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第49話 フールー姉弟

予約投稿に失敗していたことに本日気づきました。

 俺が完全に油断してポロっとセツナに魔力補給をしてしまったがために、正座をさせられて何故か俺が3歳児に怒られていた。いや、まぁ『精霊族』は『妖精族』からの進化であり、『精霊』になった時点で成人となる。つまり成人してから年齢を比較して考えると、15歳で成人の人間()よりは3年先輩と言える。あながち人生の先輩と言えるのだから間違いではないのだろうか。


 だがそんな人生の先輩も、俺の説教からセツナとの口論へと発展してしまっている。いや、口論と言うよりかは頭に「?」を浮かべ続けるセツナに、ミィエルが懇々と説得する流れとなっていた。



「いくら~、主だからって~、素肌を晒しちゃ~だめなんだよ~!」


「? でもミィちゃん。それだと魔力補給ができなくなります」


「だからって~! 御胸を触らせて~、見つめあうなんて~!」


「?? セツナは構いません。むしろその方が嬉しいのですが」


「女の子の~方から~、迫るなんて~、はしたないの~!!」


「??? あっ、そうです! ではミィちゃんもセツナと一緒に主様から魔力を頂けば良いではないですか?」


「ふぇっ!?」


「一度ご一緒いただければ、ミィちゃんにもセツナの気持ちがわかると思うんです! ですから今夜にでもご一緒いたしましょう! 主様、とっても気持ちいいんですよ!」


「~~~~っ! そ~ゆ~ことじゃ~、なくて~!!」


「????」



 俺は2人の姿を視界に収めながら、見えない遠い青空を幻視する。


 これは大変骨の折れる作業だろうなぁ。なんせセツナには人間社会での羞恥心とかわからないからなぁ。頑張れ、ミィエル先生。いや、ミィエルお姉ちゃんかな? とにかく頑張れっ!



「あんたも大変ね」


「俺よりミィエルの方が大変だと思いますよ? 羞恥心をわからない娘に教えるのは、相当難しいでしょうから」


「そういう事じゃないのだけれど」



 はぁ、と溜息を吐くアーリアは2人の様子を見た後、俺に向けて苦笑いを浮かべる。



「補給手段の方よ」


「そうですね……あれは正直俺も困ってます。服を脱がすことなく補給出来たらいいとは思ってるんですけど」


「そこに関しては手でも握ってあげれば問題ないはずよ。わざわざはだけさせる必要はないわ。さっき確かめたもの」



 俺は驚きの目を向ける。

 と、いう事は補給するたびに人目のないところにセツナを連れて行かなくて済むってことじゃないですか! これは朗報だ! さすがアーリアさんだ!

 しかし俺の内心を読んだアーリアは、困ったように笑みを浮かる。



「でも人前で身体を震わせながら、あの表情(かお)はまずいわね」


「そこまででしたか?」


「大衆の面前で見せて良い表情じゃなかったわ。声が出ないように口を必死に抑えてたのが余計に悪いわね」


「…………ソウデシタカ」



 今回は考え事しながら補給してたし、背中から行ったから見えなかったが、昨晩と同じような感じだったのは補給後のセツナの顔、アーリアとミィエルの表情を見れば想像に難くない。頬が紅潮しないだけマシな気もするけど、正直誤差だよね。

 緊急時はフードを目深に被せて、最悪俺がセツナを抱くようにして隠せば、何とかならなくもないかな?



「それにカイル君自身のMP総量も何とかする方がいいわね。セツナちゃんの補給も考えると、今のMPじゃ足りないんじゃないかしら?」


「そうなんですよね。魔剣も含めたら物凄く燃費が悪いので、対策は考えないといけないんですよ」



 「食事を消化するためにもMPを使うみたいなんで」と昨晩わかったことをアーリアに伝えておく。



「それは……難儀なものね」


「でも楽しんでくれてるみたいですから、やめさせるつもりはないですよ」


「まるで愛娘を思う父親のようね」


「俺が創造主(生みの親)と言う意味では間違いないでしょうね」



 セツナ程の可愛い愛娘なら、父親として多少の無理など屁とも思うまいて。

 それに打算的にセツナが料理を覚えてくれるなら、これぐらいの出費は安いもんだと正直に思う。


 ただそれらを抜きにしても俺の消費MP量は馬鹿にならないため、考えなければならないとは思っている。

 俺の最大MPは現在「77」点。セツナの補給で半分以上持っていかれるし、【魔剣・飛翔剣クレア】も最大出力を使えば半分持っていかれる。ここにゴーレムの作成なども考えたら、とてもじゃないがMPを回しきれない。

 何もない平和な日常であれば、1時間ごとにMPは2点回復できるし、寝れば1時間で25%の割合を回復できるから支障はきたさないと思うのだが、任務(クエスト)中や戦闘中のことを考えると何か対策がほしいところだ。


 あぁ、TRPG(ゲーム)時代の〈プリースト〉による〈トランスファー〉でMPを補給出来ていたのが懐かしい。俺が何をしてでも守るから、MP補給要因で誰かパーティに加入してくれないだろうか。ただ〈トランスファー〉が扱えるレベルは確か7以上だから、そのレベルの〈プリースト〉を探す方が大変なのかもしれない。



「で、どう対策するつもり?」


「一応セツナのことも考えて、使い魔(ファミリア)の作成を考えてます。これなら俺のMPですし、使い魔からセツナへ補給もできるんじゃないかと思うので」


「【魔晶石】で出来るのだから問題ないと思うわ。でもそうなると〈ソーサラー〉技能の取得を目指さなければならないわね」


「そうなんですよね。〈エレメンタラー〉での使い魔(ファミリア)だと、MPタンクとしては使いづら――」

 


 ミィエルとセツナの姉妹喧嘩? を眺めつつアーリアと魔法談義に花を咲かせていると、研究室の入り口側と奥側に置かれているランプが何度か照明よりも明るく明滅した。



「ミィエル。お客さんみたいだから対応してきて頂戴」


「ふぇっ!? む~! この話は~、また後でするからね~!」



 そう言ってトタトタと地下室から上がっていくミィエル。どうやら地下室で研究してても、店に客が訪れたらわかるようにするものらしい。確かにドアチャイムはここまで届かないもんな。

 ミィエルを見送りながら、ちょこちょこと俺の傍へ控えるセツナは、「主様」と俺の袖を引っ張り、疑問を口にする。



「ミィちゃんは何をそこまで焦っているのでしょうか?」


「……さて、何だろうな? でもセツナの事を想って言ってくれてることだぞ?」


「わかってはいるのですが……」



 本当に不思議そうに首を傾げるセツナに、俺は苦笑いを浮かべながら「MPは問題ないか?」と話題を変える。問われればセツナは満面の笑みで頷く。



「はい! 主様でセツナの中はいっぱいでございます!」



 悪気はないし間違っていないのは確かなのだが、別の言葉に聞こえるのは俺が汚れているからだろうか?

 洩れそうになる溜息を堪えていると、入り口から「カイルく~ん!」とミィエルが顔を覗かせていた。



「お客さん~、ですよ~!」






 ★ ★ ★






 ミィエルに続き、地下室から上がれば、果たして視界に映ったのは金髪に緑の瞳の美しい女性――



「カイル。無事街に辿り着けた報告に来たわよ」


「おぉ、無事に辿りつけたみたいで良かったよ、リル。ウルコットもな」



 俺がこの世界に来て初めて会ったエルフ――リルと弟のウルコットが“妖精亭”に訪れていた。



「今日到着とは聞いてたけど、思ったよりも早かったじゃないか」


「今しがた到着したのよ。本当は落ち着いてから挨拶に来るつもりだったのだけれど、弟がどうしてもって聞かなくて」



 苦笑いを浮かべるリルの背後から、真剣な表情でウルコットが俺の前に立つ。そして勢いよく頭を下げた。



『カイル・ランツェーベル。この度は我が姉――ひいては村人を救ってくれて、感謝する!』


『おう。俺もリルたちを救えて良かったと思ってるよ』



 感謝を述べるウルコットに、思わず俺も笑顔で応じる。あれだけ最初は敵視されてたのにな、と思わず口に出そうになったのは内緒だ。



『ふふ。ウルコットったら、あれだけカイルのことを敵視してたのにね。何度後ろから射かけたことかしら?』


『姉さん!』


『まぁ射った所で一矢も刺さらなかったでしょうけど』



 右目を閉じて悪戯っぽく笑うリル。ウインクがこれほど似合う女性もなかなかいないんじゃなかろうか、と思う程綺麗だよ。



「カイルく~ん」



 斜め後ろから子犬の唸り声が聞こえるが取り合えずスルーしておこう。



『それと、借りていた剣だ。本当に助かった』


『役に立ったなら良かったよ。腕の調子はどうだ?』



 ウルコットに貸した【ルナライトソード+1】を受け取り、〈アーティフィカル・ギミック〉で治療した腕を見る。処置した頃よりも大分馴染んでいるように見えるから、あと数日もすればマイナス補正(ペナルティ)が発生するようなこともないだろう。



『大分思い通りに動くようになったさ。それと姉さんから聞いた。この腕の治療費のことなんだが――』



 彼の言葉に、そう言えば治療費がどれぐらいになるか後で教えてほしい、とリルに言われてたんだっけ。忘れてたわ。

 俺は後ろに目を向け、地下室から上がってきたアーリアに頼ることにした。



「アーリアさん、ちょっと良いですか? 紹介するよ、俺が所属する冒険者の宿――“歌い踊る賑やかな妖精亭”の店主(マスター)であるアーリアさんだ」


『初めまして、フールー姉弟。紹介に預かったアーリアよ』


『初めまして、リル・フールーです』


『弟のウルコットです』


『ミィエルさんもそうでしたが、エルフ語がご堪能なんですね』


『冒険者の宿をやってれば、自然といろんな言語が身に着くものよ』



 さらっとエルフ語の会話に参加できる辺り、さすがだなと思う。それに俺が聞きたかったことを察し、「ごめんなさい」と言って既にウルコットの腕を観察していた。



『見事ね。これなら後数日もすれば完全に馴染むと思うわ』


『アーリアさん、これの治療費ってどれぐらい見積もればいいですかね?』


『カイル君、あんた欠損治療で生計でも立てるつもり?』


『まぁ知り合いから頼まれればやってもいいとは思ってますけど、商売にする気はありませんよ?』



 『ただ助けたエルフ数人から頼まれるかもしれないですけど』と付け加えると、アーリアに呆れたを含んだ視線を向けられてしまう。そう言えばこの前「自重しろ」ってミィエルにも言われたことを思い出す。



『はぁ……カイル君。知っているかしら? 〈アーティフィカル・ギミック〉を使える程〈ドールマスター〉を極めている魔法使いって早々いないのよ?』


『もしかして、この世界(こちら)でも不人気なんですか?』


『不人気と言うより、適正ももった人材が少ないのよ。たとえ持っていたとしても、あんたほどの技量に辿り着けるのはほんの一撮みほどよ』


『あー、その、つまり?』


『王国騎士団なんかの耳に入ったら、もれなく王宮魔法師として迎え入れてくれるんじゃないかしら?』



 マジかよー!? TRPG時代でも有用な魔法が〈スケープドール〉ぐらいしかないせいで、PLには『ネタ技能』扱いされるほど不人気でだった〈ドールマスター〉。リプレイ書籍とかでも極稀にしか見ることが出来ず、実際仲間内でも習得したのは俺ぐらい。アンケート結果でも魔法職技能の中ではワースト3に入っていたが、まさかそんなところまで現実(こっち)に反映されてんのかよぉっ!?


 ジョンとかいう情報屋が居たおかげで、「あ、こっちには割と〈ドールマスター〉技能取ってる奴いるんだな」とかこっそり感心してたのに! どうやらそんなことはなかったらしい……



『まぁそんなわけだけど、もし技術料を取るなら、材料費の4倍ってところじゃないかしらね。そもそも扱える術者の絶対数が圧倒的に少ないもの。他に部位欠損を直すとなったら、それこそ〈レストレーション〉ぐらいよ』



 Lv9にでも覚えられる〈アーティフィカル・ギミック〉ですらその値段となると、Lv15(カンスト)で覚えられる〈レストレーション〉なんて一体いくらのお布施になるのだろうか。考えたくもないね。



『……リル、ウルコット。俺は黙っててくれるなら金なんていらないんだけどさ。もしそれでも払うって言うなら、材料費込み10万で頼むよ』


『ちゃんと払わせてもらうわよ。それと、心配しなくても、命の恩人を売り渡すようなことはしないわよ』


『姉に同じだ』



 『ミィエルさんにもお願いされているしね』とリルがウインクを送れば、ミィエルも天使の笑みで頷いた。



『ただ、値引きに関してはありがたく受け取っておくわ』


『あぁ、そうしてくれ』



 よろしく頼む、と肩を落としながらリルとウルコットにお願いしておく。はぁ、レベルが高いと高いで、なんと生きづらい世界なのだろうか……



「なるべく静かに生きたいよ……」


「ふふ。無理ね」


「カイルくんには~、難しいと~思いますよ~?」


「主様、セツナも協力いたします。ですので頑張りましょう!」



 誰も「できる」とは言ってくれないのね……

 まぁ既にやらかしてしまったことに関しては仕方がない。気持ちを切り替えていきましょう!



『それで、2人はこれからどうするんだ?』


『カイルに剣も返したし、この後は冒険者ギルドに行って事情説明と、今後の相談をしにいくわね」


『領主じゃなくて、冒険者ギルドなのか?』



 疎いのでわからんのだが、普通こう言うのってザード・ロゥを治める領主に話を通したりするもんじゃないのだろうか?



「この一件に最初に深く関わったのが冒険者ギルドだからよ。それに、領主に直接よりもギルドが仲介した方が、彼女たちにも負担にならないわ」



 成程。そう言うことね。まぁ何であれ、リルたちが困らなければ俺はそれでいいんだけど。

 しかしリル達も冒険者ギルドに向かうのか。だったら、と俺の視線を受けたアーリアが「あと1時間ぐらいよ」と欲しい情報を教えてくれる。

 ミィエルも察したのか、笑顔で頷いて、



『なら~、ミィエル達が~、リルさんたちを~ご案内しますよ~!』


『良いのかしら?』


『丁度俺達も冒険者ギルドに用事があるんだ。だから良ければ一緒にどうだ?』


『そうね。それじゃあお願いしようかしら』


『では~、準備してきますので~、ちょ~っとだけ待っててください~。いくよ~、セっちゃん~』


「? どこへ行くのですか? ミィちゃん?」



 リルの了承を得たミィエルは、すぐにセツナの手を引いて2階へと上がっていった。


 ただなミィエルよ。ずっとエルフ語で話していたから、セツナは何一つわかっていないと思うぞ?



『取り合えず、何か飲むか二人とも?』



 準備にかかるだろう時間を考え、俺は2人に着席を促した。


いつも閲覧ありがとうございます。

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[一言] 冒険の話は面白いけど日常パートとかおしゃべりが多すぎて目が滑る
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