第58話 決闘の後処理と冒険者認定
なかなか更新ペースが上げられず申し訳ありません。がんばります。
「で、では~、お茶のおかわり~淹れてきますね~」
ロンネスの入室と同時にミィエルはぴゅーっと逃げるように入り口とは反対方向の扉を潜っていく。恐らく給湯室なのだろうが、なぜあそこまで慌てる必要があったのだろうか? と言うかお茶も別になくていいような……
「……ミィエルはどうしたのかね?」
「気にしないで。美味しいお茶を淹れにいってくれただけだから」
「そうか。なら期待するとしよう」
ニマニマしながらロンネスへ何でもないように告げるアーリア。実際、大したことではないんだろうけど――
「ひゃ~~!?」
扉の奥で盛大に何かが倒れる音が響き渡る。久しぶり――と言うか、俺が“妖精亭”へ訪れた時以来のドジっ子ムーブ。あれ? お茶を入れるならお湯を使うわけだから……ミィエルは大丈夫だろうか?
俺と同様に心配の表情を浮かべたセツナが「ちょっと手伝ってまいります」と、口にするのは自然な流れではなかろうか。
「……ミィエルも当事者だ。戻ってから話を進める故、よろしく頼む」
「セツナ、頼んだ」
俺とロンネスの了承を得たセツナが給湯室へ消え、それから戻ってくるまで10分ほどの時間が経過していた。
その間俺達は何をしていたかと言えば、ロンネスは執務を行い、アーリアはのんびりとソファで寛ぎ、俺はと言えばやることもないのでステータスと経験値の具合を確認していた。まぁお茶を勝手に入れに行ったミィエルもだけど、この人たちも大概自由だなぁと思う。
「お待たせして~、ごめんなさい~」
「てへへ~」と苦笑いを浮かべたミィエルと、落ち着いた表情のセツナがお茶とお茶請けを手に戻ってくる。
「随分盛大な音をたててたけど、怪我はないかミィエル?」
「だいじょ~ぶですよ~。ちょ~っと~、慣れない~キッチンで~、躓いただけ~です~?」
「心配ございません主様。いくつか茶葉と食器を床に落としただけでしたから」
「ま、それぐらいは必要経費よねロンネス? うちの娘のお茶が飲めるんだから」
「その程度のことで責めたりはせん。ミィエルに怪我がなければそれで良い」
「ありがと~ございます~。ギルドマスタ~」
俺の中では慣れないキッチン? で 躓いただけです? となぜ疑問形? とか思ったが、誰も何も言わないので俺もスルーにしておく。
改めてお茶とお茶請けを配り終え、ロンネスが対面に座ることで本題が開始される。
「まずは謝罪を。ザード・ロゥに来たばかりだと言うのに、冒険者の暴走に巻き込んでしまった。本来なら我らギルド職員が止めなければならぬこと。2人には迷惑をかけた。すまなかった」
「いえ。《決闘》を受ける判断をしたのは俺自身ですのでお気になさらず」
むしろミィエルが仕組んだ《決闘》でもあるので、ギルド職員にはこちらが迷惑をかけたかと思うんだけどなぁ。
「まぁAランクとは言え、一介の冒険者如きに職員が気圧されるのはいただけないわよね。それも【最上位決闘申請書】まで持ち出すなんて、ここ数年なかったことよね」
「あぁ。まったくもって情けない限りだよ」
深々と嘆息するロンネスに、「まったくね」と同意するアーリア。実情を知っていながらも堂々たるもので、アーリアは情け容赦もありはしない。まぁその辺の事情は俺にとっても他人事なので口出しはしないが、1つ気になることはあるので質問をすることに。
「そう言えば“最上位”なんて名前が付くぐらいですから、他の決闘申請書もあるんですか? 可能であれば階級ごとに何がどのように違うのかもお訊きしたいんですけど」
「……カイル。君は、何も知らないまま《決闘》を受託し、【最上位決闘申請書】に名を連ねたのかね?」
「えぇ、まぁ。それを差し出されましたから」
俺の言葉にロンネスは片手で額を抑えるように俯き、アーリアは本当に愉快そうに「流石カイル君」と肩を揺らしている。いやね、内容はサインする前に読んだけどさ。反応から察するに大分やらかしたんだろうけど、残念ながら詳しくは何も知らないし、仕組んだミィエルは教えてくれなかったんだけども?
ミィエルに視線を向ければ、目が合った途端に視線を逸らされてしまう。じーっと視線を留めれば、心なしか顔が紅潮していってるように見える。これはあれか? 悪戯がバレたことへの視線へ恥じている的なあれか?
取り合えずミィエルは答える気がないことだけはわかるので、視線をロンネスへと戻すことに。
「ふふ。妙味のある手だったでしょう?」
「……そう言うことになるな」
妙な納得をする2人だが、俺としては頭に「?」が出続ける内容だ。もしや内容も読まずにサインしたと思われてるのか?
「申請書の中身はしっかり読ませていただいたうえでサインしましたので、俺としては内容に異存はありません。あの申請書は【契約と制約の神・フルールシパーレ】の名で魂が縛られる契約の役割があるんですよね?」
「その通りだ。故に強制力が最も強く、反故にしようものなら最悪、魂ごとこの世から神罰によって消されることとなる」
つまりはキャラクターロストとなったわけか。今は現実だから本当の意味での“死”となるわけだね。
……怖っ! 『厳罰が下される』とかあったけどもっと軽いものだと思ってましたよ俺!?
いやー、知識もなく契約書にサインはしちゃいけないね! それは日本でもこのLOFの世界でも同じだ。気を付けよう、マジで……
「故に本来なら【最上位】はギルドマスターである私が立会いの下、サインまでしなければならないほど危険なものだ。ギルド職員ならば誰もが知っていることであり、ましてや多勢に無勢で囲んで強要するなど言語道断。それ故に私は君に謝らねばならぬのだ」
まぁキャラロスがかかってるとなれば当然だよな。確かにこの謝罪はしてもらったうえで受け入れておかねばならぬことだろうさ。
「そう言うことだったんですね。わかりました、謝罪を受け入れます。それと、安易にサインをした俺からも謝罪を。すみませんでした」
「では互いに解決したこととして次の話に移させてもらおう。【決闘申請書】に関しては後程、再学習の意味も兼ねて他の者から説明させる故、今は控えるが構わないかね?」
「はい。構いません」
あくまで【決闘申請書】に関しては俺の知識欲でしかないので、別に急ぐものではないので了承の頷きを返す。
「ではまず今回の《決闘》での契約内容の確認だ。勝者であるカイルは、敗者であるガウディが所有する財産の全てを取得し、緊急時を除く今後一切のミィエルとセツナへの接触を禁ずる。これで間違いはないな?」
「ちなみに『緊急時』ってどういう時を指すんですか? 下手すると会話してきただけで厳罰が下るんですよね?」
この辺の線引きはどうなっているのかは確認しておかなければならないところだ。日常生活で接触しないようにするのは大変ではないが、例えば“紅蓮の壊王”と何かしらの理由で共闘となった場合、主力であるガウディとミィエルが危機勧告しただけでガウディがロストする――なんてことになったら、笑おうにも笑えない。
「ギルド発行の高難度任務や、国選任務など複数のパーティーが入り乱れる様な場合は除外される。また突発的な魔物の大量発生などに出会ってしまった場合の対処中も問題なく除外されるな。要約すれば、日常生活を除く緊急性を孕んだ場合はある程度融通が利くと思ってもらえば良い」
成程、思ったよりも融通が利くんだね、神様の契約って。確か【契約と制約の神・フルールシパーレ】は『秩序』の勢力に属する神だけど、立ち位置としては『中立』だったりするから、互いの勢力を削り合うような策謀に関わってない分、自分の力で契約を行使した対象を観察する暇があるのかもしれないね。
世界観設定的に、勢力争いに主軸を置いてない神族って割と暇そうだし。
「逆を言えば日常的にストーカー行為を行う、などの契約反故行為をすれば、いずれ魂ごと消滅するってことよ」
「【最上位】であるこの契約は、使用している冒険者ギルドの本部が認可した上で、フルールシパーレ神殿の最高司祭が神へ審判を仰ぐこととなる。その結果が良好でもない限り、解除することはまず不可能だと思ってもらって良い」
つまりこの契約は実質個人での解除は不可能ってこと――あぁ、成程。だからこそ妙手だったわけか。
俺の納得した表情にアーリアはニヤリと笑う。
「カイル君の想像どおりよ。《決闘》自体は冒険者同士のいざこざを解決するうえで珍しくもないわ。ただあんたに挑むとなれば自然と【最上位】まで持ち出される可能性が高い。となれば、余程でない限りあんたに挑もうなんて気を起こす輩は、いないわよね?」
俺自身は知らなかったとは言え、他の冒険者からすれば俺が無知だったことは知りえない。俺と言う存在は彼らの中で、格上相手との《決闘》に迷いなくサインする冒険者となっているはずだ。
元々今回の《決闘》後に甘く見られないために、冒険者の命とも言える財産全てを没収するって条件付けにしたけど、【決闘申請書】のおかげでそれ以上の効果を与えることができたようで何よりだ。
と言うか、ミィエルはここまで計算した上で相手と環境を用意していたわけで……うん。味方で本当に良かったよ。
「話を戻すが、ガウディの財産の件だ。まず彼が今現在所持している装備一式、【マジックバッグ】全て、“赤雷亭”にて保管されている金銭・アイテムをカイルへと贈与する形となる。これらの判断は冒険者ギルドに一任することになっている。また彼の財産と言える中で、パーティー共有とされているものは除外させてもらうが、構わないね?」
「はい。その辺りの判断はお任せします。あぁ、日常生活を送る上で必要な最低限の衣服等は残してあげてください」
さすがに野郎の使用した服や下着などはいらないしね。装備として効果があるものなら売却するけどさ。
「彼の所属するパーティー、または宿の店主が装備だけでも買い戻したいと願いたい場合はどうするかね?」
「そうですね……そこは適宜ご相談でお願いします。彼の持つアイテムからこちらが不要な物であれば、適正価格で売却いたします」
「では買い戻しに応じることは可能と伝えておこう。これらは精査の後、リスト化して“妖精亭”へと運ぶこととしよう」
「よろしくお願いします」
ここまで話、一度ミィエルが淹れてくれたお茶で一息をつく。例え冷めても美味いのが、ミィエルの腕だよなぁ。
さて、俺が一番気になっている本題をお聞きするとしよう。居住まいを正し、聞く姿勢を整える。
「次にセツナの件だが、冒険者の登録は私の名の下に許可しようと思う。ただし、今回の件に関しては様々な要因を孕むため、彼女の身元保証人として私を初めとし、アーリア、ミィエルを身元保証人として。カイルは連帯保証人として登録を行うものとする。また彼女にはEランクから地道に実績を積んでもらおうと思っている」
「セツナと同じ種族が今後冒険者として活動可能か、そのモデルケースにするためですか?」
「その通りだ。だからパーティーを組むのであれば、可能な限り君たち以外の者と組んでほしいとも思っている。暫定としてCランクに上がるまでは、で構わない。ただし魔力補給の事を考え、“監督官”として同行するのは構わないものとする」
「“監督官”っていうのは、言うなれば新人を育成するための指導員のことね。任務に同行はするけど、命の危険が及ばない限り、手助けはしないことが多いわ」
「元々Eランクはあくまで冒険者としての簡単な適性を図る意味でも必要だ。魔力補給が必要になるほど、遠出するわけではない故、セツナのレベルであればそのぐらいは単独でもこなしてほしいと思っている。無論、同ランクの冒険者とパーティーを組む分には問題ない」
俺が疑問に思う部分はアーリアが即座に補足し、ロンネスも俺とセツナが納得できるよう説明をしてくれるため、すんなりと頷くことができる。おかげで俺もセツナも不満などない。あるとすれば、「む~」とむくれるミィエルくらいだ。
「それじゃ~、すぐに~パ~ティ~が~、組めないじゃ~ないですか~!」
「Cランクに上がれば問題ないのだ。我慢したまえ」
「ぶ~ぶ~!」
「カイルもセツナも構わないな?」
「えぇ。問題ありません」
「はい。問題ございません」
「パーティーを募集するようであれば、ギルドホールにて募集を掛けると良い。“妖精亭”には最低でもCランクしかおらぬからな」
ミィエルの反応は完全にスルーしてロンネスは進めていく。まぁ駄々こねているのはミィエルなので間違いではないのだが。
「ロンネス様、セツナの冒険者登録を認めていただき、感謝いたします。またご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
「俺からも、よろしくお願いします」
ソファから立ち上がり、頭を下げる俺達に満足げに頷き、「話は以上だ」と切り上げるタイミングで、アーリアが「ちょっといいかしら?」と口を挟む。
「なんだねアーリア?」
「ついでだから追加報酬の件と、任務完了承認、しちゃってくれるかしら?」
右手で金属製のカードをひらひらと弄びながら提案し、ロンネスも「そうだな」と頷くことで、俺とセツナも再びソファへと腰を下ろすのだった。
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