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第6話 熊の次は蛇。しかしここ、大丈夫か?

 【ルナライトソード】を一振りして血を払って納刀。

 グリズリーには試したいことをいくつか試すことができた。深く感謝を。後おいしくいただきくよ。



「終わったので解体をしてもらっていいですか?」



 リルの方を見てお願いする。多分できるとは思うけど、普段から解体を行っている人の方が鮮度を保って捌けるはずだ。

 木のから降りて、こちらへと駆け寄ってくるエルフ達。ただリルを除くエルフ達の表情が硬い。うーん、別に変なことはやってないと思うんだけど。



「見事です、カイルさん」


「伊達に冒険者をやってはいませんから。解体をお願いしても?」


「勿論です。それとカイルさんは私と共にジャイアントヴァイパーの捜索と討伐を引き続きお願いします。解体は2人にやらせますので」


「構いません。よろしくお願いします」



 2人に軽く頭を下げてお願いし、指示を飛ばしたリルが駆けだしたので、置いてかれないように俺も続く。一度村に戻って解体作業を手伝う人員を呼ぶようだ。


 走りながらリルがチラチラとこちらを見てくるので「どうしました?」と声をかければ、少し眉根を寄せた後に「気になったことがあるのですが」と前置きし、



「カイルさん。先程わざとグリズリーに攻撃を促していましたよね? 初手では剣を使わなかったですし。剣を使っていれば、すぐに終わったのではないのですか?」


「……実力を見せた方が良いかと思ったのですが、まずかったですか?」


「いいえ。むしろ見せすぎたと言いますか……」



 あー、これは逆に警戒されすぎる感じになったかな? グリズリーを軽くあしらう程の部外者ともなれば、その矛先が自分たちに向いた時のことを考えると恐怖でしかないよね。



「あー……泊めていただくときは武器を全て預かってもらって構いませんよ」


「すみません。村のために力を貸していただいているのに」


「泊めていただく上に食事もいただけるのですから。そこは気にしなくていいですよ」


「それでもお互い様ではないですか。少々同じ村の住人として恥ずかしいと言いますか……」



 んー……そこまで気負うことはないと思うんだけどなぁ。俺自身は確かにエルフ達に何かするつもりはないし、信用してもらえるならそれにこしたことはない。だけども自分たちの安全のために警戒し、排他的になるのは別段変なことではないし。



「別に変なことではないと思いますし、リルさんがそこまで気負うことはないですよ。俺は気にしませんから」


「ですが大切な武器を一度ならず二度までも預けてくださるほど、カイルさんは信じてくださっているじゃないですか。なのに私たちは――」


「気難しく考えすぎですよ。俺が皆さんを疑ってはいないってことを、リルさんだけでも信じてくださってるだけで充分です」


「カイルさん」



 それでも申し訳なさそうな顔をするリル。生真面目すぎるだろ。一晩泊まるだけの旅人だってーのに。初対面では嫌味なセリフで堂々と返してくれてたぐらいなのに、気づけばとても尊重しあえる友好的な関係になっている。いやまぁ俺個人としてはとても嬉しいし、リル自身が元々とても優しい娘なのだろう。



「ではリルさん、これからは俺のことをカイルと呼び捨てでお願いします。あと敬語と言うか丁寧に話さず、他の方々と話すようにしてもらえると嬉しいですかね。リルさんが旅人の俺に気さくに話してくれれば、自然と他の方々も変わるかもしれませんし」



 リルは村の中で信頼を置かれる女性だ。それは傍目から見てもわかる。であるならば、その人物が気の置けない仲に見えれば、警戒心も多少緩むんじゃなかろうか。



「……わかったわ。でもそう言うことならカイルも同様の態度をして頂戴。そうすればお互い対等な立場だとわかるでしょ?」


「ウルコットさんの目が厳しくなりそうですね」


「弟のことなら気にしないで。私が何も言わせないわ」


「了解、では頼むぜリル」


「ふふ、任せて頂戴」



 自信ある笑みを浮かべるリル。うーん、日本の友人も嘆いていたが、世界は変われど弟なる生物は姉に逆らえないものなのだろうな。俺としては過ごしやすくなるから良いのだけど。悪いねウルコット。


 行きとは違い、走ることで村に辿り着いた俺たちは、リルが獲物の解体・運搬を頼みに行っている間に、ジャイアントヴァイパー捜索班が向かった方面へ視線を向ける。


 話に聞く限り、リルの両親は少なくともグリズリーを倒せるレベルの持ち主なのだろう。しかしそうだとしてもこの村は平均してLv2~3しかいない。だと言うのにLv5以上の動物型モンスターが近くに縄張りを張るって危なくないか? どう考えても危なすぎる気がする。後でそれとなく村長にでも聞いてみた方がいいだろうか。それともあんまり干渉しない方がいいだろうか。


 うーんと思考に浸っているうちに、「待たせたわね」とリルが指示を終えて戻ってくる。手には薬と思しき瓶を2つ持っており、1つを俺へと手渡してくれる。どうやら【毒消し薬(アンチドーテ)】のようだ。



「あの身のこなしなら必要ないかもしれないけど、一応渡しておくわ」


「ありがとう。俺は神官じゃないから〈キュア・ポイズン〉は使えないんだ。助かる」



 ありがたく【毒消し薬】を受け取り、リルと共に目撃証言があった方向へと足を進めていく。

 リルとツーマンセルのため、お互いがカバーできる範囲で、技能レベルを最大限に活かして捜索を開始する。果たして20分ほどの探索で目的の魔物を発見した。


 俺の眼前20m先を悠々と徘徊する推定6m越えの黒と赤い斑点柄の大蛇――”ジャイアントバイパー”Lv6。

 物音を立てないようにリルへと視線を送り、先程と同じように俺1人で処理を提案する。その間リルには他に敵対生物がいないかの警戒に当たってもらう。


 俺は最大限に気配を殺し、それでいて最速で対象との距離を詰める。彼我との距離6mを切った刹那、気づかれていないことを確信して両手それぞれに【ルナライトソード】を携え、二足で”ジャイアントヴァイパー”の頭を射程範囲に捉え――〈魔力攻撃Ⅰ〉を乗せた右手を一閃。切り離された頭部が俺を視認するよりも速く、残る左手で脳天から串刺しにした。


 ”ジャイアントヴァイパー”の絶命を確認し、刀身の血を払い納刀。”グリズリー”の時みたく試してみたいことはあったが、毒持ち相手に回避判定で致命的失敗(ファンブル)を引いてしまうのは、現状怖いものがある。エルフ達の安全のためにもさっさと片付けてしまった方が都合良い。



「リル。こちらは終わ――」



 ピィィイイイ――――――――――!!!



 耳につく警笛の音が鳴り響く。”ジャイアントヴァイパー”発見の合図。方角的には俺たちがいる場所より奥だろうか。

 視線を交わし頷きあうと、俺たちは迷わず奥へと駆けていく。ここは人が住まない深い森。確かに1匹しかいないとは誰も言っていない。

 リルの速度に合わせつつ森を駆ければ、何かが暴れている音が徐々に耳に届いてくる。距離は近い。そして確かに耳にした抵抗するエルフ声と、興奮した蛇の声。戦闘に陥ってしまっただろう予測。



「リル! 俺は先に行く」



 リルに合わせていた速度を自身のペースへ切り替える。徐々に明らかになる視界。

 視認するはなぎ倒された木々、弓を構えるエルフ3名、木にもたれるエルフ1名、倒れるエルフ1名、現在巨体に巻き付けられ痛みに悲鳴を上げる1名。


 彼我の距離は30m。俺は腹に息を溜め、全身に力が巡るイメージで速度上昇のバフである〈エンハンサー〉技能――〈スピードブースト〉を発動する。

 強化された脚力が二歩の距離を一歩へと縮め、風となった俺はすれ違いざまに魔力を込めた一刀を振り抜く。手に残るクリティカルの感触。轟音を立てて倒れる蛇は無視し、倒れ伏す2人のエルフの下へ。

 死んではいないが意識がない。気絶状態は放っておけば時間により、生死判定を行うことになる。そこで失敗すれば天に昇っていくことになる。



「理を担う恵みと成長の聖霊よ。我が身に宿る魔力を糧に、この者たちに母なる大地の祝福を――〈アース・ヒール〉」



 エルフ2名を視認、射程範囲に含める位置へと立ち、スキル〈マルチターゲット〉で2人とも魔法の対象とする。

 唱えるは大地の生命力を分け与える回復魔法。魔法の発動を感じ、目的の2人に効果を及ぼしていることを感覚で掴む。


 とりあえずこれで死ぬことはないかな。ちらりとみれば傷こそ負えど皆生きているようだ。無事で何よりだぜ全く。


『俺たち、助かったのか?』とか『死ぬかと思った』とか安心するのはいいけど、蛇に巻き付かれたままの彼を早く助けてやってくれよ。

 リルの到着を待ち、遅れながらに到着した彼女に手を振って指示を出すようにお願いする。



「リル、彼らに倒れている2名のもとに集まるよう言ってくれるか? 回復魔法をかけようと思うんだ」


「貴方、魔法も使えるのね」


「操霊魔法を少々ね」


『皆、二人のところに集まって。カイルが回復魔法をかけてくれるそうよ』



 リルよりも驚きの表情を浮かべる彼らは、彼女の言葉に従い集まってくれる。もちろん、蛇から助けた彼もだ。見た感じ足を折られているな。

 じゃあ脈動回復と単体回復でも重ね掛けしておきますか。



「理を担う恵みと成長の聖霊よ。我が身に宿る魔力を糧に、大地の恵みと癒しの温もりをかの者たちに与えよ――〈リジェネート・サークル〉。続けて、理を担う恵みと成長の聖霊よ。我が身に宿る魔力を糧に、この者たちに母なる大地の祝福を――〈アース・ヒール〉」



 軽症者を含めて範囲脈動回復で癒し、重傷者には一応単体回復を重ねておく。脈動回復は回復速度が遅い代わりに、効果範囲内に居続ける時間さえあれば、MP消費のわりに多人数を纏めて回復できる。非戦闘時にはとても優秀だ。

 最も、回復を受けられるものであれば敵味方癒してしまうので、戦闘時には扱いづらい。スキル〈マナコントロール〉を取得していれば、戦闘で被対象を選べるのだが、あいにく俺はそこまで器用ではない。



「まさか二匹も徘徊していたなんて……」


「一応確認だけど、フレグト村の近くには高レベルの魔物がこんなに徘徊しているものなのか? そうなら引っ越しをお勧めするよ」


「いえ。本来ならもっと森の奥にいるはずなのだけど……後で村長に確認してみるわ」



 あー、なんだ。俺がGMなら間違いなく、森の奥に彼らが逃げ出すような何かが現れたって感じにするよねぇ。

 少し嫌な予感がするなぁ。エルフ達を村へ戻した後、少し見て回った方がいいかもしれないな。


 兎にも角にも全員無事だったんだ。少し効率は悪くなるけど、



「じゃあ休憩したら夕食の狩りもしちゃおうか」


「そうね。貴方の魔法のおかげで、みんな回復できたわけだし。他にも大型の魔物がいないか確認する意味でも」



 頷くリルに俺はチラリと視線を”ジャイアントヴァイパー”へ向ける。



「ちなみにこれは食えるのか?」


「食べてみたいなら料理してあげるわよ? いろいろと保証はしないけど」


「……遠慮しておきます」



 リルの笑みから察した俺は素早く提案を辞退した。


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武器全部預けるのイカれてんのかと思ってたけど単純に素手で全員殴り殺せるだけで草
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