第67話 バトルドール創造実験Ⅲ
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「あ~、マスタ~も~、カイルくんも~、ここに居たんですね~」
背後から聞こえるミィエルの声と二人分の足音。警戒するまでもなくミィエルとセツナの2人なのだが、俺とアーリアは2人の事よりも目の前の成果から目を逸らせずにいた。なんせ――
「あれ~? どうして~、ここにギルマ――」
突然言葉に詰まるミィエル。それは俺の悪ふざけを目の当たりにしてしまったからだろう。
ミィエルの視界には、ギルドマスターロンネスの姿をしたバトルドールが一体見えるだけだった。しかし、ロンネスはミィエルの姿が見えるや否や、ゆっくりとローリング・ダンスを始め、背後に控えたもう一体のロンネスドールが顔を出す。これが連続する事あと2回。計4つのロンネスが時間差でローリング・ダンス――俺の世界ではEXI●Eのぐるぐるダンスの方が伝わるか――を披露する。
さらに両手を左右に広げて波打たせてみれば、無機質なおっさんの表情が相まってなかなかに恐怖を伴う絵面となってしまった。うん、子供が見たら泣き出すどころかトラウマになるかもな。一応、ネタにされているロンネスには大変申し訳ないとは、思っているよ?
最も、唖然と固まってしまったミィエルと違い、アーリアは口元を押さえて静かに肩を揺らしている。
あれだ。良く知っているが故に、絶対にやらないだろうと言う認識とのギャップが面白くて仕方がなくなる奴だな。よし、このまま人数は少ないけどダンシングヒーローでも躍らせてみようか?
「主様、お飲み物をどうぞ」
「ありがとう、セツナ」
「新たに4体のバトルドールをお創りになられたみたいですが、全て逐次使役にて操作されているのですね」
視線を向ければ風呂上がりだからか、ミィエルもセツナもタオル生地の可愛らしいパジャマ姿だった。ミィエルは寝る前だからか髪を下ろしており、セツナは肩口で一房にリボンで纏めていた。2人とも可愛いね。
「どうぞ」とセツナから手渡されたお茶で喉を潤しながら、彼女の言葉に頷く。でなければ、ぐるぐるダンスなどのこの世界にない行動をさせられるはずがないからね。
現状はセツナの言う様に、今俺は創造したバトルドールたちをゴーレムと同じように逐一指示を行うことによって使役している。簡単に言えば操り糸のついたマリオネット状態だ。
これはバトルドールとして人工知能を停止することで、魔力によって繋がった俺の思い描く通りに操作する方法であり、TRPG時代では主流となる使役方法――むしろこの方法以外ではほぼ使っていない――で、使役者の行動後に逐一命令を下すことで使役獣として戦闘に参加させていた手法だ。
専用の〈アビリティ〉がなければ使役者より先に行動させることは叶わないルールではあったが、後詰として打ち損じなどの処理に充てることができて使い勝手は良かった。
しかし現実となった今ではそうは問屋が卸さない。確かに思い描いた通りに動いてくれるため、俺自身が動かずに使役する分には問題ない。だが俺が動きながら操作、となると話は変わる。
なんせ常に意識を使役するバトルドールに向けていなければならないし、使役する数が増えれば増える程煩雑さが増す。
何より指示を出した後は、己の判断である程度自動的に行動するバトルドールの良さを殺すことにも繋がるため、汎用性が利くとは正直言えないかな。俺の器用さの問題でもあるけど、戦闘スタイルを考慮してもちょっと使いづらいよね。 後衛として戦闘の大局を見ながら操作する分には良いと思うけどね。
「はっきり言って逐次使役は疲れるだけで、当分使わないだろうな」
「そうですか……」
……なんでそんな残念そうな声色なのセツナさんや?
まさかと思うけど、俺に操作されたかったとか、そんな願望があったりするんですか?
……取り合えず聞かなかったことにしておこう。
「って、カイルく~ん! 本人の~許可もなく~、こ~ゆ~のは――って、はえ? 4体ですか~?」
ぐるぐるダンスから組体操へと操作を変えたあたりでミィエルが復活し、至極当たり前なことを言おうとして目についた疑問を口にする。
そう、ミィエルが口にした通り俺は今、セツナとは別に4体のバトルドールを使役している。アーリアが口にした数よりも多くを使役できてしまっているのだ。
「あー可笑しかった。今後もストレスが溜まった時にでもやってもらおうかしら」
「マスタ~。これは~、ど~ゆ~ことですか~?」
ようやっと笑いの渦から復帰したアーリアに、ミィエルが事情の説明を求める。この状況を齎した犯人はアーリアだと思っているのだろう。半分正解で半分間違いだけども。
「どうもこうも、ただの魔法実験よ? カイル君程の〈ドールマスター〉なんてそうそういないもの。〈ドールマスター〉の代名詞とも言える“バトルドール”が、どれ程の物なのか。確かめるためにも必要なのよ」
「それに~したって~」
困ったように眉尻を下げつつ、ダンスを止めて横一列に並んだロンネス型バトルドール達をじっくりと間近で眺めて「ほんと~に良くできて~ますね~」と声を漏らす。
「それに~、パ~ツごとの~、接合部分を~、〈イリュ~ジョン〉で~隠してるんですね~」
「あぁ、アーリアさんからの話を参考にやってみたんだ。ただ効果時間を考えると、やはり何かしらの【マジックアイテム】が欲しいかな」
ミィエルの言う様に、今回どうしても目立つ繋ぎ目や関節部分に魔法で幻覚を生じさせる〈イリュージョン〉を行使している。おかげでぱっと見はより人間に近づいてはいるが、〈イリュージョン〉の効果時間は凡そ1時間しかなく、効果時間延長の〈アビリティ〉を持っていない俺には1日中魔法を掛けておくことができないのだ。
「それに~、こちらの~ギルマスは~、細いですよね~。まるで~、女性のよ~です~」
「やっぱりわかっちまうか」
「でもこれが限界なのよね。始めよりは大分マシになったのだけれど」
ミィエルの指摘に俺は腕を組み、アーリアは肩を竦める。言われた通り、1体だけ他のロンネス型バトルドールよりも線が細く、衣装で誤魔化し切れない丸みを帯びた多型をしているのがいる。何を隠そうこいつこそが――
「ミィエルが気になったやつは、元が“ジェーン・ザ・リッパー”なんだよ」
「えぇ~!?」
「『元が』と言うより、今もなお“ジェーン・ザ・リッパー”なのだけれど」
――“ジェーン・ザ・リッパー”をロンネスの姿に模ったバトルドールなのである。
「いや~、最初は酷かったですよね。まさか顔面はギルドマスターなのに身体が完全に女性でしたからね」
「あれは実に面白かったわね。冗談でやられたのかと本気で疑ったもの」
感覚的にできると思って創造した結果、顔面はおっさんでそれ以外は女性と言う酷い絵面の“ジェーン・ザ・リッパー”が出来上がってしまったのである。しかも衣装はスーツをイメージしていたにも関わらず、何故かカジュアルドレスになってしまったため、もうそれはそれは酷かった。創った本人が唖然として十数秒思考停止したレベルだ。
ちなみに声も甲高い女性になってしまったため、アーリアは盛大に吹き出し、「是非ロンネスの前で披露してあげたいわ」と、お腹を抱えて気持ちよさそうに笑っていた。頼まれても絶対やらないけどね。
「Lv9の“マローダー・パペット”までは男性体でも創れたんだが、“ジェーン・ザ・リッパー”から強制的に女性体へと変化させられたんだ。今回は凹凸を抑えることでそれっぽく再現してみたんだが、やっぱり無理があるよなぁ」
「“ジェーン・ザ・リッパー(Lv11)”の次は“マーダー・プリンセス(Lv13)”。次も女性を冠するのだから、ほぼ間違いなく高レベルの男性体バトルドールは創れないと思った方がいい、と言う結論に至ったわ」
「ふぇ~。そ~なんですね~」
目を丸くしながらぺちぺちとバトルドールに触れるミィエルに、俺は「左から順番に“キラー・マリオネット(Lv5)”、“アーミー・ドール(Lv7)”、“マローダー・パペット(Lv9)だ」と補足し、それぞれに掛けていた〈イリュージョン〉の魔法を解除して、さらに分かった情報を口にする。
「見ての通りランクが上がるにつれて創造後の見た目は人間に近づく結果になった。当然、“ジェーン・ザ・リッパー”が一番良いわけだけど、女性体でしか創れない以上、男を模したいなら“マローダー・パペット”までとなるね。まぁ〈イリュージョン〉なり〈フェイク・センス〉なりで偽装すればランクは関係ない感じかな」
「はえ~。それで~、カイルくんが~、セっちゃんがいるのに~、さらに4体使役できてるのは~、何故ですか~?」
一通り見比べて満足したミィエルは、最初の疑問を改めて口にする。これに関しては答えが出ている。
「俺が逐次使役できる最大数は4体だよ。それ以上は創造はできても逐次使役することはできなかった。無理にやろうとしたら頭が割れそうなほど痛み出したよ」
5体目を創造して、今の4体みたいにバトルドールとしての思考を停止させて逐次使役しようとしたら、目の前が一瞬スパークして、強烈な頭痛にみまわされたのだ。正直、あれはこちらの世界に来て一番の痛みだったのではないだろうか。
「でも~逐次使役でなければ~、問題ないんですよね~?」
「そうだな」
「はえ~。〈ド~ルマスタ~〉って~、凄いん~ですね~」
頷く俺にミィエルは感嘆の声を漏らす。
ミィエルの言う通り、逐次使役では俺が操作できる使役獣は4体が限界だ。これはバトルドールだけでなく、ゴーレムでも同じことが言えるだろう。しかし逐次使役でないなら、使役すること自体に制限はないのだ。
だからやろうと思えば、10時間ぐらいかけて30体ぐらいのバトルドールを創り、ちょっとした小隊として活動させるようなこともできたりするわけだ。
術者1人で死を恐れない兵士を30名以上用意できる、と言うのは脅威だけども、そんなもん戦争でもない限り普段からやることではないし、個人でやるには出費が多すぎて割に合わないよねぇ。
まぁTRPG時代では考えても実現できなかった、使役獣の可能性を見れただけでも御の字ではあるよね。
「これでバトルドール達が術者本人を攻撃できれば良かったんだけどなぁ」
「そんなこと考えるのはあんたぐらいよ」
「そんなことないと思いますけど?」
ただ残念なことに創造したバトルドール達は皆、術者である俺本人を攻撃対象とすることができなかったのだ。できてくれれば、戦闘訓練で足りない部分を補足出来てよかったのになぁ。
やりたかったなぁ……四方囲まれてでの、射手とセツナ&ミィエルコンビでの模擬戦。絶対良い訓練になったのに。
まぁできないことを憂いても仕方がない。俺は傍らに控えてくれているセツナと向き合う。
「どうなさいましたか、主様?」
ほんのりと石鹸の香りが漂うセツナに思わず、なんでもない、と言いそうになるのを堪える。いい加減この問題も先送りにするわけにはいくまい。正面からセツナと視線を交じり合わせ、口を開く。
「セツナ、思ったことを正直に教えてほしいんだが……俺が〈ドールマスター〉技能を使う上で、セツナは不快感や嫌悪感を感じたりはしていないか?」
目線を合わせて問う俺に、セツナは疑問符を浮かべながら首を傾げる。さすがに質問が曖昧過ぎたかな。次は具体例を挙げながら問うことにする。
「例えば今回のように、新たにバトルドールを使役することは問題ないか?」
「はい。何も問題ございません」
「じゃあ道具や駒のように使い捨てたり、破壊前提の指示をしたり、〈マイン・ドール〉の対象にすることはどうだ?」
俺の質問の意味に明らかな困惑を浮かべながらも、セツナは首を振って否定する。
「問題ございません。あの、何故このような質問をなさるのですか?」
「……簡単に言うとだな。俺の中でセツナと他のバトルドールは『同じ』ではないんだよ」
魔法実験で様々な容姿でバトルドールを創造した結果、当たり前とも言えるがこれらとセツナを同等に見ることはできなかった。
指示を細かく下せて便利だな、と思う以外はどれだけ容姿を拘って気に入ったものにしたとしても、所詮は道具であると再認識したのだ。だから俺はこれらを〈キャスリング〉で身代わりにもできるし、〈マイン・ドール〉で爆発物へと変化させることも問題ない。しかし、
「俺からすればセツナが『特別』だからで片付く話だとしても、セツナからしたら気分の良いものではないんじゃないか、と不安があってな」
「っ!」
セツナからすれば『同族』を捨て駒にされ、身代わりや爆弾に変えられるのは心証として悪いんじゃないか。
「だからもしセツナに少しでも嫌悪感があるのであれば、なるべく使用を控えようと――」
「必要ございません!」
俺の言葉を遮るようにセツナの大きな声が響く。
「主様が不安に思うような気持ちをセツナは持ち得ておりません! 主様は、主様が望まれるがまま、その御力を行使してくださいませ!」
セツナの瞳に揺らぐなど一切ない。俺に気を使って、とか主の意図を汲んで己の意思を殺している――
「気持ちに偽りはないんだな?」
「勿論でございます! セツナを含め、“バトルドール”は主様の望みを叶える為に存在いたします。主様はやりたいようにされればよろしいのです。それがどのようなお考えであろうとも、遠慮は必要ございません。むしろセツナのせいで主様が不自由になるようなことの方が、セツナは嫌でございます!」
――わけでもなさそうだな。彼女の言に、嘘はない。
「主様は、主様の御心のままに、前を向いてくださいませ。セツナは主様だけの従者として、この身が果てるまでお傍でお仕えさせていただきます」
「……そうか。変なことを訊いてすまなかった」
「いえ。主様の御心を、お考えを相談してくださり、セツナは大変嬉しく存じます」
にっこりと微笑むセツナに、俺もつられて笑みが浮かぶ。感謝の気持ちを込めて頭を撫でれば、気持ちよさそうに目を細める。本当、セツナは俺にはもったいないくらいに良く出来た娘だよ全く。
その様子を見てにやにや笑みを浮かべるアーリアが「まるで身分違いの愛の告白みたいね」と揶揄ってくるが、「そうっすね」と軽く流しておく。
「まったく~、カイルくんは~セっちゃんに~、遠慮~しすぎですよ~」
「はは、何分従者を持つこと自体初めてなんだ。大目に見てくれ」
なんせ数日前まではこの世界の住人でなかったうえに、一般市民でしかなかったのだ。従者の扱いなんぞ慣れているわけがない。
まぁこれからはそうも言ってられないから、主として誇れるように努力をしなければならないけどな。
「セツナは、主様の初めての従者なのですか?」
「おう、そうだぞ」
「そうだったのですね」
「よかったね~、セっちゃん~」
「はいっ!」
果たして何がよかったのだろうか? 前任者と比べられることがないから、プレッシャーがかからなくてよかったってことか?
何にしろ〈ドールマスター〉への不安要素がなくせたのは大きい。パーティーに足りない戦力を補うこともできるし、小隊編成してセツナをリーダーとして別動隊を組むこともできることだろう。
戦術の幅が大きく広がったのは何よりだ。
「さてカイル君。不安要素を取り除けたわけだけれど、今日の実験はこのぐらいにしておきましょうか」
「そうですね。良い時間ですし、十分収穫もありました。こいつらはどうします? 一応1日は動きますけど」
「ならあたしの指示に従うようにしてくれるかしら。ここの片付けとかさせてみたいわ」
顔が全員ギルドマスターである以外は通常のバトルドールと変わりない。このまま解除するよりかは、アーリアの小間使いとして使ったらどうだろうと言う意味も込めて聞いてみたら、是非使用してみたいとのことなので4体のバトルドールに彼女たちの指示に従うよう命令しておく。
「じゃあちゃっちゃと片付けしちゃいましょうか」
「カイル君は片付けなくていいわ。それよりも大事なことがあるでしょ?」
自分が使ったものだからと片付けを名乗り出たが、アーリアに【マナポーション】を投げ渡される形で拒否されてしまった。
「セツナちゃんの魔力補給、してあげなさい。それに連続して魔法を行使した疲れがあるでしょう? 明日に備えて休みなさい」
「……では、お言葉に甘えてそうさせてもらいますね」
「では~、ミィエルも~おやすみな――」
「あんたはあたしの手伝いよ」
「えぇ~!? 何でですか~!? もう~、お風呂にも~入ったのに~!」
「カイル君、ミィエルの指示にも従うよう命令をお願い」
「横暴ですよ~!? マスタ~!」
両手を振り上げて可愛らしく抗議するミィエルをアーリアは無視し、俺へ笑顔の圧力を送る。すまないミィエル、と内心で謝罪しながら追加でバトルドール達に命令を出す。
「ありがとうカイル君」
「あ~! カイルく~ん、見捨てるんですか~!?」
やめろミィエル人聞きの悪い。と言うか瞳でセツナに訴えてセツナを仲間に引き込むのはずるいぞ。
「はぁ、馬鹿言わないの。あたしがあんたに話があるのよ。そのついでに指示だしぐらい手伝いなさいってことよ」
「む~……わかり~ました~」
「では、俺はお言葉に甘えて失礼しますね」
「アーリア様、ミィちゃん、おやすみなさいませ。申し訳ありませんが、あとをよろしくお願いします」
「えぇ。おやすみなさい、2人とも」
「おやすみ~です~」
アーリアも最初からそう言えば揉めないのに、と思いつつ、改めて俺は2人に「おやすみなさい」と実験室を後にした。
★ ★ ★
「まったく~、セっちゃんは~愛されて~ますね~」
良い時間であることと、セツナちゃんの補給のために宿泊部屋へと戻ったカイル君達を見送り、あたしとミィエルは彼が残したバトルドール達に指示を出しながら後片付けを行っている。たまにバトルドール自身の判断がつかない場合があるみたいだけれど、ある程度の指示を与えれば思ったように動いてくれるため、正直言って使い勝手はとても良い。妖精族の使役獣よりも断然便利だわ。
さらに使い勝手の良さはランクに比例するようで、やはり“ジェーン・ザ・リッパー”が一番丁寧で細やかな作業をしてくれている。
「本当、バトルドールの為だけに〈ドールマスター〉技能が欲しくなるわね」
「マスタ~なら~、適正ありそ~ですよね~」
「少なくともあんたよりは、ね」
「む~。なんで~、ミィエルは~〈コンジャラ~〉技能の~、適正がないんで~しょうか~」
「あったとしてもセツナちゃんを創れるわけじゃないわよ」
「わかって~ますよ~」
頭ではわかっていても落胆を隠せないミィエルは、重い息を吐いて肩を落とす。
気持ちはわかるわ。正直に言えばセツナちゃんの存在は、あたしたちにとって衝撃であったし、可能であればセツナちゃんが生まれた原因と思しき【藍色の燐魂結晶】をぜひ手に入れたいものだわ。
でも今はそれよりも重要なことは、彼女の主であるカイル君のことだ。なんせ、ただでさえ目立つと言うに、彼は戦闘能力だけでなく魔法技能でも用心しなければならなくなったのだから。
「で、ミィエルは彼の“バトルドール”を見てどう思ったかしら?」
「……最初に~、セっちゃん――まだ~、セっちゃんになる前の~、セっちゃんを見た時から~、思ってましたけど~……危険~ですね~」
今もなお指示通りに動くバトルドールに視線を向けながら、ミィエルは率直な意見を口にする。
「率直に言って~、ジョンの~バトルド~ルへの~、技術をカイルくんが~手にしたら~」
「いえ。今でも十分に彼1人で最恐の暗殺集団を創造できるわね。なんせ幻術なしでこの完成度だもの」
目の前で動く“マローダー・パペット”は、確かに注意してみれば本物でないことはわかるし、変装魔法などを駆使した生身の人間の方が応用力も高い。
しかし後者は本体さえ取り除ければ危険を排除できるが、前者はカイル君を抑えない限り、人形を排除しても、その後一体と言わず徐々に数が増えていくのだ。使い捨ててもMPと素材が続く限り創造できる暗殺者が、だ。
「ゴーレムなんかより、よっぽど脅威だわ」
「はいです~。ほんと~、カイルくん1人で~、国を~落とせますからね~」
本人は無理だと否定していたけれどね。
「カイルくんには~、今後は~、創造するバトルド~ルの~、見た目にも~、気を付けてもらわないと~ですね~」
「ランクもLv7の“アーミー・ドール”までに留めてもらわないといけないわね。彼、抜けてるところがあるから、パーティーの不足部分を補うために魔法を行使しかねないもの」
「……ミィエルも~、注意~しておきますね~」
「そうして頂戴」
ミィエルならあたしの懸念点を伝えておけばうまく動いてくれるでしょう。
あたしたちがお互いの意見を交換している間に片付けを終えたバトルドールが、「ツギハナニヲナサイマスカ、アーリアサマ?」と確認に来たため、「床の掃除をして頂戴」と指示を出す。
掃除用具の場所を伝えれば、4体とも問題なく動き始め、しばらく様子を見て問題ないと判断したあたしとミィエルは、
「終わったらこの場で待機してて頂戴」
「カシコマリマシタ」
最後の指示を出し、実験室を後にすることにした。
改めて知り合いの顔をしたバトルドールが4体、せっせと床掃除をする様にミィエルは微妙な表情を浮かべていたが、
「やっぱり~、欲しいですね~」
「ふふ、本当に便利よね」
同じ考えに至ったミィエルに、あたしは口元を抑えながら同意した。
いつもご拝読いただきありがとうございます!
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