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第41話 買い物終了。そして山積みされる問題は、明日の俺がきっと解決してくれるだろう

更新が遅れて申し訳ありません。

また、誤字脱字の報告、ご感想等ありがとうございます。

「どれ、こんなもんじゃろ」


「いいですね」



 フェーブルが見立てた剣を俺とセツナは手に取って感触を確かめる。うん、いいね。思ってたより手になじむ。



「セツナはどうだ?」


「問題ないと思われます」


「何かあれば言うんじゃぞ。多少詰める程度なら1日でできるからの」



 セツナも何度か大剣を振るい、問題ないことを確認して鞘へと納める。





【武器1】ミスリル製グレートソード+1 価格:140,000G

カテゴリー:ソード ランク:S 用法:2H 必要筋力:18 威力:42 命中補正:+1 ダメージ補正:+1 クリティカル性能:B

耐久値:200/200

〈効果〉

なし



【武器2】白銀のフランベルジュ+1 価格:90,000G

カテゴリー:ソード ランク:A 用法:2H 必要筋力:20 威力:35 命中補正:+1 ダメージ補正:+1 クリティカル性能:B

耐久値:170/170

〈効果〉

銀属性。





 セツナに渡された二つの武器だ。特殊な効果はこれと言ってないが、魔力付与加工がされており、且つ頑丈で威力も高い。多少乱暴に使ったところでそう簡単には壊れないのが特徴だ。銀製の武器は銀属性が弱点の魔物には効果があるが、あくまでサブ武器であり、恐らくあまり活用されることはないだろう。

 そして俺に渡された武器はこれだ。





【武器1・2】ブロードソード+1 価格:24,000G

カテゴリー:ソード ランク:B 用法:1H 必要筋力:15 威力:15 命中補正:+1 ダメージ補正:+1 クリティカル性能:B

耐久値:130/130

〈効果〉

なし




 セツナと違い俺は片手で扱えることが重要であり、〈マスタリー〉系のアビリティを持っていないため、最も低ランクの武器でなければペナルティを負ってしまう。だからこそ値段こそ安いがこれが一番いいのだ。エヴァ婆さんの防具を見た後だと見劣りするかもしれないが、正直言ってあれがおかしい性能をしているだけで、武器も相当良いものをフェーブルは選んでくれている。50本の投げナイフまでおまけしてくれて俺としては大満足だ。


 ちなみにミィエルは「魔剣に~してください~!」と要求をはね上げたが俺が丁重に断っておいた。扱いやすいことが一番であるし、武器は防具よりも直接的脅威になりやすい。

 フェーブルが売ったことによって問題が起きた、なんてことにならないようにしておきたいのだ。ただでさえスカウト合戦(面倒ごと)に巻き込まれそうなのに、自分からその材料を増やす必要はないのだから。



「まだ小僧も嬢ちゃんもこの街では“駆け出し”じゃったか? 実力と功績が伴っておらんのは違和感だらけじゃがな」


「えぇ。この街には来たばかりなので。今後なにかあればフェーブルさんに頼みに来ますね」


「うむ。そうじゃ。次来た時は手合わせでもせんか? こう見えてもわしだってまだ現役の戦士じゃ。お前さんほどの実力者となら、戦ってみたいと血が騒いどる」



 「どうじゃ?」と尋ねてくるフェーブルに俺は笑顔で「いいですね」と応じる。是非とも【妖蓮一刀流・霊刀術】の〈火霊〉と〈土霊〉を見せてほしいと思っていた。正確には相対してどのような太刀筋なのかを見ておきたかったと言うのが正しい。

 TRPG(ゲーム)の知識じゃ対応できないものがわりと出てきている今、知っておくことは必ず俺達の為になる。



「その後は酒じゃな!」


「それもいいですね! 是非」



 思えばこの世界に来てから酒を飲んでなかったなぁ。15歳で成人だから問題なく飲めるはずだし。ドワーフと言ったらやっぱり火酒かな? 楽しみだ。



「じゃあ次来た時の楽しみにしておくとえぇ。さて、そのためにもわしゃ早速お前さんが持ってきた武器でいろいろ試させてもらうとするかのぉ」



 楽しそうな笑顔を浮かべるドワーフのおっさんに「エヴァの婆さんとおんなじ顔してますね」と言いたかったが我慢する。

 「ではよろしくお願いします」とフェーブルの店を後にし、ミィエルに冒険者道具を取り扱ってる店への案内をお願いする。


 俺はいつもの帯剣ベルトに【ブロードソード】を佩けばいいが、セツナの武器である両手剣は大きすぎるため佩くことはできない。背負うにしてもセツナの身長では少し厳しい。



「セツナ用のマジックバッグと装飾品の購入をしたいんだ。案内を頼めるか? ミィエル」


「もちろんですよ~。ちゃ~んと、お洒落の~邪魔をしないかたちに~、しないとですね~」


「? 主様、主様と同じようにセツナも【ウェポンホルダー】を背に着ければ良いのではありませんか?」



 ミィエルの言葉に首を傾げるセツナ。俺としてもセツナの意見に賛成なのだが、ミィエルの目が「まさか実用性だけを重視しませんよね?」と俺に語り掛けている。安上がりだし実用性の高い【ウェポンホルダー】は俺も気に入っているんだけど。大剣を背負った美少女とか絵面的に良くない?


 まぁそう思うのは俺の趣味なだけであって、セツナに関しては美少女として外見と容姿をフルに活用した方が良いと言えば良い。普段から身軽にしておけば〈ハイドウォーク〉の効果を隠密にも発揮できるだろうし、大剣を背負っていたら行動パターンは想像がつくが、武器が見えない状態であればセツナの体格から“大剣使い”と言う選択肢が出ることが少なくなるはずだ。確か武器を収納できる便利な装飾品(アイテム)があったはずだ。TPRG時代じゃフレーバーでしか活躍することがなかった残念装飾品だったけど。



「俺の勝手で悪いんだけど、セツナには大剣使いであると言う情報は秘せられるようにしようと思ってるんだ。俺と行動を共にする限り荒事には関わることになると思うし、こんなかわいい()がいきなり大剣を振り回したら相手の虚を突けるかもしれないだろ?」


「普段から~身軽に動けた方が~、いいですもんね~」



 賛同するミィエルに続くように「ダメか?」と確認をすれば、「……わかりました。主様のおっしゃる通りでお願いいたします」と笑顔を浮かべてくれる。

 う~ん、返事するまでに間があったが何か気に入らないことがあっただろうか?



「嫌だと思ったら嫌って言ってくれな? セツナ自身が望むことをできる限り俺も叶えてやりたいと思ってるからさ」


「お心遣い感謝いたします。ですが嫌な気持ちなどございませんので」


「そうか? 気を付けないと俺の趣味全開になっちゃうからさ。何かあったら気にせず言ってくれな。俺の従者を名乗るなら、付き従うだけじゃなくて、主がおかしなことをしたらちゃんと嗜めてくれよ?」


「かしこまりました。ミィちゃん、セツナはまだまだ至らない点がたくさんありますので色々教えてくださいませ」


「もっちろ~ん。どんどん~ミィエルに~、頼ってね~」


「ありがとうございます」



 セツナに頼られて嬉しそうな笑顔を浮かべるミィエルに、内心で「頼むぞ」と俺からもお願いしておく。この世界の常識は間違いなく俺より彼女の方が知っている。と言うかむしろ俺も教わりたい。



「ここが~、冒険者道具(アイテム)や~魔法道具(マジックアイテム)を~取り扱ってる~お店ですよ~」



 こちらも大通りに面した店で名前は“必見堂(ひっけんどう)”と言う店らしい。品揃えも良く、消耗品などは大体はこの店で揃うそうだ。

 早速店内へと入り、目的に物を探していく。


 今回必須で欲しいのは道具類を持ち運べる【マジックバッグ】と合言葉(キーワード)で武器の出し入れが行える装飾品【ストレージリング】だ。後はミィエルと離れていても通信可能となる【通信水晶】や、装着者同士の位置が解る【相思のアンクレット】なんかも可能であれば買いたい。



「フッフッフ~! ここは~、ミィエルにお任せですよ~!」



 ミィエルに要望を伝え、彼女の美的センスを遺憾なく発揮した結果――





名:“カイルの従者”セツナ 種族:魔導人形 Lv11 使役Lv1 使役者:カイル・ランツェーベル

HIT:18(+3) ATK:18(+7) DEF:11(+3) AVD:14(+1) HP:46/46 MP:32/48

MOV:30 LRES:14 RES:15(+1) 魔法ダメージ軽減:6(+6)

行動:命令または自主的な判断による 知覚:魔法 弱点:炎属性ダメージ+2

【装備】

武器:ミスリル製グレートソード(HIT+3 ATK+7)

防具:マギカハーミット(DEF+3 AVD+1 RES+1 魔法ダメージ軽減+6)

装飾品1:ストレージブレスレット(ミスリル製グレートソード登録)

装飾品2:マジックポーチ(100L)

装飾品3:相思のチョーカーリボン(ミィエル)

装飾品4:静謐のアンクレット

【マジックポーチ内】

《個数×名称:効果》

1×銀製のフランベルジュ+1

5×アウェイクポーション:気絶状態からHP1で復活できるポーション。

5×相克の形代(5点):魔法ダメージを5点まで軽減することができる。

5×リペアキット(10点):魔法で創造した召喚獣(ユニット)のHPを回復する。

1×10フィート棒:3mの長い棒

1×通信水晶 (カイル):対となる水晶を持つ相手と音声による通話ができる。

?×着替え:セツナの着替え





 外見的にもお洒落を損なわないどころか、より引き立たせる形と相成った。

 念のためセツナに装備できる装飾品の数がいくつなのかをステータスで確認してみれば、追加で拡張されたスロット数と同じ4点。そのため他にも装備させたい装飾品を断念するはめにはなったが、十分と言えば十分。と言うか、【マジックポーチ】が装飾品扱いってのがなんか納得いかない。


 ちなみにマジックポーチやバッグにも内容量と言う表記がされており、安い物なら30Lからあった。ちなみに俺が持っている巾着バッグと雑囊は容量∞となっていた。TRPG時代から所持品保有に制限がなかったものだが、こんな所にも引き継がれているらしい。ありがたいと言えばありがたい。


 消耗品は今思いつく限りの最低限必要なものを揃えるに留めておいた。今後セツナに何ができて何ができないかを確認しながら増やしていくつもりだ。

 【相思のチョーカー】はミィエルと色違いで揃えたものだ。パーティーを組んだ際、俺とセツナは術者と従者で場所の特定が感覚的にできるが、ミィエルは位置把握が難しいために必要と判断した。指輪や腕輪タイプもあったのだが、なぜかセツナが首輪を見ては俺を見てきたり、ミィエルはミィエルで上位アイテムである【相思相愛のリング】と言う指輪をミィエルとセツナの分を俺に装備させようとしてきたので、間をとって首飾り(チョーカー)を推しておいた。

 さすがに俺の装飾品枠を2つも潰す気にはなれず、申し訳ないがミィエルとセツナお揃いのチョーカーで不承不承手を打っていただいた。



「ミィちゃんとお揃いですね」


「んふふ~。セっちゃん可愛い♪」



 先程まで少しむくれていたミィエルだが、今ではセツナと2人でいちゃいちゃ抱き合っているので問題はなさそうだ。セツナナイスだぜ。



「カイルくん~。今日の~、予定は済んだんですよね~?」


「そうだな。助かったよミィエル。ありがとう」


「どういたしまして~ですよ~」


「セツナもお疲れ様」


「お疲れ様です主様」


「じゃあ~、戻ったら~セっちゃんと~、カイルくんの~歓迎会ですね~!」



 踊るようにステップを刻んで俺の前でくるりと振り返るミィエル。温かな夕日を背景に向けられた笑顔に不覚にもドキッとする。可愛い娘は何をさせても絵になるなぁ、とつくづく思う。



「歓迎会って……アーリアさんは暇あるのか?」


「マスタ~なら~、だいじょ~ぶですよ~。面倒(楽しい)事は~嬉々として終わらせますから~」



 自信をもって頷くミィエルに、確かにアーリアはやり手っぽいしな、と納得してしまう。あの見た目で冒険者の宿を問題なく経営しつつ、自分の研究を優先できている時点でやり手なのは間違いないだろし。



「やってもらう俺としては歓迎だよ。ミィエルが腕をふるってくれるんだろ?」


「もちろんですよ~! セっちゃんもどうかな?」


「主様がよろしければ。それで、その、できればセツナにも料理を教えていただきたいのですが。ミィちゃんお願いできませんか?」


「まっかせて~! 大船に乗ったつもりで~頼ってね~!」


「お願いします、ミィちゃん先生」


「んふふ~♪ カイルくんに~続いて~、セっちゃんも~生徒に~♪」



 テンションが上がりすぎてだらしがないほどの笑みを浮かべたミィエルは、「なら~早く帰るですよ~!」とセツナの手を引いて走り出す。セツナも一瞬驚いた表情を浮かべるも、その後はミィエルにされるがままでも楽しそうな笑顔を浮かべている。こうしてみると本当、仲の良い姉妹のようだ。



「カイルく~ん。置いてっちゃうですよ~!」


「主様! 早く主様も!」



 手を振って手招く2人に一瞬「先に行ってていいぞ」と言葉を返そうとしたが、俺も小走りで2人を追いかけることにした。

 折角機嫌の良い2人に水を差すのも悪いと思ったのも一つだが――



「こりゃ想像以上に視線が痛いな……」



 すれ違う人々の2人を見る笑顔の後、俺へと向けられる視線の豹変ぶりに思わず苦笑いが浮かぶ。中には嫉妬や忌避の視線だけじゃない。明らかな敵意を持った視線まで混ざっている。

 ――危険感知判定、成功。


 全く……まさか街中でまた危険感知が働くとは思わなかったよ。


 俺は2人に気づかれないよう、こっそりと溜息を吐くことになるのだった。








★ ★ ★









「はぁ~喰ったし飲んだ~!!」



 ほろ酔いの感覚がとても気持ちが良い。


 “妖精亭”へ戻ってくる道中で散々な視線を浴び続けた俺だが、今日の夕食はそんなものがどうでも良くなるほどに豪華だった。我慢して帰ってきた甲斐があったってもんだ。


 宿に戻れば早速ミィエルとセツナがエプロンをしてキッチンへと足を運び、カウンターではアーリアは「既にやることは終わったわ」と当然の様に寛いでいた。

 荷物を置き終え、俺がアーリアさんと行う魔法研究の話に花を咲かせている間に料理も完成。初めての料理なのに丁寧だし覚えるのも早い、とべた褒めするミィエルに嬉しそうな笑みを浮かべるセツナ。並べられる4人では食べきれない料理の数々。どれもこれも美味しく、都度ミィエルとセツナを褒め、そしてアーリアが出してくれたワインがこれまた美味かった。

 なにより驚いたのはセツナが俺以上に食べていたことだ。味覚の感覚が余程気に入ったのだろうか。もし食べることでMPが補給できれば万々歳だな。


 それと未だに会ったことがない“妖精亭”の他の冒険者を誘わなくて良かったのかも確認したが、彼らは俺が持ってきた案件の後始末――つまりフレグト村周辺の森を探索する依頼を遂行しているようで、戻りは数日後とのこと。何ともまぁタイミングが悪いことで。まぁ今に会えることだろう。



 そうして楽しい歓迎会と言う夕食を終える。セツナが寝泊まりする部屋に関して多少は揉めたが、俺がもう一部屋借りて別々に寝ることで落ち着いた。勿論、寝る前と朝に魔力補給はするつもりだからMP切れの心配もない。



「ふぅ~~」



 ベッドで仰向けになりながら、何というかようやっと息がつけている気がする。

 不安事がないわけではない。これから俺を取り巻く環境はまだまだ落ち着くことはないだろう。それでも、カイル・ランツェーベルとして何となくやっていけるんじゃないかな、と思える程度にはなった。



「まさか突拍子もなく思いついた出来事に、まんま巻き込まれてLv19の魔神なんかと戦う羽目になるとは思わなかったがな」



 他にも感情を持ったバトルドールを使役したり、街のアイドルとパーティーを組むことになったらやっかまれたり。明日にはウルコットたちが街に着くだろうから、また一悶着あるだろうし……



「でもまぁ、楽しんでるよな。俺」



 そう、何だかんだで楽しんでいるのだ。元の世界のことが気にならないわけじゃない。独り身だったから妻や子供たちの心配なんてのはないが、両親のことは心配だし心残りだ。考えれば親孝行できなかった悔いもある。ただ、元の世界に戻れないと決まったわけでもない。

 もし戻れるのであれば、出来れば俺の意識がこっちに来た時間軸でお願いしたいね。元の世界に戻ったらもう数年経ってました、とか笑えない。世界を渡る度にホットスタートなんて御免被る。



「どちらにしろ、この世界で生き延びてみないことには、どんな可能性もないよな」



 この世界での俺のレベルは人族としての種族限界近くまで高めることができた強者だ。だからと言って安全なんてない。人族が到達しえないレベルの『蛮族』や『悪魔』なんてゴロゴロいる。またそんなのに出会った時の為に、力はつけていかなければならない。


 ステータスを確認すれば“簒奪者・キャラハン”討伐で経験点は割と多めに取得できている。でもLv15(限界値)まではまだまだ足りない。

 経験値を稼ぐ方法、どうすれば効率よく稼げるのかも検証、TRPG時代になかった魔法や技術の勉強と今以上の実践訓練。やることは山積みだ。だから一つ一つ着実に解決していくとしよう。勿論、折角憧れの剣と魔法の世界にいるのだから楽しみながら、な!

 

 軽く気持ちの整理をつけ終えると、コンコンコンとノックの後に「主様? 今よろしいでしょうか?」とセツナの声が響く。



「構わないよ。開いてるから入っておいで」


「失礼します」



 丁寧な所作で扉を開けたセツナは、ベッドから身体を起こした俺の顔を見てほっとした表情を浮かべる。ほんのわずかな違和感が頭を過ぎる。



「随分とお酒を嗜んでおられたので心配でしたが、大丈夫なようで安心いたしました」


「あぁ、そう言うことか。心配かけたみたいで悪かったな。片付けは終わったのか?」


「はい。ミィちゃんの手際が良いので、恙なく」


「そっか。お疲れ様」



 ちなみに俺も片づけは手伝おうと進言したのだが、ミィエルとセツナに断られてしまった。セツナが早く上達するためにも量を熟さなければならないと言われれば、俺としては引くしかない。



「それで、主様。その、不躾なお願いではあるのですが……」


「魔力補給だろ? こっちにおいで。それとどうやればいいか教えてくれ」


「……はい」



 頷いて扉がちゃんと閉まっていることを確認したセツナは、今までの所作からは考えられない程ふらふらとした足取りで歩き、途中で崩れるように座り込んでしまう。



「セツナ!?」


「申し訳、ありません。主、さま……」



 ほろ酔いなんてあっという間に吹き飛び、咄嗟に動いて身体を支える。しかし原因がさっぱりわからない。まだ経過時間から考えても十分なMPはあるはずだ。そう思いステータスを確認すれば、MPが「6/48」と急激に減少していた。



「何があったんだ? 体調に異変があるのなら、何故すぐに言わなかった?」


「異変、と言うようなことでは、なかったのです。ただその、ミィちゃんの嬉しそうな顔が、セツナも嬉しくて」


「? どういうことだ?」



 セツナを抱き上げてベッドに寝かせ、慌てるような事態じゃないと察した俺はゆっくりと疑問を述べる。



「セツナは、本来食事を、必要としません。ですが、主様のおかげで、味覚を得られたことと、皆様と食事を摂れるのが、嬉しくて。つい、先程は食べ過ぎて、しまって……」


「なんだ単なる食べ過ぎか……」



 ほっと胸を撫でおろせる理由ではあるのだが、それは生物の場合だ。魔導人形(バトルドール)であるセツナにも同じ意味で捉えて良いわけがない。事実、MPの消費が異常――ってまさか……



「もしかして、食べ物を消化するのにMPを消費してるのか?」


「はい……」



 申し訳なさそうに頷くセツナに、「気にすることはない」と頭を撫でる。まぁ生物と違って確かに経口摂取は必要のない行為だよな。さっきまで食べ物がMPへ変換されればいいなぁ、なんて思っていたけど世の中そううまくはいかないようだ。



「主様に負担をかけてしまい、申し訳ありません」


「そんなことで気に病むことはないぞ。セツナの好きにしたらいい。MPぐらいいくらでも分けてやれるからな」


「ですが……」


「皆との食事、楽しかったんだろ?」


「……はい」


「なら遠慮するな。これからも一緒に食べようぜ。俺もセツナとご飯を一緒に食べれるのは嬉しいからさ。折角色々楽しめるんだ。俺の従者を名乗るなら、遠慮せず楽しめるもんは楽しめ。俺も主として、お前が楽しんでくれていた方が嬉しいからさ。だから、やりたいことがあれば遠慮せず言え。従者の要望を叶えるのも、主の甲斐性ってもんだろ?」


「……っ! はい!」


「良い返事だ!」



 満面の笑みを浮かべたセツナに満足し、俺は早速失われたMPを補充するため、セツナにどうすればいいかを尋ねる。



「セツナの、コアに近い位置から、直接触っていただき、魔力を流していただければ、大丈夫です」


「ってことは、胸部か背中からか。よし、今身体を起こすから背中からやろうか」



 話している間にも残りMPは「4」を切っている。ちゃっちゃと補充してしまおう。そう思い身体を抱き起そうとすると、「あの、主様?」と袖を引っ張って止められる。



「ん? なんだ?」


「できれば、その、前からお願いしたいのですが」


「……理由は?」


「その、何分初めてなものですから……主様のお顔が見れないのは、怖くて……ダメ、でしょうか?」



 先程言った言葉をちゃんと汲んで、要望を言ってくれるのは大変結構。潤んだ瞳で見つめられたら断る勇気は男にはないね。くそ、俺が創造したとは言えセツナは可愛すぎるな。



「了解。じゃあ――」


「服の上からですと、効率が悪いですから、直接、お願いします」


「――あ、うん。了解」



 今更「やっぱ背中にしない?」とは言える空気じゃない。なんせセツナがめっちゃ嬉しそうだからさ。


 俺はセツナが着ているワンピースのボタンを外し、胸元を少しはだけさせる。ワンピースの下には今日購入したのだろう黒の下着が顔を覗かせ、異様な色気を醸し出している。俺一度セツナの身体は見てるんだけどなぁ。目の前のそれはあの時とは別物だ。

 あー、この場を誰かに見られたら即通報ものだよね。とにかく、さっさと終わらせるとしよう。



「やるぞ?」


「はい、主様」



 左手を胸部中心に当て、魔法を使う時と同じ感覚で身体の中の魔力をセツナへと送っていく。



「んっ。あっ、主様のが、中に、入って……はげしっ、んあ…………はぁ……気持ち、良いです♪」



 何だよこのちょっぴりエッチな少年漫画的な場面(ノリ)はよぉ!? まさか異世界にまできてラブコメ主人公の気持ちを学習する羽目になるとは思わなかったよ! 可愛くて色っぽいとか反則かよ!?


 俺は全力で表情を抜けさせ、意識を外へと逸らしながら魔力を補給し続ける。

 恐らくセツナは無自覚だとは、思う。でも狙ってるかのような台詞と艶のある声音、蕩けた様な表情はこれがただの魔力補給には全く思えない。破壊力が高すぎて事情を理解していても、気を抜けば理性が一瞬で吹き飛びそうだ。



「……そろそろ、か」


「んくっ……ん、はい。あっ――」



 何とか無事魔力補給を終えられて安堵の息を吐く俺と、余韻に浸り、離れる俺の手を名残惜しそうに息を吐くセツナ。身体を起こしてやり、衣服を整え、ステータスを確認すればMPは完全回復していた。よし、これで問題はないな。補給行為に関しては問題がありすぎて頭が痛いが……



「んっ……ありがとうございます。主様」


「身体の調子に問題はないか?」


「はい。主様のがセツナの中で、温かく息づいているのがわかります」


「……ならいいんだ」



 立ち上がり身体の動きに問題がないことをセツナが確認し終えると、丁度良いタイミングで扉の前にミィエルの気配が現れ「セっちゃんは~いますか~?」と声がかかる。いや本当良いタイミングだ。早すぎず遅すぎない、素晴らしいぞミィエルグッジョブだ!



「いるぞミィエル」


「あ、カイルく~ん。開けても~、だいじょ~ぶですか~?」


「あぁ、大丈夫だ」



 開いた扉から顔を覗かせたミィエルは俺の顔を見て目を瞬かせる。



「カイルくん~?」


「今しがた魔力補給が終わったんだ」


「あ、そうだったんですね~」



 納得と言う表情をし、セツナを見つけて手招きをする。



「セっちゃん。なら~、一緒に~お風呂に入りましょ~♪」


「はい。では主様、お背中をお流ししますね」


「ふえ?」


「……いや、俺は一緒に入らないから」



 ナチュラルに台詞を繋げてくるセツナにミィエルはピクリと固まり、俺は俺で静かに息を吐く。そしてミィエルへと視線を向けて俺は可能な限りの思いを乗せる。



「ミィエル、頼んだ」


「……はい~」



 思いを受け取ったミィエルはコクリと頷き、「ささ~、セっちゃん行きましょ~」と困惑気味のセツナの手を引いて、浴場へと連れて行ってくれた。

 俺は彼女たちを見送り、扉が閉まって足音が遠ざかるのを確認し――大の字にベッドへ倒れこんだ。



「…………疲れた」



 MPを「55」点も持ってかれたのもそうだが、セツナの仕草にとにかく疲れた。魔力補給(あれ)はとても外じゃできないぞ。他人の目があってもだめだ。1日1回は最低しなきゃならないが、食事のことを考えると1日2~3回は必要か。

 その度にセツナを個室に連れ込むのはいかがなものか。



「はぁ……1つ1つ解決してかねぇとなぁ」



 別の方法で魔力補給できないかも考えなければならないし、セツナの情操教育も……必要だよな。


 ……よし! 取りあえず寝よう! そして後は明日の俺に任せることにしよう! それがいい!



 なに、きっと良い方法があるはずだ。それに疲れていたら浮かぶ考えも浮かばないしな。



 そうして俺は、新たに積み上げられた問題に俺は全力で目を背け、明日の自分に期待してそっと意識を手放すのだった。


いつも閲覧いただきありがとうございます。

よろしければ評価・ブックマークの程、よろしくお願いいたします。


次回はマスターシーンであるカイル以外の視点をお送りする予定です。

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