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第56話 決闘Ⅱ(決着)

予約投稿の日付が間違ってました。すみません。

 気持ちが良いくらいにこめかみに踵がねじ込まれる感触を無視し、着地と同時に態勢が崩れた相手を、後ろ回し蹴りで鳩尾に突き放すように蹴り飛ばす。

 先制成功からの【ソードスパイク+1】による2連続攻撃。一方は防具のない頭へ、一方は鎧に覆われた腹部へ攻撃し、ガウディのHP減少度合いを確認する。




側頭部へのダメージ→名:ガウディ=ヨルモナキア HP:75/91 MP:13/13 状態:怯み(小)


鎧上からの鳩尾へのダメージ:ガウディ=ヨルモナキア HP:63/91 MP:13/13 状態:仰け反り(小)




 ふむ。出目自体は把握できないが、少なくとも防具を纏ってない頭へのダメージの方が当然大きいようだ。ただガウディ自身のDEFは「12」点ほどあるだろうから、装備による威力等を考慮すると、防具のない頭はDEFの値を素直に適用されていない気がする。あーくそ! 出目が見えれば予想できるのに!!


 念じたら見えるようになったりしないだろうか……ないか。

 こちらの蹴りで3歩ほど蹈鞴を踏んだガウディの軸足に力が戻ると同時に、【インペリアルハルバード+1】が唸りをあげて振るわれる。しかし蹴とばして距離を空けているため、一歩下がるだけで薙ぎ払いを躱す。


 さて、一応ガウディの命中力(HIT)を鑑みるに、偽装している俺の回避力(AVD)との基準差は凡そ「4」点だろうか。しかもこいつ、〈アルケミスト〉技能を低レベルでも取得しているにも関わらず〈スタンハウル〉を取得していない脳筋ときている。まぁおかげで回避し続けられても不思議ではないので俺としては大変ありがたいのだが……大した命中力もないのに〈スタンハウル〉を覚えない理由がわからない。


 まぁこいつの成長(ビルド)などどうでもいいか。



「……剣を抜け腰巾着」



 振り抜いた槍斧を構え直し、底冷えする殺気を携えながら「剣を抜け(本気を出せ)」と告げるガウディ。



「まさか剣も抜かず、この俺に負けた時の言い訳にする気か?」


「馬鹿言え。お前程度に(こいつ)を使う必要がないだけだ」



 何言ってんだお前、と全身で呆れを表現する。



「第一、剣を抜いたらお前を殺しちゃうだろ? それじゃあ敗北の記憶がなくなっちまうじゃねぇか」



 蘇生を行った場合、間違いなく前後数日間の記憶は消えて曖昧になってしまう。それじゃあ俺は有言実行できなくなってしまう。何より、こんな頑丈な人間(サンドバッグ)相手に様々な実験が行えるのだ。その機会を簡単に潰してなるものか。



「腰巾着がっ!!」



 青筋が額に浮かび上がるほど怒りを露わにするガウディに、俺は不敵な笑みを浮かべて魔法を行使する。



「――〈アイス・エンチャント〉」



 【ソードスパイク+1】と俺自身の両手に属性バフを付与し、ダメージ「3」点と命中「1」点を上昇させる。そのまま〈スピードブースト〉と〈ソニックムーブ〉でAGIを「18」点上昇させ、ゆらりとガウディと距離を詰める。

 ガウディも怒りを戦闘意識へと昇華させ、自身に強化バフを仕込んで死をまき散らす威力を纏った攻撃を繰り出す。ロンネスの蘇生保障がある所為か、まったく遠慮がないね。まぁ当たることはないけど。


 轟音を纏って俺の身体を千切ろうとする槍斧を掻い潜り、リバーブローからのガゼルパンチで顎を打ち抜く。〈アイス・エンチャント〉により冷気を纏った拳は、殴った箇所に軽い凍傷を負わせていく。TRPG(ゲーム)では単純に水・氷属性付与とダメージを上昇だったが、現実となるとこのように追加ダメージみたいに現れるのだとよくわかる。



「ぐおぉおお!」


「っと!」



 うまく取り回して拳の距離から攻撃を繰り返すも、ガウディの攻撃は俺に一切当たる気配を見せない。顔面への攻撃を警戒し始めたので、次は膝裏を狙ってローキックでHPを着実に削っていく。

 唸りを上げ、ガウディの裂帛の気合が乗った凶器が俺に迫るも、全てが目の前を、頭上を、真横をただ通り過ぎていく。当たれば脅威(・・・・・・)の攻撃を躱しつつ、その都度拳と蹴りをお礼にプレゼントする。

 〈アイス・エンチャント〉の効果をある程度確認出来たら、次は〈ファイア・エンチャント〉へ。炎を纏った拳と蹴りでさらに知りたいことを検証していく。


 彼の攻撃は俺に届くことはない。ただ風を切り、振り下ろした刃が大地を砕くのみ。その代わりと言わんばかりに俺の拳と蹴りだけが突き刺さる。



名:ガウディ=ヨルモナキア HP:38/91 MP:4/13 状態:火傷



 そろそろ、か?


 拳と槍斧を交えて既に十数合。ガウディは〈エンハンサー〉技能の〈ライフ・リカバリィ〉でHPを回復していい感じで耐えてはいるものの、既にジリ貧なのは目に見えている。それは観客の目にも明らかで、多くの観客が現在の結果に目を見張っている。

 Sランクパーティーに所属するAランク冒険者が、Bランクになりたての新入りに手も足も出せていないのだから無理もない反応だとは思う。


 正直に言わせてもらえば、俺の意見としては勝負に出るのがあまりに遅い。本来なら、数合の打ち合いでこの結果になるのは予想がついたはずだ。ミィエルに敗北してから努力し、Lv10まで上り詰めた冒険者がそんな判断を見誤るとは思えない。


 いや、むしろ俺の攻撃力を念入りに確認したのかもしれねぇな。最後の詰め(・・・・・)を見誤らないために。


 果たして予想はガウディの行動で示された。今までとは気迫が違う、腰の入った上段の構え。荒々しい殺気が静まり、凍えるような冷たさを発する。次の一撃で決着を付けようと言う――必殺の構え。

 ほぼ間違いなく〈チャージⅠ〉と〈捨て身カウンターⅠ〉、そこに〈撃滅の加護〉を乗せた一撃が俺へと放たれることだろう。

 だからこそ、俺は笑みを浮かべてガウディへと間合いを詰める。


 ガウディの間合いへと入った刹那、振り下ろされた槍斧をさらに加速した踏み込みで掻い潜り、ガウディの斜め後方へ回り込んでからの炎を纏った【ソードスパイク+1】での延髄蹴り。

 完璧な手応えが振り抜いた足から身体へと伝わった――その瞬間。



「オアアアアアッッ!!!」



 態勢を倒しながらも振り下ろした【インペリアルハルバード+1】を切り返し、振り向きながら薙ぎ払われた刃が――俺の右腹部から深々と、左胸部を斬り裂いた。








★ ★ ★










 誰もがカイル・ランツェーベルの死を脳裏に浮かべた一撃。胴体が真っ二つに割れ、血と内臓をぶち負けながら死を直視する場面が嫌でも想像されることだろう。

 直感的にこの一撃は俺の(HP)を奪うに値すると確信する。まぁ俺の身体を真っ二つにする攻撃なんだから即死なのは間違いないんだけども。


 スローモーションに映る視界には、勝利を確信したガウディの笑み。ぐるりと視界を動かせば最前列で応援してくれているミィエルとセツナ、リルとウルコットの姿が目に映る。

 リルは口元を手で覆い、ウルコットは何かを叫ぶように身を乗り出している。果たしてここから俺の表情が見えるのかはわからないが、俺は心配するな、と笑みを浮かべる。


 身体を異物が駆け抜けていく気持ち悪い感覚と共に、俺は用意していた魔法がしっかりと発動していることを確認する。どうせならこの感覚も身代わりに受けてほしかった。

 ガウディの槍斧が俺の身体を抜けると同時、



「よっと」


「っ!?」



 俺は身体を捻って回転させ、驚愕の表情を浮かべたガウディの顔面に右の踵を振り下ろす。

 しかし腕でガードされ、振り払う勢いで反撃を繰り出されたため、俺は一旦ガウディから間合いを取ることを選ぶ。このまま止めを刺しに行ってもよかったんだが、安全マージンはしっかりとっておかないとな。



「なぜ……なぜ生きている?」



 驚きを隠せず、震えた声でガウディは問う。さすがにその問に俺は眉を顰める。相手の情報を調べる時間は十二分にあったはずだが、それすらしなかったのかこいつは。

 これがこの街のトップ冒険者層なのかと思うと心配になる。いや、もしかしたらパーティーメンバーにその辺りを任せきりなだけかもしれない。って俺が心配することじゃないな。



「それぐらい自分で調べろよ肉達磨。Aランクなんだろ?」



 丁寧に答えてやる必要はないが、今からの俺の行動が大きな答えになることだろう。

 〈ファイア・エンチャント〉を解除し、俺は雑囊から手のひら大のぬいぐるみを1つ取り出す。前から試してみたかったのだ。〈ネクロマンサー〉技能を除く、俺の持つ単体攻撃魔法の中でも威力が高いこの魔法――〈カース・ドール〉を。


 俺の行動に顔色を変えたガウディが間を詰めようと試みるが――遅い。



「闇を司る聖霊よ、我が昏き想いを触媒を賭して彼の鼓動へと刻み給え――〈カース・ドール〉」



 右手に魔力が集約し、靄を放つ黒いナイフを象る。実に呪い属性を連想するに良い形だと思う。そのナイフを左手に持ったぬいぐるみに向けて、俺は勢いよく突き刺した。

 ぬいぐるみが黒い靄に包まれ、灰となって崩れ、呪いの効果が発動する。俺の魔力(MATK)とガウディの抵抗力(RES)なら余程出目が悪くなければ抜けるはずだが――突き刺したナイフに激しい抵抗を感じた。

 彼に視線を向ければ、口元に血を滴らせながら雄たけびを上げ、必殺とする槍斧を振り下ろさんとする。HPを見れば残り「2」点。意地の抵抗(レジスト)といったところだろうか。


 半身をズラして躱し、振り下ろされた刃が地面を砕いたところを踏みつける。槍斧を押さえた足を軸とし、



「お疲れさん」



 カウンター気味に上段回し蹴りを首へと叩き込こまれ、白目を剥いて膝から崩れ落ちるガウディに――観客席から様々な悲鳴が上がった。


いつも閲覧ありがとうございます。

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