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第46話 VS幼女タッグⅡ

誤字・脱字報告本当にありがとうございます。読み直しても私自身気づけないものが多いので、大変助かっております。

 さて、戦闘前の事前準備におけるターン数は凡そ1ターン分か、多くて2ターン分だろう。となると、俺がメインアクションで唱えられる魔法は2回。後はサブアクションで行える補助ぐらいだろうか。俺が習得している補助魔法(バフ)で効果が大きく使用頻度が高いものは、攻撃・行動・移動速度を上昇させる〈ヘイスト〉。次点でダメージ軽減の〈プロテクションⅡ〉と魔法抵抗力(RES)を上げる〈カウンター・マジック〉。ダメージ増加では各種属性の〈~エンチャント〉。


 取りあえずはいつも通り〈ヘイスト〉と〈ソニック・エンチャント〉でいいか。ミィエルも風属性メインだし。


 サブアクションで行える支援(バフ)としては〈コマンダー〉のスキルと〈ハイアルケミスト〉のスキルとなる。敵対関係となるため、〈コマンダー〉の効果は適用できないため、取り合えず三級魔石を潰して2人に〈アタックオブフューリー〉で掛けておくか。


 俺は使用する魔法を決めると、左手で雑囊から赤属性の三級魔石を2つ取り出し、右手は2人に向けて魔法を行使しようとし――



「ねぇカイル君」


「? アーリアさん。どうしたんですか?」


「さすがに特級は無理だけど、一級魔石ならあたしが経費で出すわ。だからあなたがやれる全開の支援を見せてくれる?」


「それは構いませんけど、良いんですか? 一級でも合計で18万Gかかりますよ?」


「構わないわ。今後あんた達3人が一級を使わざる得ない相手(・・・・・・・・・)が出た時の状態を見ておきたいのよ」



 「その方が2人も助かるでしょう」とアーリアは言うが、俺としてはそんな状況は御免被りたい。Lv13の俺が、迷わず身銭を切る相手なんて、当然Lv15を超えてくるって話だ。そんな国が動くレベルの任務はそうそう受けたくはないし、巻き込まれるのも御免だ。

 もうLv19(キャラハン)殺し合いして(やりあって)るじゃないか、だって? あんなん宝くじ当たるよりも低い確率の事故だっつーの!



「アーリアさん、言っときますけどLv16以上(グレータードラゴン)の討伐とか、Lv20以上(エルダーリッチー)の撃滅なんて受けませんよ?」


「まぁLv20(ドラゴンゾンビ)を倒してるあんたなら可能よね?」


「受けませんよ?」


「心配しなくても、そんな国家レベルの任務(クエスト)なんてそうそうないわよ。もしあったら、足手まといはなし(あんただけ)で遂行してもらうから安心して頂戴」



 安心できねーし受けねーよ!?

 俺を揶揄(からか)ってるだけだろうことは、にやにや顔のアーリアから想像はつく。だが、何となく冗談じゃない場合も想定できるんだよね。事実、金に糸目をつけなければドラゴンゾンビぐらいなら何とかなるのは確かなんだけど――TRPG時代の話でもあるんだよなぁ、それ。



「……せめて俺と相性の良い物理型(相手)なら考えますよ」


「カイルく~ん。言質~、取られてますよ~」


「いいよ。アーリアさんが俺に頼んでくる時は、多分本当に(・・・)どうしようもない(・・・・・・・・)ときだろうから」



 心配そうな表情を浮かべるミィエルに、大丈夫と目くばせをする。


 まぁ普通に考えて俺が死ぬ気で相手どらなきゃいけないような災厄、そう簡単に起こるもんでもない。もしそうなら『人族』の国などとっくに滅亡している。例え起こってしまったとしても、過去の歴史を振り返っても今の文明に繋がっているのだから、俺個人が動かなくても何とかなるはずなのだ。

 そうでしょう? と視線をアーリアに送れば、彼女は含みのある笑みを浮かべて頷く。



「ふふ、信用してもらえて嬉しいわね。一晩ぐらいなら相手してあげてもいいわよ?」


「……それはとても魅力的な提案ですね。是非お願いします」


「ふぇっ!?」



 素っ頓狂な声を上げるミィエルに、アーリアはとても愉しそうに笑みを浮かべ、俺も彼女にノって笑顔でミィエルに頷いて見せる。



「ふふ、良い酒宴()にしましょうね」


「俺も簡単には潰れ(寝かせ)ませんよ?」


「ではセツナもお付き合いしますね、主様」


「ふぇっ!? セっちゃんも!? だ、だめですよ~!!」



 さらっと参加表明をするセツナに、顔を真っ赤にしたミィエルが慌てて両手でバツの字を作って間に入ってくる。



「だめだめだめ~、です~!」



 小さな身体でいっぱいいっぱいに俺とアーリアの視線を遮ろうとするミィエル。何だろうこの可愛い生き物は。思わず抱きしめて頭を撫でてあげたくなる。



「ミィちゃん、何がダメなんですか?」


「だって~! マスタ~とカイルくんは~! 男女なんですよ~! それに~、セっちゃんだって~~!」


「? 主様とアーリア様の成人していらっしゃるので問題ないのでは? 第一、ダメだと言われても、昨晩()楽しまれたじゃありませんか」


「ふえぇ……」



 セツナの言葉にミィエルの瞳に影が落ちる。ハイライトの消えた瞳はゆっくりと俺とアーリアの間を彷徨う。セツナは俺とアーリアのように揶揄う意思がないから、余計にミィエルに邪推をさせてしまったようだ。まずいね、割と冗談じゃなくなってきている。取り合えず先に誤解を解かないと――



「ミィちゃんだって楽しかったのではないですか?」


「ミィエル……も?」



 セっちゃんは何を言っているの、と言う表情をするミィエルだが、セツナもミィエルの反応に眉を顰めて俺へ疑問を口にする。



「主様。アーリア様と酒宴を行う予定、という事で間違いございませんか?」


「あぁ、そのつもりだよ。昨日のワインも絶品だったからさ。アーリアさんから誘ってもらえるなら、美味い酒も期待できるってもんだからな」


「お酒の、お話……?」



 そこまで来て肩を揺らしてくつくつと声を抑えて笑っていたアーリアが、堪え切れないとばかりに声を上げる。



「ぷ……くくく……あははははははっ! 本当ミィエル(あんた)は可愛いわねぇ! あたしは、カイル君に『夜通しお酒を飲み明かしましょう』と誘っただけよ?」



 「あたしと彼が(ねんご)ろな関係なわけないじゃない」と悪びれた様子もなく笑い転げるアーリア。ようやっと冗談であり揶揄われていると解ったミィエルは、冷え切った目でアーリアを睨む。



「マスタ~~~~~ッ!」


「揶揄って悪かったわ。お詫びにカイル君を全力でボコらせてあげるから許して頂戴」



 仕舞いには矛先を俺へ向けやがったよこの人。まぁ俺も悪ノリしたのは確かだし、しっかりと謝っておかないとな。



「すまなかったなミィエル。俺も悪ノリが過ぎた」


「む~っ。ほんと~ですよ~! 誠意ある~、謝罪を~よ~きゅ~します~!」



 ぷくぅっと頬を膨らませて講義するミィエルに「わかった」と苦笑いを浮かべながら頷いておく。本当に可愛い生き物だなこの娘は。視界の端でアーリアとセツナが何やら話しているが、まずはミィエルの機嫌を直すのが先だろう。誠意ある謝罪と言っても思いつかないし、ミィエルに任せるでいいか。



「じゃあミィエルのしてほしい事でもなんでも後で言ってくれ。俺が叶えられる限りのものさせてもらうよ」


「ぜ~ったいですよ~?」


「おう」



 俺の返答に、ようやっと落ち着きを取り戻したミィエル。アーリアとセツナの話も終わったようだし、模擬戦を再開する旨を3人に伝える。



「さて、休憩も程々に再開をしようか。アーリアさん、本当に経費でいいんですね?」


「いいわよ」


「なら遠慮なく」



 俺は改めて赤属性の一級魔石を取り出し、魔石を握りつぶしながらミィエルとセツナに補助魔法を行使していく。



「時の流れを担う精霊よ、我が魔力を糧に我らに嵌められた足枷を開放せよ――〈ヘイスト〉」



 スキル〈マルチターゲット〉で魔法行使対象をミィエルとセツナに拡大。〈ヘイスト〉を掛けた後、



「理を担う碧き精霊よ。我が魔力を喰らい、その力を我が加護として二人の剣へと顕現せよ――〈ソニック・エンチャント〉」



 同様に〈ソニック・エンチャント〉も2人へと行使する。風が逆巻、2人の武器が静かに風を纏う。さらに砕かれた赤属性の魔石から赤い光が2人の頭上に降り注がれ、準じた効果を表していく。続けて緑・金属性の魔石を取り出し、〈ブロッキングハード〉に〈ヴォーパルサイト〉を発動。準備が終わった段階で先程同じように距離をとり、俺は最初から盾を2つ構える。対峙した俺達を見て、アーリアが告げる。



「じゃあ、始めなさい!」




 ★ ★ ★



 今回は先制判定を破棄するような真似はしない。赤属性の二級魔石を潰して〈ギアブースト〉、さらに〈スピードブースト〉〈ソニックムーブ〉を使用して――判定、成功。

 アーリアの掛け声にいち早く応じた俺は即座に俺を含めた3人に向けて魔法を行使する。



「我が魔力よ。宙を彷徨うマナを束ね、悪意を逸らす鎧となれ――〈プロテクションⅡ〉」



 ダメージ軽減の魔法を、俺を含めた3人に掛け、さらに動き始めた2人を視界に収めつつ次の魔法を紡ぎだす。



「必要なければ抵抗(レジスト)しろ! 我が魔力よ、彼の者の意思を支え、心に闘争を呼び覚ませ――〈ファナティシズム〉」



 闘争心を高め、恐怖心を薄める精神属性魔法〈ファナティシズム〉。数値で言えば命中力を「2」点上昇させる代わりに回避力を「-2」点減少させる補助魔法をミィエルに行使する。この魔法はセツナには効果がない。だからミィエルだけに行使し、ミィエルは抵抗することなく受け入れた。


 2人との距離が既に剣の間合いへと入る。俺は再び〈風に揺らぐ柳の如し〉で回避力を上昇。そのまま2人の挟み込むように振るわれる剣舞を両手の盾で受け流し、体捌きで躱す。

 そして受け流した剣が戻るよりも早く俺は盾を武器代わりにセツナへと攻撃を開始する。


 特技スキル【攻盾術】――〈防御こそ攻めの一手〉


 アビリティである〈盾は護るだけに非ず〉により全ての〈カテゴリー:盾〉を武器として扱うようになる。ただし攻撃に使用した場合、盾がもたらすステータス補正が次のターンまで無効かされるデメリットがある。しかしスキル〈防御こそ攻めの一手〉を使用することにより、盾としての機能を失わずに攻撃することを可能となる。【攻盾術】の基本コンボだ。

 この時、盾の威力は防御力補正に比例し、命中は回避力補正に比例する。つまり【ラウンドシールド】なら「威力:20」の「命中+0」であり、【バックラー】なら「威力:10」の「命中+1」の武器となる。


 セツナの体勢が崩れた瞬間の反撃。だが攻撃が当たると思った刹那――



「〈ギアブースト〉」


「っ!?」



 セツナの動きが加速し、俺の攻撃を躱す。追いたいところだが、背後から俺の攻撃タイミングに合わせたミィエルが迫っている。俺は即座に回避行動へと移るが――RES判定・成功――身体に不可思議な痺れが走り一瞬動きが硬直する。



「〈スタンハウル〉」


「〈二ノ太刀・村雨〉っ!!」



 雨の様に降り注ぐ刺突の連打を何とか【バックラー】で全て受け流す。感覚としてはギリギリの所だ。受け流すと同時に反撃を試みたいが、死角からバックスタブを狙うセツナの攻撃を躱すため、ミィエルとの距離を大きくとらなくてはならなくなった。

 2人の剣の間合いから脱出し、自身のステータスを確認すれば、抵抗に成功しているため効果時間は短いが、回避力判定に「-3」の修正を受けている。

 〈アルケミスト〉技能による攻撃支援、ステータス低下(デバフ)――〈スタンハウル〉だ。

 安易に対象の回避力を低下させるこの魔法はGMが最も嫌う魔法の1つだ。なんせ、抵抗に成功しても必ず効果が表れる。低レベルで覚えられる上に、サブアクションで使用可能なため、PLなら誰もが覚えるGMにとって最悪の魔法だ。ちなみに俺も覚えている。これがあるなしで攻撃の命中率に雲泥の差がでるからね。


 俺は一瞬だけ視線を2人から外して特等席で観客をしているアーリアを見る。彼女はとても良い笑顔で俺に魔石を見せていた。

 


「少しは緊張感出たかしら?」



 俺への〈スタンハウル〉の効果が切れると同時にアーリアの手にあった魔石が砕ける。再び俺の身体に痺れが奔り一瞬の硬直。回避判定へのマイナス修正が付与されるとほぼ同時に、セツナの攻撃が目の前に迫る。当然喰らうわけにはいかないので、盾で受け流す。


 全く、アーリアも粋なことをしてくれるもんだ。おかげで2人の戦闘能力を見るだけじゃなく、俺自身の訓練としても張り合いが出てきている。

 何よりも、TRPG(ゲーム)だった頃とは違う使い方をされており心が躍る。AGIの上昇値が高いが、回避判定まで効果が続かない〈ギアブースト〉。もっぱら先制判定と移動以外に使いようがなかったこの魔法が、回避する瞬間にピンポイントで付与すれば効果が高いと言う事実。

 TRPG時代の知識(先入観)を捨ててもっと自由にためせと教えてくれている。


 〈キャスリング〉同様、まったくもって魔法は奥が深いなぁっ!



召喚(来て)っ! アルちゃ~ん!」



 セツナの後方10m地点では、ミィエルが妖精召喚を行い、傍に輝く光の玉である|光の妖精――“アルフ”を従えているのが見える。

 低レベル妖精である“アルフ”が行えるのは低位回復魔法〈ライトヒール〉と辺りを照らす〈フラッシュ〉ぐらいだっただろうか。



「力を貸してサラちゃんたち~!」



 続けて炎属性の妖精魔法を発動しようとするミィエル。さすがに阻止をしたいが、セツナへの意識を外すわけにもいかない。アーリアからの支援魔法(デバフ)があるせいで、今最も警戒しなければならないのはセツナのバックスタブからの〈全力攻撃Ⅱ〉に他ならないからだ。あれを食らったら俺のHPが半分消し飛んでしまう。


 だからこそ俺は【ラウンドシールド】をその場で捨て、空いた手で投げナイフをミィエルの足に向けて投げる。ナイフは吸い込まれるように宙を滑り――ミィエルの前に飛び出してきた“アルフ”に命中した。


 おいおい“アルフ”に〈カバーリング〉なんてスキルあったか!?



射殺せ(撃て)! 〈ファイアランス〉~ッ!」



 ミィエルの両脇に炎の槍が形成され、複雑な軌道を描きながら俺へと迫り――〈キャスリング〉っ!



 寸分違わず炎の槍は――ぬいぐるみへと直撃した。

 着弾したことにより炎の槍は効果を終えて消滅。俺は〈キャスリング〉による転移により、“アルフ”の目の前――ミィエルへ剣が届く間合いへと姿を現す。


 俺の右手は既に【ブロードソード+1】の柄へ添えられている。“アルフ”は壁になるほどではなく、ミィエルは魔法発動後の姿勢のまま。俺が致命的失敗(ファンブル)かミィエルが決定的成功(クリティカル)を引かない限り、俺の攻撃は躱せない。

 【ブロードソード+1】を抜き、剣の腹でミィエルを殴打しようとし――ミィエルが悪戯が成功した子供の様に笑った。



「光って、アルちゃん」



 突如として“アルフ”自身が眩い光を放つ。俺の視界が一瞬潰される。だが魔法の知覚を得ている俺にはミィエルの姿が見えている(・・・・・)。故にミィエルが〈二ノ太刀・突風〉のモーションに入っていることもわかっている。それでも俺の攻撃の方が速――ぞわり。


 背筋を駆け抜ける悪寒。次に背後に知覚したセツナの気配。恐らく、再び〈ギアブースト〉でAGIを上昇させ、一足で俺の背後に追いついたのだろう。そして三度襲われる身体の痺れ。舌打ちをしたくなるほどの絶好のタイミング。



「えっ!?」



 驚きの声を上げたのはセツナか、それともアーリアか。


 この絶対絶命の状況でも、俺は冷静に【バックラー】でセツナの攻撃を受け流し、【ブロードソード+1】の腹をミィエルへ打ち付けた。

 斬ったわけではないのでダメージはそこまで多くないはず。それでもHPが低いからミィエルには大きなダメージと言えるだろうから、怯み状態にはなっているはず。なら、模擬戦を終わらせて回復させるためにも、「さすがです、主様」と感嘆の表情を浮かべるセツナにも反撃をして、当たっても当たらなくても取り合えず終わりでいいかな。


 そう思い俺は【バックラー】も捨てて即座にもう一本の【ブロードソード+1】を抜刀し――



「油断大敵~、ですよ~?」


「マジ?」



 真横から高速で飛来した石礫――ミィエルの〈ラピッドシュート〉に、俺は抵抗も出来ず吹き飛ばされた。


今回も読んでいただいてありがとうございました。

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