第53話 一方その頃ミィエルとカイルは
更新スピードが徐々に落ちてきて申し訳ありません。そろそろ戻せるよう頑張ります。
飲み物が切れたタイミングでロンネスがセツナと対話したいとのことで、俺とミィエルは確か給湯室を目指して応接室へ向かうために出たはずだ。なのだが、
「ふ~ふふ~~ん♪」
「ミィエルさんや」
「は~い~?」
「ご機嫌な所大変申し訳ないのだが、何故俺達は腕を組んでギルド内を練り歩いているのかな?」
周囲から様々な視線を集めながら、ミィエルは俺を案内する、と言う名目で建物の中をただ練り歩いていた。
ギルド職員――女性陣からは驚きや暖かい視線が送られ、職種問わず男性陣からは驚愕と殺意の視線が仰山突き立てられている。
流石は冒険者ギルドに集う者達だ。腕自慢達から向けられる嫉妬の殺意は、脳裏に本当の死を幻視する程に鋭い。それもミィエルに向かわないよう、しっかりと殺意の波動が放たれているのだから感心してしまう。
多分腰抜かすレベルの殺気を中てられてはずなんだけど、視線や殺気に慣れてきてしまっていて、恐怖も何も感じてない俺がいたりする。俺ってばこんなに適応能力高かっただろうか。
「だって~、まだカイルく~ん。ギルドホールの~、案内してもらって~、ないですよね~?」
「これで来たのは2回目だからね。ただいいのか? 一応セツナの面談のために席を外しはしたけど、10分で戻るなら茶を入れたらすぐ向かうぐらいじゃないと間に合わないぞ?」
「え~? カイルくん~、本当に~紅茶を淹れて~戻るつもり~だったんですか~?」
「勿論。正直ミィエルが淹れてくれた紅茶の方が、出された紅茶より断然美味いからな。話し合いが終わったタイミングで飲めたら幸せだろ」
「えへ、えへへ~♪ カイルくんは~、ほんと~にミィエルを~、喜ばせるのが~うまいですね~♪」
ミィエルは腕を絡めたまま、器用に崩れる表情を止めるように両頬に掌を当てるも、にやけている顔を全く隠せていない。それどころか余計に身体をくっつけてくるもんだから、ギルドホールでイチャイチャするただのバカップルになってしまっている。おかげで刺さる視線の激しさは鰻登りだ。
あぁ、わかる、気持ちはわかるとも。俺もお前らと同じ立場だったら「爆発して死ね!」ぐらい思うことだろう。まぁ思った所で露骨に殺気を飛ばすような真似はしないと思うけど。
「やっぱり~、周りの目が~辛いですか~?」
俺を心配そうに見上げるミィエルは、申し訳なさそうに眉尻を下げるも、さらに俺へぎゅっと身体をくっつけて言葉を続ける。
「でも~、もうちょ~っと~、付き合って~もらえませんか~?」
「構わないよ。この程度の視線は痛くも痒くもないからね」
聡いミィエルの事だから、考えがあっての行動なのは間違いない。恐らくパートナーであることを内外に示す以外の狙いもあるんだろう。
まぁ俺としては、可愛い女の子に抱き着いてもらえると言う役得があるので、ミィエルの思惑に乗ることはやぶさかではないのだ。
そんなわけで、ミィエルとイチャイチャしながらギルドホール内を実際に案内してもらっていたのだが――
「おいそこの新顔! てめぇいい加減にしろよ!」
「ん?」
1階の案内を一通り終え、ギルド受付カウンターが一望できるメインロビーに戻ってくるタイミングで、俺たちの前に3人の男性冒険者が立ちはだかった。
1人は兜なしの金属鎧を着用し、腰に片手剣を佩いた戦士風の男。もう1人は革鎧を着用し、投擲も可能な短剣を複数本ベルトに携えた軽戦士風の男。最後は黒のローブと三角帽子をかぶった魔術師風の男だ。彼らは殺意を隠そうともせず、俺を睨みつけて「てめぇのことだよ!」と恫喝する。
「すみません、『いい加減にしろ』とはどういうことですか?」
「ミィエルさんから離れろって言ってんだよ!!」
まぁ恐らくそう言うことだろうとは思ったけどさ。ちゃんと最初からそう言うべきだと思うぞ? 後、断じて俺からミィエルにくっ付いてるわけじゃないので、離れてほしいならミィエルを説得してほしいものだ。
「ミィエルさん! 貴女は騙されているんだ! 早くその手を放してくれ!」
「そんなどこの馬の骨ともしらない男は貴女には相応しくない! さぁ、早くそいつから離れて!!」
そうそう、それが正解。しっかし、物凄く必死に声をかけてくるなぁ。最後のやつなんて、まるで魔物の近くにいる幼い子供を呼ぶようにミィエルに手を伸ばしている。俺は近づいちゃならない猛獣か何かか?
「……という事らしいぞ?」
「嫌で~す!」
もうくっ付きようがないぐらい抱きつくミィエルの姿に、所々から悲鳴が上がる。さすがは“ザード・ロゥのアイドル”様だぜ。段々反応が面白くなってきちゃったんだがどうしてくれる?
「それに~、勝手な~言い掛かりは~やめてください~。ミィエルは~、ミィエルの意思で~、カイルくんを選んだんですから~」
「ですがミィエルさんはAランクの冒険者だ! どんな不正を働いたかは知らないが、いきなりBランクになるような得体のしれないやつの傍にいるべきじゃない!」
おいおい、その発言はどうかと思いますよ? 俺のランク査定はギルドマスターであるロンネスさんが直で判定を下したんだから、それに異を唱えるってことはギルドマスターの決定にケチつけることになるんだぜ?
ギルド職員たちが聞いてる中での発言だ。君自身のためにも撤回すべきだと思うぞ。
「さすがに今の発言は撤回しといた方がいいのでは? 俺の評価を下したのは他でもないギルマ――」
「うるさい黙れぽっと出野郎! つべこべ言わず離れやがれ!!」
ついには堪え切れず、戦士風の男が物理的に俺とミィエルの引き離そうと手を伸ばしてきた。
だめだこりゃ……
俺に突っかかって来る分には放置してたけど、さすがにどさくさに紛れてミィエルに手を出そうとするのは見過ごせない。
ミィエルを庇う様に半身を前に出し、即座に空いている手で伸びてきた腕を払う。払った手を相手の目元に翳し、視界を潰した所でバランスが崩れた相手の足を払う。
抵抗なく綺麗に決まった足払いに受け身も取れず、金属鎧と床がぶつかり合う硬質な音が響き渡る。一拍遅れて残り2人が戦闘態勢に入ろうとするのを睨むことで止め、ミィエルに「大丈夫か?」と確認する。
「大丈夫ですよ~。カイル君が~護ってくれましたから~♪」
「ならいいんだ。さて――」
足払い、綺麗に決まったなぁ。これってなんの判定になるのか凄い気になるんだけど。多分【ソードスパイク+1】による命中判定になるから、基準は〈ソードマスター〉技能なのかな? 転倒効果付属の〈スキル〉なんて持ってないから、受身判定はできたはずだが、致命的失敗でも引いたんかね?
気になるけどその辺は後回しにし、未だに転倒状態で呻く男に手を差し伸べる。
「転倒させただけだからダメージは大してないと思うんですが、起き上がれませんか?」
「ぐっ……うる、せぇっ!」
差し伸べた手を払うそぶりを見せるが、焦点が定まってないのか力なく腕を振のみ。頭でも打ったんかなぁ? はぁ、やれやれ。
面倒なので腕を掴んでそのまま力任せに立ち上がらせる。ついでに解析判定を行使し、彼がLv4の〈ファイター〉であることを確認する。凄いね。このレベルでLv9に突っかかってこれるのが。思わず勇気に敬意を表したくなるよ。
「ほら、しっかり立ってください」
「てめぇ! ミィエルさんとケインから手を放しやがれ!」
「えー……」
この期に及んで仲間の心配よりもミィエル優先するって、どうなん? いや、まぁ転倒させただけだから心配しようがないんだろうけどさ。それでも仲間を大事にしないのはいただけないだろうよ。
立ち上がらせた男を喚く2人組の方へ押しやり、視線をミィエルに向ければ「もう少しだけ~」と視線で訴えられた。この事態をミィエルが望んでいるのは解るんだけど、一体何を狙っているんだ?
「ミィエルさん! 貴女は固定パーティーを組まないことで美しく咲き誇っていたじゃないですか! なぜ今になってそんな奴とパーティーを組むのですか!?」
「そんなの~、カイルくんと~、組みたい~って~、思ったから~ですよ~」
「なら俺達のパーティーに参加すべきだ! 以前だって俺達のパーティーに一時参加してくれたじゃないか! そんな新顔よりよっぽど貴女をフォローできる!」
今度は俺達の背後から声が上がる。解析したところ、目の前の三人組よりはレベルは高いみたいだが、残念ながらミィエルをサポートできる程じゃない。
「フォロ~できるって~、言いましたけど~、貴方達のフォロ~をしてたのは~、ミィエルの方ですよ~?」
「確かにあの頃はそうでした。ですが今なら――!」
「いいやそれなら俺達のパーティーだって!」
「ダメよ! 私たちのパーティーこそ相応しいわ!」
誰かが声を上げれば、途端に波及し様々なパーティーが声を揃えて「うちに来てほしい!」とミィエルに声を掛け始める。その勢いは衰えを知らず、静観を決めていたギルド職員たちが、徐々に慌てて鎮火しようと走り始める程に。
拙いなこれは。段々収集がつかなくなってきてないか?
騒ぎは広がる一方で、いつの間にやら「ミィエル獲得競争が始まっている」なんて話にまで発展し、ギルドホール内にいなかったパーティーすら参戦。場は混乱の極みと化そうとしている。
ギルド職員たちが涙目になって奔走していて、思わずその場で頭を下げたくなってくる。
「ミィエル、これ、少し落ち着かせないと拙いだろ?」
「う~ん、だいじょ~ぶですよ~? でも~、カイルくんが~そう言うなら~」
任せて、とこの事態の元凶であるミィエルが笑顔を浮かべると、「皆さ~ん」と鈴を転がすような声を上げる。それだけでギルドホールが静かになり、満足そうに頷いたミィエルは続く言葉でさらに彼らの口を閉ざしてしまう。
「口論するのは~いいですけど~、少なくとも~単独で~ウェルビ~に~、勝てるぐらいの~実力を~、つけてくださいね~?」
「―――――――」
Lv9の〈テイマー〉を単騎で倒すことが基準とは、なんとも高い基準なことで。
ぶっちゃけただの私闘だったけど、あの時は実質3対1での戦いだったからな。レベルもさることながら、基礎身体能力値も高くなければ難しいことだろう。
視線を下げて黙ってしまった一行を見て、俺はひそかな疑問を口にする。
「つーかさ、そんなにパーティーが組みたいなら――“妖精亭”に所属すればいいんじゃないか?」
俺の何気ない一言。しかし誰もこの意見に賛同するものはいない。むしろ人によっては歯が砕けるんじゃないかってぐらい、悔し気な表情を浮かべて俺を睨んでくる。あれ? 俺何かおかしい事言ったか?
「カイルくん~、それは~ほぼ無理だと~、思いますよ~」
「何で?」
「マスタ~は~、別に~、宿の経営に~興味~ありませんし~、何より~力のない人の~、面倒を見るのが~嫌いですから~」
言われて直ぐに納得する。思えば俺が初めて顔出した時も「低能はいらない」って言ってたもんな。
アーリアにとって必要とするレベルなのかはわからないけど、思えばこれほどミィエルを欲しがる人間がいるのだから、所属する宿を変えようとしたパーティーがいても不思議ではない。しかしそれが叶っていないところを見るに、玉砕してしまった人間が大半なのだろう。
宿の経営よりも研究優先。研究の邪魔をされたくないアーリアにとって、多くの冒険者を抱える事態は避けたいわけだから、必然と狭き門になるわけだ。
「アーリアさんの眼鏡に適う人がいなかったわけか」
コクリと頷くミィエルから視線を外せば、誰一人として名乗りを上げるようなことはなくなっていた。ただ俯き、悔しそうにするだけだ。
その中でちらりと見知った女性冒険者たちがこちらに小さく手を振っているのが見えたので、苦笑いを浮かべる形で返答しておく。
「むぅ~! カイルく~ん?」
「ミィエルだってパーティーを組んだ仲なんだろ? それで、目的のものは見つかったかい?」
「たぶん~、そろそろだと~思う――」
「なんだなんだこりゃあ! 揃いも揃って冒険者として恥ずかしくねぇのかよっ!」
拡声器でも使っているんじゃないかと思うほどの大声がギルドホールを駆け抜ける。同時に小声でミィエルが「釣れました~」と笑みを浮かべて呟いた。
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