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第69話 適正評価【わかるくん】

 2人が――ミィエルはふらふらと、セツナは彼女を支えながら――丁寧に運んできたものは、5cmほどの高さがあるA3サイズのパネルだった。

 パネル表面下側1/3には手のひら大の宝石が埋め込まれており、宝石の脇には親指程の宝石が3つの色違いの宝石が埋め込まれている。残りのパネル表面には魔法陣が刻まれており、その上に半透明なガラスが設置されていた。

 何となく宝石に手を置くんだろうな、ぐらいの想像はできるし、話の流れ的にこれが【適正】を測る【マジックアイテム】なのだろう。



「これが例の?」


「はい~! 軽々(かるがる~)計測器(けいそくき~)の~【わかるくん】で~す!」



 補足説明曰く、一番大きな宝石に手をあてがうことで、使用者の魔力を感知してステータスの計測ができるアイテムだそうだ。技能がなくとも誰でも気軽に解析判定できることから、このネーミングとなったらしい。まぁわかりやすさって大事だよね、うん。



「あくまで現時点でのステータスを可視化して、どんな技能に適性があるかを測れるだけなのだけれど。自分がどんな成長を遂げた方が良いか知るには、良い指針となると思うわよ」



 へぇ、と思いながら興味深そうに見る俺を尻目に、「早速やってみなさい、リル」とアーリアに促されたリルは、右手を一番大きな宝石へと触れてみる。すると描かれた魔法陣が輝きだし、半透明のガラスに次々と文字が浮かび上がる。



……DEX:D AGI:D STR:F VIT:E INT:C MEN:D……



 おぉ……って、感動したと思ったら表記がローマ字表記じゃないか。ぶっちゃけ数字で見慣れている俺からすれば見づらいのだが……これはあれか? ステータスを等級(ランク)で表しているのかな? これ、基準って何なんだ?



「可視化されるステータスは冒険者ランクのように等級で表記されるわ。一番上からEX、S、Aと始まって、最後はGで終わる9段階で記載され、C評価があれば対応する箇所は十分高いとみなされるわね」



 俺の内心の疑問を、アーリアがすかさず説明してくれる。

 「リルのレベルでINTがC判定なんて、さすがはエルフね」と口にするアーリアに、確かにINT「24」は高いと言えるよなぁと俺も頷く。そこでふと、この評価はもしかしてあれに対応しているのか? と思うも、取りあえずまずは一通り見てから考えを口にしてみようと思う。



「次に手は離さずに、横の小さい宝石の上から2番目に空いてる手で触れてみてくれるかしら?」



 言われるままにリルが操作すると、次は基本職それぞれが表示され、これも同様にランク表記でガラスに浮かび上がっていた。当然、高いランクほど「適正あり」と言うことなのだろう。現状表記されているリルの適正は――




〈ファイター〉G 〈フェンサー〉D 〈グラップラー〉F 〈シューター〉B 〈マシナリー〉D

〈ソーサラー〉D 〈コンジャラー〉E 〈プリースト〉C 〈フェアリーテイマー〉B  〈デーモンサモナー〉G




 メイン職業10種が次に表示され、リルの適正が表示されていく。

 LOFではメイン技能職――その中でも最初に選べる基本職は10種類あり、5種の物理職と5種の魔法職から構成されている。丁度【わかるくん】は上段と下段に分かれていてわかりやすい。

 これらの技能をLv5まで成長させることにより、新たに上位職へと派生していくわけだ。ただ、上位職の派生には複数の技能成長によることで習得できるものもあるため、どの技能をとることで派生していくのかをしっかり見定めないといけない。俺はTRPG(ゲーム)時代での知識があるからいいが、この世界(現実)ではどうなのだろう?



「現状では〈シューター〉と〈フェアリーテイマー〉が【適正】となっているわね。ステータスからしても順当と言えるわね」


「アーリアさん、私は魔法系など使ったことがないのですが……」


「誰にでもMPってあるように、生まれ持った魔力の色からどんな魔法に適性があるか解るのよ。先程と同じようにC判定なら十分適正あり。Bを超えるなら間違いなく一角(ひとかど)の人物になれるわ」



 さらにアーリアに言われるままもう一つの宝石に触れれば、今度はサブ技能職の適正一覧が表示され、その中でも〈コマンダー〉の適正がAランクと際立った結果を残していた。と言うか魔力の色で適正が分かるってのも凄いな。



「A判定は~、すご~いですよ~! リル~!!」


「ふふ、指揮官候補生としてスカウトされてもおかしくないわ」


「そう、なの? 私としては勉強もしたことないから、実感もわかないんだけど」



 褒める2人に照れたように頬を掻くリル。まぁ村での指揮も様になってたし、さもありなんって所かな。



「カイル君、あんた〈コマンダー〉のレベル高いわよね? リルに指導してあげたら?」


「勿論、俺に教えられることであれば構いませんよ。〈コマンダー〉技能持ちが増えるのは大歓迎ですから」



 アーリアからのパスをトラップし、俺は任せろと頷く。事実、〈コマンダー〉技能は習得者自身へ及ぼす効果がほぼないために軽視されがち――と言うより習得されることが稀な不人気職だったりするのだが、そのサポート能力は「素晴らしい」と太鼓判を押せる技能なのだ。




 まず特徴として、〈コマンダー〉はパーティーメンバーを強化できる〈鼓舞〉と呼ばれる能力を発揮できるサポート技能だ。対象は意思疎通ができる味方であり、最初こそ効果範囲が狭いが、レベルが上がるにつれて最大「戦場1つ」を効果範囲にすることも可能になる。

 〈コマンダー〉が習得できる〈鼓舞〉には『攻撃』『防御』『回避』『抵抗』『移動』の5系統が存在し、1ターンに1サブアクションにて宣言することで効果を発動することができる。ターン経過に応じて1つの系統を重複発動することで上位効果の〈鼓舞〉へと上書きすることができるため、戦闘が長引けば長引くほどに強力な効果を発揮できると言うわけだ。


 またサポート技能(その中)でも異色の特徴として、アイテムやMP(リソース)の消費なしで効果を発動することが出来、被対象者は自分に必要のない効果と判断した場合は、〈鼓舞〉の効果を拒否することも出来る。これにより『攻撃型』の〈鼓舞〉から『防御型』の〈鼓舞〉へ置き換わったとしても、被対象者が『防御型』の〈鼓舞〉を拒否するのであれば、効果が上書きされることなく『攻撃型』の効果をそのまま維持できるなんて使い方もできる。

 嬉しいことに1度受けた〈鼓舞〉の効果時間は長く設定されているため、最悪効果範囲外に追いやられてもしばらくは能力向上を維持できる。まさに状況に応じて攻撃にも防御にも転用できるため、1人居ると居ないとではパーティーの強度が大きく変わってくるのだ。



 こう説明を聞くと、良い技能職だとわかるんだけど、当然弱点(デメリット)はある。と言うかこれこそがTRPG(ゲーム)時代で不人気職として扱われ続けた最大の理由と言ってもいい。

 まず技能行使するには専用の装飾品または武器を装備しなければならない。しかもより使いやすさを増そうとすれば、割とお金がかかる。まぁこれに関してはどの技能職いも言えることなのでデメリット足りえない。問題は次だ。

 最初にも言ったように、〈鼓舞〉は自分自身には効果をほぼ及ぼさない。そのため習得したところで個人としての戦闘能力は全く向上しない。さらに他サブ技能職と違い、〈コマンダー〉はあくまで戦闘でのサポート職であるため、それ以外では全くと言って良い程役に立たないのだ。


 戦闘だけを考えるのなら問題ないのだが、LOFでは当然『探索』や『解析』と言った重要な判定が存在する。結果としてパーティー「必須技能職」と呼ばれる〈セージ〉〈スカウト〉〈レンジャー〉の習得が最優先されるわけで。

 結果、経験点が余り気味になってきた後衛――それも恩恵が少ない魔法職が前衛職をサポートしようとして習得しなければ、選択肢にあげられることがない技能職。だからこそ習得技能職ランキングでは下位に位置してしまう結果となるのだ。当然の帰結、と言うわけだ。


 そもそもな話、プレイヤー人数が減れば減るほど、必須技能職に経験点を割り振らなきゃならないため、なくても問題ない技能職は余計に選ばれづらくなってしまうのは仕方がないことでもあるんだよね。俺が着く卓だって、基本俺を含めて友人4人で行うのだ。となればPCの数は3名。1名ずつ〈セージ〉〈スカウト〉〈レンジャー〉と割り振って、メイン技能職を習得したら、ほら。余裕なんてないよねって話になるんだよね。




 まぁ、それでも個人的には評価している技能ではあるし、あくまで俺が知っているのはTRPG(ゲーム)でのことだ。現実となった今ではリソース無しで、この強化率は馬鹿にできないはず。基本的に一桁や二桁前半の数字の駆け引きで成立するLOF(この)世界において、その補正値がどれ程大きなものかは想像に難くない。だから是非ともリルには習得してほしいと思っている。



「大歓迎って……」


「パーティーの指揮を行えるものがいるのは大歓迎だろ? 的確な判断が下せる人材がいるだけでも生存能力は格段に上がるわけだし。ぶっちゃけ〈コマンダー〉が居るのと居ないのとでは、マジでパーティーとしての強度が違うからな?」


「カイル君の言う通りよ。集団戦になればなるほど〈コマンダー〉の価値は跳ね上がっていくわ。リルの【適正】から考えても、習得することをあたしもオススメするわ」



 アーリアも同意してくれるため、俺の考えが間違っているわけではないようだ。

 【適正】が「A」ってのも凄いらしい。現状適性のあるなしでどれ程違いが出るのかわからないけど、たぶん俺が考えるより重要なんじゃなかろうかと思う。ちなみにTRPGだったら、初心者にオススメした時点で「こいつ何言ってんだ?」と白い目で見られていたことだろうね。



「なら勉強させてもらうとするわ。お願いね、カイル」


「おう、任せとけ」


「リルの方向性は軽く決まったみたいだし、次は弟君ね」



 神妙に頷いたウルコットは、リルと入れ替わり【わかるくん】に手を翳す。



……DEX:D AGI:D STR:D VIT:E INT:D MEN:D……



 表示されるステータスランク、続いて画面を切り替えることで【適正】と思われる技能職への評価が表示されていく。結果、



『〈ファイター〉の適正はDか……』



 現在の習得技能や〈スキル〉から考えて、本人の希望は〈ファイター〉。しかしステータス上なのか適正値は「D」。エルフらしく〈シューター〉の方が適性「C」と高かった。まぁD評価なら向いていないわけではないらしいので問題はないだろう。それより驚いたのが――



「ふわ~。今日は~、ものすご~い日~ですね~!」


「A評価を立て続けにみるなんて、あたしでも過去そうそうないわよ。それで、趣味で歌とか楽器とか嗜んでいるのかしら?」


『オカリナを少し。だが俺としては〈ファイター〉の適性が欲しかった……』



 オカリナとか渋いなぁ、をい! つかエルフの美形でこれ……〈バード〉技能「A」評価とかもう戦士なんかやめてアイドルとかスター目指せよお前って感じだよぁ。そりゃ街行く人がこいつへ振り返るわけだよ。


 肩を落とすウルコットに「あくまで現時点での適正だって言ったでしょ」と肩を竦めるアーリア。



「むしろ『エルフ』で現状〈ファイター〉適正があること自体誇るべきよ」


『私がGなのに対してDなのよ? 今までの努力が実ってるって事じゃない。胸を張りなさい』



 肩に手を置いてウルコットを慰める姿は、まさにお姉さんだな、と思う。

 そして俺はウルコットのステータス評価を見て、自分の中で抱いていた疑問に回答が得られそうになっていた。後もう一手あれば確信できることだろう。


 そう思って【わかるくん】に視線を送っていた俺に、ウルコットは顔を上げると『カイル、お前はどんな風に評価されるんだ?』と真剣な表情で問われた。



「ん? 俺? いや、やったことないからわからんけど」


「そうなの? なら私も見てみたいわ。一応私達はあなたを目標にしようと思っていたから、参考にさせてもらえないかしら?」


「『私達』って、ウルコットもか!?」



 真剣に頷いているウルコットに、思わず驚きの声を上げてしまう。嫌われていると思っていた相手に、まさか目標とされていたとは……



「それは、なんと言うか、光栄だな」


「同時に先の長い、茨の道でもあるわね。それでカイル君、どうするのかしら?」



 アーリアは俺に2人に自分の実力を打ち明けるのか、と問うている。

 リルもウルコットも俺がこの大陸出身ではないことは知っている。《決闘》の一件でLv10を圧倒するところは見られているし、少なくない予想はしているのではないかとも思っているが、公表しているレベルを鵜呑みにもしてるんだよねぇ。まぁ冒険者ギルドから公表されているレベルが偽りの物だって普通は思わないもんな。


 俺はウルコットと入れ替わり【わかるくん】の前に立つと、「2人には正直に言っておくな」と前置きをして宝石に掌を置く。

 触れた宝石がほんのりと暖かくなり、半透明の文字が次々と浮かんでいく。俺はそこに表示されているランクを尻目に、視線を2人へと向ける。



「俺の本当のレベルは13だよ」



「え?」『は?』



 果たして2人の間の抜けた表情は、俺のステータス評価を見ての驚きなのか。それとも俺の言葉によるものなのか。ちょっとわかりにくかったので、改めてもう一度告げる。



「だから、冒険者Lv13の〈ソードマスター〉なんだ」



 【わかるくん】に表示されたステータスランク。そして正面から誤魔化すことなく視線を送る俺を見て、リルは一時の驚きの後に眉尻を下げて「やっぱり」と言う表情を。ウルコットは二度程目を見開き、表示された文字を見て眉根を寄せて目を瞑った。


 何とか言葉を飲み込んだかな、と俺も気になる【わかるくん】を見れば――



「あー、やっぱり」



 ……DEX:S AGI:S STR:A VIT:A INT:C MEN:C……



 ――俺の予想にほぼほぼ沿ったステータス評価が下されていた。


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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