第70話 何やら王国最強と同レベルらしい
間隔が空き、申し訳ありません。
自分に下された結果から、やっぱりこれはステータスから算出される能力値を元にした評価なのだと確信した。
LOFではそれぞれの判定を行う際に、対応する技能レベルとステータスを元に基準値が算出されるわけだが、ステータス数値をそのまま計算式に取り込むわけではない。
では能力値はどのように求められるかと言えば、ステータス数値に「6」の倍数による切り捨てによって求められる。俺の場合はDEXが装飾品による能力上昇も含めて「48」となるため、能力値は「8」となる。同様にAGIであれば「45」のため、端数を切り捨ててでの「7」となるわけだ。
一応余談ではあるが、ハウスルールにてこの能力値の算出方法を変えている卓も存在する。俗に言う「ハードモード」と言うもので、能力値算出の倍数を変更することで能力値を下げさせる手法だ。こうすることで装備制限を緩くする代わりに、それぞれの判定達成値を低くする事で、目標値を青天井に上げないと言う遊び方だ。GMとしては敵の強さや各判定の目標値を設定しやすいため管理しやすいが、PCの成長を実感しづらいと言うデメリットもあった。しかし長いキャンペーンを行う卓ほど好まれて使われていたハウスルールだ。
うちはわりと長いキャンペーンになることは多かったが、このルールを採用することはなかったなぁ。やっぱり目に見えた成長あった方が好みなプレイヤーが多かったからな。おかげでGMは調整が大変だったけども。
さて、【わかるくん】の評価へと話を戻すわけだが、リルとウルコットの評価状況からみて、8段階評価である「EX」~「G」は、「8」~「0」に対応していると考えられる。この時俺のステータスを確認すれば、DEXの評価は「S」となっているため合わなくなるが、俺の能力値「8」はあくまで装飾品による上昇値を含めた場合である。それを抜いた場合は「S」となるため、本人の素のステータスを感知していると俺は睨んでいる。そう考えれば、全て辻褄が合うからだ。
まぁこんな予測なんてしなくても、後でアーリアに訊けば万事解決なんだけどもね! さて――
俺は【わかるくん】から手を放し、改めて視線をリルとウルコットへ向けて、にやりと笑う。
「ちょっとは驚いてくれたかな?」
「……えぇ。驚いたわ」
『驚いた所じゃない! お前、“絶剣の獅子”と同等の力量じゃないか!?』
「誰だそいつ?」
『なっ!?』
身を乗り出すように声を上げるウルコットに、思わず眉をひそめてしまう。ったく、いきなり興奮しないでもらいたいものだ。
『……知らないのか?』
「知らん」
「カイルはこの大陸の生まれじゃないのよ――って、そう言えばウルコットには教えてなかったかしら?」
「リルから言っていないのであれば、知らないだろうね。村にいる間は俺に対して敵対心バリバリだったからな」
『……それは、すまなかったと思っている』
頭を下げるウルコットに、別に怒っているわけでも根に持っているわけでもない、と伝える。実際、同じ立場であれば警戒はしていただろうからな。
「それで、そのゼッケン・ノ・シシって有名人なのか?」
「“絶剣の獅子”よ、カイル君。ここクォーラル地方の中心でもあるハーベスター王国。その国王を守る二柱の守護騎士が1人――“王の剣”であるガーラディア伯爵のことよ」
どうやら名前ではなく“二つ名”のことだったらしい。
アーリアの説明曰く、このクォーラル地方を治めているハーベスター国王には2人の守護騎士がおり、敵を殲滅することを生業としている者を“王の剣”、いかなる攻撃からも国王を守り切る者を“王の盾”と呼称しているらしい。
そして“絶剣の獅子”ことガーラディア伯爵は、前者の役割を担っている騎士であり、その力量はハーベスター王国最強と言われているLv13なのだとか。ちなみに“王の盾”さんはLv12なんだそうだ。
つまり俺は王国最強と肩を並べる実力者と言うことになる。
いやー、レベルを隠して本当に良かったなぁ!
「感謝しなさいよ、カイル君」
「心より感謝いたしますアーリア様」
「よろしい」
仰々しく頭を下げる俺に、満足げに頷くアーリアなんて茶番が繰り広げられ、リルは呆れたように溜息を吐く。
「カイル、私たちに話しちゃってよかったの? Lv13って冒険者ギルドにも隠していることなんでしょう?」
「構わないさ。これから行動を共にする以上知っておいてもらわないと逆に困る――と言うか、まず俺の発言を疑わないのか? さらっと王国最強と同レベルですって言ってるんだぞ?」
「疑うどころか、妙に納得出来ちゃったのよ。あの《決闘》を見た時から、むしろLv9であること自体が疑わしかったぐらいよ」
「えー? そうか? Lv10と9の差なんて、ほぼ数字通りの差しかねーぞ?」
「そう思ってるのはカイルだけだと思うわ……」
呆れた視線を向けるリルに、俺は不服だと表情を隠すことなく告げる。いやまぁ、実際のところはLv9からLv10になるための経験点を考えれば、ステータスによる能力値にも差が生まれてしまうだろうけども。ステータスの成長もランダム性が高いことを考えると、早々差なんて生まれないんだよねぇ。
ただまぁ、メイン技能のレベルを上げずに、他の技能レベルを上げていく場合は、ステータスを持っているやつもいるにはいるんだよね。俗に言うレベル詐欺ってやつだ。
その代表格でもあるミィエルにチラッと視線を向ければ、視線に気づいた彼女は「どうしました~?」と視線で訊ねてくる。何でもないよ、と表情で返答して視線をリルへと戻す。
「ちなみにこの事を知っているのは、此処に居るメンバーだけなのよね?」
「あぁ、その通り」
「はぁ……本当、あなたといると退屈しそうにないわ」
「はは。取り合えずちゃんと実力があるって明確になった方が、2人も安心できるだろ?」
「今更あなたの実力を疑ったりしないわよ。私達フレグト村のエルフを救ってくれた“英雄”だもの」
『あぁ。俺はお前の戦いぶりをこの目で見ている。疑うようなことは何もない』
頷いてくれる2人のまっすぐな視線がこそばゆくて思わず頬を掻いてしまう。
「“英雄”呼びは止めてほしいんだがな……んじゃま、改めてセツナ共々よろしく頼むな」
「えぇ、こちらこそ」
「セツナも、2人の事を頼むな」
「はい。セツナの力が及ぶ限り、お二方を守らせていただきます」
「えぇ、頼りにしているわ。でも、私たちの成長する機会までは奪わないでね?」
俺に呼ばれて宣言するセツナに、リルは微笑みながら優しく頭を撫でる。一瞬驚くも、
「はい。代わりにセツナにエルフ語や薬草などを教えていただけると幸いです」
「勿論よ。なんでも聞いて頂戴」
受け入れて笑顔を浮かべるセツナに、「本当可愛いわね」とリルも眉尻が下がる。美女と美少女が戯れる姿は良いものだ。目の保養になるね。
「はいはい。じゃあ早速だけど、リルと弟君には今日明日にでも“妖精亭”へ引っ越してもらうわ。“妖精亭”に所属した以上、カイル君の情報を狙って不逞の輩が接触してくる可能性も捨てきれないもの。冒険者ランクが上がるまではセツナちゃんと行動を共にするとは言え、なるべくは手元に置いておきたいわ」
「そ~ですね~。カイルくんが~、受け入れられて~、落ち着く~までは~、も~少し~、時間が~必要ですからね~」
「仕方なかったとは言え、カイル君は悪目立ちがすぎているもの。しばらく大人しくせざる得ないものね」
完全に腫れもの扱いと言うか、爆発物扱いされてしまっているが……事実悪目立ちが過ぎたし、しばらくは大人しくするつもりだから良いんだけどさ。もうちょっとこう、オブラートに言ってもらいたい気もするよね。
「わかりました。じゃあすぐにでも荷物を持ってきますね。着いたばかりで荷ほどきもしてないので、すぐ終えられますし」
「えぇ、待ってるわ」
「ではセツナもご一緒いたしますね。こう見えても力はありますから、お荷物をお運びいたします」
「ふふ、助かるわ。ありがとうセツナちゃん」
「じゃあ~、ミィエルは~、お二人の~お部屋の~準備を~、しておきますね~」
「んじゃ俺も荷物持ちでも――」
「カイルはいいわ。何となくだけど、今あなたと行動を共にすると面倒ごとに巻き込まれそうな気がするのよね」
「――ア、ハイ」
バッサリと理不尽な理由で断られてしまった。となると、と思ってミィエルに視線を向ければ、
「ベッドシ~ツを~、張りにいく~ぐらい~ですから~、カイルくんは~、ゆっくり~しててください~」
やんわりとこちらも断られてしまった。う~ん、なら仕方ない。先に買い出しでも済ませておこうかな。
そう思って出かける準備をしようとすれば、今度はウルコットから声がかけられる。
『カイル、もしこの後時間があるのなら、俺が扱える武器に関してアドバイスを貰えないだろうか?』
「あ、それいいわね。カイル、私のもお願いできないかしら?」
リルも丁度良いとばかりに追従してくるので、思わず「別に構わないが」と答えてしまう。
「ただ、最初は自分たちが使い慣れた武器の方がいいんじゃないのか?」
「それらを含めてアドバイスが欲しいのよ」
『あぁ。頼めないだろうか?』
「了解。わかったよ」
『ありがとう』と頭を下げるウルコットに、「早く準備をすませてこい」と追い払う。やることがなくなったので改めて椅子に座り直し、今更ながら果たして大丈夫なのかと天井を仰いでしまう。
別に知識を秘匿するつもりはないから、頼られれば教えること自体は問題ない。ただ俺の場合、ほとんどがTRPGの知識であるため、若干不安がないわけでもないんだよねぇ。むしろ俺自身、まだ何ができて何ができないのかを確認し終えていないのだから。
「いつもの自信に塗れたドヤ顔はどうしたのよ?」
「俺そんな顔してます? つか言い方が悪意塗れじゃないですかね!?」
「王国最強と同等の実力を持つ人間が、不安そうな表情を浮かべれば誰だって突っ込むわよ」
「ありゃ、顔に出てました?」
「心配しなくとも2人には気づかれてなかったんじゃないかしらね?」
という事はフールー姉弟以外には気づかれていたってことなわけで。
「そんなにわかりやすいですかね?」
「それはどうかしらね。それより、何が不安なのよ?」
「店主様に話してみなさい」と不敵に笑うアーリアに、単純に「やったことないから不安なだけですよ」と答えておく。
「弟子……みたいなものは取ったことがないので、ちょっと不安になっただけですよ。弓術なんてやったことないですし、パーティーメンバーにも使用者が居ませんでしたから。正しいアドバイスができるのか、漠然とした不安があるんですよね」
「なんだ、そんなこと。心配しなくとも、リルはあんたが〈射手〉じゃないことぐらいわかっているのだから、そこまでのことは期待してないわよ」
「まぁ、そうですよね」
まぁその通りではあるんだけどね。こう、TRPGの知識を偉そうに語ったら実は間違いでした、とかなったら恥ずかしいじゃん?
「でも、間違った知識をドヤ顔で教えてたら恥ずかしいわね」
「……そっすね」
クスクスと笑うアーリアにこれ以上揶揄われてはたまらないと話題を変えることにする。事実、アドバイスしたところで決めるのはリルとウルコットなのだから、そこまで気負うこともあるまいと内心納得させる。
「ところでアーリアさん。この【わかるくん】の評価基準なんですけど、ステータス数値――それも6の倍数が基準だったりします? しかも判定者の純粋なステータスを元にしてますよね?」
「さすがカイル君。気づいてたのね。その通りよ」
どうやら予想通りだったらしい。疑問が氷解して少しばかりすっきりする。
「そこまで察しが付くカイル君なら、2人のアドバイスも問題ないと思うわよ」
「そうですかね? じゃあもう1点。こっちは考えてもわからなかったんで」
なら次に気になった点も訊いてみることにする。
「何かしら?」
「技能【適正】はどう求められているんですか?」
ステータスの数値を元に判断されているにしても、それだけじゃ判断できないことが多々あるはずだ。〈バード〉や〈コマンダー〉の技能に適性があるかないかなんて、ステータスだけじゃわからない。もっと言えば、向いている魔法系統だってステータスだけじゃわからないのだ。
一応LOFの世界観で、種族によって向いているものと向いてないもの的な話はフレーバー程度にはあったような気もする――と言っても〈フェアリーテイマー〉はエルフやドワーフが多いとか、〈ソーサラー〉は人間が多いとか、そんな程度だ――けど、PCを作成するうえではそんなものは一切なかったので、正直想像がつかないのだ。
「うーん、さすがにその辺りはあんたでも想像つかなかったのね。まぁ“ターミナル”の存在が有耶無耶な時点でそうなるかしら」
「“ターミナル”が関係しているんですか? という事は――」
「あら、想像つくのが早いわね。その通り、【わかるくん】は“ターミナル”を経由して知ることのできる各々の情報とリンクしているの。だからステータス以外の総合的情報から【適正】を割り出すことができるのよ」
「成程。そう言うことだったんですね。なら“ターミナル”と通信できる状態になければ【わかるくん】も使えないってことですね」
「正解。良く出来ました」
個人情報の塊とも言える“ターミナル”のデータすら参照できるのなら、適性判断ができてもおかしくはないのかもしれないな。家系からその辺も辿ることはできるだろうし。
今更ながらこの世界はこういったところが、俺が居た世界よりも高度な技術で面白いよなぁ。
「疑問は解けたかしら?」
「はい、ありがとうございます。ついでにですが、“絶剣の獅子”なるガーラディア伯爵についてもちょっと訊いて良いですか?」
「あたしの知る限りのことは答えるわよ?」
「なら1点だけ。その人と俺はレベル的には同等らしいんですけど、実際アーリアさんの目から見て戦闘になった場合、どうなると予想しますか?」
「……まさかとは思うけど、戦り合う気じゃないわよね?」
「俺にそのつもりがなくても、相手にあったら止む無し――って場合もありますよね?」
俺としては戦う気などさらさらない。いや、正直に言えば気になってはいるのだけれど、こっちから喧嘩を吹っ掛ける様な真似をするつもりはない。ただ事前情報として、逃げるべきか戦り合うべきかを知っておきたいだけなのだ。
ことアーリアの目は確かだと思うので、判断材料として大いに役に立つことだろうと思っている。
アーリアは「そうねぇ」と唇に手を当てて熟考した後、2つの結論を出した。
「カイル君が【魔剣】を惜しみなく使用するのであれば、勝率9割って所かしらね。ただそうでないのなら、3割まで落ち込むんじゃないかしら」
【魔剣】を使えば9割……って、そりゃ俺の8連撃を喰らってまともに立ってられたら人間じゃないもんな。
しっかし3割、かぁ。こりゃ想像以上に強い相手らしい。俺の回避能力でもこの勝率となると、必中系の【流派】でも持っているのかもしれないな。つまり万が一にも絡まれることがあれば――
「――逃げの一手、ですね」
「そうね。間違っても戦ってみたいから戦おう、なんて思わないで頂戴」
「思いませんよ」
胡乱気な視線のまま「そうして頂戴」と言うアーリアに、「信じてませんね?」と俺は苦笑いを返す。いや本当戦うつもりないからね? ただ実際に相対してみて逃げ道が無くて、勝てそうだったら戦っちゃうかもしれないけどさ。
「……まぁいいわ。じゃああたしからも1ついいかしら?」
「どうぞどうぞ」
「カイル君の【適正】ってどうなるのかしら?」
「そう言えば見てませんでしたね」
言われてみればステータス評価は見たけれど、技能【適正】は見ていなかったな、と思い出す。
早速【わかるくん】に掌を当て、ステータス評価から適正評価の画面へと切り替えた結果――
「……冗談みたいな結果ね」
「…………」
アーリアは呆れたように苦笑し、俺自身は結果を見て無言となってしまった。
【わかるくん】がもたらした判定、それは――どこをどう見ても間違いようがない、全ての技能が「B」と言う評価で埋め尽くされていた。
いつもご拝読いただきありがとうございます!
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