第39話 ハーミットの広告塔
考えることが増えてきた。
ミィエル達との待ち合わせ場所までナミに案内してもらい、店先で彼女と別れた。なるべく接触しているところを他のパーティーや冒険者の宿に見られたくないそうだ。
と言うか、“赤雷亭”と“妖精亭”以外にも冒険者の宿ってあったんだね。誰に尋ねても“赤雷亭”の名前しか出てこないからてっきりないのかと思ってたよ。
「うちの“紅蓮の壊王”は物凄く強引だから気を付けてね」とナミが別れ際に忠告してくれたけど、向こうから絡んで来られたら気をつけようもないんだよねぇ。冒険者同士のいざこざにはできる限り巻き込まれたくないんだけどなぁ……
1人で抱え込んでも仕方のない問題だし、とりあえず本日の用事を全て終わらせてから、ゆっくりと皆と相談するとしよう。
「お疲れ様です、主様」
「や~っと来たね~。カイルくん~。遅いよ~!」
ドアチャイムを鳴らしながら扉を潜れば、兎をモチーフにした可愛らしい内装と奥のテーブルで俺を待つミィエルとセツナの姿が目に入る。ミィエルは少し顔を赤らめながらむくれた笑顔で文句を言い、セツナは俺の後ろに立って椅子を引いてくれる。
すぐに移動しようかとも考えたが、折角座るように促してくれたし、何よりメニューが気になるのでコーヒーの一杯ぐらいの一息は入れてもいいだろう。
「ありがとうセツナ。それと待たせてごめん2人とも。ちゃんと買い物は済ませられた?」
「はい。恙なく完了いたしました」
「ならよかった」
「え~っと、カイルくん~。その~、今日はありがと~。大切に~するね~」
少しもじもじしながらお礼を述べるミィエルに、最初は頭にクエスチョンが浮かぶも服をプレゼントしたことだと思い出して「どういたしまして」と返しておく。一瞬、「今度着たところを見せてくれればうれしいかな」と言おうとしたが、プレゼントしたのは服だけでなく下着もあったことを思い出して思いとどまる。我ながら危ないところだった。
「主様、ご注文はいかがなさいますか?」
「そうだな、コーヒーを貰えればいいかな」
「かしこまりました。ではコーヒーを注文してまいります」
俺の答えにセツナはカウンターへと足を運ぶ。どうやら注文も持ち運びもセルフだったらしい。
セツナが戻ってくるのを待ちながら、ミィエルが俺の外套を物珍しそうに見ていることに気づく。
「カイルく~ん。それってもしかして~?」
「“隠者の花園”で手に入れた傑作シリーズらしいぞ」
「やっぱり~! エヴァおばあちゃんに~気に入られるなんて~、さっすがカイルくんだね~」
「ミィエルは買わないのか? 俺の想定以上に良い品揃えだったぞ?」
「ミィエルには~、エヴァおばあちゃんが売ってくれないんですよ~。『あんたにはまだ早いじゃろう』って~」
へぇ。ミィエルにはまだ早いって、それはレベルの問題なのかな? Aランク冒険者でも「まだ早い」って、随分厳しいな婆さん。
「お待たせしました主様。それと新しいお召し物も似合っております」
俺の前にコーヒーを給仕してくれるセツナにお礼を言い、同様にミィエルと自分の前にもおかわりを置いて席についてくれる。俺一人飲むには寂しかったので大変ありがたい。
「ですが今までのお召し物はまだ修理に出すほどではなかったのですか?」
「修繕可能か確認のために置いてきたんだ。それでセツナの装備も整えたいから後でもう一度行くことになってるんだけど、2人は時間空いてるか?」
「ふぇっ!? もしかして~、セっちゃんも~?」
「あぁ、このシリーズを譲ってもらうことになってる。ただカレンちゃんがセツナに会って装備を見立てたいって言ってたんでな」
「セツナは勿論構いません。ミィちゃんはいかがなさいますか?」
「もっちろん行くよ~! 久しぶりに~、カレンちゃんにも~会いたいし~」
「じゃあ一息ついたら向かおうか。向かう時間は余裕をもって伝えてあるから」
頷く2人を見て俺もコーヒーを一口。しかし「セっちゃん」に「ミィちゃん」か。何やら俺が居ない間にとても親しくなったらしい。微笑ましいしとても良いことだ。
ふと、セツナは冒険者として登録できるのだろうか? この辺りもアーリアに後で相談してみよう。
★ ★ ★
“隠者の花園”へ向かう最中に、ミィエルに“希望の天河石”に会って店まで案内してもらったことを伝えておく。するとなぜか「ふ~ん」とミィエルの視線が厳しくなる。付き合いたての面倒くさい彼女みたいな態度は取り合えず無視だ。
「ミィエル達を~差し置いて~。ふ~ん、それで~遅くなったんだ~」
「昔ミィエルに世話になったって言ってたぞ。後はミィエルが俺とパーティーを組むって言いふらしてるとも言ってたな」
「言いふらしてなんて~、ないですよ~。事実ですから~」
ぷーっと頬を膨らませて抗議するミィエルにセツナも追従する。
「主様はミィちゃんとパーティーを組まないのですか?」
「アーリアさん次第じゃないのか? 任務難易度次第ではあるけど、俺としてはミィエルがいてくれれば助かる」
レベル詐欺ともいえる戦闘能力に頭の回転も早いし、道中の食事事情を鑑みてもミィエルは欲しい。ただ任務の難易度次第では俺1人の方が安全性が高い時もある。そのあたりはケースバイケースだとは思っている。
「主様、セツナとしてもミィちゃんがいてくれると心強いです」
「そうか。なら俺達3人でパーティーを組めばいいだろう? ミィエルの中では決定事項みたいだしな」
「ぶ~。ミィエルのわがままみたいに~、言わないでください~」
いや実際ミィエルの我儘だろ、と心の中では突っ込んでおく。それでも嬉しそうにミィエルの手を取って喜ぶセツナと、同様に笑顔を浮かべるミィエルを見てたら細かい話はどうでもよくなるというものだ。
「あぁそうだ。ミィエル、1つだけ訊いてもいいか?」
「? 何ですか~?」
「言いたくないなら言わなくていいんだけどさ。どうして今までパーティーを組んでこなかったんだ?」
実力的にも対等な冒険者はいたはずだし、信用できる冒険者だっているはずだ。それでも誰とも組まない冒険者、なんて言われるほど頑なにパーティーを組んでこなかったのは何故なのだろうか。
俺の問いにミィエルは眉尻を下げると、「別に~、大した理由じゃ~ないですよ~」と前置きをして続ける。
「様々な方に~、誘っていただいてはいたんですけど~、何とな~くウマが合わないかな~って~。それだけです~」
「そっか。まぁ同じ冒険者の宿内でもパーティーを組んでないみたいだしな。それ以前に別の冒険者の宿のやつらと固定パーティーって組めるもんなのか?」
一時的な共闘などはTRPGでもしてきたが、シナリオ進行の都合上同じ冒険者の宿でないとスムーズにいかないため、GM的にも別々の宿って対応はしたことがない。現実となった今はさらに冒険者の宿による斡旋手数料なども関わってくることを考えると、やはり同じ宿の冒険者でパーティーを組むのが一般的だとは思う。
「組めなくは~ないですよ~。でも~、店主からのウケは~よくないですね~。お金が~絡んでくるので~」
「だよな。ってことはその場合は冒険者の宿を変える必要が出てくるわけだ」
「もしかして~、カイルくん~、カナリアちゃんから~聞いたんですか~?」
「ヘッドハンティングの話は聞いたな。なんでも、俺を餌にしてミィエルを引き込みたいって考えてる奴らがいるらしいぞ。後は“紅蓮の壊王”なるパーティーに狙われてるらしいってのも教えてもらったな」
パーティー名を聞いた瞬間、ミィエルが物凄く迷惑そうな表情を浮かべる。
「あー、過去に何度か断ってる相手か?」
「……その通りです~。あまりにも~しつこくて~、しかも強引に~迫ってきたので~。思いっきり~切り伏せて~、静かになったんですけど~」
「はは。その根性だけは認めてやれるけどな」
まぁでも油断して足元救われるようなことがないよう、一度この街の冒険者で目ぼしい奴らの情報を集めておかないとな。俺を狙ってくるなら負けはないが、ミィエルとセツナが狙われるとなったら厄介だ。と言うかこの街一の冒険者の宿に所属してるんなら、しっかりとその辺管理してほしいもんだ。
「主様。もしもの時はセツナも全力で排除を行ってもよろしいでしょうか?」
「ダメとは言わないが、極力避けるように。セツナに何かあれば只事じゃ済まなくなるからな」
「そうですよ~。セっちゃんに~もしものことがあったら~、ミィエルも黙ってないんですから~!」
「ミィエルもだぞ。一度追っ払ってるからと言って、次同じようにできるとは限らないんだからな」
「わかってますよ~」
2人の頭を撫で、頼むぞ、と念を押す。取り合えずミィエルは対策済みだとは思うが、そこにセツナも入れるようアーリアとも相談しなければ。後はいざと言う時のための装備をしっかりしておけば、早々問題は起きないだろう。
後は解析判定成功率上昇のために、やはり〈セージ〉系技能レベルを上昇させておく必要があるかもなぁ。経験値を稼ぐ方法も考えておかないと。
「ま、その辺は後々相談ってことで」
面倒な話題はちゃっちゃと終え、雑談を交えながら歩けば目的地である“隠者の花園”へと到着。店内へと足を運べば、カウンターでカレンが「あ!カイルお兄ちゃん、待ってたよ!」と声を掛けてくれる。
「カレンちゃ~ん、久しぶり~です~」
「ミィエルお姉ちゃんも来てくれたんだ! 久しぶりー! あ、カイルお兄ちゃん、そっちの子がそうなの?」
「あぁ、紹介するよ。俺の連れのセツナだ」
セツナを前に出してカレンに紹介する。セツナも上品にカーテシーをして自己紹介をする。
「初めまして。“カイル様の従者”であるセツナと申します」
「すっごい綺麗な子だね~。カイルお兄ちゃんとお揃いの黒髪だし、もしかして妹さん?」
ふむ。どう答えたものか。正直「妹」って設定はいろいろと使い勝手が良い気がする。例えば病弱な妹で戦闘人形の身体に魂を憑依させることで動けている、とか? 妹の病を治すために旅をしているとか? わりと使えそうな気がするな。ただもう少し考えないと。適当に設定を決めすぎると後でボロが出るからな。
突発的に設定を増やしてしまったがために処理しきれなくなって4セッション程解決することがなかった、なんてこともよくある話だ。
「すまないが詳細は探らないでもらえると助かるな。いろいろ事情があってね」
「そうだよね! ごめんなさいカイルお兄ちゃん。じゃあ早速見立てちゃお!」
「こっちだよ」と再びカウンター脇の扉を開けて俺達を案内してくれる。後ろを見ればミィエルが目を輝て物珍しそうに様々な装備を見ている。
「もしかしてミィエルは初めてなのか?」
「もちろんだよ~! と言うか~カレンちゃん~。ミィエルも~、入って良かったの~?」
「別にいいよ。だってミィエルお姉ちゃんとカイルお兄ちゃんってパーティーを組むんでしょ? ならちゃんとお互い知っておいた方がいいじゃない?」
「ん? カレンちゃん、俺が来たときはそんなこと言ってなかったよな?」
「カイルお兄ちゃんが店を出た後に来た冒険者の人たちから聞いたんだ。『俺たちのアイドルがどこの“馬の骨”とも知らない奴とパーティーを組む』って落胆してたよ?」
「噂の広がるスピードが半端ないな……」
「だってミィエルお姉ちゃんだもん。ただ私的には納得だし、噂をしてた冒険者の方が“馬の骨”と言うか“炉端の石”だと思うけどねー」
「まったくもってその通りです。カレン様は良い目をしていらっしゃいますね」
「様なんてつけずにカレンでいいよ、セツナお姉ちゃん」
いやまぁ確かにLv13の俺と比べられたら見劣りはするだろうけど、炉端の石とか辛辣すぎないかカレンにセツナよ。まぁ2人が打ち解けたなら構わないか。俺のことを噂した彼らに実害があるわけでもないしね。
「それじゃあカレンちゃん、セツナに防具を見立ててくれ」
「まっかせて♪ ミィエルお姉ちゃんもどう?」
「ん~、ミィエルはいいよ~。ちゃんと~、エヴァおばあちゃんに~認められてからにするよ~」
「わかった」とカレンはセツナをじっと見つめた後、俺に視線を向けて方向性を定めていく。
「セツナお姉ちゃんはカイルお兄ちゃんと同じで回避寄りの前衛だよね。体格からしても物理防御力を上げて攻撃を受けるんじゃなくて、回避の方向性の方が良いよね。でもカイルお兄ちゃんが盾役をしてくれるから、それよりも攻撃面か魔法防御面に特化させた方がパーティーとしての役割を果たせるかな? 武器は持ってないからわからないけど、攻撃方法はどうするの? 多分魔法じゃないよね?」
「セツナは純粋な物理アタッカーだ。魔法付与された魔剣を使えれば魔法攻撃も視野にいれるけど、まだ武器屋には顔を出してないからね。基本は物理攻撃と考えてくれていい」
「それなら……革鎧系の方がいいかな。魔法を行使しないならバランス良くて攻撃力上昇が付与させやすいから。でも〈クロースマスタリー〉持ってるんだよね」
「うーん」と悩むカレン。
ふむ。確かに火力上昇は確かにあるとありがたい。俺みたく魔法行使の邪魔にならなければ革製は布製よりも安価で高い性能をしやすい。今現在はセツナに〈クロースマスタリーⅡ〉を習得させているが、〈能力換装〉で〈レザーマスタリーⅡ〉へ変更を考えてもいいかもしれないな。
そう考えていたのだが、「あの、主様」とセツナに袖で引っ張られる。
「どうした?」
「できれば、その……主様と同じ布製のものがいいです」
「ミィエルも~その方が良いと思うな~。革鎧は~着替えるにも時間を~、取られちゃうからね~」
「それもそうか。カレンちゃん、すまないが布製系で頼む」
「わかったよ! じゃあこれらになるかな!」
数ある防具の中から3点、テーブルの上に広げていく。その中にはさっき見せてもらった【ダーカーザンハーミット】も含まれている。
【鎧】マギカハーミット 価格:800,000G
カテゴリー:軽鎧 ランク:SS 必要筋力:2 回避補正:+1 防護補正:+1 魔法ダメージ軽減:-6点 RES上昇:+1
耐久値:120/120
〈効果〉
純白の生地に金の刺繡で魔法防御力を極限まで引き上げたローブ。精神を安定させ、あらゆる魔法ダメージを軽減できる最高位の性能を持ち、その性能に違わぬ高ランク防具となっている。
【鎧】グラスソウルハーミット 価格:450,000G
カテゴリー:軽鎧 ランク:S 必要筋力:4 回避補正:+4 防護補正:+8
耐久値:180/180
〈効果〉
蒼穹の様に鮮やかなローブ。雲のように軽く、壮大な海の様に衝撃を吸収する防御能力を持つ。
【鎧】ダーカーザンハーミット 価格:300,000G
カテゴリー:軽鎧 ランク:A 必要筋力:1 回避補正:+3 防護補正:+3
耐久値:150/150
〈効果〉
闇よりも深い黒色の強化繊維で縫われた隠者のためのローブ。光すらも吸収し、闇夜に溶ける外套は高い隠蔽効果を発揮し、敵から発見されづらくなる他、敵対値の上昇を抑える効果を持つ。
「魔法防御力を高めたタイプ、基礎能力を高めたタイプ、最後はカイルお兄ちゃんには一度見せてるけど、ヘイトと隠蔽能力を高めたタイプだね」
「やっぱりすごいな。俺が知るどんな装備よりも使い勝手も性能も上だ」
「魔法職なら魔法攻撃力上昇があるんだけど、物理攻撃職で布製系を重視する人はあまりいないから。この辺りが一番かな!」
マジで凄いな。〈クロースマスタリーⅡ〉を持つセツナならSランクまでは余裕で装備できるし、布製系ならペナルティーなしでSSまでも装備可能だ。俺もセツナもHPが低い回避型だけあって攻撃魔法には弱い。魔法ダメージ軽減系の消耗品も合わせれば【マギカハーミット】は理想的な対魔法装備と言ってもいい。しかし当初考えたセツナの〈ハイドウォーク〉と【ダーカーザンハーミット】の組み合わせを使えば、そもそも魔法攻撃の対象となることもなくなる可能性が高くなる。これは迷うな……
「カイルく~ん、さすがに~、予算オ~バ~じゃない~?」
「心配いらないよミィエルお姉ちゃん。どれもカイルお兄ちゃんにはそのままあげるから。さっきおばあちゃんにはしっかり許可をもらってるから」
「ね!」とウインクをするカレンに、ありがとうの意味を込めて笑みを返す。う~ん、俺が選ぶと今のセツナの能力と組み合わせることしか考えそうにないな。ここはセツナ自身に選んでもらうか。布製系の防具が良いって主張もしてくれたし。
俺は3種のローブを興味深く見ているセツナに「どれにする?」と問う。
「主様?」
「セツナが良いと思うものを選べばいいよ。これはセツナのための防具だ」
「セツナが、選んでもよろしいのですか?」
俺が笑みを浮かべて頷くと、セツナは何度か視線を彷徨わせた後、純白のローブ――【マギカハーミット】を手に取る。
「これが良いです、主様」
「わかった。じゃあカレン、これを貰えるか?」
「オッケーだよカイルお兄ちゃん。セツナお姉ちゃん、早速袖を通してみようよ!」
カレンは1つ返事で了承してくれると、【マギカハーミット】を俺に手渡してくる。カレンがやるんじゃないのか、と視線を送れば「早く!」と言葉を返される。まぁいいか。
「セツナ、右手から」
「はい」
セツナの背後に回って袖を通しやすいようにローブを広げ、右手と左手を通す。ぶかぶかだったローブはセツナに羽織らせると縮み、ぴったりとしたサイズへと変化する。丈を直す処か、合うサイズを探さなくていいって本当に便利だな。
「どう、でしょうか?」
「おう。凄く似合ってるぞ」
穢れを知らぬ純白の生地に金の刺繍がとてもおしゃれだ。何より濡羽色の髪が映えてとても可愛らしい。カレンも「似合ってるよ!」と頷き、ミィエルなんか「可愛すぎる~!」とセツナに抱き着いている。
「それに~、お揃いみたいで~いいよね~」
「はい! ありがとうございます、ミィちゃん」
「ん? お揃い?」
はて、何の話だろう。ミィエルはこの前見たところコンバットスーツだったしお揃い要素がないよな? 今着てる服とって言うのも違うし。
「カレンちゃん~。狙ってた~?」
「もっちろん♪ 同等の性能の色違いはあるけど、やっぱりこっちかなーってね」
「カレンもありがとうございます」
「どういたしまして!」
何やら女の子たちで分かりあっている会話だ。とても混ざりづらいし「何がお揃いなんだ?」なんて聞ける雰囲気でもない。うん、セツナが物凄い良い笑顔をしているから良しとしよう。
「じゃあカイルお兄ちゃん。メンテナンスとか必要になったら持ってきてね。おばあちゃんじゃないと直せないと思うから」
「了解した。こちらとしても助かった。本当にありがとう」
「いえいえ。うちとしても2人には良い宣伝になってもらうつもりだから問題ないよ!」
「宣伝?」
「うん。そうだよ」
はてさて、カレンは何を言っているんだ?
ミィエルはカレンの言葉に苦笑いを浮かべ納得しているようだが。んー? 有名冒険者が装備しているなら話題にもなるかもしれないが、無名の俺たちが装備していて宣伝になるなんて――あぁ、なるほど。そう言うことか。
「ミィエルのパーティーになる話題の新入りが“ハーミットシリーズ”を着てるってのが広告塔になるのか」
「そうだよ! うちの傑作はおばあちゃんがなかなか売ろうとしないから、価値があっても価値がないものになっちゃってるんだよ。だから、謎の新入りさんが身に着けていられているって言う事実が、ちゃんと評価されれば購入できるってみんなに知らしめることになるんだよ! 防具だって、使われた方が幸せだもん!」
これだけの性能を誇る防具を死蔵させてるのは確かに勿体ないよな。その事態を改善するために、丁度良く注目を集めている俺達を使おうってわけだ。そのための婆さんへの許可か。はは、カレンはやり手だな。
「セツナお姉ちゃんの可愛さなら、男性だけじゃなく女性の注目も集められるもんね!」
「お互いWin-Winなら問題ないか。カレンちゃん、ありがとうな。大切に使わせてもらうぜ」
「うん。これからも世界一の防具店“隠者の花園”をよろしくね! カイルお兄ちゃん!」
御贔屓したくなるひまわりのような笑顔を浮かべて送り出してくれたカレン。本当に彼女は商売がうまいと思う。
「~~~♪」
セツナも嬉しそうだし、防具の問題は解決だ。さて、次は武器の調達と洒落込もうか。はたして婆さんとカレンの言う通り、フェーブルって人から搾れるだけ搾れるのだろうか。まぁ、予算は随分浮いたし、そこまで気負わずに行ってみるとしますか。
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