第68話 一晩からの結論
誤字脱字の報告、本当にありがとうございます!
「カイル君、今日はどうするのかしら?」
早朝訓練から朝食を終え、食後の珈琲でまったりしている所に、アーリアが俺の予定を伺ってくる。
「今日は買い出しをしちゃおうと考えてます。欲しい装備が増えたのと、セツナが依頼を受ける前にある程度準備しておきたいので」
「では~、ミィエルが~案内しますね~」
「勿論期待してる。よろしくな」
「おまかせ~ですよ~!」と胸を張る様に癒されていると、隣に座るセツナが「主様」と袖を引っ張って俺を呼ぶ。
「セツナはまだ依頼を受けない方がよろしいでしょうか?」
本当ならサクッとこなしてもらい、ちゃちゃっと冒険者ランクをDランクに上げてもらった方がいいんだろうが、今はリル達の勧誘の件がある。それに、
「そうだな。リル達が冒険者になるなら、一緒にこなした方が効率いいからな。慌てるものでもないし、しばらくは様子を見ながらやっていこうと俺は考えているよ」
できることなら俺が〈ファミリア〉を創造できるようになるまでは、なるべく控えめにしたいと言う思惑もある。ぶっちゃけてしまえばステータスウィンドウから経験点を必要分注いでしまえば、すぐさま扱えるようにはなるのだが、ターミナルを使わないと色々と都合が悪そうだからなぁ。ミィエルに教えてもらえる時間を作ってもらって、習得から2・3日は間隔を空けて〈ファミリア〉が作成できるレベルにまで達するのが良いかな、と思っている。
「まぁそれは俺の考えであって、セツナが依頼を早く受けていきたいと言うのなら予定を変えていくけど、どうする?」
「いえ、セツナもリルさん達とご一緒の方が心強いですので、2人のお答えをお待ちしようかと思います」
「わかった。まぁリルの事だから、遅くとも2、3日もすれば答えは出るだろうさ。それまでは装備やアイテムを整えよう」
「はい!」と元気よく頷くセツナに俺も顔がほころぶ。気づいたら良い娘だ、と頭を撫でていた。
「ミィエル、買い出しが終わったら俺に〈ソーサラー〉の講習をお願いできないか? なるべく早く習得したいんだ」
「それは~、構わないですけど~。カイルくんは~、【適正】は~あるんで~しょうか~?」
人差し指を顎に当てて可愛らしく悩むミィエルに、俺はと言えば口には出さないが内心で問題ないよ、と即答する。ただまぁ、現実となった今、どうやってその【適正】とやらを調べるのかはとても興味がある話題だ。
そもそも【適正】なるものがあること自体気になるところだ。TRPG時代では冒険者になるPCに【適正】なんてものはない。ステータス的に向き不向きはあるが、経験点さえ積めば誰でも欲しい技能は習得できるのだから。詳しく聞きたいところではあるが、取りあえず今は話を合わせて先に進めておくことにする。
「俺は師にあたる人物から魔法への適正はあるとみなされて学ぶことにしたんだが、実際はどう適正って判断するのかよく知らないんだ」
「そう。カイル君には見極めてくれる師匠が居たのね。今のスタイルは師匠に示してもらったのかしら?」
アーリアの質問に俺はカイル・ランツェーベルのキャラクター設定を思い出す。
確かこのキャラは盾を両手に構える防御力重視の壁役である父親と、魔法時々拳打で敵を殲滅する魔拳闘士である母親の間に生まれた息子で、将来的には父親と母親が現在仕えている主に自分も守護者として仕える予定のキャラクターだったかな。
本来なら父親か母親のスタイルになる予定だったが、住んでいた街の闘技場で活躍していた剣士に憧れて回避型剣士を目指すことに決めたんだったか。
魔法に関して本人はそこまで興味なかったのだが、将来仕える主が「魔法ぐらい使えずどうするのかしら?」「才能があるのだから伸ばしなさい!」と強制的に覚えさせた。そんな設定だったはず。
思い出しながらアーリアにどう返答しようか一瞬だけ悩むも、別段隠すことでもないからそのまま話すことにする。
「いえ。むしろ師は自分と同じ魔法主体のスタイルにしたかったはずです。再三言われ続けたので。でも俺があまりにも首を縦に振らないので、仕方なしに回避型魔法剣士になった形です」
「へぇ、ちなみに師匠はどれ程の実力だったのかしら?」
「えーっと、確か……2系統を極めた大魔導士だったかと」
なるべくわざとらしくならないよう、〈ソーサラー〉と〈コンジャラー〉の系統それぞれを累計Lv15の存在という事にしておく。実際はもっとヤバい設定だったんだけど、現実となった今ではそれが俺の想定以上の結果を生むと痛感しているので、このレベルに抑えておく。それでもアーリアの表情を見る限り、十分にヤベェ結果になっているのだが……俺のレベル的にこうでもないと辻褄が合わないんだよな。
「はえ~。カイルくんの~、お師匠様も~、凄いんですね~」
「……心配しなくとも、カイル君は他の魔法系統にも【適正】がありそうね」
「恐らく」と頷く俺にアーリアは呆れ気味に「よく師匠の誘いを断われたわね」とぼやかれる。
「今思えばそうですね。拗ねられて1年は口もきいてくれない程度で済んで、本当良かったと思います」
余談ではあるが、この師こそがカイル・ランツェーベルが“守護者”として将来仕えることが決まっている主であり、このキャラクターが強さを求めて自身を鍛え続けている理由である。実際は例えLv15を突破したとしても、主の方がこのキャラクターより強かったりするのだが、まぁだからと言って護衛が必要なわけではない立場でもあったりする。
さらに余談だが、カイル・ランツェーベルの師であるこのNPCは、このキャラクターを始めとしたPC達が活躍するキャンペーンシナリオの中核を担う重要なNPCだったりする。
キャンペーン開始直後にそんな設定はなかったのだが、GMを交代するリレー形式でシナリオを進めるにつれて中核となるNPCや設定が必要になり、シナリオの状況とキャラクター作成時に決まったカイル・ランツェーベルの〝経歴〟から、自然とこのような形に落ち着いたのである。
まぁキャンペーンが完結せず俺がカイル・ランツェーベルになってしまったため、果たして今どうなっているのかは当然知る由もない。だからこそ俺はアルステイル大陸を目指すこととなっているのだ。一応切羽詰まる状況ではなかったはずなので、まだ慌てることはないんだけどね。
さて、話題がズレてしまったが元に戻すとしよう。俺は気になる【適正】を調べる方法について質問することにする。
「それで、【適正】を調べる方法と言うのはあるんですか?」
「えぇ。あくまである程度の適正があるかないかがわかるだけだけれど。十分指針にはなるはずよ」
「それは凄いですね! それはどのようなものなのか、あとで見せてもらえますか?」
「勿論よ。と言うより、すぐに見ることになると思うわよ?」
ちらりとアーリアが“妖精亭”の入口へと視線を向ければ、丁度良くドアベルが客人の来訪を告げる。
「アーリアさん、お時間よろしいですか?」
扉を開け、“妖精亭”の敷居を跨いだのは昨日ぶりに顔を出したリルとウルコットだった。
★ ★ ★
「カイルもいてくれたのね。丁度良かったわ」
俺の顔を見て安堵の表情を浮かべるリルに、何かあったのかと訊ねれば、
「単純にここじゃないと貴方を捕まえるのが難しいから、居てくれてよかったってだけよ」
「成程、そう言うことか。実際もう少し遅かったら買い出しに出てたから、丁度良いタイミングだったな。でも俺に用事ってなんだ?」
「貴方が居ないとセツナちゃんもいないことになるでしょう? それに先達としてしっかりとアドバイスをもらいたかったのよ」
リルの言葉を聞いて俺は反射的に「という事は」と口にすると、彼女は頷いて俺の代わりに続きを口にする。
「アーリアさん、私と弟を“妖精亭”の冒険者として所属させてください」
「勿論歓迎するわ」
「ようこそ~、“妖精亭”へ~!」
リルの申し出にアーリアは頷き、ミィエルは諸手を上げて歓迎の意を示す。
しっかし決断力のあるリルの事だから、遅くとも2、3日で答えを出すと思ってはいたが、まさか一晩のうちに結論を出すとは思わなかった。
「村の方は片付いたんだな?」
「えぇ。私の両親もあと100年ぐらいは大丈夫でしょうし、皆も5、60年ぐらいは世界を見て回って来いって言ってくれたわ」
「お、おう。そうか」
さすが長命種は気前がいいなぁ、をいっ!
思わず表情が引き攣りそうになるのを堪えていると、リルの後ろに立っていたウルコット『ご指導ご鞭撻、よろしく頼む』と頭を下げた。
「近接戦闘を習いたいならカイル君かミィエルに頼りなさい。必要なら【秘伝】でも習うと良いわ」
「むしろ俺が【妖蓮一刀流・霊刀術】を教えてもらいたいんですけどね」
まぁ乗り掛かった舟だし、丁度この世界の住人はどのぐらいのペースでレベルが成長するのかも見たいと思っていたところだから、ウルコットを育てること自体は問題ない。
【秘伝】にしたって、俺が習得しているものに関しても教えることは吝かではない。むしろ設定的にはどんどん門下生を増やすべきなのだ。特に【布操術】に関しては切実だったはずだ。ただ専用の装備である【エルハートケープ】はハーミットの婆さん次第であるが……
「ミィエルも~、あの布を使う~やつを~、教えてほし~な~」
「勿論だ。【心影流鋼布操術】はいつでも門戸を開いているよ」
実際覚えると割と使い勝手は良いし、ミィエルも俺と同じ回避型だから使えるようになると選択肢が増して良いことだろう。やったな師範! 門下生が増えるよ!
「はいはい。カイル君の胡散臭い勧誘は兎も角、2人にはシートの記入をお願いするわ。それとミィエル、アレを持ってきてもらえる?」
手を叩いて自体を収集したアーリアは、2人に席に着くよう促すと準備してあった羊皮紙とペンを眼前へと差し出す。
ミィエルはアーリアに「了解です~」と返答し、セツナを連れてカウンター奥の研究室へ。俺は別段やることがないので、全員に再び珈琲でも淹れることにする。
珈琲を淹れながら羊皮紙に必要事項を記入するリルとウルコットのステータスを、改めて解析判定をしてみる。
名:リル・フールー 歳 種族:エルフ 性別:女 Lv3
DEX:23 AGI:21 STR:8 VIT:15 INT:24 MEN:20
LRES:5 RES:6 HP:24/24 MP:20/20 STM:91/100
〈技能〉
冒険者Lv3
《メイン技能》
シューターLv3
《サブ技能》
セージ Lv3
スカウトLv1
レンジャーLv2
《一般技能》
ガードLv2
リーダーLv2
【取得アビリティ】
〈ターゲッティング〉〈鷹の目〉
【特技】
なし
【加護】
〈森の友人・風読みの加護〉
名:ウルコット・フールー 67歳 種族:エルフ 性別:男 Lv2
DEX:20 AGI:19 STR:16 VIT:14 INT:18 MEN:19
LRES:4 RES:5 HP:20/20 MP:19/19 STM:87/100
〈技能〉
冒険者Lv2
《メイン技能》
ファイターLv2
シューターLv2
《サブ技能》
スカウトLv1
レンジャーLv1
《一般技能》
ガードLv2
【取得スキル】
〈全力攻撃Ⅰ〉
【特技】
なし
【加護】
〈森の友人・風読みの加護〉
エルフ故か、嗜みの様に〈シューター〉技能を持ってるなぁ。
さて、ウルコットは前衛寄りの後衛もできるタイプ――と言えるけど、今は〈シューター〉の成長を切って前衛として成長してもらわないと、最終的に役に立たなくなってくな。しかしエルフでバリバリの〈ファイター〉を選ぶとは難儀な道を選ぶもんだ。それでもエルフとは思えないSTRとVIT値から、本気で前衛になろうと言う心意気は感じる。
逆にリルは後衛としてしっかりと成長していっている。このまま〈シューター〉として成長していってもいいし、魔法関連――特に〈エンチャンター〉の適正があれば、矢に魔法効果を付与して敵により使い分ける“魔弓士”なんて呼ばれてるスタイルも目指せるな。INTも高いし、個人的には目指してほしいところだ。
「〈コマンダー〉の適正もありそうだし、悩ましいところだよな」
2人の記入が終わり、アーリアがカウンターで作業を終えるタイミングで俺も珈琲を人数分カップに注ぎ、テーブルへと並べていく。そして、
「お待たせ~、しました~」
ミィエルとセツナが頼まれたものを、ゆっくりとテーブルの中心に置くのだった。
いつもご拝読いただきありがとうございます!
よろしければ下の☆に色を付け、ついでにブックマークしていただけると励みになります。