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第34話 報告よりもミィエルはセツナちゃんが大切だと思います

「ただいま~戻りました~!」



 ミィエルによって勢いよく開かれた“歌い踊る賑やかな妖精亭”の扉に、手元で作業をしていたアーリアが振り返る。



「あら、おかえりなさい。無事に帰ってきてくれてよかったわ」


「アーリアさん、ただいま戻りました」


「おかえりなさい。早速で悪いのだけれど、報告をもらえるかしら? 飲み物はコーヒーでいいわよね?」


「ありがとうございます」


「いいのよ、淹れるのはミィエルだから。お代も貰うしね」



 自分はカウンターから一切動く気がない、と言わんばかりに手元の作業に戻るアーリアに苦笑いを浮かべ、俺はパタパタとカウンター奥へ向かうミィエルに砂糖とミルクは必要ないことを伝えておく。



「わかってますよ~。マスタ~とミィエルは~、ココアでいいですよね~?」


「任せるわ」



 俺は荷物を隣の席へ置き、アーリアの対面へと座る。手元に視線を落としたまま、アーリアは右手を俺に差し出してくるので「代金ですか?」と訊けば「違うわよ」と半眼の視線が返ってくる。



「エンブレムを渡して頂戴。そこにはあんたが討伐した対象のデータが残ってるのよ」


「そんな機能があったんですね。じゃあ解析に失敗してても後でどんなやつだったかわかるってことですかね?」


「そうね、データベースに引っかかればわかるはずよ。あと剥ぎ取ってきたアイテムがあればそっちも出しちゃって頂戴」


「成程。わかりました」



 エンブレムつけてるだけで討伐した対象のデータが記録されるなんてすげぇ便利だな。あれか、セッション終わりに正体がわからなかった敵の情報をGMに確認するようなもんか。

 高度な機械技術なのかな、それとも魔法技術なのか。どちらにしろ凄いわ。これなら虚偽の報告なんてできなくなるな。

 関心しながらエンブレムを手渡し、今回の戦いで剥ぎ取ってきたアイテムも皮袋に入れたまま纏めて渡す。



「ミィエルも剥ぎ取っていたので、纏めてお願いします」


「わかってるわよ。と言っても、今回は『悪魔』や『魔神』が多かったみたいだから、まともに換金できないんじゃない?」


「ですね。本当悪魔と魔神(あいつら)低報酬(不味くて)嫌になります」



 あ、そうだ。アーリアなら“キャラハン”の宝玉の価値もわかるんじゃなかろうか。

 別に入れていたアイテムを出そうとして雑囊を漁っていると「ちょっとあんた」と険しい表情で睨まれる。



「どうしました?」


「あんた、これは(・・・)嘘じゃないわよね?」


「えーっと、“キャラハン”のことですかね。間違いないですよ。あとこれがそいつの置き土産(ドロップ)です」



 俺が取り出したのは“簒奪者・キャラハン”の灰の中から拾ってきた【群青の魔将宝玉】と言うアイテムだ。名前だけは解ったが、俺の解析判定能力ではそれ以上は解らなかった。



「俺は鑑定能力が低いので価値や効果までわかりませんでしたが、アーリアさんならわかりますか?」


「……ちょっと見せてもらうわね」



 【群青の魔将宝玉】を受け取って鋭い視線を向ける。1分程【宝玉】を調べたアーリアは、カウンターに置いて一息を吐くと、含みのある笑みをこちらに向けてくる。



「来て早々英雄になれて『おめでとう』かしらね?」


「……嬉しくないんで何とか負からないですかね?」


「だったら~、もうちょっと~自重しないと~、だめだめですよ~、カイルく~ん。コ~ヒ~お待たせです~」



 キリッとした表情でアーリアに返せば、カウンター奥から戻ってきたミィエルに痛いところを突かれる。



「魔神退治だけでなく~、部位再生に~、3名への蘇生魔法~、高レベルのゴ~レム~」



 飲み物をそれぞれのテーブルに置きながら俺のやらかしを説明していくミィエル。俺は視線を逸らしつつ黙って出されたコーヒーを飲み、アーリアは半眼でココアを一口。



「それに~! マスタ~! カイルくんの~、バトルド~ルは凄いんですよ~!! す~~~~んごく可愛~んですよ~!!!」


「ミィエルはジョンの所の人形にも同じこと言うじゃない」


「たしかに~、言いますけど~。も~~別枠なんですよ~! 〈ド~ルマスタ~〉としての格も~、カイルくんの方が上なんです~!」



 「へぇ」と愉快気に俺を見るアーリアに、目で「ミィエルが言ってるだけです」と反論する。



「まぁ〈ドールマスタ―〉としての技能レベルで言えば、確かにカイル君の方がジョンより上よね」


「ん? ジョンさんは〈ドールドミネーター〉なんですよね? 俺より下ってことはないでしょう?」


「〈ドールドミネーター〉ってあんたは聞いたことある?」


「いえ、この前初めて聞きましたが」


「そう言うことよ。あいつの言ってる〈ドールドミネーター〉は技能職じゃなくて称号的なものね。しかも自称。やってることといったら、〈ドール・サイト〉でそこら中を聞き耳立てて覗き見してるだけの出歯亀よ」



 出歯亀って言葉こっちにもあるんだなぁ。国産TRPGだからかな。なんて少し感動しながらコーヒーを啜っていると、ミィエルが「それよりも~!」と顔を近づけてくる。



「はやく~、セツナちゃんを~呼んでくださいよ~!!」


「いやいや。さすがに報告が先だからな、ミィエル」


「実物見せた方が~、報告として優れてますよ~!」


「いや、確かにそうかもしれんが――」


「へぇ~。あんた、人形に名前つけちゃうタイプだったのね。しかも女の子」


「“ジェーン・ザ・リッパー”を創ったんだから女性名になったんですよ……」



 その一言でアーリアの視線が余計に厳しくなる。終いには溜息を吐かれて、



「ちなみにゴーレムは何を創ったのよ?」


「アイアンゴ~レムですよ~」


「……あんた、相当馬鹿でしょ。何のためにあたしがあんたの経歴を弄って、Lv9に落ち着けたと思ってんのよ?」


「…………そう、ですね……」



 アーリアの視線が痛い。そうだった。俺は冒険者ギルドではLv9の冒険者ってことになってるんだった。なのに、Lv11の“ジェーン・ザ・リッパー”と、Lv10の“アイアンゴーレム”を使役してしまった。

 最善だと思い俺が創れる使役獣(ユニット)の中でも高位の物を作ったが故の弊害。やべぇかなぁ。あ、でもいいか。



「まぁその辺りは“谷越え”した際に持ってきた秘宝級のアイテムを使ったとかで……どうでしょう?」


「苦しいけど話は合わせてあげるわ。状況が状況だったが故に仕方なしともいえるし。実力がバレれば不都合なのは、あたしもだし。ただそうね……あたしも早く見てみたいから、その“セツナちゃん”ってバトルドールを今すぐ創ってくれるかしら?」



 そう言って革袋を目の前に置かれ、「これは?」と尋ねればミィエルが胸を張って教えてくれた。



「〈クリエイト・バトルド~ル〉で~、必要となるだろ~追加素材と~、魔晶石です~!」


「通信水晶でミィエルから用意しておくように頼まれたのよ。お代はミィエル持ちよ」


「その代わり~、セツナちゃんを~、ミィエルにも抱かせてください~!」


「おい、その言い方だと俺が“ジェーン・ザ・リッパー”に抱き着かせてるみたいなニュアンスになるだろヤメロ」



 あまりの準備の良さに頭を抱えたくなるが、用意してもらったこと自体はありがたいので礼は言っておく。



「とりあえずサンキュな。アーリアさん、集中したいんで部屋でやりますよ。2人は兎も角、他の誰かに見られたくないですし」


「だったらあたしの地下室を使いなさい。あそこなら絶対に漏洩しないもの。出歯亀も入れないわよ」


「そうさせてもらいます。いろいろ考えるので、恐らく行使には1時間ほどかかると思います。それまでは適当に時間を潰しててください」


「わかったわ。ならその間に【宝玉】と討伐記録に関してやれる限りやっておくから、安心なさい」


「ありがとうございます」


「ミィエルも~! ご一緒していいですか~!?」


「あぁ。別に構わな――」


「ミィエルはあたしへの報告が先よ。終わったら付き添いなさい」



「は~い」と頷くミィエルに思わず苦笑いが浮かぶ。よっぽどセツナのことが気に入ったんだな。気に入ってもらえるのは良いことだが、ミィエルも創れるようになりたい、とかならなければいいな、とは思う。


 階段裏から地下への降り、実験室と呼ばれた部屋の中央まで進んでさっさと準備を進める。

 俺自身の体調もMPも万全だ。そしてせっかくセツナを創るのだから、今できる限りのアップデートはしておきたい。



「魔晶石も用意してもらってるし。一応従来の素材で間に合うかどうかは――よかった、大丈夫そうだ」



 今やろうとしていることを頭に思い浮かべれば、素体となる【刹那の天藍石】が埋め込まれたエルダートレントから作られた人形、そして“ジェーン・ザ・リッパー”を作成するために必要となるMP「20」点が含まれた魔晶石と俺自身のMP「48」点だとわかる。どうやら俺が消費しなければならないMPが倍増している以外は、素材の変更はないようだ。しかし消費量倍って……


 まぁいい。次に追加素材(オプションパーツ)の選定に入る。

 “ジェーン・ザ・リッパー”で追加できる拡張スロットは4点。前回、俺はセツナの追加素材として選んだ効果は〈二刀流・双撃〉と〈全力攻撃Ⅰ〉、そして〈ウェポンマスタリー・ソード〉と〈アーマーマスタリー・クロース〉の4点で、敵対対象のレベルが低いこともあって手数優先、防具による回避の上昇をメインに付与させた。

 そして今回は【刹那の天藍石】の効果でさらに追加スロットを3点増やすことができるようだ。豊富に用意された追加素材である宝石を見ながら、セツナをどうしたいのか、を俺なりに考える。



「防御系はゴーレムに特化させているから、セツナには攻撃かサポートを任せたいんだよな」



 俺自身が回避盾であることを考慮すれば火力特化が一番望ましいとも言える。ただ自立行動が可能なセツナは単独で俺の指示をこなしてもらうことも多くなるはず。となるとある程度ソロでも戦えるよう工夫をしておきたい。魔法が使えればよかったのだが、バトルドールは基本的に物理攻撃職だ。そこは望めない。



「バトルドールの特徴は追加素材だけでなく、既存の装備を後程装備することが可能な点が大きい。ただ対応する〈マスタリー〉技能を付与しなければならない分、スロットを圧迫する特徴もある」



 武器1点で防御力は従来の物だけとすれば、スロットは1つ空くが、もうセツナは使い捨ての使役獣ではない。現状素体となる人形に埋め込まれている以上、素体が壊れるようなことは避けなければならない。

 可能であれば火力特化。それも俺とは違う、一撃に全てを込めるタイプの方が面白いか。防御面は俺と同じく回避型にして、単独行動スキルかアビリティを入れれば斥候の役割も果たせる。いやまて、遠距離火力特化も捨てがたいな。重火器武装の従者とか鉄板だよな。あーくそ、悩むな。楽しすぎるじゃねぇか!



 俺は悩みに悩み、今はこれだと思う素材を並べ、〈クリエイト・バトルドール〉の詠唱を開始する。



「我が意思に従い、生まれし擬似なる魂。虚ろなる器にて生命の鼓動を刻み――」



 俺は呪文の唱えると、素体と素材全てを包むように魔力が巡回し、魔法陣が構成される。後はこのまま魔力を注ぎつつ、呪文詠唱を終えてセツナが創られていく様を眺めるだけ――のはずだったんだけど。


 後一節、「従属せよ〈クリエイト・バトルドール〉」で完成のはずが、追加の呪文が頭に浮かんでくる。もしかして、セツナを対象としているから、追加で相応の魔法構成が必要ってことだろうか。だからMP消費が倍加したのか!



「――我が魂と共に夢を紡ぐ旅路を歩むことを望め――」



 しかも今までと違い、呪文を全て先に詠唱しあとは魔法の完成をただ待つのではない。構成される魔法陣と消費される魔力を常に確認し、適切なタイミングで詠唱を紡がなければならない。意識しなくても使えてた魔法だったのに、すげぇ集中力が必要となるぞこれ!



「――我が呼び声を聞け。果てなき幻想を破却し、我が供となりて(うつつ)たる刹那の寄る辺となれ――」



 魔法陣に満たされた魔力をゆっくりと【刹那の天藍石】を中心に丁寧に丁寧に注ぎ込む。

 飽和した魔力が全て素体へと注ぎ込まれ、宙に浮かび上がった素体は徐々に木製の人形から人間の形へと変化していく。寸胴だった身体には凹凸が生まれ、控えめながらも女性らしい(かたち)を成し、木目調の色は失われ、代わりに色白い肌へと変化する。頭部には濡れ羽色の長髪がしなやかに舞い、能面だった顔には少女然とした柔らかな丸みと藍色の瞳が開かれる。



「――主であるカイル・ランツェーベルが求め、命じる。来い! 〈クリエイト・バトルドール〉――【セツナ】!」



 浮かんでいた魔法陣が弾ける様に散らばり、淡い光を霧散しながらセツナは俺の前に降り立つ。



「主様の求めに応じ、参りました。バトルドール・セツナ、主様に再び出会えたこと、心より嬉しく思います」



 潤む藍色の双眸が俺を見上げ、より人間らしくはにかむセツナ。言葉も流暢になっているし、少し身長が伸びているような気もする。“ネームド”への進化ってやつなのかな? 何にしろ、気に入ったキャラクターと再会できて嬉しいのは俺も同じだ。

 頭をそっと撫でれば嬉しそうに目を細めるセツナ。尻尾がついていればブンブンと振っていそうな感じだ。



「俺もセツナに会えて嬉しいよ。身体に不都合はないか?」


「今のところは問題ありません。ただ動いたときにどうなるかはまだ……」


「それもそうだな。セツナ、少し身体を見させてもらうぞ」


「はい、主様」



 俺は膝をついてセツナと視線を合わせた後、身体に触れて確認していく。

 関節部にはよく稼働フィギュアで使われるような球体のジョイントが使われており、「動かしてみてくれ」と指示を出せば可動域も広く問題なく動くようだ。これは胴体も同様で、首や腰などの捻りも問題なさそうだ。触れてみると硬い木製人形の肌触りではなく、弾力のある人間の肌の様な感触が返ってくる。



「主様……少しくすぐったいです」


「わるい、痛みとかはないか?」


「はい。大丈夫です主様」



 興味が優先しすぎて腕や首を無遠慮に触っていたため、眉尻を下げて申し訳なさそうに告げるセツナに謝罪をし、荷物から以前着用していたアラミドコートを羽織らせる。

 しかし凄いな。前回の〈クリエイト・バトルドール〉の時と違い、人肌の様な肌触りに触覚まであるのだから、関節部分さえ隠してしまえば人形だとはわからないのではないだろうか。



「確認のためとはいえ恥ずかしい思いをさせてすまなかった。装備以外の服も後で見繕おう」


「? 恥ずかしい、と言うのはわかりませんが、セツナは主様に下賜されるものであれば何でも嬉しく存じます」



 ははは、嬉しいことを言ってくれる。

 羽織ったコートに袖を通し、ボタンを留めて微笑むセツナの頭をもう一度撫で、改めてセツナのステータスの確認をする。






名:“カイルの従者”セツナ 種族:魔導人形 Lv11 使役Lv1 使役者:カイル・ランツェーベル

HIT:15 ATK:11 DEF:9(+1) AVD:14(+1) HP:46/46 MP:48/48

MOV:30 LRES:14 RES:14

行動:命令または自主的な判断による 知覚:魔法 弱点:炎属性ダメージ+2

【特殊能力】

〈ハイドウォーク〉:常にヘイト上昇値を抑える。また、一定値よりヘイトが低い場合、このキャラクターを知覚できなくなる。

〈再生〉:10秒ごとにHPを「4」点回復する。

〈イニシアティブアクション〉:先手を取った場合、数秒~数十秒の間このキャラクターの行動速度が上昇する。

〈状態異常無効化〉:病気・毒・精神属性の効果を受けない。

〈ソードマスタリーⅡ〉:ランクSまでの〈カテゴリー:ソード〉を扱え、ATKとHITに+2の修正を受ける。

〈クロースマスタリーⅡ〉:ランクSまでの〈カテゴリー:クロース〉を装備でき、DEFに+2の修正を受ける。

〈魔力貯蔵〉:使役者が望むタイミングでMPを補充することができる。このキャラクターは1時間に付きMPを2点消費する。

〈能力換装〉:使役者が望むタイミングで拡張スロットの内容を変更できます。ただし、1つに付きMP5点と、定着するまでに1時間の待機時間を要します。

【特殊行動】

〈限界駆動〉:HPを5点減少させ、10秒間HIT・ATK・AVDに+2の修正を受ける。

〈全力攻撃Ⅱ〉:両手武器による攻撃をする際、ATKに+12、AVDに-3の修正を受ける。

〈薙ぎ払いⅡ〉:両手武器の攻撃範囲内にいる複数の対象に、同時に攻撃判定を行うことができる。

【装備】

武器:なし

防具:アラミドコート(DEF+1 AVD+1)

装飾品:なし






 “名前持ち《ネームド》”になったためか、全てのステータスが1段階強化されており、拡張スロットが増えたおかげでスキルとアビリティも充実している。今回は両手剣を使用してでの物理アタッカービルドで作成しているため、後で対応する武器を持たせてあげようと思う。



「セツナ、セツナは俺からMPさえ充填できれば戻る必要はないんだな?」


「はい。主様に直接魔力を頂ければ、活動時間の不安は解消されます」



 【刹那の天藍石】があるだろう心臓部に手を当てて言うセツナに、そうか、と頷いておく。

 ふむ。本来存在しないはずのMPが表記され、MP数値により活動限界がわかるように変わったのは〈魔力貯蔵〉のアビリティのおかげであり、これを使えば任意のタイミングで俺からMPを補充し、活動時間を延長することができるようだ。言うなれば使い捨て電池から蓄電池に変わったようなものだろう。

 〈能力換装〉もセツナのまま行えるなら都合が良い。

 扱いやすくなったし、俺の望み通りで良いことなのだが、もう一点。これがわからない。



「使役レベルってなんだ?」


「?」



 俺の呟きに同じように首をかしげるセツナ。セツナ自身にもわからないようだし、まぁ追々確認するとしよう。それに丁度上の2人も来たようだ。



「セ~ツ~ナ~ちゃ~~ん!」


「ミィエル様!」



 飛ぶように駆けつけたミィエルはそのままセツナに抱き着き、セツナも勢いを往なしながらミィエルを受け止める。



「会いたかったよ~。セツナちゃん~、少し大きくなった~?」


「セツナもミィエル様にお会いできて嬉しく存じます」


「それに~、前よりも~、抱き心地が良いよ~!」


「はい。主様のおかげです」



 きゃっきゃと姦しくはしゃぐ2人を微笑ましく眺めていると、ゆっくりと歩いてきたアーリアが「その娘がセツナちゃんなのね」と俺の隣で鋭い目を向けている。解析判定が終わっただろう頃合いを見計らい、俺は先程の疑問を口にする。



「アーリアさん、使役レベルって何かわかりますか?」


「〈テイマー〉の使役獣(ユニット)によく見られるものね。彼ら曰く、絆の深さ的なものらしいわ。レベルが上がれば固有の能力やスキルが表れる場合があるらしいわ」


「へぇ、信頼度的なものなんですね」


「好感度、とも言えるんじゃない?」



 それなんてギャルゲー? と内心で思ったが口には出さない。TRPG時代には当然そんなものはないし、どのような効果を及ぼすのか想像もつかないが、この世界では当たり前のことだと言うなら〈テイマー〉ギルドにでも行って調べてみるのが良いだろうと深く考えることを止める。



「あたしにも紹介してくれる?」


「セツナ、挨拶を」


「はい、主様」



 ミィエルとじゃれるのを止め、アーリアの3歩前まで歩み寄ると、コートの裾でカーテシーの仕草をする。



「アーリア様、初めまして。“カイル様の従者”、セツナと申します。以後、お見知りおきくださいませ」



 セツナの美しい所作を見た瞬間、ミィエルとアーリアの動きが止まる。理由は解る。摘ままれたコートの裾が上がり、綺麗な太ももが付け根付近まで露わになったからだ。まるでコートの下は裸だと言わんばかりの光景。まぁ事実コートの下は裸なんだけども。


 俺は言われる前に自分から口に出すことにする。



「アーリアさん、お気づきの通りコートの下は何もつけていないので、服を見繕ってもらえませんか?」


「……あんたの性癖じゃないのね?」


「違いますよ。何故か創造後、服を着ていなかったので。手持ちがあれしかなかったんですよ」


「ふ~ん。わざと服だけを創造しなかったんじゃないの?」


「そんな器用なことできませんよ」



 あーでも、勝手に思い浮かぶイメージ以外をイメージして魔法を使うとどうなるのかは試してなかったな。今度試そう。内心で別のことを考えていた俺へと向けていた視線を外し、アーリアはじゃれるミィエルに声を掛ける。



「ま、いいわ。ミィエル、あなたの服を貸してあげなさい」


「勿論ですよ~! でも~、セツナちゃんの方が~、背が高いので~、丈が合う服を~、後で買いにいきましょ~! カイルくんの~、従者なんですから~、カイルくんがちゃんとしないとですよ~? いいですよね~?」


「あぁ、わかってる。服選びの手伝いをしてくれると助かる」



 こっちの世界のファッションセンスがわからない以上、現地の女の子に任せた方が良い。ついでについて行って学ばせてもらえば儲けものだ。それにセツナにも好みはあるはずだ。彼女が気に入ったものをプレゼントするのが一番だろう。



「と言うわけだから、後で一緒に買い物に行こう。折角だから、セツナが望むものを買うといい」


「セツナの望むもの、でしょうか?」


「あぁ、今回の働きへの褒美だと思って、好きなものを買うといい」


「褒美、ですか……」


「そうだよ~。カイルくんに~、奮発してもらいましょ~!」


「はは、お手柔らかに」



 予算的に高価なものを複数買う余裕はないが、範囲内で買えるものは買ってあげようと思う。ミィエルも俺が散財したばかりなのを知っているから、無理に高い店にもいかないと思うし。



「えへへ~、セツナちゃんは~、可愛いから~、何着ても似合うと思いますよ~」



 一番テンションが上がっているミィエルに苦笑しながら、俺は取り合えずミィエルの服を借りるように促す。するとセツナが「主様……」と訴えるように見上げてくるので、膝立ちになって視線を合わせる。



「どうした?」


「先程の話、なのですが――」


「あぁ、要望があれば聞くぞ? さすがに予算オーバーにならない程度にはしてもらうけど」


「いえ。その、セツナは先程も申し上げた通り、主様が選んでくださったものであれば、嬉しく存じます」


「お、おう。でも好みとかあるだろ? せっかくだからセツナが選ぶといい」



 俺の言葉にふるふると首を振り、俺の右手を両手で包み込むように握る。



「セツナはバトルドールです。外見を着飾ることにそれほど興味はございません。ですので主様、『褒美』を頂けると言うのであれば、セツナは主様に触れていただきたいのです」



 両手で包んだ俺の右手を胸の前まで誘い、俺の右手にセツナは額を触れさせる。



「セツナは主様に触れていただけると大変嬉しい気持ちになります。セツナにはそれが何よりの『褒美』でございます。主様――」



 額を離し、俺の右手をコアである【刹那の天藍石】がある胸へと押し当て、潤んだ瞳でとろけるような笑みを浮かべて告げる。



「もっと直接セツナに触れて、全身で温もりを感じさせてくださいませ。セツナの中に、主様の温もりを注いでくださいませ。それがセツナの望む『褒美』でございます、主様」



 あ、うん。セツナ超可愛いよ。うん、その笑顔を見せられたら大抵の男は落ちると思うよ。


 じゃなくて! 多分セツナが言いたかったことは、前回やったようにちゃんと頭を撫でたりして褒めてほしいということで。そして働いた対価にMPを必ず補充して、常に傍で仕えさせてほしいと。多分そう言いたいんだと思う。


 ただ、ね。主としては言葉を選んでほしかったなぁ!


 視線を巡らせればミィエルは顔を真っ赤にして固まっている。お前さん、3歳だよね? 今のセツナの言葉で何を想像したんだ? ん?


 ダメだ。ミィエルではこの場の空気を変えられない。そうだ、アーリアなら――と思ってアーリアに視線を向ければ、頬を染めて視線を逸らしていた。え? 嘘だろ? 何その初々しい反応……逆に俺が混乱するんだけど!?



「だめ、でございますか?」


「っ!? いや、そんなことはないぞ」



 周囲の反応に混乱するあまり黙ってしまった俺に不安げな視線を送るセツナを落ち着かせるように、左手で頭を撫でる。嬉しそうに目を細めるのは良いが、右手を解放してくれないかな? セツナさんや。



「わかった。ちゃんとセツナとの時間は取るし、毎日しっかりMPは補充する。と言うか元々セツナが望まずともするつもりだったんだ。だから、できるなら他の『褒美』を考えておいてくれると、嬉しいかな」


「っ! はいっ! かしこまりました!」


「と言うわけだから! 早く着替えておいで。ミィエル! 頼むぞ!」


「っ!? はい~! こ、こっちです~」



 顔を真っ赤にして固まっていたミィエルは俺の声にビクリと反応し、慌てたようにセツナの手を取って実験室の奥へと案内していく。

 2人の姿が見えなくなったことで、ようやっと息を吐く。

 視線を横に向ければ、まだ頬を染めたまま半眼で睨むアーリアがいた。言っておくが、俺の所為じゃないぞ。



「あんたの所為でしょ。ったく、あんな娘になんてこと言わせてんのよ」


「俺が言わせたみたいにしないでください」


「はぁ~……見た目が人形に近ければあんたをただの変態だと見れたのに、あそこまで人間らしいと誤解じゃすまないわよ」


「おっしゃる通りです。見た目もいいから破壊力が抜群でしたよ……」



 最後の最後で精神的に疲れた。思わず座り込むほどだよ。



「まぁでも、良かったじゃない? ここ(・・)で言ってもらえて」


「え? まぁ、慕ってくれてるのは嬉しいですね」



 俺が力なく笑みを浮かべると、「違うわよ」とアーリアはいつもの不敵な笑みを浮かべて続ける。



「今のセリフを、ここじゃなくて服飾店で(・・・・)言われなくて良かったじゃない。ね? カイル君」


「…………………ですね」



 アーリアの一言に、俺は深く深く頷いた。


 本当、ここで、且つアーリアとミィエルの目しかなくて、良かった。


いつも閲覧ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女キャラが多すぎる。 数人でお願いしやすい。
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