第44話 冒険者になるためには
大変更新が遅くなり申し訳ありませんでした。
まさかのパソコンまで壊れて修理に時間がかかってしまいました。
次回からは更新ペースが戻ると思います。
片づけを終えた頃合いを見計らい、ミィエルとセツナの2人を呼び、先程と同じ席順で座ってもらう。
「どうかなさいましたか? 主様」
「今後パーティーを組む上での相談、ってところかな」
「カイルくんと~、ミィエルと~、セっちゃんの3人パ~ティ~で~、いいんじゃないですか~?」
何を今更? って顔をするミィエルにアーリアが呆れたようにミィエルのおでこにデコピンをする。
「あうっ!?」
「まだセツナちゃんの意思確認も済んでないのに、パーティーも何もないでしょうが」
「え~? セっちゃんは~、ミィエル達と一緒ですよね~?」
「はい。セツナは主様と、ミィちゃんとずっといっしょです」
おでこを押さえながら訊ねるミィエルに、セツナも笑顔で頷く。「ほら~!」と頬を膨らませてアーリアに抗議をするミィエルに、俺は苦笑いを浮かべ、改めてセツナに問う。
「セツナ、改めて確認なんだがな。セツナは今後の任務を行う上で、俺とミィエルとパーティーを組むことに問題はないか?」
「? はい、何も問題はございません。どうしてそのようなことを?」
「例えば任務を受けるよりも、興味を持ち始めた料理の勉強をしたい、とかさ。セツナがやってみたいことがあれば、そちらを優先しもらってもいいと俺は思ってるんだ」
使役獣ではなく、一人の女の子としてセツナがやりたいことがあれば優先してあげたい、と俺は思っている。昨日のことを振り返ってよりそう思うようになった。
勿論、共にパーティーを組んでくれるなら、それでいい。しかしセツナが望むのであれば、任務等に無理に連れていく必要はないのではないかとも思っている。
「セツナのやりたいこと、でしょうか?」
「そうだ」
「でしたら今まで通りで何も問題はありません。セツナが優先すべきは主様です。主様とご一緒させていただけるなら、セツナは何処へなりともお供いたします。セツナが“やりたいこと”は主様と共にいることです。他には何もいりません」
「そ、そうか?」
「はい。料理はミィちゃんに教えていただきますし、振舞う相手も主様でなければ作りたいとも思いませんので。料理を習うために主様と離れるなど本末転倒でございます」
俺を真っすぐ見上げて告げるセツナに、照れてしまい思わず頬を掻いてしまう。俺としては嬉しいけど、それはそれで勿体ない気もするんだが……まぁセツナが良いならいいか。
「ふっふ~。愛されて~ますね~。カイルく~ん」
「妬けちゃいます~」とニヤニヤするミィエルに「からかうな」と視線を送り返しておく。
「わかった。ただ『他には何もいらない』なんて言わず、欲しいものがあったらちゃんと言ってくれよ? 俺は褒美もまともに与えられない甲斐性なしになるつもりはないからな?」
「はい。セツナも昨日の『褒美』の件に関しては考えておりますので、ご安心ください」
「頼むぞ」と笑顔で頷くセツナの頭を撫でる。その様子を見てアーリアが残念そうに息を吐く。
「残念ね。セツナちゃんが“妖精亭”を手伝ってくれると助かったのだけれど」
「さっきの言葉は冗談じゃなかったんですか?」
「なんの事かしらね? あたしはミィエルとセツナちゃんならお店を回せて助かるわ、と思っただけなのだけれど」
「素直に従業員雇いましょうよ」
「嫌よ。あたし人見知りだもの」
俺の時は初対面からそんな感じしませんでしたけど? まぁ実際問題は、外部の人間を雇うリスク管理が大変だって言うのが本当の理由だろう。俺みたいにステータス偽装をしているやつもいるわけだし、アーリア自身も色々隠してそうだし。
「あの、アーリア様。主様が街におられる間でしたら、セツナでよければお手伝いいたします」
「あら、いいのかしら?」
「はい。ミィちゃんに料理等を教えて頂くわけですから、対価として“妖精亭”のお手伝いをさせていただきます」
「お仕事としてなら~、料理も問題ないってことだね~」
ミィエルに頷き、「ダメでしょうか?」とセツナは俺に視線を向ける。勿論問題ない。むしろウェイトレス姿を是非拝見したいところだ。
俺の顔を見てアーリアが「役得よねぇ」とにんまり笑みを浮かべ、改めてセツナの採用を決める。
「カイル君もオッケーみたいだし、ならセツナちゃんに手伝ってもらうわね。ちゃんと賃金も支払うから安心して頂戴」
「ありがとうございます。主様の従者として、精一杯務めさせていただきます」
ここに黒髪美少女のウェイトレスが誕生した。本題から外れてしまっているが、セツナが笑顔ならそれで良いのだ。
「可能ならあたしの研究の助手もお願いね」
「はい」
気を付けないとしれっと俺から使役権を奪われそうだ。気を付けよう。
さて、セツナの副業先も決まったところで本題である冒険者稼業について決めていかなければならない。
「話を戻すぞ。セツナが冒険者と任務を共にするなら、早速冒険者登録をしてしまおうか。」
「その方が都合がよろしいのでしょうか?」
「あぁ。間違いなくね」
身分証明ができると言うのは便利で大事なことだ。それさえ気にしないのであれば実際の所、セツナを“冒険者”として登録しなくても俺と行動することはできる。ただ登録しておけば何かあった際に、セツナ自身の身柄を保障することが可能となる。
この街での生活もそうだが、今後他の街や国に行った際に別行動で自由に動けるようになれば、情報収集等もセツナに任せることができる。また複数のパーティーが合同で対応するような高難度任務に加わるようなことになっても、セツナが個人として身分を認められていることは大きな意味を為すはずだ。
「冒険者となれば身分の証明が可能となるからね。他の街や国へ出入りする際に、スムーズに出入りができるようになっておかないと、後々面倒なことにも成り得るから」
「入市に関しては、セツナを一度解除してしまえばよろしいのではないですか?」
「そんなの~ダメですよ~!」
「ですがミィちゃん。その方が入市税などの費用も掛からず効率的では?」
「そう言う~、問題じゃ~ないんです~!」
「?」
首を傾げるセツナに「この辺も勉強しないといけないわね」とアーリアは苦笑いを浮かべながら補足してくれる。
「セツナちゃん。確かにセツナちゃんの魔法を解除して入国、ないしは入市は可能よ? でも入ってしまえば魔法を自由に使って良いと言うわけじゃないのよ。場所によってはセツナちゃんを呼ぶことができなくなる可能性もあるし、呼んでしまったが故に術者であるカイル君に余計な嫌疑が掛けられてしまう場合もあるのよ。言い方は悪いけれど、“バトルドール”なんて高レベル兵器を街中で平然と使役する名も知れてない術者、なんて恐怖の対象でしかないもの」
アーリアの言葉に「そう言われるとそうだよね」と内心俺も頷く。戦う技能を持たない一般人にはLv1のゴブリンですら脅威なのだ。場所によっては騎士や冒険者の平均Lv4にも満たない町だってある。そんなところにLv11のバトルドールが現れて暴れでもしたら……ザード・ロゥ並みの街やそれ以上の国なら大打撃程度で済むだろうけど、それ未満はほぼ間違いなく滅びてしまうことだろう。
一応俺もBランク冒険者として認められたけど、貢献度が低いため名は通っていない。そんなどこの馬の骨とも知れない俺が街中でバトルドールなんて創造した日には、街全体から警戒されて息苦しくなりそうだ。
「だからセツナちゃんが言う方法は得策ではないの。カイル君とセツナちゃん、2人とも自由に動き回るためにも、身分証明が必要なのよ。一緒に出歩くことすらまともにできないのは嫌でしょう?」
「はい。そう言うことだったのですね。アーリア様、ご教授ありがとうございます」
「ふふ、良いのよ。知らないことはこれから覚えていけばいいんだもの。まぁでも――」
そうなるよねぇ、と黙って聞いていた俺に、ふとアーリアの視線が向く。間違いなく俺を揶揄うためのやらしい視線だ。
「――術者であるカイル君がビェーラリア大陸中に名を轟かせるほど有名人になって、“英雄”なんて呼ばれ始めたら、堂々とセツナちゃんを使役していても問題なくなるのだけれど?」
「謹んでお断り申し上げます」
笑みを浮かべるアーリアの言葉を一刀両断する。
冗談じゃないよ。転生して別大陸に飛ばされた挙句、権力や政治的なドロドロした世界に放り投げられるなんて真っ平御免だ。それにそれじゃあ何のためにステータスを偽装したかわからないじゃないか。
「今にして思えばその方が案外、面白いかもしれないわよ?」
「冗談辞めてくださいよ。そんなことになったら全力で逃げますよ」
「滅亡させた方が早いんじゃない?」
「俺にそんな力はありませんよ!」
まったく、物騒なことを言わないでいただきたい。俺はこう見えて平和主義者だ。第一、人間1人で国なんて滅ぼせるわけがないでしょうに。TRPGでも不可能だっての。魔法使い系に囲まれて袋叩きでジ・エンドですよ。何をしても魔法は必中であり、必ずダメージが通るんだ。つまり数さえいりゃエルダードラゴン(Lv20)だって屠れる。それがLOFなのだから。
「馬鹿な事言ってないで話を――」
「カイルくんなら~、可能かもですね~」
「主様なら可能かと思われます」
「――できないからね!?」
ミィエルは兎も角、セツナにまで俺の発言を否定されて思わず疲れた溜息が出る。いや、本当に無理だからね!
「……話を戻しましょう。取り合えず、セツナは冒険者になるってことでいいか?」
「はい。ですので主様、冒険者登録とはどのようにすれば行えるのか、教えて頂いてもよろしいですか?」
「と言うわけでアーリアさん、手続きをお願いします」
「…………」
期待の眼差しを向けるセツナを真っすぐに受け止めて、俺はアーリアにバトンタッチを促す。なのに呆れた様な視線を向けられるのは何故だろうか。
いや、だって冒険者登録って冒険者の宿の仕事であって、俺がするもんじゃないでしょ?
「その手続きをどうするか、決めてないんじゃないの? カイル君」
「それもそうなんですが、そもそも“冒険者”ってこっちだとどうすればなれるんですか? ほら、俺は元々冒険者でしたからエンブレムで手続き終わったじゃないですか。新規で登録するにはどうするんですか?」
俺の知っている知識は全てTRPG時代のものであって、現実のものじゃない。だからPCとして作成できる種族であれば冒険者には誰でもなれる。勿論、『秩序』の勢力ではない、『混沌』の勢力に所属しておりながら、『秩序』の勢力内で冒険者になるには様々な理由や制限はついたりする。それでも、なろうと思えば簡単になれるのだ。だってキャラクターシートを作成するだけだから。
予想だが、こちらの世界でも“冒険者”自体はなろうと思えば簡単になれるのではないかと予想している。
俺の場合は、最低ランクのEではなくBランクへの昇級の為に試験を受けさせられたが、Eランクでいいならそんな試験もないはずだ。
「“冒険者”の~、登録自体は~簡単ですよ~」
答えたのはミィエルで、既に用意してあった羊皮紙を俺とセツナの前に見せてくれる。
「こちらに~氏名~、年齢~、性別~、習得技能を~記載すれば~、終わりです~」
「“冒険者”なんて不安定な職業は『なりたい』って意思さえあれば基本的になれんのよ。勿論、必要最低限の常識や意思疎通はできなければダメだし、人族の街や国に馴染めないのも当然ダメね」
続くようにアーリアが説明してくれる。記入事項が思った以上に少なくて驚きだ。種族とかいらなんだね。
基本的に「なろう」と思えば“冒険者”には誰でもなれるそうだ。ただ登録する際にいくばくかの手数料がかかる程度。その手数料も払えない場合には、ギルドや宿が独自に判断して貸し出すことで登録するとのこと。
ここで、「なろう」と言う意思があっても“冒険者”としてなれないものたちもいる。例えば、〈テイマー〉が使役する獣や〈ライダー〉が騎乗する馬や竜などが当てはまる。
〈テイマー〉が使役する猛獣などは、使役者と使役獣との間には意思疎通ができたとしても、関りが薄い他者との意思疎通ができないためアウト。〈ライダー〉が騎乗する竜も、高い知能を持っていたとしても人間並みの知識と常識を持ち、且つ社会に溶け込めるかと言えばそれも難しい。
「高位の竜族であれば、〈メタモルフォーゼ〉の様な魔法で『人族』に変身すれば“冒険者”として登録は可能だと思うわ。だけどLv13レベルの魔法を扱える竜族が、そもそも人族の社会で役に立ちたいと思うかと言われれば思わないでしょうね。よっぽどの変わり種か物好きじゃない限り、そんな発想にも思い至らないと思うわ」
ですよね~。わざわざ窮屈な人族社会に溶け込むぐらいなら、竜族で国を建てるよね。ただ俺はその変わり種を知っているんだけどね……
「そしてこれらを踏まえたうえで、セツナちゃんの場合を考えるのだけれど――」
「考えるまでもなく~、合格ですよね~」
当然だと言わんばかりにミィエルが口を挟み、再びアーリアのデコピンが飛ぶ。
「あうぅっ!?」
「忘れがちだけど、セツナちゃんは〈クリエイト〉系の使役獣よ? 云わばカイル君の魔法なの」
「それが~、なんだって言うんですか~!?」
ミィエルの言葉にアーリアは呆れたように溜息を吐く。
「セツナちゃん自身が特異な存在なのよ? 場合によっては研究対象にされたっておかしくないわ。国の研究機関に存在がバレれば、研究素材として徴収されたっておかしくないのよ?」
セツナ自身もそうだが、彼女を創造した術者である俺自身をも、特異な魔法使いとして召喚される可能性も高いとアーリアは言う。
「だからこそ、あたしはセツナちゃんをカイル君と同じようにステータスを偽装すべきだと思ったんだけど――カイル君は偽ることなく冒険者登録をしたいと思っているのよね?」
「えぇ。そうしようかと思ってますよ」
頷く俺を見てミィエルは「そういう事~だったんですね~」と、二度叩かれてちょっと赤くなったおでこを押さえながら頷く。
「勿論セツナが良ければ、だけどね」
「セツナはどのような形でも問題ございません」
コクリと頷くセツナを見て、俺はアーリアの話を踏まえて言葉を続ける。
「先程の説明から、セツナが冒険者になる条件は満たしているので登録手続きは可能ですよね。ですが、セツナの存在は過去を振り返っても特別なものです」
ここまで人間らしい“バトルドール”など今まで存在していない。これはLOF公式の設定でもいなかったはずだ。それにアーリアの反応を見ても、少なくともビェーラリア大陸にセツナのような存在はいない。
「だからセツナの安全のためにも、最初は〈ディー・スタック〉を利用してセツナを『人族』の冒険者として登録するつもりだったんです。ただ昨日の一件で、俺を警戒する輩にセツナを見られてしまっているでしょう? ジョン辺りは〈ドールマスタ―〉技能持ちだから、セツナが“バトルドール”だってことは無条件で見抜いているはずです。この街のトップ層も同様だと考えています」
その状態で冒険者ギルドに『人族』だと偽って登録するのはあまりよろしくはない。俺やセツナへ責任が来るだけなら良いが、認可した“妖精亭”に間違いなく被害が及ぶ。それは個人的にも避けたいのだ。まぁアーリアは面倒ごとが好きだから、もしかしたら喜んで対応してくれるかもしれないけど。
「それに俺がフレグト村でセツナを使役したのを、村に来た冒険者達も見ている。それなら、セツナの存在を偽ることなく登録させることによって、その辺も冒険者ギルドに認めさせてしまおうかと思ってます」
「Lv9の冒険者であるカイル君が、Lv11のバトルドールを使役していてもおかしくない状態にする。確かにその方が今後どう動くにしても楽よね。で、どう説明するの?」
「セツナが通常の“バトルドール”ではないと言うのは、接するうちにすぐわかりますからね。と言うかステータス解析されれば、『使役レベル』なんてある時点で普通じゃないのに気づくでしょうし。ですので当初の予定通り、セツナは古代魔法文明時代――またはそれ以前の秘宝で、セツナ個人の意識でもって俺と契約し、姿を維持していると言うことにしようと思います」
「知識ある魔法道具にするってことね。確かにそれならカイル君の魔法ではなくなるわね」
「はい。事実、セツナを呼ぶには【刹那の天藍石】と言う特殊なアイテムが必要ですから説得力は高いと思います。入手経緯なら俺はとある国の騎士ってことになってますから、我が家に代々伝わる秘宝とでも言っておけば問題ないはずです。俺自身がダンジョンで手に入れたでもいいでしょう。正直、その辺りに関しては冒険者ギルドのギルドマスターさえ納得させてしまえば問題ないと思っています」
GMとPLが互いに納得するのであれば、神様もアイテムも自由に創造できるのがLOFと言うTRPGだ。その特性上、LOFの魔法の道具はなんでもありの傾向が強い。特に遺失した魔法やアイテムを対象にしたら、もうやりたい放題できる程に自由度が上がる。俺の所持している魔剣がいい例だろう。MPの消費は激しいが、ターン制バトルで8連続攻撃ができる魔剣なんてチートと言われても仕方がない。でもGMが認めた遺物であればそれでOKなのである。
セツナをそれらと同等の存在にすることで、自我を持つバトルドールであってもおかしくないと納得させるのだ。今の時代よりも魔法が進んでいた時代の遺物は、解明されてないものが大半だ。そうだとわかれば誰もが納得せざる得ないのだ。
「ダンジョンに~関りが深い人物で~あれば~あるほど~、納得してしまう理由ですもんね~」
「その通りね。それに冒険者がダンジョンで手に入れたものは冒険者自身の物と相場が決まっているわ。ギルドに主張して認めさせてしまえば、冒険者の【所有権】を主張できるし、権力者からの横槍も減るでしょうね」
「セツナは『俺の物』だと周知するいい機会だと思うんですよね。セツナの容姿と実力なら、俺同様――いや、俺以上にスカウトしようとする輩は多く出るでしょう。でもセツナをスカウトするなら、彼女の所有者である俺を引き込まない限りは不可能となります」
『人族』としてセツナを偽れば、彼女個人を必ず狙ってくるが、バトルドール登録すれば俺が居なければセツナは存在を保てない。必然的にセツナを手に入れたいと思うパーティーも、俺を狙うしかなくなるのだ。
代わりに俺自身が目立つことにはなるが、ミィエルとパーティーを組む時点で既に目立っている。なら便乗してセツナの案件も俺を通すようにさせればセツナの安全を買うことが出来るだろう。
ここまで自分で口にして、先程アーリアが〈奴隷契約〉みたいなものだと言った意味を理解する。確かにその通りだ。主と奴隷と言う立場が主と使役獣に変わっただけなのだから。
「いいんじゃないかしら。《決闘》なんかでもセツナちゃんじゃなく、カイル君が矢面に立てるのは大きいわ。ただ、あんたの実力からしてセツナちゃんを自分で手に入れたってことにしておいて頂戴。その方があたしとしても都合がいいの」
「わかりました。セツナも協力してくれるか?」
「はい! 勿論です!」
アーリアとミィエルに同意を得られたので、セツナにもと思って視線を向ければ物凄く良い笑顔を浮かべていた。
今の説明にセツナを喜ばせるような内容があっただろうか?
「つまり~、カイルくんは~、セっちゃんとミィエルを護る~、騎士様ですね~」
「2人を手に入れたがる輩から守るって意味なら、そうだな」
「きゃ~」と嬉しそうに緩む頬を両手で支えるミィエルを見て、だからセツナも嬉しそうだったのかと考える。だとしたらちょいと照れくさくも感じるなぁ。
「い~な~、セっちゃんは~」
「はい! セツナが主様の“所有物”だと公に認めていただけるなんて、セツナは幸せです」
……ん?
「ミィエルも~、カイルくんに~『俺の女』って~、言われてみたいです~」
「例えミィちゃんでも、主様の所有物は譲りませんよ」
「む~。ミィエルも負けないよ~!」
何やらかみ合っているようでかみ合ってなさそうな2人の会話。何よりセツナが喜びを感じている部分にとてつもない差異を感じる。
……まぁセツナが嬉しそうならいいか。
「ふふ。カイル君、モテモテね?」
「……兎にも角にも、アーリアさん。ギルドマスターへの取次ぎをお願いできますか? 昨夜お伝えいただいているようですが、しっかりと時間を決めておきたいので」
「わかったわ」
頷いたアーリアは席を立って冒険者ギルドへの連絡を取ってくれる。その間にミィエルがセツナにペンと羊皮紙を差し出し、冒険者登録に必要な項目を記入するよう促してくれる。
「そう言えば~、セっちゃんは~読み書きはできるの~?」
「申し訳ありません。文字の読み書きはできないので、ミィちゃん教えていただけませんか?」
「まっかせて~! じゃあ~、今回は~ミィエルが記入しちゃうね~。べんきょ~は~、時間があるときにしようね~」
「はい。お願いします、ミィちゃん先生」
「えへへ~。もっちろ~んだよ~」
ミィエルはさらさらと綺麗な字で必要事項を埋めていく。ただ習得技能欄で筆が止まり、視線を俺へと向けてくる。
「ここは~、どうしましょうか~?」
「う~ん、どこまで詳しく書かないといけないんだ?」
「申し込み自体は~、系統別の~一番上の~技能職で~大丈夫ですよ~」
「ふむ」
セツナはLv11のバトルドールだ。レベルだけで見れば近接技能職の最上位まで達している。今回の能力的には俺と同じ〈フェンサー〉系列よりも〈ファイター〉の系列の方が合うだろう。
となると、〈ファイター〉の上位職である〈ウォーリアー〉かな? 後は〈スカウト〉と〈レンジャー〉あたりを加えておけばいいか?
恐らく申し込みだけならそれでいいだろう。ただ、プレイヤーキャラクターではないセツナが、どのぐらいのことができるのか。これは早急に確認しておいた方が良いだろう。パーティーの役割を決める意味でも重要なことだし、丁度良い機会とも言える。ついでだ、ミィエルも交えていろいろ試してみよう。
俺は自分の考えに頷くと、俺の言葉を待つミィエルとセツナに次の提案をする。
「セツナ。今後のことを考えて、今からいろいろとテストしてみよう」
「テスト、でございますか?」
「あぁ。丁度装備も整ったことだしな。今のセツナに何ができるのか、いろいろ試してみようと思うんだ。今の身体になってから、まだ全力で動いてないだろう? 俺も正確に把握したいしさ」
「かしこまりました。では準備をしてまいります。場所は地下室でよろしいですか?」
「いいですよ~。では~、ミィエルは~マスタ~に~、声を掛けてきますね~」
俺の言葉に頷いたセツナは、自室から装備を持ってくるために席を立つ。ミィエルもアーリアに伝えるために立ち上がる。俺も同じタイミングで立ち上がり、地下室へ向かう前に「ミィエル」と呼びかける。
「なんですか~?」
「ミィエルも地下室に来る前に装備を整えておいてくれないか? 勿論、全力を出せるようにね」
「? ミィエルも~、ですか~?」
俺はミィエルの問いに頷き、「折角だからさ」と前置きをして彼女の疑問に答えを贈った。
「セツナと一緒に模擬戦をしよう。相手は――俺がするからさ」
いつも閲覧ありがとうございます。
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