのかもしれないな。



「オーケー。ならリルが今習得している〈シューター〉について説明するか。その後戦い方(スタイル)を伝えていくから、自分に出来そうなのを選ぶこととしようか」


「えぇ。お願い」



 頷くリルに俺はTRPGの知識を思い出しながら、ゆっくりと説明を開始する。



「じゃあまずは〈シューター〉が扱える武器カテゴリーから確認してみようか」



 俺は1つカテゴリーを紹介するたびに指を立てながら、リルとウルコット、さらには興味津々な表情を浮かべるセツナに解るように口を動かしていく。

 まず〈シューター〉技能を参照する武器は以下のものがあげられる。




 1つ目は〈カテゴリー:ボウ〉――【短弓】や【長弓】、【複合弓】などの弓。


 2つ目は〈カテゴリー:スロー〉――【投げナイフ】や【ボーラ】、【チャクラム】などの投擲武器。ちなみにとある有名海賊漫画のクルーが使う【スリングショット(パチンコ)】のカテゴリーもここだ。


 3つ目となるのが〈カテゴリー:クロスボウ〉――引き金を用いた機械式の弓である【(いしゆみ)】。


 そしてラスト4つ目が〈カテゴリー:ガン〉――火薬により弾丸を発射する【銃】だ。




 カテゴリー上では以上の4分類を扱うことが可能となる。派生先である上位職も、扱えるカテゴリーは〈シューター〉と変わることはない。ただし、それぞれによって得意とする武器が異なってくるのだ。なので主体とする武器カテゴリーによって、どれに進むべきかを決めていく必要がある。



「ここまではいいか?」


「【銃】ってあの大きな音がする武器よね? 今の私でも扱えるの?」


「扱えないことはないぜ? ただ必要となる筋力(STR)がある程度無いといけないから、リルが目指すとなるとまずそこの底上げが必要になるね」



 リルの現在のSTRは「8」。エルフとしては平均的だが、【銃】を扱うには足りないため、装飾品でSTRを水増ししてようやく扱えるレベルだろうな。ウルコットぐらいのSTRがあれば何の問題もないんだけども。



「はいは~い! ミィエルも~、質問が~ありま~す!」



 先頭を歩いていたミィエルがくるりとスカートを翻しながら振り返り、元気よく手を上げる。その姿が微笑ましすぎて街の人々から暖かな視線が送られてくる。気にしない様に努めていたが、やっぱり目立つよね俺達。まぁいいや。



「何かね生徒ミィエル君」


「【(じゅ~)】を~扱うのに~、〈マシナリ~〉は~、必要(ひつよ~)ないんですか~? ミィエルは~、必須って~、扱ってた人に~言われたこと~、ありますよ~?」


「あぁ、そのことか」



 ミィエルの質問にTRPG時代でもよく言われていた内容だな、と懐かしく感じる。実際、【銃】をメインにするのであれば凡その人が〈マシナリー〉も併用して習得していたのは事実だったからな。ただ、



「結論から言えば『必須ではない』よ。〈カテゴリー:ガン〉をメインで使うのなら、必要なのは〈シューター〉だけと言ってもいい」


「なら~、なんで~扱う人達は~、〈マシナリ~〉を習得(しゅ~とく)するんですか~?」


「〈マシナリー〉にある〈バレット・クリエイト〉で弾丸の補充ができるのと、【銃】のメンテナンスも自分でできるから、セットで習得することをオススメされてるんだよ。でもそれ以上に、〈マシナリー〉技能は上位職である〈マギガンナー〉へ派生するために必要となるんだ。だから習得必須、なんて言ってるんじゃないかな?」



 火薬を用いた弾丸で物理ダメージを、魔力を用いた弾丸で魔法ダメージを発生させる上位技能職〈マギガンナー〉は、前提条件として〈ガンナー〉と〈マシナリー〉レベルが5である必要があるのだ。最上位技能職でない上位技能職なのに、同等の〈ガンナー〉がLv5であることが前提と言う特殊条件が課されている〈マギガンナー〉だが、なぜこんな形になっているかと言えば、基本ルールブックではなく、追加データ集(サプリメント)によって追加された新要素の1つだからだ。

 

 本来TRPGは基本ルールブックさえあれば遊ぶことが出来る。その基本ルールブックにはない要素を、後程追加することでゲーム性を広げていくのがサプリメントの役割と言うわけだ。

 サプリメントが出るたびにやれることや、公式による特殊アイテムが増えていったので長くLOFを楽しめる反面、そのたびにサプリメント購入代金が嵩んで、振り返れば大層な金額をつぎ込んでいた、と言うのはTRPGプレイヤーにはあるある話である。


 思わず思考が過去購入したサプリメントの総額に傾きそうになるところを、「〈マギガンナー〉?」と首を傾げるリルの声に引き留められる。



「あー、知らないか。〈マギガンナー〉って言うのは、本来物理ダメージである【銃】の弾丸を、魔力を用いて生成することによって、範囲攻撃にしたり魔法ダメージにすることが出来る上位職のことだ。技能習得するための前提条件として〈ガンナー〉と〈マシナリー〉がLv5でなければならないうえ、あくまで上位職(・・・)であるため冒険者レベルは10で止まってしまうのが難点だが、正直エグいぐらいに強力な技能職だよ」



 ただでさえ長い射程と高い火力を持つ【銃】の攻撃範囲を広げるだけでもヤバいのに、物理ダメージではなく魔法ダメージへ変換することで被攻撃者の防御力を完全に無視したダメージを叩きだせるようになる。しかも二丁拳銃にすれば1ターンにできる攻撃回数も増えるため、簡単に魔法職のお株を奪ってしまうダメージを叩きだせてしまったりするのだ。

 幅広い射程に物理・魔法の両面ダメージも出せ、二丁拳銃なんて絵面的にも格好良い〈マギガンナー〉は、まさに中二病御用達の技能職だったりする。 


 あぁ、懐かしいな。トリガーハッピーパーティーを作ろうってコンセプトのセッションで、〈マギガンナー〉が追加されて全員が習得したその日。セッションのボスがPCに近づけることもなく射殺されたんだっけなぁ。いやぁ、わりとヤバい技能だよなーって思ってたんだけど、実際殺られた時はマジで開いた口が塞がらなかったもんなー。



「興味あるなら目指してみるか?」


「……まるでLv10ぐらいは簡単になれる、みたいに言うわね」


「簡単ではないだろうけど、多分俺とパーティーを組むなら自然となると思うぞ」



 まぁこの世界のレベル成長が一体どんな感じなのかをまず把握する必要はあるけども。【適正】なんてTRPGになかったしな。正直俺とパーティー組んだら、同じようにステータスから必要な技能職のレベルを上げられるようになったりしてくれないかなぁ?


 俺の話を聞いてリルは少し悩んだ後、「現状は慣れた【弓】でお願い」と答えを出す。



「ただ試さずに結論は出したくないの。だから試せる機会があれば【銃】も試してみたいわ」



俺は「オーケー」と頷き、「なら余計に知識をつけなければな」と話を続ける。



「では〈シューター〉の上位職について話していくぞ。〈シューター〉の方向性は、大きく分けて3つに分岐しているんだ。1つはオーソドックスなタイプで、幅広い対応が可能な〈アーチャー〉。2つ目は長距離からの強力な一撃を重視した〈スナイパー〉。そして3つ目は先程話に出た【銃】や【弩】をメインに据える〈ガンナー〉。この3つに派生していくことになるわけだ」



 〈カテゴリー:ボウ〉を使う上でオーソドックスな上位職と言えるのが〈アーチャー〉だ。【短弓】でも【長弓】でも扱いは変わらず、状況に応じて使い分けていくスタイルで、俗に言う正統進化とも言える派生だ。


 〈スナイパー〉は長射程からの強力な一撃を狙う派生系で、射程距離により判定値に補正がかかる特化型の〈アーチャー〉とも言える。ただし〈アーチャー〉より防御面での性能が極端に低くなるデメリットもある。


 そして先程でもちらっと話に出た〈ガンナー〉は少々特殊で、高い固定ダメージを主体とした【クロスボウ】や【ガン】を用いる少々特殊な派生となる。



「ちなみにどの派生先に進んでも〈シューター〉で扱える武器を扱うことはできる。だが、それぞれが得意とする武器が異なってくるため、そのあたりの知識があるのとないのとでは将来的に大きな差(・・・・・・・・)が生まれるわけだ」


「カイルの言う通りね。カイルに教えてもらわなきゃ、私に〈ガンナー〉の道はなかったわけだし」


『姉さんが重くて持てないから、と言って【短弓】ばかり使用していたら、〈スナイパー〉の道も絶たれていた(・・・・・・)ってことか』



 神妙に頷く2人に、俺は内心で道が絶たれるかはわからんけどな、と苦笑いを浮かべる。



 LOFの世界では【短弓】と【長弓】の違いは、射程距離と威力、扱える矢の種類が異なっている点があげられる。当然射程距離は【短弓】の方が短く、凡そ30mまで。【長弓】なら50mまでとなり、一撃当たりの威力も大きければ倍以上の差が出てくる。

 一応扱うキャラクターのSTRや使用する矢によって、射程も威力もいくらか上下もするが、凡そ基礎となる飛距離さえ覚えておけば大した問題ではなかった。〈シューター〉時代は【短弓】メインだったが、上位職で〈スナイパー〉を選んでから【長弓】へ変更した、と言うのもTRPGの時は可能だったからだ。


 しかし現実となった今では、その考えは俺自身を除いて(・・・・・・・)捨てた方が良いと思っている。


 理由は簡単で、この世界の人は技能成長に“ターミナル”を用いているからだ。


 “ターミナル”を使用してでの技能成長などを見る限り、使用している武器によって派生する上位職が左右される可能性は高いと思われる。現にミィエルの成長だって、本人が望んで割り振った感じはなかった。故にウルコットの言葉は間違いではないと言える。


 可能なら、その辺も2人が上位職になる前には解明しときたいところなんだけどな。


 本当なら偉そうに講釈を垂れることが出来る立場ではないよなぁ、と自分自身で突っ込みながらも、知識としては間違ってないわけだし、と言い訳をしながら言葉を続ける。



「では将来得意となる武器が分かった所で、目指すべき戦闘スタイルは何かを考えていこうか」


話を進めたいとは思っているんです。本当ですよ?


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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