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第62話 大まかな予定とちょっとした嵐

 ケーキに舌鼓を打ち終え、コーヒーで一息を吐くと、向かいに座るアーリアから“歌い踊る賑やかな妖精亭”のエンブレムを差し出された。俺のバッジ型と違い、セツナはペンダントになるようにチェーンがつけられている。確かにこの方がお洒落を邪魔しないし、使い勝手も良さそうだ。



「はい、セツナちゃんのエンブレムよ」


「ありがとうございます! アーリア様!」



 受け取ったエンブレムを嬉しそうに両手で受け取るセツナに、俺は「貸してごらん」とエンブレム受け取り、セツナの後ろに回って首にかけてやる。音符と妖精が象られたエンブレムがセツナの胸元で淡く光を反射する様子は、エンブレムと言うよりペンダントトップとしても芸術点が高いと思う。



「うん、良く似合ってるよ」


「ふふ。これで晴れて、“妖精亭(うち)”の冒険者ね」


「ようこそ~! “歌い~踊る~賑やかな妖精亭”へ~!」


「はい! ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします! アーリア様、ミィちゃん、主様!」



 零れ落ちそうなほどの笑顔を浮かべるセツナに、我慢できなかったミィエルが抱きつき、同じようにエンブレムをペンダントとしているミィエルは「お揃いだね~♪」と仲睦まじい様を周囲に振りまいている。漫画やアニメであればハートマークがばらまかれていることだろう。



「あんなに喜んでもらえると、店主冥利に尽きるわね。本当、なんであんな愛らしい()がカイル君から生まれたのかしらね?」


「はっはっは。俺ほど純粋な男はいませんからね。当然と言えば当然でしょう」


「あら、面白い冗談ね。褒美にコーヒーをもう一度淹れる権利を差し上げるわ」


「ワーイウレシイナー」


「今度はカフェオレでお願いね。ミルクは保存箱(セーフボックス)にあるはずよ」


「……了解です」



 まぁ暴走したミィエルが落ち着くまでにはそれぐらいの時間がかかりそうだし、おかわりを淹れてきますか。


 と言うわけでキッチンに向かってお湯を沸かし、コーヒーを淹れ終える頃にはミィエルも落ち着いていた。サーバーにはブラックを、ピッチャーにはカフェオレを用意し、3人のカップには要望がある方を注いでいく。まぁ俺以外カフェオレだったわけですけど。



「で、カイル君の今後の予定はどうするつもりなのかしら?」


「そうですねぇ……俺自身は〈ソーサラー〉の技能取得をしつつ、最優先として俺自身の魔法の確認――主に〈クリエイト・バトルドール〉の確認をしようと思ってます。〈ソーサラー〉に関してはミィエル(先生)が居ますし、使い魔(ファミリア)があった方が今後とも便利ですからね。俺自身の魔法に関しては、セツナだけが特別(・・・・・・・・)なのか、はたまた俺の魔法が特別(・・・・・・・)なのかを確認しなければなりません」


「そうね。カイル君の扱う魔法に関しては早急に手を打っておいた方がいいわね。色々やらかす前に(・・・・・・)


遺跡や迷宮(ダンジョン)から~、セっちゃんを発見した~って言ったのに~、探索もせずに~増えたら~、困りますもんね~」


「……ははは、そうですね」


「実はセツナちゃん以外にも創れてしまい、気づいたらあんたの創る“バトルドール”で王国が作れるかもしれないわよ?」


「……笑えない冗談ですね」



 どちらにしろ確認しないことには始まらない。願わくば、特別なのはセツナだけでお願いします。



「俺自身はそれらが確認できれば、基本的にアーリアさんの研究を手伝う感じで行こうと思います」


「あら、あたしは助かるけど依頼(クエスト)は受けないの?」


「余程の事が無い限りは受けず、セツナの昇級(ランクアップ)をサポートするつもりです。折角ミィエルとパーティーを組めましたが、魔神将の阻止に決闘(デュエル)と派手に動きすぎたので」



 「すまないがそれでいいか?」とミィエルに尋ねれば、笑顔で了承の意を示してくれた。



「構いませんよ~。ミィエルも~、どうせなら~セっちゃんを含めて~、パ~ティ~で活動したい~ですから~」


「むしろミィエルは2人に追いつくために、一時参加(スポット)での依頼でも受けて鍛えた方がいいんじゃないかしら?」


「あぅっ!? マスタ~、酷いですよ~!」


「ミィエルが望むなら、俺達に拘らず依頼を受けてくれて構わないぞ」


「カイルくんまで~~~!?」



 「よよよ~」とわざとらしく泣き真似をするミィエルに、「本当にミィエルのペースでいいんだぞ」と念を押せば、「や~です~っ!」と頬を膨らませてそっぽを向かれてしまった。



「ミィエルは~、3人で~デビュ~するんですぅ~! カイルくんの~、先生(せんせ~)もあるし~、スポット~なんて~、してる暇はないんですぅ~!」


「と言うより、こんな状況であんたをスポットに誘うパーティーなんていないから大丈夫よ。下手に声かけて怖~い拳士様(・・・)に決闘を吹っ掛けられたくないもの」



 「そ~かもですけど~」とむくれるミィエルに、何とはなしに“希望の天河石(アマゾナイト)”の娘らなら誘ってきそうな気がすると思う俺がいる。



「ミィエルが必要と思うなら俺も手伝うからな? 討伐系の依頼なら面倒事も少ないだろうしな。“ティータイラントドグラス”(Lv15)の群れ――10匹ぐらいずつの群れなら、無傷でいけるだろ」



 単純な物理型が相手なら、ヘイト管理さえミスらなければほぼ負けない。ミィエルとセツナの火力も十二分にあるし、効率よく安全に経験点を稼ぐことができるだろうさ。討伐による経験点は即時入るし、Lv15なら俺も適正レベル帯だ。全員美味しい思いができるだろう。



「移動距離次第だが、狩り自体は1日かからんだろうし良いと思うんだけど?」


「カイルく~ん……」


「ん?」


「そんな~、魔境に~行きたくは~ないですよ~……」


「そもそもどこにあんのよ、そんな魔境。アルステイル大陸(あんたんとこ)じゃ普通なのかしら?」



 ……しまった。ついTRPG(ゲーム)時代の感覚で提案しちまった。しかも俺がPLに腕試しを行う際にやるような――主に化け物NPCの修行と託けて、戦闘がし足りない時にやるような内容だったわ。

 どうすっかなぁ……よし、知らん顔で次の話題に行くとしよう。



「なら俺の先生としてミィエルには数日間頑張ってもらうとして……後はセツナのランクアップなんですが、セツナが1人で受けなきゃいけない依頼ってどんなのがあるんですか?」



 「無理やり話題を変えたわね」とアーリアは笑うと、今この場での追及をする気はないのかEランクの依頼について説明してくれる。



「Eランクの依頼に難しいものはないわ。分類としては《採取》か《討伐》の2種類よ。《採取》なら薬草や毒草を。《討伐》ならゴブリンやボアなどの討伐ってところね。基本的にEランク冒険者の斡旋は、単独(ソロ)徒党(パーティー)問わず、雇用主(あたしたち)の判断で、所属する宿の先輩やギルド職員を監督官として同行させたりするわね」


「ではセツナの場合は主様かミィちゃんにお願いできるのですね」


「えぇ。ただあくまで同行する監督官であって、達成への手助けはできないわ。また長期にわたる内容でないかぎり、その監督官もギルド職員か、別の冒険者に任せるつもりよ」


「そうなのですか?」


「えぇ。対外的に見ても、セツナちゃんが贔屓目なしに昇級(ランクアップ)を目指してもらう必要があるのよ。ごめんなさいね」



 申し訳なさそうに眉尻を下げるアーリアに、セツナは肩を落とすことなく、むしろ胸元で両手を握りしめて「頑張ります!」と気合を入れた。



「“妖精亭”の冒険者として――主様の従者として恥ずかしくないようにいたします!」


「おう。期待しているぞ、セツナ」


「はい! お任せくださいませ!」



 元気とやる気に満ち溢れた返事だ。まぁセツナなら魔力切れさえ起こさなければ何の問題もないだろう。



「取り合えず、決めなきゃならないのはこのなもんですかね?」


「そうね。カイル君の具合次第(・・・・)では方向転換もあり得るけれど、まずはそんなところじゃないかしら」


「ははは。まぁ急ぐものでもないですし、セツナも急いでランクを上げる必要はないからな?」



 個人的には俺もEランクの依頼から熟していきたいところなのだが、まぁ言ったところで優先順位ははるかに下だ。そこはまたの機会にやってみることとしよう。



「折角だ、セツナ自身のペースで楽しんでいこう」


「はい! でもなるべく早く、主様とミィちゃん、2人でパーティーを組みたいので、頑張ってしまうことはお許しください」


「わかってるよ。無理さえしなきゃ問題ない」


「ですです~! 楽しんで~いきましょ~!」



 ミィエルの明るい掛け声で場が締めくくられると、見計らったかのようにドアチャイムが鳴り、



「こんにちは~! おっ届け物で~す!」



 灰色の髪を揺らす、露出度の高い軽装備をした“希望の天河石(アマゾナイト)”のナミ・シーカードと、綺麗なワインレッドの髪を靡かせる甲冑のカナリア・サルマルトが、“妖精亭”の門を開いたのだった。








 ★ ★ ★








 何故このタイミングで彼女らが? と頭に疑問符が一瞬過るも、背後から覗くリルとウルコットを見て「あぁ」と納得する。



「“妖精亭(ここ)”は分かりづらい場所にあるからな。仕方ないと思うぜ、リル」


「違うわよっ! 他人を迷子と即断しないでくれる!?」



 ノータイムの反論に「なんだ違うのか」と思わず落胆する俺。いやぁ、森の民が人口の森とも言うべき街で迷うとかベタでいいなぁって思ったんだけどなぁ。



「第一、今日私と弟だけで訪ねてきてたでしょうに」


「そう言えばそうだったな。なら何で“希望の天河石”の2人に『お届け物』なんて言われてるんだ?」


「だから荷物は私たちの事じゃないのよ。忘れたの? あなたが《決闘》で手に入れたものよ」


「あー」



 そう言えば“希望の天河石”(彼女たち)肉達磨(ガウディ)が所属している冒険者の宿にいるんだったっけ。

 俺の視線に気づいたのか、「そのとおりだよ! カイル君♪」とナミがウインクを飛ばして頷く。



「こう見えても私たちはBランクの冒険者パーティーで、ギルドからの信用もあるんだよ。だ・か・ら、こうしてご要望の物をお持ちしたのんだよん!」



 俺達が団欒していたのとは別のテーブルに、マジックバックから取り出した輸送物をどんどんと置いていく。と言っても、置かれているのは革袋と複数のマジックバッグなのだが。



「これがリルさん達(・・・・・)の払い戻し金、こちらがガウディ=ヨルモナキアから押収した、カイルさんへの譲渡品になります。と言っても、まだ全部の精査が終わったわけではありませんので、現状先渡しできる分だけと言うことになっております」



 「リストはこちらになります」とカナリアから渡された羊皮紙を確認すれば、確かに冒険者が普段から持ち歩いているような内容が多く、Sランクパーティーの冒険者が持っているにしては不足と言えるものだった。気絶から目を覚ましたガウディから、手持ちのアイテムだけ押収したって所だろうか。

 個人的に消耗品で嬉しいのは【魔晶石】と【消魔結晶】のみだな。これらはいくらあっても困るものではないからな。

 ただ、Sランクパーティーの火力役(ダメージディーラー)としては、内容物が随分とお粗末に感じるなぁ。これがこの世界の基準なのか?

 まぁその辺も追々確認していくとしよう。


 俺はカナリアからもう一枚受け取った羊皮紙にサインをし、彼女へ返す。



「確かに受け取りました。今度お礼に行くと伝えてください」


「かしこまりました。これが彼らの仕事ですのでカイルさんがお礼をする必要はないかと思いますが、伝えておきます」


「ありがとうございます」


「そ・れ・よ・り~! カイル君は手に入ったお金とアイテムをどうするつもりなのかな!?」



 身を乗り出して――と言うか、腕を絡めようと身を摺り寄せるナミを持ち前の回避で躱しつつ、「なんの話ですか?」と質問を返す。しかしこの娘はどうしてこう、色香を前面に押し出そうとするのだろうか。

 と言うか、いつの間にか俺の隣で笑顔を浮かべるミィエルは、表情とは真逆の雰囲気を醸し出している。



「ナミちゃ~ん?」


「むっ! カイル君もミィエルちゃんもいけずだよ~! 良いじゃない? 減るもんじゃないんだから!」



 胸を強調するように寄せて抗議するナミ。う~ん、大層な物をお持ちで。ただやるなら後ろにいるウルコット(イケメン)に向かってやってくれ。

 いや、俺としても眼福だし、状況が状況なら鼻の下の1つでも伸びていただろうけどさ。生憎ながら、隣から勢いを増すばかりの不機嫌なオーラが、ただただ俺を冷静にさせてくれるのよね。

 おかげで後ろでくつくつ笑っているだろう、アーリアの気配もわかってしまうぐらいだよ。笑ってないで止めてくださいよマジで。



「ねぇねぇカイル君、貴方もそう思うでしょ? ね?」


「ナミ、いい加減に――」



 ――ゴンッ!! カランカラン♪



 重く硬質な音が床から響き、追走するように入り口のドアチャイムが小気味良く謡う。視線を向ければ入り口の傍でセツナが行儀良く佇んでおり、



「お帰りはこちらになります、お客様」



 ミィエルと同質の笑顔を浮かべていた。



「そんなー! セツナちゃんまでひど――」


どなたか存じ(・・・・・・)上げませんが(・・・・・・)、貴女様にセツナの名を呼ばれる所以はございません。御用がお済みな様ですので、早急にお帰りいただくようお願い申し上げます」



 有無を言わさぬ態度に、さすがのナミも一瞬たじろぐ。その隙を逃さぬようカナリアは彼女の頭に拳骨を落とし、「痛い!」と騒ぐナミは無視して「騒がせてすみません」と謝罪する。



「丁度良いことが重なったために、どうもテンションが上がり切ってしまっているみたいで。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」


「いえ、カナリアさんの所為ではありませんから」



 ナミは元からフレンドリーではあったが、確かに今の彼女は異様にテンションが高い。余程良いことがあって浮かれてしまっていたのなら得心もできよう。



「ただまぁ、揶揄うのは時と場合を考えてもらえると助かりますね」


「言い聞かせておきます。アーリアさんにもご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「気にしなくていいわよカナリア。あたしは(・・・・)楽しんでいたから」


「う~っ! だったら、私達も“妖精亭”に所属させてくださいよアーリアさん!」


「嫌よ、面倒だもの」



 目尻に涙を浮かべながら痛む頭を押してまでアーリアへと身を躍らせるも、まさに一刀の如く、にべもなく斬り捨てられる。と言うか彼女らは“妖精亭”への移籍を希望してたのか。“赤雷亭(トップランク)”の冒険者の宿に所属していると言うに、何が楽しくて研究所へ移籍したいのだろうか?


 ちらりと俺に助け船を求める視線が向けられるが、俺はカナリアへと視線を戻した。



「届け物、ありがとうございました。何か手助けできることがあれば、気軽に相談してください。俺で力になれることがあれば手伝いますから」


「ミィエルも~セっちゃんも~、カナちゃんの(・・・・・・)~お願いだったら~、協力は惜しみません~」


「ありがとうございます。何かあれば、頼らせていただきます。では、失礼いたします」



 カナリアとは友好的に別れを告げ、ナミは彼女に首根っこを掴まれながら“妖精亭”を後にした。

 去り際に「またね!」と言うナミの言葉に返事をしたのは俺だけ。セツナも見送り時にカナリアにだけ「カナリア様、今度はゆっくりお茶でも飲みに来てください」と言う徹底ぶりだ。

 揶揄われてたミィエルは兎も角、セツナは何がそこまでナミを嫌う要因になったんだろうね?



「なんと言うか、嵐のような『人族(ヒューマン)』だったわね」


「本当にな。って、リル。お前は道中も一緒だったんだろう?」


「そうだけど……機嫌が良いなと思ったぐらいで、ここまでじゃなかったわよ?」



 どうやらここに来るまではそこまでじゃなかったらしい。ミィエル(お気に入り)とじゃれられて気分が上がっちまったのかな? まぁいいか。大したことでもないし。



「さて、まぁ取り合えず届いた荷物を分けちまうか」



 そう言えばウルコットの奴はずっと静かだったな、と姿を探してみれば、片手で目を覆って天を仰ぎ立ち尽くしていた。


 ……取り合えずそっとしておこう。


いつも閲覧いただきありがとうございます!


次も1週間以内には更新予定です。


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