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第50話 弟の頼み

切りの良さで今回は短めです。

 珈琲を3人分注文したら、なぜか俺が淹れる羽目になった。しかもアーリアの分まで、だ。

 理由は簡単で、コックでありウェイトレスであるミィエルがこの場にいないから。アーリアはいるが、彼女は一切キッチンに立つことはない、とのこと。俺は客なんだからキッチンに入ったらだめだろ、と言えば、



「あんたはミィエルのパーティーメンバーなんだから、うちの従業員みたいなもんでしょ。必要なものは棚に揃ってるから好きに使ってちょうだい」




 とのこと。

 おかしい。何故俺は金を払って自分でコーヒーを入れねばならぬのか。実はセルフ喫茶だったのか? 解せぬ。

 仕方ないので珈琲を自分好みの味で淹れ、3人に給仕すれば思いのほか好評だったことに少し気分を良くする。ふふふ、実は珈琲には一家言あるのだよ、なんて思っていたこと数分。



「お待たせ~しました~」



 2階から準備を終えた2人が準備を終えて戻ってきた。

 本日のミィエルは黒色のフリルのワンピースに麦わら帽子と可愛さを前面に押し出した装いで、セツナは白のブラウスに濃紺のラップスカートと、清楚さを強調した出で立ち。2人とも高貴な令嬢のように見える。実に良く似合っていて可愛いものだ。テーブルを挟んだ対面を見れば、呆けたように2人を見るウルコットがいるが、まぁ2人とも可愛いから仕方ないね。ウルコットよ、生きていることに感謝しろよ?



「あたしの方も準備は終わったわ。カイル君、エンブレムをわかりやすいところに付けておいてくれるかしら?」


「わかりました。目立つところで良いんですよね?」



 「当たり前でしょ」と頷くアーリアから受け取ると、【ブラッディオブバサラ】を羽織った上で胸元にエンブレムを飾る。



「前回のローブと言い、今回のと言い、カイルは相当な目立ちたがりなのね」


「そりゃ俺の役割は盾役(タンク)だからな。注目(ヘイト)を集める意味でも目立ちはするさ」


「悪目立ちじゃない?」


「言っとくけどリル。これからザード・ロゥ屈指の綺麗処を連れて、冒険者ギルドまで行くんだぞ? それだけで既に目立ってるって」



 “ザード・ロゥのアイドル”ことミィエルを筆頭に、うちのセツナにアーリアだって中身を知らなきゃ外見は良い。それにエルフと言う期待を裏切らない美人のリルが固まって歩くんだ。考えるまでもなく余計な視線(・・・・・)が降り注ぐことだろう。そう言った良からぬ注目を【ブラッディオブバサラ(このローブ)】と〈ヘイトリーダー〉(俺のスキル)で俺に少しでも向けさせられれば、女性陣の負担も減ることだろうさ。

 まぁ正確には、そう言ったものにも効果があるのかを知りたいってことでもあるんだけども。



「それもそうね。同性の私から見ても、少し嫉妬するくらい可愛いもの。カイルもあの娘達も大変ね」


「…………」



 まるで自分は対象外のように言っているが、君も注目を浴びる要因の1つなのだけど? もしや自覚なしか?

 ウルコットに視線を向ければ肩を竦める弟君の姿が見える。処置無し、ということなのだろうか。

 まぁリルの事は弟君が勝手になんかしてくれるだろうし、気にする必要もないか。



「それより、カイル。改めて紹介してくれないかしら?」


「ん? 誰を」


「あの娘よ」


『俺にも是非。護衛をしてくれた礼を言いたい』


「綺麗な黒髪よね。カイルの妹さんかしら?」



 2人の視線と言葉からセツナのことだとわかるんだけど、ウルコットには護衛で一緒させたし、リルは村に冒険者の救援隊と向かってきたときに一緒だったんちゃうの?

 そう思ったが、セツナに名前が付いたのはその後だったし、あの頃とは雰囲気と言うか見た目や行動の端々から段違いだから、初お披露目と言っても過言ではないのかと思い直す。俺はミィエルと2階から降りてきたセツナを呼び、フールー姉弟に挨拶をさせる。



「悪いがエルフ語は話せないからな。セツナ、2人にご挨拶を」


「改めまして、“カイル様の従者”セツナでございます。以後、お見知りおきくださいませ」


「リル・フールーよ。本当に可愛らしいお嬢さんね」


『……先日は大変世話になった。本当にありがとう』



 貴族もかくやと思える優雅な仕草でカーテシーをし、微笑むセツナ。リルも笑顔で挨拶を返し、ウルコットは一拍遅れて礼を述べる。心なしかセツナに向ける視線が熱を帯びている気がするが、まぁ構わんだろう。



「セツナ、【マギカハーミット】は羽織らなくていいのか?」


「はい。ミィちゃんから冒険者ギルドに着いてから羽織った方が良い、と教えていただきまして」


「広告塔なら~、カイルくん1人で~、十分ですから~」


「ミィエルの言う通りね。ただでさえ容姿で目立つのに、【ハーミットシリーズ】まで装備してたら、それこそ余計な奴らに狙われかねないわよ」



 どこかの貴族令嬢と思わせる容姿と仕草に、この都市最高の防具職人の名を冠したローブを羽織ってりゃ、そりゃ注目されるもんな。

 確かにミィエルとアーリアの言う通りなんだが、果たしてセツナの警戒網と戦闘能力を掻い潜って攫える人間などいるのだろうか。多分と言うかほぼ間違いなく俺でも無理だと思うよ? 戦闘能力はともかく、〈スカウト〉系技能は俺よりも高レベルだからね。


 そんなことを考えている間に、テーブルの上に置かれたコーヒーカップを目ざとく見つけたミィエル。アーリアが淹れたのかと驚愕し、俺が淹れ、美味しかったとリルが説明すれば、自分も飲みたいと主張し同様に追随するセツナ。

 このままもう一休憩に入りそうな流れになったが、「先に用事を済ませるわよ」とアーリアの一言で何とか阻止されるのだった。

 





   ★ ★ ★






 リル達が冒険者ギルドに訪れる時間は決まっていなかったらしく、またこちらも約束の時間まではまだ40分あったので、ミィエルの希望でリル達を許す限り案内することになった。

 案内と言っても、冒険者ギルドまでの道のりで紹介できる主要なお店などを伝えるだけで、本格的なものは後日するらしい。俺自身も案内してもらいたいので、その時は同行させてもらうつもりだ。しっかし、代わりに珈琲を淹れることを条件に出された時は、そこまで気になっていたのかと苦笑いしたものだ。


 通りを歩けば俺へと向けられる視線は予想通り刺々しいものとなるが、眼前で仲良く戯れる女子4人を見ればそんなことは些細なことに思えるから不思議だね。



『カイル・ランツェーベル』



 俺とは別の意味でご婦人方の視線を集めているウルコットだが、姉を含めた女性陣へと視線を向けたまま真剣な声音で俺の名を呼ぶ。何やら面倒ごとの予感がするが、とりあえずは黙って先を促すこととする。



『折り入って頼みがある』


『セツナはお前程度にはやらねーぞ?』


『……彼女のことじゃない。姉さんのことだ』


『内容によるな』



 ワンチャン見惚れたセツナの事かと思って鼻っ柱を叩きに行ったのだが、どうやら想像通りリルの事らしい。果たして何を頼みたいやら。



『ここに来るまでに親父達と連絡がとれた。急ぎ出先から戻ってきてくれるらしい』


『良かったじゃん。これで村の安全も増すってもんだろ?』



 確かご両親は元冒険者で、村一番の戦士と魔術師だと言ってたからな。村に戻るにしろ、別の場所に住むにしろ、腕の立つ人材が戻ってくるのは好ましいことだ。



『で、それとリルのことがどう関わってくるんだ? これから村を立て直す上で、指揮はリルが執るから冒険者へ勧誘するような真似はやめてくれって話か?』



 『そのことならリル自身が「今じゃない」って言ってたから大丈夫だと思うぞ』と言葉を付け足せば、ウルコットは『逆だ』と首を振る。



『可能であれば冒険者の先輩として、姉さんのことを頼みたい。これは親父や御袋も了承済みだし、村の奴らも納得している』



 意外な言葉に思わず『へぇ』と声を漏らす。まさか逆に勧めてくるとは思わなかった。しかも両親や村人への根回しも済んでいるとか。



『まぁそこは既にリルと約束してるからな。彼女が望むなら、元々迎え入れるつもりだぞ』



 まぁ俺がこの大陸にいる間は、と言う言葉が続くけども。



『このままでは姉さんが自由に時間を使えるようになるのに、何十年掛るかわからない。そうなればお前はこの世にはいないだろう?』


『寿命で死んでるだろうな』



 『人族』は『エルフ族』ほど長寿ではないからな。



『だからこそ、姉さんが村長を引き継ぐ前に連れ出してほしいんだ』


『俺は構わんが、どちらにしろリル自身の意思次第だろ。言っておくが、俺から誘うような真似はしないぞ? 一度断られてんのに、婚約者が亡くなって直ぐにだなんて、誤解されるような真似はしたくないんでな』


『わかってる。だがもし姉さんが自身で決めた時は――』


『いいぜ。俺は約束を守る男だ。安心しろ』


『すまない』



 別に謝るようなことじゃないと思うけどな。しかしそうなると、リルの育成計画を早々に立てないといけないな。TRPG(ゲーム)の時と違って、適正とか考えなきゃならないから面倒そうではある。が、面白くもあるよな!

 今までを振り返るに、リルには〈コマンダー〉の適正はあるような気がするな。警邏隊の指揮もしっかりしてたし。



『俺としては、そのまま姉さんを支えてくれると助かるんだがな』


『ん? わり、何か言ったか?』



 ぼそぼそっとウルコットが何か言った気がして聞き返したのだが、



『いや? よろしく頼む、と言っただけだ』


『そうか?』



 どうやら大したことはなかったようで、俺の思考はすぐさま育成計画へと沈んでいった。


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