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第66話 バトルドール創造実験Ⅱ

「我が意思に従い、生まれし擬似なる魂。虚ろなる器にて生命の鼓動を刻み、従属せよ――〈クリエイト・バトルドール〉」



 先程と同じように魔力を注ぎ込みながら魔法を展開する。ただし、今回は明確なイメージをしてでの行使だ。

 ちなみに今回は【オプションパーツ】も手っ取り早く選んで組み込んでいる。さっき創った“ジェーン・ザ・リッパー”との差別化でもあるし、俺が戦闘中に逐次使役できる使役獣(ユニット)の数が最大4体と言うのが事実なら、可能な限り今のパーティーで不足している役目を使役獣に負わせたいと言う狙いもあるからだ。


 まぁもしセツナの時と同様に“名”を与えられたとしても、一度は素材に戻ってしまうわけだから、今そこまで考える必要はないんだけどね。



 ゆっくりと形が洗練されていく素材は、既定の時間を経ることにより再び“ジェーン・ザ・リッパー”として俺の前に姿を現す。


 身長は160cm前後。淡い桃色のショートヘアーにぽやっと眠そうな表情。その身はパーカーにミニスカートとスニーカーと言う、この世界ではないデザインの服装。まさに俺が想像した通りの“ジェーン・ザ・リッパー”が目の前に現界した。



「うわぁ、マジで想像通りだわ。すげぇ……」



 思わず素直な感想が口に衝く。さすがにセツナと違い、質感に固い印象が否めない。それでもこの魔法は様々な人間――いや、日本人の夢も希望も叶える最高の魔法ではなかろうか。これで声もイメージ通りなら完璧だ!



「“ジェーン・ザ・リッパー”よ、身体に異常はないか?」


「イエス、マスター。モンダイゴザイマセン」



 うおぉおお! カタコトである以外は声までイメージに近いじゃないか! これはマジで凄いなっ!!


 興奮のあまり「ゆっくりとその場で回ってみてくれ」と命じ、ジロジロと眺めてしまう。関節部はセツナと同様に球体のジョイント。動かしてみてみるも、心做しか硬い印象を受けるな。



「笑ったりはできるか?」


「イエス、マスター」



 口元が弧を描くも、セツナの様な自然な表情とは言えない。頭を撫でたり、頬に触れても反応はこれと言ってない。「何か要望があるか?」と訊けば指示が欲しいの一点張り。

 自由意思はなし。命令通りに動く等身大フィギュア。まさにこの言葉を贈るに相応しいのではないだろうか。

 見た目の都合で口裂き女の姿よりマシだが、現状ではどうあがいてもこの辺りが限界のようだ。



「セツナには程遠いですね。じゃあ次は“名”を――って、アーリアさん?」



 先程から反応がないなぁ、と思い振り返れば、口に手をあてて何やら思いつめたように考え込んでいる姿が目に入る。

 ……なにやらあまりよろしくない雰囲気を感じるのだが?



「アーリアさん? 何か問題が?」


「……ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたわ。今は(・・)気にしなくていいわ。それより試しに“名”を与えてみてくれる?」


「はぁ……」



 「今は」ねぇ。取り合えず実験が終わるまではその辺りは置いておこう。

 さて、名前はどうしようか。一応いくつか案はあるんだけど……



「よし。では“ジェーン・ザ・リッパー”よ、お前に“名”を授ける。お前の“名”は『ナユタ』。カイル・ランツェーベルの従者であるナユタだ」



 キリッと顔を引き締めて眼前の“ジェーン・ザ・リッパー”に名を与えてみたのだが、無機質な目でただひたすらに見つめられた挙句、



「マスター。ワタシノコタイメイハ、ジェーン・ザ・リッパーデゴザイマス」



 素気無く却下されてしまった。うぅ、何となく失敗すると思っていたとしてもなんか悲しみが胸に溢れるなぁ……



「“名付け”は失敗みたいね」


「そうですね。まぁでもMPの事を考えたら2人目3人目まで手が回らないんで、良かったとも言えます」


「ふふ、その割には落胆してるじゃないの?」


「……気のせいです。しかし、なんでセツナだけは“名付け”できたんですかね?」



 原因がわからないのはどうにもしっくりこないんだけど、そもそも俺自身がイレギュラーみたいなもんだから考えても仕方ないのか。

 と言うわけで、考えてもわからんもんに時間をかけても仕方ないので、次に俺の最大使役数を確認する作業へと移行する。



「じゃあ“ジェーン・ザ・リッパー”はアーリアさんの傍で待機しててくれ。アーリアさん、次は何を創造しますか?」


「なら1つ下のランクのバトルドールをお願いできるかしら?」


「となると、Lv9の“マローダー・パペット”ですね。わかりました」



 アーリアの要望に応え、俺は素材となるアイテムを手元に寄せつつ、再び【マナポーション】を1つ呷る。そして3度目の詠唱を開始。今度はどんな姿を想像してみようか、と考えていると、アーリアからもう1つの要望が入った。



「カイル君、可能なら容姿は男性で、可能な限りこの街にいる人間(・・・・・・・・)に近づけてもらえないかしら?」


「……それは構いませんけど、誰でもいいんですか?」


「そうね、できれば『ジョン以外』で頼めるかしら。あれだと比較し辛いのよ」



 アーリアの申し出に俺は頷いて、ジョン以外の人間を模してみることにする。

 “情報屋ワンダーランド”の店主であるジョン・アーサーも俺と同じ〈ドールマスター〉の技能保持者だ。普段から人形を侍らせているし、俺が対面したジョンも本体ではなく人形だった。しかも同じ〈ドールマスター〉である俺に看破させならないよう、何かしらの魔法を付与していたぐらいだ。そう言えばあれ、何の魔法だったんだろうか? 〈セージ〉のレベルを上げた今なら看破できるかな?



「じゃあ取り合えずギルドマスターあたりで創ってみますね。ちなみに何ですが、ジョンさんの人形(あれ)って、同じ技能保持者の俺でも完全に看破できなかったんですが、どんなカラクリですかね?」



 魔法を行使しながら訊ねる俺に、アーリアは「あー、あれね」と呆れた表情を浮かべながら解答をくれる。



「あいつは〈アバター〉なんて高位の魔法は使えないのよ。だから〈イリュージョン〉と〈フェイク・センス〉で違和感を極限まで消しているの。しかも【マジックアイテム】の補助まで使って、ね」


「それ、〈アバター〉習得したほうが絶対楽ですよね?」



 貰った解答に思わず突っ込んでしまった。〈イリュージョン〉は〈コンジャラー〉技能Lv5で覚えられる魔法だからまだいいが、〈フェイク・センス〉は魔法系統2種をLv5習熟した段階で習得できる、〈ウィザード〉技能――そのLv2でようやっと覚えることができる魔法だ。

 〈コンジャラー〉から派生した〈ドールマスター〉Lv4で覚えられる〈アバター〉よりも断然経験値的な道のりは長いのだ。



「そこまでして利点はあるんですか?」


「あるわよ。と言うか、あいつにしかない利点とも言えるのだけど。あいつは複数同時に〈ドール・サイト〉または〈リモート・ドール〉を行使できるの。その特性を活かせば、自分に似せた人形を複数個所で同時に操作可能になるのよ」


「そう言えば、そんなこと言ってましたね」




 本来〈アバター〉を含め、〈ドール・サイト〉も〈リモート・ドール〉は複数の人形に対して行使することができない仕様だ。


〈アバター〉は人形を自身の現身(うつしみ)として創造することで、あたかも自分の身体のように人形を操作することが可能となる魔法。公式でも魂を依り代の人形に移す、と書いてあったから「憑依」に近い魔法なのだろう。当然魂を憑依させるのだから、本体は『気絶』状態となり、無防備になってしまう特徴がある。魂を分割できない以上、どうやったって単独での行使しかできないのは道理である。


 だが〈ドール・サイト〉と〈リモート・ドール〉は、感覚の一部を人形と共有して操作することが可能となる魔法だ。人形から得られる情報は『視覚』または『視覚と聴覚』のみに限られてしまうが、本体を危険にさらすことなく得られる情報としては十分。事実、TRPGでも斥候なしの場面では、人形を操作して敢えて罠を起動させることで安全を確保するパワープレイで活躍していた。

 こちらは〈アバター〉と違い、『気絶』状態にはならない。〈ドール・サイト〉は一度使ったので解るのだが、脳裏に映像が共有される感じで、別段本体の意識が失われるようなことはない。まぁ注意が共有映像に向かう分、本体へ不意を撃たれるとペナルティは発生するだろうけど、〈アバター〉と違い周辺状況が知覚できなくなるわけではないのが利点だ。

 例えるなら日本にあった「ドローン」や「ロボット」の操作に近いだろう。


 そう考えると脳裏に複数のモニターをイメージしてでの操作となるわけだから、〈ドール・サイト〉ぐらいは俺でも複数同時行使ができそうな気もするな。



 それらを踏まえて、TRPG時代でも単独でしか行使できない魔法を複数同時展開できる、という事実は果たしてジョンが凄いのか。それとも現実となったからこそ“ルール”に縛られずできることなのかは、試してみないことには判断できないな。ただまぁ、ジョンが〈アバター〉を選ばなかった理由はわからなくもないかな。 



「自分に似せるかは兎も角として、複数の視点や聴覚を他者に怪しまれずに配置できるのは大きいですね。人間に紛れ込ませるだけでも、情報収集と言う観点から考えれば物凄い効率的ですし」


「弱点がないわけじゃないのだけれどね。人一人で複数の視点をカバーしなければならない都合上、少なくとも応対は勿論、深くまで取り入って侵入することは叶わないでしょうね」


「それでも十分強力ですけどね」



 成程。だからこそジョンは“出歯亀”なのかと納得する。

 話しながらも脳裏にギルドマスターであるロンネスの姿をなるべく事細かにイメージし、それを“マローダー・パペット”へ反映できるよう努めていく。そして必要時間が経過し、魔法陣が弾け俺が創造した“マローダー・パペット”が姿を現す。



「ゴメイレイヲ、マスター」



 “ジェーン・ザ・リッパー”同様傅く、ロンネス・ファミランドの姿をした“マローダー・パペット”。当然人形ゆえの無機質な表情はご愛敬。それでも我ながらよくできた方ではないだろうか。



「どうでしょうアーリアさん。割とよくできてると思うんですけど」


「……えぇ、想像以上の出来よ」


「ですよね。言語がカタコトなのは仕方ないですが、声色も割と似せられてるんじゃないでしょうか?」


「……正直な所、〈ドールマスター〉と言う人種がこの世に溢れていないことに感謝したくなるほどに、ね」



 ぼそっとアーリアが呟いた言葉はよく聞き取れなかったが、まぁ反応からして出来は本当に『上出来』なのだろう。

 ただよくよく見ると、“ジェーン・ザ・リッパー”よりも“マローダー・パペット”の方が、パーツとパーツの継ぎ目などが目立つような気がするな。これは俺の腕が足りていないのか。それとも素体とする“バトルドール”のレベルによって変わってくるものなのか。ここまでくると気になって仕方がないな。



「アーリアさん、本来なら次は“ゴーレム”を創造する予定でしたが、気になることがあるのでさらにもう一体“バトルドール”を創造させてもらいますね」


「それは構わないのだけれど、何が気になるのかしら?」


「もしかしたら“バトルドール”のランクに応じて、再現度に変化があるのでは、と思ったんです」



 思えばこの魔法――〈クリエイト・バトルドール〉は使役獣(ユニット)創造系魔法の中でもとりわけ戦闘能力が低く設定されている。しかし他の使役獣と違い、PCと同様のスキルを習得させたり、より人間に近い存在として言語を介することも可能となっている。

 TRPG時代、この世界の歴史と言う世界観をある程度読んだことはあるけれど、魔法1つの成り立ちについてまでは細かく描写されていることはなかった。

 〈コンジャラー〉だから支援系の魔法を、〈ソーサラー〉だから純攻撃系の魔法が主体となるように、それぞれの技能に役割を持たせてゲームデザインされているだけで、なぜこの技能職がこの魔法を開発したのかまでは記載されていなかったのだ。


 それも当然だろう。なんせ魔法1つの成り立ちなんて作ってたら、それこそそれ1つでサプリメントが出来てもおかしくないうえ、ゲームをする上では別に知ってなくてもいい知識にしかならないのだから。


 でもそれはあくまでTRPGとしてゲームシステムを成り立たせる俺の世界の話だ。現実となった今では、この魔法を開発した存在が何かしらの意図をもっていたのは間違いないのだ。



 もし俺がこの魔法を開発するとなった時、欲しいと思ったものは何か?



「あくまで推測ですが、〈クリエイト・バトルドール〉は元々『人族』に近しいものを作り出したくて創造された魔法なのではないでしょうか?」



 例えばアーリアさんが指示したように、重要な人物の影武者としての役割を演じるために。

 そうでなければゴーレムなどでは行えない細かい作業を手伝わせるための助手にするために。

 もしかしたら、孤独を紛らわせるための家族とするため――ワンチャン理想の伴侶を創るため、とかもありそうだな。



「だからこそ他の使役獣と違い、戦闘能力を優先されていないのかもしれません」



 【オプションパーツ】を使って人にできることを即座に習熟させる辺りが、その時々で必要な人材を補充できるって感じで術式に盛り込まれてそうなんだよね。

 まぁ俺の推測でしかないんだけど、こういう誕生秘話(バックグラウンド)的なものを考えるのもわりと好きなんだよね、俺。



「ですので次は“キラー・マリオネット”で“ジェーン・ザ・リッパー”と同様の容姿で創造してみようかと思ってます」


「レベルが上がるごとに性能が上がるのだから、確かに可能性は高いわね。それだと“ジェーン・ザ・リッパー”で男性体が創れるのかも気になるわね」


「多分いけると思います。取り合えず今は“キラー・マリオネット”の創造をしますね」



 俺は再びギルドマスター似にした”マローダー・パペット”にアーリアの傍で待機を命じ、必要な素材を手に4度目の魔法をノリノリで行使した。


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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