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第59話 追加報酬とロマンの”妖精亭”

更新が大変遅くなって申し訳ありませんでした!

仕事と暑さにやられてました。クーラードリンクがほしい……

「任務完了承認ってまだされてなかったんですか? てっきり報酬を頂けていたので、もう済んでいるものかと」



 TRPG時代では所属する冒険者の宿に結果報告をする時点で報酬が支払われ、任務完了(クエストクリア)となる。その辺りの細かい手続きはゲーム進行上必要としないため、GMもPLも場面カットすることが、俺が参加する卓では多かった。その代わりセッションエピローグのRPには、結構力を入れたりしていたけども。


 現実となった今でも手続き上は変わらないように思えたので、俺はてっきりアーリアに報告した時点で終わっているものと思っていた。

 そう思っていたからこその言葉なのだが、アーリアは「今回は特別よ」と前置きをし、説明を受けるために俺とセシルは再度ソファへと腰を沈める。



「本来であればカイル君の言う通り、承認はあたしが報告を受けた時点で完了するわ。でも、今回の件に関しては通例にないことが多かったこと。後に判明したドロップ品(お土産)が想定以上の代物だったことも考えて、後発組の捜査結果も踏まえ、適正評価が下るまで保留のままにしてあるのよ」


「それはなんというか、ありがとうございます」



 冒険者なんて報酬が多くてなんぼの仕事だ。報酬を適正よりも低く見積もられないために尽力してくれる彼女は、冒険者にとっては女神に等しい事だろう。依頼者としては高くつきそうだけど。



「……私としては仕事を回しづらくて扱いに困るのだがね」


「あら? 正当な評価と報酬があるからこそ、この街の冒険者人口をここまで増やせたはずだけど? ねぇ、ロンネス?」


「わかっている」



 「はぁ」と大きく息を吐くと、改めてロンネスは俺とミィエルに向き直る。



「改めて追加報酬の話をしよう。金銭のやり取りでも構わないのだが、少なくともカイルはそれ以外の報酬の望むのではないかね?」


「うーん、そうですねぇ。個人的にはロンネスさんには今回無理を言って協力していただいてるので、これ以上の報酬は過剰かと思ってはいるんですが……」


「ダメよカイル君。何度も言うけれど、あんたの為したことはそんな軽いものじゃないのよ」


「いえ、まぁ軽いものじゃないことは理解しているつもりなんですが……」


「ならしっかりと受け取りなさい。あんたは騎士だったから(・・・・・・・)違和感があるのでしょうけど、冒険者なら慣れなさい。他国のあんたが、この国を危機から救ったと言う事実は変わらないのだから」


「その通りだとも。セツナの件は個人的な問題ではない。協力するのは我々としても理があることであり、人族社会の為でもあるのだ。君が気にすることではない。故に遠慮する必要はない」


「そう言うことでしたら――」



 さて、想定していなかった提案が来たために顎に手を当てて考える。正直金銭のやり取りがもっともあとくされなく楽でいいんだけどなぁ、または、可能であればアルステイル大陸についての情報が欲しいところだけど……ここで別大陸の話なんて前振りが無さ過ぎて怪しすぎるよなぁ。

 と言うよりこの追加報酬は、俺の嘘をより強固にしておく必要がある、と言うアーリアからのメッセージかな?

 となると――



「でしたら、未探索の遺跡や迷宮を優先的に紹介いただけませんか?」


「ふむ。では新規迷宮等発見した際には優先して情報を回すとしよう」


「ありがとうございます」


「ミィエルはどうするかね?」


「う~ん……ミィエルは~、国選依頼(セレクション)などの~、強制や~指名依頼の~、参加選択権が~ほしいです~」


「ふむ……」



 俺はセツナの同族を探す、と言う名目を守りつつ新たな魔法アイテムや魔剣を入手できる可能性を。

 ミィエルは冒険者ランクが上がれば上がるほど、参加義務が発生するような依頼への対処方法を対価として求めることに。



「ミィエルの求めるものは個人かね? それともパーティー単位かね?」


「も~ちろん、両方ですよ~。期間は~、セっちゃんの~ランクが~、Cになるまでで~かまわないので~、」


「……仕方あるまい。君たち主力が参加できない時期に、問題が起こらないことを祈るとしよう」


「ありがと~です~。ギルド~マスタ~♪」


「じゃあ後は承認だけね」



 追加の報酬も決まり、アーリアは手で弄んでいたカードを器用にテーブルの上で滑らせ、ロンネスの手に渡らせる。ロンネスも受け取ると、カードに指を奔らせて同様にテーブルの上を滑らせる。



「確かに。じゃ、帰りましょ」


「ギルマス~、また~今度~です~」


「ロンネス様、お世話になりました」


「ロンネスさん、いろいろとありがとうございました」


「構わん。君たちの今後の活躍に期待させてもらうさ」



 口元に笑みを浮かべるロンネスに礼を言い、俺達は応接室を後にした。






 ★ ★ ★





 応接室を出た俺達は、1階ロビーでは改めて注目の的になってしまったため、仕方なしに“妖精亭”に戻ってきた。

 【決闘申請書】の件については、別段急ぐものでもないのでギルド職員が暇なときにでも聞くつもりだ。

 しっかし《決闘》前と比べると、俺へと向けられる視線の質が明らかに変わったとはいえ、居心地が悪いことには変わりなかったなぁ。まぁ、ミィエルとセツナは大変満足そうに笑顔を浮かべていたからいいけどさ。



「さてあんた達。ロンネスからの承認も得たし、ちゃっちゃと魂の功績(レコード)を刻みましょうか」


「待って~ました~ですよ~!」



 店に戻り次第発言したアーリアに、ミィエルは身体全体で喜びを露にする。どうやらとても楽しみにしていたことらしいのだが、果たして“レコード”とは一体何のことだろうか?



「主様、れこーど? とは一体どのようなものなのでしょうか?」


「すまんなセツナ。俺もわからん」



 主としてわかりやすく説明してあげたかったところだが、俺も良く知らないんだ。ただ俺の言葉に反応したのはセツナではなく、アーリアとミィエルだった。



「えぇ~!? カイルくん~、冗談~ですよね~?」


「いや、まったくわからん」


「……あんた、これに関しては冒険者でなくても知ってて当然の事よ?」



 え? そんなに知ってないとまずいやつなん? しかも冒険者じゃなくても知ってなきゃいけないって……

 思わず顔の筋肉が引き攣るが、知らないものは知らないのだから仕方がない。TRPG時代に“レコード”なんて単語、確かなかったよな?



「……すみません、心当たりがありません」


「あんた、今までどうやって冒険者やってきたのよ……」



 いや、そう言われましても……

 レベルは高いけど冒険者としては完全な初心者(ルーキー)です、と言って信じてもらえるわけもないわけで。



「あ~っ! もしかして~、アルステイル~大陸だと~、言い方が~違うんでしょうか~?」



 ぽんっと手を叩くミィエルに、アーリアも顎に手を当てて考え込む。



「神々が造ったシステムが大陸ごとに呼び名が変わるなんてあるかしら?」



 神が造ったシステムって言うと、やっぱりゲーム時代のシステム面と同じってことか? 承認を受けてすぐってこと、記録(レコード)って言い方からして、その人物が為した業績等のことを指しわけだから――もしかして……



「まぁ実際に目にすればわかるんじゃないかしら。何もわからないまま、Lv13(このレベル)まで来たわけじゃないでしょうし」


「ですです~♪ ミィエルも~、今回は~、楽しみなんです~♪」



 「こっちよ」とアーリアは先導するようにカウンター奥へと足を進め、ミィエルもるんるん♪ と軽い足取りで後を追う。俺もセツナと視線を交わし、2人に続いていく。


 キッチンスペースのさらに奥、保管庫とは別にある扉を潜れば、そこは地下室とはまた別――研究室と言った様相の部屋へと通される。

 思えば俺が初めて“妖精亭”に訪れた時も、アーリアはカウンター奥から顔を出していた。ここが1階でのメインとなる研究室なのだろう。間取りは思ったよりも広い。本当に冒険者の宿がおまけだと思える間取りと言える。ただ乱雑に置かれているアイテムたちが視覚上手狭に感じさせてしまっているが。

 だがしかし、この乱雑に置かれているアイテムの数々が俺の興味を殊更に刺激してくれる。正直に今すぐ見たい。あ~、あの投擲アイテムっぽいの気になるなぁ……



「カイルく~ん、目が~珍し~物を~、見つけた時の~マスタ~と~、同じです~」


「自分の知らないマジックアイテムとか心躍るだろ?」


「そ~ですか~?」



 訝しげな視線を向けてくるミィエル。

 ミィエルよ、冒険者なら未知なるものに心躍らずしてどうするよ? しかもTRPGにはなかった魔法を開発する研究者のアイテムだぞ? 俺としては迷宮で排出されるマジックアイテム以上に興味がそそられるよ!



「ふふ、研究に協力してもらう時にでも見せてあげるわよ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


「その代わり納得するまで付き合ってもらうわよ?」


「望むところです!」


「アーリア様、セツナも微力ながらお手伝いをさせていただきます」


「えぇ。期待してるわ」


「セっちゃんは~、研究協力よりも~、まずはランク上げですよ~」



 ミィエルの言うとおりである。ただ時間いっぱいを昇級に費やすわけじゃないから、空いた時間はセツナにも手伝ってもらう予定だ。なんせ俺の〈ドールマスター〉技能が活きるか死ぬかはセツナ次第とも言えるからな。〈キャスリング〉に関しては確認取る前に模擬戦で使っちゃったけども。



「……まぁその辺も後で計画を立てないとな」



 話ながらアーリアが研究室の壁際――本棚に収められている本をいくつか押すと、脇の床がスライドされ、地下への階段が現れる。そして下った先は、青白い輝きを放つ2mはあろう結晶のオベリスクが3柱と、それらの中央に位置する水晶の乗った台座が鎮座していた。宿の地下にこのような厳かで神聖な雰囲気の部屋があるなど、果たして誰が想像できようか。

 なんと言うか、“妖精亭”はロマンが敷き詰められてるよなぁ、なんて現実逃避染みた思考に行き着いても誰も文句は言わないのではないだろうか?


 しかしこの装置、な~んかルールブックのイラストで見たことがあるような気がするんだよなぁ。でも何だったか全く思い出せないんだよね。

 薄っすらと残っているカイルの記憶にも該当するものがない以上、完全に俺としてはお手上げである。



「……あんた、本当に知らないの? 魂と功績の祭壇(ソウルターミナル)は、この世界に住む人々がレベルを更新したり、適齢期を迎えた人々が【加護】を授かるために必要な施設よ?」



 俺の表情から思い当たる知識がないと判断したアーリアが、装置名と説明をしてくれる。それでも表情が晴れない俺に、他の皆の表情が曇っていく。



「もしかして~、こっちの~大陸に~来た時の~、魔法の影響でしょうか~?」


「可能性はなくはないわね。だとしたら、他にも日常生活には影響ない範囲で忘れていることがあるかもしれないわね」


「主様……」



 心配そうに思案する2人と、俺の袖をぎゅっと掴んで不安げに見上げるセツナの表情に罪悪感が掻き立てられる。


 こっちの世界での知識はないけど、TRPGでの知識に、このオベリスクと“ソウルターミナル”って単語は頭の隅で引っかかってるんだよ。状況的に考えて間違いなくエンディング後に行われるアレだと予想できるんだ。だけどどうも思い出せない。なんせ世界観の設定――つまりはフレーバー部分の事で、かつゲームで遊ぶ上では知らなくても問題ない部分だったから、俺自身真面目に読み込んでないんだよ!

 あぁもう! こう、喉元までは出かかってるんだけど……だめだ。諦めよう。


 気持ちを切り替えた俺は、大丈夫だと言い聞かせるようにセツナの頭を撫で、



「心配をおかけして申し訳ありません。でも、今のところ困ることは少ないですし、大丈夫です」


「……この大陸に転移させられた記憶もないのに、それ以外もって……不安ではないの?」


「うーん、記憶のあるなしに関して不安はないですね。俺自身、常識的に知ってなきゃならないことがどんなことなのか忘れちゃってるんで、不安になりようがないですし。なにより――アーリアさんにミィエル、セツナと頼れる人が居るんで何も問題ないです」



 にっと笑顔を浮かべて断言する。

 元々この世界の住人でない以上、知らないことがあって当たり前。知らないならこれから知っていけばいいだけの話。ただそれだけの事だ。



「なんで先生方、今後もこっちの常識等をセツナと一緒に教えて頂けますか?」



 俺の言葉に目を丸くした2人は、一息を置いてアーリアは呆れたように笑い、ミィエルは慎ましい胸を叩いて頷いた。



「もっちろんですよ~! ミィエル先生(せんせ~)に~、お任せです~!」


「ま、確かに不安に思ったところで仕方のない話だものね。いいわ、じゃあ早速ターミナルの使い方から学んでいきましょうか。生徒諸君」



ノリ良く二つ返事をくれた2人に、俺とセツナは揃って「よろしくお願いします」と頷いた。


いつも閲覧いただきありがとうございます!

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