第61話 ターミナルの役割
「えぃ!」と言う可愛らしい掛け声とともにミィエルが手を翳す。ただ、掛け声と反比例するようにその表情は真剣そのものであり、「絶対にレベルを上げるんだ」という気迫を感じる。その様子を後ろから眺めるセツナが、「頑張ってください」と祈るように応援の声を呟く。
リザルト自体は気合を入れたところでどうしようもないことなのだが、ミィエルは何をそこまで入れ込んでいるのだろうか?
「あの娘は半年以上――正確には9ヵ月は結果を出せていないのよ。それにあんたもセツナちゃんも二桁レベル、自分が足を引っ張るようなレベルではいられない、って考えてるのよ」
俺の内心に答えるかのようにアーリアが言葉を紡ぎ、俺は大げさに首を振って否定する。
「気負い過ぎでは? ミィエルが足手纏いとかありえませんよ」
「それだけあんた達と本気でパーティーを組みたいのよ」
気持ちは嬉しいけども俺とミィエル、セツナが“パーティーを組む”って言うのは、そんな他人行儀な利害関係的なことじゃないと思うんだけどなぁ。そもそもな話、【狂飆の霊刀】込みで戦闘面において、ミィエルは決してLv8のステータスではない。同レベル帯だったカイル・ランツェーベルと戦うことがあったなら、圧勝できてもおかしくない強さなのだ。
確かにTRPGの頃であれば、パーティーの平均レベルはなるべく揃えておいた方が、難易度調整が容易で好ましく、大きく差がついたとしても±2前後に調節していた。ただしそれは常に手応えのあるボス戦闘――PT最高レベル+1~3程度のボスを想定したためのもの。
TRPG的に考えれば都合よく俺達が動いた先に現れて倒されるので、バランスはとれるのだけれど、現実となった今では問題に巻き込まれる度に都合よく俺の前にLv15以上の敵が現れるようなことはないだろうし、俺のいない所でそんなもんがウジャウジャ動いていたら、強力な冒険者の数どころか国がいくつあっても足りない世界ってことになってしまう。そんなことには恐らくなってないはずだ……なってないよね?
……兎も角、大局的に見てもミィエルの冒険者レベルはむしろ高いレベルだし、その上頭の回転も速く、料理もできて知名度も高く影響力も大きいと来ている。
ぶっちゃけ客観的に見て、戦闘面でしか役に立たない俺より、余程パーティーに貢献できる力があると思うんだけど……
「ま、あんたと一緒だととんでもない奴らと戦う羽目になりそうだし、強くなっておくのは良い事よ」
「さらっと俺を疫病神みたいに言わないでいただけませんかね?」
「ビェーラリア大陸に来てそうそうに魔神将と殺り合った人間が何言ってんのよ」
「…………」
ぐぅの音も出ないとはまさにこの事だ。まさかと思うけど、俺のレベルを基準に様々な問題を仕組まれたりしているんだろうか? ははは……まさか、ね。
「ふぇ? ふあぁ~~!?」
嫌な考えに思考が向かう中、リザルト――もといレコードを確認していたミィエルが、驚きとも歓喜ともとれる悲鳴があがる。そしてそのままこちらに振り返ると、
「やりました~~~~!!」
いつもは展開しない羽根まで露わにしながら、俺の胸へと飛び込んできた。何故!? と思う間もなく持ち前のスピードで飛び込まれたため、蹈鞴だけは踏まないよう意地で受け止める。
「うぅ~~~~!! やったですよ~~~~!!」
「どうやらとてもいい結果だったみたいだな」
「はい~! ミィエルも~ミィエルも~、ついにLv9に~なりました~!!」
俺の胸に埋められていた顔が上がれば、とびきりの笑顔が花開いた。あまりの可愛さに抱きしめそうになるが、鋼の精神力で我慢する。
「おめでとうミィエル!」
「ミィちゃん! おめでとうございます!」
「ありがと~です~!」
俺から離れたミィエルは次にセツナに抱き付き、全身で喜びを露わにしている。
まぁ取得経験点と経験値テーブルを考えても、Lv9に余裕で届くほどもらえているはずだ。むしろ今回の経験点だけでも技能成長を一本に絞れば、Lv8からLv10へは辿り着けるはず。むしろLv9止まりなのが疑問でもある。
恐らく俺と違ってミィエルは適正レベル帯での討伐経験値になるだろうし、俺よりも多くの成長があっても不思議ではないはずなんだが……
「ミィエル、どのレベルが上がったのかしら? まず〈ブレーダー〉は間違いなく上がっているだろうけれど」
「聞いて~マスタ~! 〈ブレ~ダ~〉と~、〈エレメンタラ~〉がLv4に~! それと~、〈ソ~サラ~〉がLv5になりました~!」
ピースサインを向けながらヒマワリの様な笑顔で答えるミィエルに、アーリアもつられて微笑む。セツナを含めた仲の良い3姉妹を眺めながら、俺はついついPLの性なのかミィエルの成長について考えてしまう。
今回の成長から逆算したとして、獲得経験値量は俺と同等かそれ以上。ならば先程考えた通り、Lv10に辿り着くことは可能だったはず。しかしLv10到達より魔法技能のLvアップを優先されている。【狂飆の霊刀】の効果を考えれば悪い選択ではない。
魔法技能職のレベルが上がれば最大MPも自然と増える。これによりミィエルは【霊刀】の効果でさらにDEX・AGI・STRの基礎ステータス三種の上昇が見込まれるからだ。
レベルが上がりづらくなる後半の事を考えると、魔法技能職のレベルさえ上げてしまえば基礎ステータスをブーストできるこの魔法アイテムは破格の能力と言えよう。基礎ステータスの成長ダイス次第では既にAGIは俺と同等の数値を叩き出していてもおかしくない。マジでレベル詐欺の強さだよな。
いっそ最大MP上昇狙いで経験点が安いうちに魔法技能職全てのレベルを2ぐらいまで上げちゃうのもありなんじゃないかな? ただLv11での〈スキル〉も魅力的だし、そこまで経験点の消費を抑えるか、後は手っ取り早く〈エンハンサー〉技能を取得して自己バフの強化もありだよな。
「しかし意外ね。〈ブレーダー〉と〈エレメンタラー〉は解るのだけれど、〈ソーサラー〉のレベルが上がったのが意外だったわ」
「そこまで使ってなかったわよね?」とアーリアが尋ねれば、ミィエルも頷いて返す。
「でも~、カイルくんが~〈ソ~サラ~〉の~習得を目指すなら~、ミィエルも~教えられるレベルに~なってた方が~いいとは思ってたですよ~」
「そう。ならその想いがレベルの上昇に繋がったのかもしれないわね」
「えへへ~。だとしたら~嬉しいです~」
はにかむミィエルに「天使かよっ!」と内心で感涙する。それと同時に申し訳なくも思ってしまう。なんせ俺は技能レベルを上げるのは、ステータスウィンドウを弄れば済んでしまうので、誰かに指示する必要がない。現にステータスを横目で確認すれば、今すぐにでも必要レベルまで上げられてしまえる状態にあるのだ。
「だから~カイルくんは~、ミィエル先生に~、頼ってくださいね~?」
「おう。頼りにしてるぜ」
俺はステータスウィンドウから、今すぐ〈ソーサラー〉技能を習得することを諦め、ミィエルから習うことに決めた。さすがに彼女の気持ちを蹴ってまで効率重視をするつもりはないのだ。でも〈セージ〉だけは上げておこう。とりあえず5までかな。
「〈ディー・スタック〉もミィエルから学べたあんたなら問題ないわね。カイル君、このターミナルはいつでも使えるように開放しておくから、時期が来たと思ったら使いなさい。〈ネクロマンサー〉まで習得したあんたなら、そう時間もかからないでしょ」
「そ~ですね~! キリが良いタイミングで~、こまめにレコ~ドを~、刻んでいきましょ~!」
「ありがとうございます、助かります」
俺は内心の動揺を隠しながら2人に礼を述べる。やっぱり、この世界では技能レベルを上げるのに“ターミナル”を使うことが基本みたいだ。つまり、俺みたいに自分のステータスウィンドウを開いて好き勝手できるのは異例中の異例という事になる。
正直此処に居るメンバーに知られるのはいいけれど、何らかしらでそれ以外にバレたら余計な問題に発展しそうだし、火が起きそうな可能性はなるべくなくすよう注意するとしよう。
「そう言えばカイル君。メイン技能たる〈ソードマスター〉は上がらなかったみたいだけれど、他の技能も上がらなかったのかしら?」
「一応〈セージ〉がLv5までなりましたね。解析系が弱かったので丁度良かったかと。次は上位職なので、どの方向に進むかは考えておこうと思ってます」
「パーティーの弱点を補う、狙ったかのような成長ね。あたしはてっきり〈ハイアルケミスト〉か〈グラップラー〉が上がると思ったのだけれど」
「……何故に〈グラップラー〉?」
ウェルビーもガウディも拳固でボコったからか? でも判定は〈ソードマスター〉でしてたんだから〈グラップラー〉が伸びたりする要素がないと思うだけど……
「ミィエルも~、そう思いました~。ミィエルが知る~〈アルケミスト〉の中でも~、カイルくんの~散財度合は~、トップレベルでしたし~」
「いや、あれぐらい普通だろ?」
特級魔石は兎も角として、一級までなら気にせず割るべきだと思うんだがな。消耗品ケチって抱え落ち、なんてのが一番やっちゃならないわけで。特に〈アルケミスト〉系列は資金力=戦闘能力なんだからさ。
「〈ハイアルケミスト〉は〈アルケミスト〉技能の派生形の中でも消費が激しいものね」
「死ななきゃ安いと思いますけどね」
「それでも~、カイルくんのは~、額が大きすぎです~!」
「う~ん、そうかなぁ?」
これがTRPGと現実の違いだろうか。思わず悩む俺の横でセツナがアーリアに「セツナもこれは使えるのでしょうか?」と訊ねていた。確かにそれは俺も気になるところなので、思考を放棄して2人に視線を向ける。
「正直言ってわからないわ。あたしの予想では7:3で使用可能だと思っているのだけれど」
「試してみてもよろしいでしょうか?」
「お願いできるかしら」
促すアーリアにセツナは頷き、オベリスクの中央に座する水晶へと手を翳す。セツナの手に反応するように水晶は淡い輝きを放ち、俺の目にセツナの前にいくつものウィンドウが表示された光景が映った。しかしウィンドウに表記されている文字はほとんどが文字化けしているかのように何も読めない。いや、最も新しいと思われる項目だけは読める。
【サブクエスト――冒険者となれ:達成(経験点:0)(貢献度:50点)】
《追加報酬項目》
なし
合計:経験点/貢献度――0点/50点
様々な疑問は尽きないが、今一番はなんで俺にも見えるんだ? と言う点だ。セツナはあくまで俺の“魔法”だからだろうか? たとえそうだとしても、フレグト村での戦闘経験や護衛経験に関して含まれない。理由はなんだ? まさか、セツナの名を得たのはその後だから、か?
「セツナちゃん、どう? 何か見えるかしら?」
「はい。その、アーリア様。見えるには見えるのですが、その……ほとんどが読めないのです」
困ったように眉尻を下げるセツナの答えに、アーリアも困惑の表情を浮かべてしまう。自身のレコードが読めないなど、アーリアですら聞いたことがないのだろう。まぁ《魂の記録》なんていうんだから、本人が読めない情報が記載されていることなど、普通ではないだろう。
しかし考えるまでもなくセツナ自体が特別な存在だ。俺の“魔法”でありながら、一存在として意思と感情を持っている。歴史上彼女のような“バトルドール”が存在していなかったのなら、神々すらも予想しえない存在と言うことにもなる。そんな想定外な存在を“ターミナル”が読み解けないのも不思議ではないと思う。
「主様……」
縋るような視線に応えるように俺は彼女の隣に立ち、いつものように頭を撫でる。
「何も不安に思うことはないよセツナ。確かに読めない表記は多いけど、ここ最近の分はきっちり読めるだろ?」
こくりと頷くセツナの反応に「だから大丈夫」と笑顔を返す。
「ちょっとカイル君。カイル君はセツナちゃんのレコードが見えるの?」
「えぇ。俺も驚きましたよ」
「では、主様も――」
「あぁ、セツナが生まれたあたりからしか読めないよ」
指で読める部分を指し示すとセツナは嬉しそうにはにかむ。情報を共有できているのが嬉しいのかな。
「セツナちゃんはあくまでカイル君の“魔法”だものね。だからこそ管理者であるカイル君にも見える、と言ったところかしら」
「断定はできませんが、恐らく」
「読めない部分はどんな言語か心当たりは?」
「少なくとも俺が勉強していた言語には当てはまりません。恐らく言語として確立したものではないと思います」
「どういう事かしら?」
俺の発言に片眉を器用に釣り上げたアーリアに、「あくまで俺の予想ですが」と前置きをしたうえで考えを述べる。
「セツナは俺の魔法から生まれた存在ですが、その構成要素には素材となったエルダートレントも含まれます。この“ターミナル”は〝魂〟に関連する情報を読み解く装置ですよね? だとするならば、セツナを構成する要素であるエルダートレントだった頃の記憶も読み取ってしまったのではないかと」
セツナが本当の意味で生まれた日よりも古い情報なのは読めなくても明らかだ。となると、可能性として考えられるのは素材となった魔物であるエルダートレントの記憶が読み込まれたと言う可能性。
「……面白い考えね。確かにそれなら――」
「ミィエル達では~、エルダ~トレントの~言葉はわからない~ですね~」
「だな。彼らは『人族』の言葉を理解はしてくれるが、彼らが独自に用いている言語をこちらは理解していないからな」
「……これは少し研究してみる価値があるものね」
「盲点だったわ」と研究者の顔で口元に笑みを浮かべるアーリアに苦笑いをしつつ、俺は内心でもう一つの可能性も考える。
それは、俺から名を得て“セツナ”となったがために、別存在となり前の記録が読み取れなくなった、と言う可能性だ。
ただ、この推察はセツナ以上に俺に刺さるからなぁ。検証しようにも俺しか今の所できないだろうし、これ以上アーリアの興味を刺激するとさらに話が横道に逸れそうだから黙っておこう。
「まぁセツナもターミナルが使えることは解ったんだし、わからないことは今後ゆっくり調べていけばいいさ。な?」
「はい!」
「あたしとしては早速連日連夜で調べたいところなのだけど?」
「それは勘弁してください」
今からでも始めそうなアーリアに、げんなりと言葉を返す。
「今後の予定を決めてからでお願いします。それに、セツナがもう少し功績を積んでからの方が、比較するデータも増えますから」
「それもそうね」
「それじゃ~、今後の~計画を~立てるためにも~、おやつ休憩に~しましょ~!」
「賛成」
あっさりと引き下がってくれたことに思わず安堵し、アーリアの気が変わらぬ内にと、ミィエルの提案に賛成して全員で研究室から足を運ぶ。
研究室を抜け、キッチンに辿り着くと、珍しくミィエルから俺に指示が飛ぶ。
「あ、飲み物は~、カイルく~んに~、お願いしますね~!」
「ん? あぁ、コーヒーね。オーケー、任せろ」
「主様の淹れてくれたコーヒー、楽しみです!」
「はは! そんなに楽しみにされるなら、手を抜くわけにはいかないな」
そう言えば2人とも飲みたいって言ってたからな。街を案内する条件にしてたぐらいに。
「じゃああたしはセツナちゃんのエンブレムを準備するから、先にカウンターに行ってるわね」
「ではセツナはテーブルの準備をしてまいります」
「セッちゃん~、おやつは~買い置きのケ~キなので~、お皿も~お願いします~」
「かしこまりました」
ぱたぱたとキッチンからロビーへ向かうセツナとアーリアを見送り、俺は言われた通りコーヒーを淹れるべく湯を沸かす。
「みんなコーヒーでいいのか?」
「はい~。だいじょ~ぶですよ~」
「了解」と返事を返し、湯が沸くまでの間にドリップの準備を整える。湯が沸き、軽く蒸らし終えた後にゆっくりとお湯を落としていく。ミィエルの方はほぼ準備を終えたのか、俺の横に来てコーヒーを淹れる様子を眺めている。
「はやく~、セっちゃんも~、問題な~くタ~ミナルが~、使えるよ~に~なると~、いいですね~」
「ん? あぁ、そうだな。こればっかりは、ある程度の期間を設けて調べるしかないからな」
“ターミナル”が反応した以上使えないことはないだろう。でも、クエストクリアによる経験点など十全に貰えるかはまだわからない。こればっかりはクエストをこなして様子を見るしかないのだ。
「でもまぁ、最悪使えなくても問題はないと思うぜ」
「ふぇ? でも使えないとレベルアップが――」
「出来ないことはないだろうさ」
「――そ~なんですか?」
目をぱちくりと瞬かせるミィエルに俺は頷き、お湯を円を描くように注意深く注ぎながら「例えば」と言葉を続ける。
「セツナだけではなく、俺やミィエルも“ターミナル”が何かしらの要因で十全に使えないとしよう。その場合、俺達のレベルは本当に上げられないと思うか?」
「え~っと~、ミィエルは~今まで~、“タ~ミナル”を使わずに~、上げたことは~ないですね~」
だからできないのではないか、と頷くミィエルに、俺は必要以上のお湯が落ちないようにドリッパーを外し、カップに均等になるようにサーバーからコーヒーを注ぎ、続ける。
「ミィエルの言う通り、“ターミナル”を使えないとレベルが上がらないとするならさ。“ターミナル”が存在しない場所では、どうやってレベルを上げているんだろうな? 例えばフレグト村にもそのような施設はなかったんじゃないか? もっと言ってしまえば野生動物や魔物――例えばドラゴンなんかは、どうやってレベルを上げているんだと思う?」
「あっ……」
俺の言わんとしていることに思い至ったのか、ミィエルは目を瞠る。
確かにTRPG時代であれば、1つのシナリオが終わり、『リザルトフェイズ』を行わなければ、余程の理由や都合がない限り経験点が配られることはなかった。“ターミナル”もほぼ同じ役割を果たしている以上、【クエストクリア】による経験点は“ターミナル”を通さない限り行われないことだろう。
しかし現実となった今、TRPG時代とは異なっている点を俺は既に確認している。それは魔物等を討伐した際に得られる経験点だけは即座に配られていると言うこと。そして俺自身も、レベルを上げるだけならば“ターミナル”は必要ない。つまり――
「レベルを上げる方法は他にもある可能性は高いってことさ」
たとえセツナが“ターミナル”の恩恵を受けられずとも――成長する方法はあると言うことだ。
「……考えたことも~、なかったです~」
「ま、俺も今さっきそう思っただけなんだけどな。何となく、できそうな気がするだろ?」
にっと笑みを浮かべてミィエルを見れば、彼女も驚きながらも頷いてくれる。
「どちらにしろ焦らずゆっくり調べるしかないさ」
そもそもな話、俺達と同じようにセツナもレベルを上げられるのか、誰もわからないのだ。まずはその辺りから、ゆっくりと着実に調べていけばいい。別段切羽詰まっているわけではないのだから。
「はい~♪ 頼りに~してますね~。カイルおに~ちゃん♪」
「っ、はは。任せとけ」
「お任せしました~! では~、おやつに~しましょ~!」
いつもの調子で、ケーキの載ったトレーを手に軽やかな足取りでロビーへ向かうミィエル。
俺はと言えば、一呼吸おいてから淹れたてのコーヒーを手に彼女の後に続いた。
なんせ不意打ちとも言える、信頼を全乗せしたかのようなミィエルの微笑み。その笑顔が普段よりも大人びて見えて……
不覚にも動揺してしまった俺がいたのだった。
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