表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/136

第52話 主なき三者面談

 カイル君とミィエルが応接室を後にし、彼の代わりにあたしはロンネスへと向き合う。



「それで、セツナちゃんと何を話したいのかしら? もう既にこの()が“特別”なのは確認できているでしょ?」


「まぁそうなのだがね。私としては身近なサンプルとしてジョン()がいるからね。ギルドマスターとしても、手を抜くわけにはいかんのだよ」



 明確に名を告げていないにも関わらず、ジョン(変人)の事だとわかり、思わず顔を顰めてしまう。言わんとすることは解らなくもないんだけど、セツナちゃんと比較すること自体が可哀そうでしょうに。アレがどれだけ凹んだとしてもどうでもいいのだけれど、セツナちゃんと比べられたら、ジョンの人形(あの子達)が可哀そうよ。


 あたしが罪もない人形たちへと思いを馳せていると、「アーリア様?」と袖をちょいちょいとセツナちゃんが引っ張っていた。カイル君にもよくやっている所を見るに、彼女の癖なんでしょうね。



「心配してくださってありがとうございます。ですが、セツナは大丈夫ですから」



 こちらを心配させまいと笑顔を浮かべるセツナちゃん。袖を引くと言う幼い子が良く行う仕草、花が咲いたようなこの笑顔。ミィエルとは違うベクトルで、セツナちゃんも相当の人気を攫うことでしょう。カイル君もいろんな意味で大変ね。


 セツナちゃんの声に「知ってるわよ」と答えてロンネスとの会話を任せることにする。



「ロンネス様。セツナは何をお答えすればよろしいのでしょうか? セツナが答えられる範囲でお応えさせていただきます。ですが主様の不利になるような発言は致しかねますので、そのあたりはご容赦いただければと思います」


「ははは。勿論答えられぬものは答えずとも良い。ただ私は君の人となりが見れればそれで良いのだ。立場の違いなど気にせず、君は君が思ったことを言ってくれればそれで良い」



 ぬけぬけとよく言うわね、と思いつつあたしは行き過ぎた質問がない限り静観する、とソファに深く腰掛けることで示す。

 ロンネスからセツナちゃんへ向けられた質問は当たり障りのない世間話のようなものから、カイル君の内情に深く切り込むようなものなど様々なものが投げかけられた。


 「好きなことはなんなのか?」「やってみたいことはあるのか?」「カイルとはどんな人物なのか?」「冒険者としてどうなっていきたいのか?」「彼は実力をかくしているのではないか?」「君はどのように生み出されたのか?」「君のコアとなる部分はどういったアイテムなのか」などなど。


 セツナちゃんは質問の内容を吟味し、取捨選択を間違えずに答えていく。勿論、知識にない部分は答えられず、「不勉強で申し訳ありません」と謝罪の言葉も口にする。

 セツナちゃんの心臓部に抵触する内容には流石に口を出そうと思ったのだけれど、セツナちゃんがこちらを見て「大丈夫です」と頷いたので、あたしは大人しく成り行きを見守るに留まった。



「この街を、君はどう思うかね?」


「……実のところ、セツナは批評を下せるほど街や国を回ったことはございません。この街も、セツナはまだ訪れて浅く、全てを見回れたわけではございせん。ですが、ミィちゃんに案内していただいた際に目にした光景は、とても賑やかで優しいものでした。老若男女問わず、種族問わずに笑顔を浮かべられるこの街は、大変素晴らしいものだと思います。この街の暖かさは、街に住む人々の努力によって築かれたものなのでしょう。主様がこの街を拠点としてくださって、心から良かったと思っております」


「そうか。では最、後の質問だ。君の契約者であるカイル・ランツェーベルが、この街と敵対するならば――君はやはり主と共に行動するのかね?」


「……」



 ロンネスからの、最後の最後でストレートすぎる質問。カイル・ランツェーベルがこの街に仇なすのであれば、セツナちゃんも同様に敵対するのか、と。取り繕って答えるのなら簡単な質問ね。首を振って否定すれば良いのだから。でも、ロンネスはそんな答えを求めていないでしょう。


 ロンネスの射貫くような直線の視線。セツナちゃんは一度瞳を閉じて息を整え、見開いた瞳は真正面からそれを受け止める。



「まず、『主様と行動を共にするか』と問われれば、答えは当然『はい』でございます。セツナは主様の唯一の“従者”でございますから。ですが、主様はただ付き従うような従者を必要とされていない、とセツナは判断いたします。ですのであり得ない事かと思いますが、万が一にも主様が間違った判断を下されるようであれば――セツナは主様に進言し、諫めさせていただくこともあると存じます」


「カイル・ランツェーベルが君にこの街の人間を殺すように命令したとしても、か?」


「それこそあり得ません。断言させていただきますが、主様からこの街に住む無関係の人々を脅かすような命令は絶対に致しません。もしこの街に住まう人へ危害を加える命令を下されるとすれば、それは主様――ひいては主様の大切なものへ危害を加えるような、愚者への制裁のみでございましょう。勿論、その際にはセツナもご一緒させていただきますし、可能な限りそのような事が無いよう、主従共々心から祈っております」


「では、我々もそうならないよう努力するとしよう」


「はい。よろしく御願い致します、ロンネス様」



 最後に可愛らしい笑顔で言葉を締めたセツナちゃんに、あたしはカイル君がするように頭を撫でながら「ごめんなさいね」と謝罪する。ギルドマスターとしての職務を全うする為とは言え、ロンネスはカイル君を疑った――いや、今もなお疑っているのだ。この街の人間に危害を加える様な人間ではないのか、と。

 仕方がない事とは言え、セツナちゃんにとっては気持ちの良い話ではない。そう思い口にしたのだけれど、



「? 何故アーリア様が謝られるのですか?」



 きょとんと不思議そうな顔で返されてしまう。



「直接カイル君が危険人物じゃないかと疑ったのよ? 気持ちの良いものではないでしょう?」


「? それがロンネス様のお仕事ですから、仕方ないのではございませんか? 余所者に警戒心を抱くのは当然ですし、その辺りをアーリア様の紹介だからと言って疎かにされれば、逆にセツナは不安を抱くことになります。ですからお仕事に真摯に向き合っていただけるのは、大変喜ばしい事かと存じますし、セツナも誠心誠意お答えできることはお応えさせていただいたつもりなのですが――セツナの言葉では足りなかったでしょうか?」


「いや、そんなことはない。言葉を尽くしてくれたことは承知している」



 眉尻を下げ、肩を落とすセツナちゃんの言葉を否定し、ロンネスは姿勢を正して頭を下げた。



「私を信用し、答えたくれことに、心からの感謝を」


「っ! はい! 少しでもお伝えできたのなら幸いです!」



 満足そうに笑みを浮かべるセツナちゃんに、逆にあたしは不安になる。あたしを介しているとは言え、少々セツナちゃんは正直すぎるきらいがあるのよね。だからこそあたしがしっかりと釘を刺しておかないとならないかしら。



「ロンネス、わかってるわよね?」


「当前だ。必要であれば〈ギアス〉を掛けても良い」


「なら、必要に感じたら掛けさせてもらうわ。それとセツナちゃん」


「はい、なんでしょうか?」


「セツナちゃんも、あまり簡単に他人を信用しすぎないように注意して頂戴。正直、セツナちゃん自身に関わる話はそうそう話して良いものじゃないのよ」



 コアとなるアイテムの名称だけならまだしも、それがどこにあるのかまで教える必要はなかったのよ。

 しかしセツナちゃんは首を横に振り、真っすぐにあたしの目を見て答えた。



「セツナは、アーリア様を信頼しておりますから」


「―――――」



 屈託のない笑顔を向けられて、思わず言葉に詰まってしまう。これほど純粋な笑顔を向けられたのは、果たしていつ振りだろうと思うほどね。そして、



「それに……セツナが最も信頼する主様が、アーリア様を一番に信頼しておられますから」



 俯き、呟いたセツナちゃんの声色には不満がありありと込められており、思わずあたしの頬が緩んでしまった。本当に可愛いわね。ミィエルが必要以上に構いたくなる気持ちが解ったわ。ふふ、なんにしろ信頼に添えるようにしないとならないわね。



「くくく。そうやっていると、まるで仲の良い姉妹のようだな。3年前を思い出すよ」


「くだらないこと言ってないで、とっとと手続きを終えて頂戴」


「わかっている。そのためにも彼らを――」



 「呼び戻さなければ」と言うロンネスの言葉は、ノックの後に発せられた焦った声に遮られた。



「ギルマス! いらっしゃいませんか!?」


「何かね騒々しい」



 「入れ」とロンネスの言葉に「失礼します!」とギルド職員が勢いよく扉を開く。



「来客中に申し訳ありません! 至急確認いただきたい案件がございまして――」



 そこまで言ってあたしとセツナちゃんに視線が止まり、一瞬躊躇うも足早にロンネスの下へと歩を進める。



「何があったのかね?」


「至急、こちらの書類に目を通してください。高ランク冒険者同士の、『決闘』の申請書になります」



 あー……これは予想がつく流れよね。

 あたしの予想とセツナちゃんも同じ考えなのか、2人して事の成り行きを見守ることに。



「誰かね?」


「対戦申請は、“紅蓮の壊王(デッド・クリムゾン)”所属、ガウディ=ヨルモナキアと――先日Bランク認定されたばかりの、カイル・ランツェーベルです」



 「両名とも取り決めにサインをされております」と予想通りの内容に、ロンネスは眉間に皺をつくり、あたしはつい上げそうになった笑い声を堪え、セツナちゃんは何の不安もない笑顔を浮かべていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ