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第32話 空いた時間の魔法実験

 これがTRPGだったなら、BOSSである“簒奪者・キャラハン”を倒し、リルを救出した時点でPL(プレイヤー)RP(ロール)したいものがなければ、エピローグを迎えるところなんだけどなぁ。


「よっと……お、これは確か400Gだったか?」


 ただ待っていても仕方ない。俺は死体となった『蛮族』から討伐報酬たる部位を剥ぎ取りながら、思わず漏れる言葉に、命令を待機しているゴーレムが身体を揺らす。ゴーレムにも人格があり感情があるのだろうか。できれば使い捨てしやすいようになしの方向でお願いしたい。“ジェーン・ザ・リッパー”に関しては仕方ないので考慮するが。


 一通り剥ぎ取りを終え、ゴーレムには警邏隊の死体があるかどうかを探してもらうことにする。



「しかしゴーレムだけだと時間がかかりそうなんだよなぁ……」



 バトルドールかゴーレムをもう一体創るか? うーん……

 何かないか、と視線を巡らせれば目に留まるのは蛮族の死体。そして俺は〈ネクロマンサー〉。ふむ、俺に従順なアンデッドが創れるな。

 幸いにして人の目はない。あったとしても簀巻きにして小屋に閉じ込めている商人ぐらいだ。倫理的な観念は兎も角、折角なのだから使ってみたい。現状況なら違法に死体を仕入れたわけでもないし、応援が来る前に消滅させれば問題ないはずだ。



「よし。やってみるか」



 大量の死体の処理もできて、さらには実験もできる。一石二鳥。

 俺は消費していたMPを回復し、40体程ある蛮族の死体を纏められるだけ纏めて素材とする。



「高レベルの素材となりえるものはないから、作れるとしたら低位のゾンビとかか?」



 うろ覚えの記憶を引っ張り出すように思い出す。

 俺が覚えている〈ネクロマンサー〉の魔法――〈【HL(ハイレベル)】クリエイト・アンデッド〉。〈コンジャラー〉でも覚えられる〈クリエイト・アンデッド〉の上位魔法に当たり、素材によっては自分のレベルよりも上位のアンデッドを作成することが可能となる。

 創造系使役獣(ユニット)の中でアンデッド型はもっとも能力に優れているものが作成されやすい。特に高いレベルの戦闘力を持ったキャラクターを“ハイレヴナント”にすれば、生前の戦闘能力を保有したままアンデッドとして強化されるため非常に強力だ。しかし戦力として数えやすいが、社会的に受け入れられることはないので表立って使うことはない。実際TRPG時代でもアンデッド系の使役獣は俺自身GMとして敵キャラクターが使うこと以外なかった。



「戦場で死体をその場でアンデッド化して軍隊を作れば強いのになぁ」



 やろうとしてGMに「バランス崩壊するからやめて!」と止められたのはいい思い出だ。一応言っておくと、カイルでやろうとしたわけじゃないぞ?

 しかし、だからこそ使ってみたいと言う思いが浮かぶ。〈クリエイト・バトルドール〉〈クリエイト・ゴーレム〉と覚えている創造系3種の内、2種を使ってみたのだから、最後の1つを使って使用感をコンプリートしてみたいとも思う。それにTRPG時代ではできなかった、指定数以上の素体による創造。感覚的にできそうだと思うのが俺の好奇心をより刺激する。ただ一つ問題があるとすれば――



「これでアライメントが『悪』に偏ったら笑えねぇけどなぁ」



 ははは、と笑いながら魔法を構築する。確か必要な時間は30分だったな。



「万物の理に反逆する我が魂が命じる。抜け殻となり、朽ちるしかなくなった現世の器よ。我が魔力を持って我が従僕となれ。褒美として仮初の命を与えん! 創造せよ――〈【HL】クリエイト・アンデッド〉!」



 積み上げられた蛮族の死体を覆いつくすように俺の魔力によって魔法陣が描かれる。どんどん消費されるMPに目を剥きながらも気にせず魔力を注ぎ続ける。

 まるで粘土のように死体が溶け出し、ぐちょぐちょと捏ね繰り回され徐々に形を成していく。魔法が完成するまでの時間、ぽけーっとその光景を眺めながら俺は思ったよりも何の感慨もないなぁ、と不思議な気持ちでいたりする。思えばヴァシトの姿をした”ダブル“の首を刎ねた時にも、たとえ『魔神』だとわかっていても人の姿をしたものを斬ったってのに何も感じなかったなぁ。元々俺自身に耐性があったのか、はたまたカイルとしての記憶で慣れてしまっているのか。


 30分ただ魔力を注ぎ続ける時間は長いため、いろいろな考えが浮かんでは消えていく。今後のことを考えたり、ミィエル、ジェーン、リルたちのことを考えたり。そう言えばアンデッドの女の子たちがアイドルを目指すアニメとかあったなぁ、とか、できれば今創造しているアンデッドは使い捨てしやすい形だといいんだけどなぁ、などなど。


 ……そんなことより今回消費したアイテムだよ。総額いくらになったんだ? 特級と一級魔石にセンス・オーブにマナプリズム、各種魔晶石、そしてウルコットの腕に使った魔法素材――これらだけで90万Gくらい使ってるだろなぁ。さらにはケープの損耗具合から言って修理費でどれだけ取られるか……


 考えたくなかったことに思考が傾いて思わず身震いする。“キャラハン”の存在を伝えて手に入った【宝玉】を渡せばこれぐらいの額は回収できるだろうけど、英雄扱いされて身動きがとれなくなるのはごめん被る。とりあえずその辺りの調整はアーリアに全部任せよう!


 うんうん、と頷いてもう考えないことにした瞬間、魔法陣が完成し一際強い光を放つ。40もの蛮族の死体を素体としたアンデッドはそれだけの質量を感じさせない姿で光の渦からその身を躍らせた。

 現れたのは、額に角を生やし、鼻が欠けた顔に丸い二つの瞳、鋭く除く犬歯に継ぎ接ぎだらけの様々な色の肌に襤褸を纏った170cm前後だろう人型のアンデッドだった。






名:キョンシー 種族:アンデッド Lv7 使役者:カイル・ランツェーベル

HIT:14 ATK:13 DEF:10 AVD:11 HP:72/72 MP:―

MOV:16 LRES:12 RES:10

行動:命令による 知覚:五感(暗視) 弱点:炎属性ダメージ+5

【特殊能力】

〈状態異常無効化〉:病気・毒・精神属性の効果を受けない。

〈再生〉:10秒ごとにHPを3点回復する。

〈弱体化〉:日光の下では全てのステータスに-3点の修正を受け、〈再生〉の効果も失われる。

【特殊行動】

〈限界駆動〉:HPを5点消費し、HITとATKに+3点の修正を受ける。

〈全力攻撃〉:ATKに+6点の修正を受ける代わり、AVDに-3点の修正を受ける。





  創造者である俺にはステータスがわかる。ステータスを見た感想は「レベル不相応の強さだよ、マジで」の一言。さすが創造系最高ステータスを誇るアンデッドなだけはある。物理特化だけども。

 大したレベルじゃない蛮族の死体でも40体も素体とすればここまでレベルを上げることもできるんだな。TRPGにはなかった仕様だ。

 これならゴーレムと同じように警邏隊の死体探しを手伝わせ、用が済んだら燃やして経験値の足しにでもできるんじゃなかろうか。



「まぁ角とか生えてるせいで“キョンシー”っていうより“鬼”のイメージに近いかな。さて、問題は“ジェーン”みたいなことになってないかどうか、だな。キョンシーよ、言葉は話せるか?」


「アアアアァア……」



 口を開き出てきた声は呻くようなもの。反応も首を振ったり頷いたりもない。



「声が出るなら返事はできるな。なら村の周辺にあるかもしれないエルフの死体を全力で探してきて此処にもってこい」


「アァアアァ……」



 命令すれば声を発し、思ったよりも軽い身のこなしで村の外へと向かっていった。

 よかった。下手な自我や感情があると面倒だったからな。これなら役割を果たしたら憂いなく消滅させられるってものだ。さて、後はMPを回復させつつ捕らえた商人たちの様子でも見に行くか。



「可能であれば尋問でもしてみるか。回復魔法もあることだし、痛めつけながら死なないように回復でもすりゃいくらか情報を吐いてくれるだろうし」



 尤も、大した情報を持っているとは思わないけど。

 閉じ込めている小屋へと近づくと小屋から鼻に着く匂いが漂ってくる。嫌な予想に頭を掻き、小屋の扉をあけ放てば想像通りの光景が広がっていた。

 まじかー、と思わず呟いてしまう。なんせ捕えていた商人全員が殺されているのだ。それもご丁寧に頭部を原型がないほどに潰して蘇生できないように。



「自ら情報を出さないように自決するような奴らには見えなかったんだけどなぁ」



 軽く探索をしてみようとし、直感的に無理だと悟る。もしかしてこれが致命的失敗(ファンブル)を引いた感覚なのだろうか。諦めずもう一度探索しようとするが――



「だめだ。どうあってもわかりそうもない」



 第三者の手に依るのであれば警戒を強めなきゃならないのに、わからないのは辛い。仕方ないので現場をそのまま保存する意味でもこれ以上手を出さないようにし、ゴーレムたちが戻るまで俺も森の探索をすることにする。他に第三者の痕跡など見つけられたら儲けものだし、一応破壊した祭壇を確認するつもりだったから丁度いい。

 しかしこれがファンブルの感覚か。初ファンブルが戦闘中にでなくて本当によかったよ。


 そして二時間程探索した結果、痕跡は発見できず、祭壇も問題なく破壊されたままだった。破壊後に祭壇に近づいたものの痕跡もなかったため、今以上の情報を得ることができなかったのだ。

 ただゴーレムとキョンシーが森に散らばっていただろうエルフの死体をいくつか集めてくれたのは、捕虜を殺され情報も得られなかった現状を鑑みれば朗報と言える。



「とりあえず見つけられたのは3人か。確か行方知らずは村長とリルを入れて9人って言ってたか? 4人ほど見つからなかったが……その辺りはしょうがないな」



 恐らく食われたのだろうと想定し、心の中で冥福を祈る。見つかった3人に関しては欠損する部位があるものの、頭部と背骨が残っていたため蘇生可能だ。腕や足、臓器などの失って戻せない部分は〈アーティフィカル・ギミック〉で再生できるし、馴染めば生活するうえでは問題ないはずだ。



「後は本人たちが蘇生を希望すれば、問題は解決だ」



 ふぅ、と息をついてまずは治癒魔法で治せる部位は治し、ある程度綺麗に整えたらリルの家へと全員を運ぶ。その後、〈アーティフィカル・ギミック〉のための素材を雑囊(マジックポーチ)から取り出し処置を施していく。

 ウルコットにも使用したため、素材は不足している。しかし命に別条のない部分は後回しにすることでなんとか足りた。思えばこの素材も1つに付き5万Gかかるんだよなぁ。でもこいつらがそんな金持ってると思えないんだよなぁ……。

 それに生き返りを拒否されれば素材分すべてが無駄になるのだから割に合わない。ただまぁ、もしものことを考えるなら事前に実験して成果を確認できる機会が目の前にあるので、やらないと言う選択肢が浮かばないんだけど。


 まずは欠損した臓器の作成を終える。そうして蘇生後も問題なく生きることができる身体へと治療を終えたら、後は1人ずつ蘇生の魔法――〈リザレクション〉を行使していくだけだ。この魔法は1体に付き30点のMPと魔法完成まで最大1時間の時間がかかるため、戻ってきたゴーレムに野外を、キョンシーには室内での護衛をさせる。



「んじゃま、始めますか。万物の理に反逆する我が魂が願い、我が魔力は(しるべ)とならん。朽ちるべき(うつつ)の器に紐づかれた天界に昇りし魂よ。自らの根源が道半ばであるならば、今一度、(ことわり)を捻じ曲げその想いを魂へと刻みつけよ――」



 俺が朗々と謡うと同時に対象となった遺体の周りに幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。魔法陣は俺の魔力を吸いあげ、幻想的な光を纏う。



「――我が魔力は魂の道標。千切れ失われた器と魂を固く結ぶ楔となる。正しき器の主よ、我が導きに応え己が意志で理を捻じ伏せよ――〈リザレクション〉」



 完成した魔法陣は対象を見下ろすように展開され、中心から光の鎖が遺体の胸部と繋がっていく。後はこの魔法の効果時間が切れる前に肉体の持ち主である魂が応えれば蘇生完了となる。効果時間を過ぎるか、蘇生を拒否した場合は鎖が砕け散り、蘇生は失敗となる。


 はてさて、3人とも蘇生を受け入れるだろうか。これによってこの世界の住人の「蘇生」に関する考え方のサンプルになるはずだ。


 何せ神殿の教えでは基本的に蘇生は禁忌(タブー)とされている。それは神々が創った自然の摂理、ルールを犯す大罪であると教えているためでもあり、たとえ蘇生できたとしてもその後にリスクを伴うため禁忌とされているのだ。


 LOFで蘇生を受け入れた場合、その者の魂に蘇生するたびに《烙印》が1つずつ刻まれ、その度に『神々の意思に反した罪』として基本修復不可能なデメリットを受け続けることになる。デメリットは様々で、《烙印》が刻まれるごとに効果が重複していく。そして一定個数の《烙印》が刻まれたとき、『神々から見放された存在』として魂は消失(ロスト)することになっている。

 《烙印》を所持しているかどうかは神聖魔法や魔法のアイテムで簡単に調べられてしまうので偽ることもできない。そのため《烙印》を持っているだけで神殿勢力が強いところでは言わば前科一犯みたいな扱いになってしまうこともあるのだ。

 当然、蘇生を施した術者も例外ではない。バレれば同じ扱いになるどころか、豚箱直行ってオチもある。と言っても、〈リザレクション〉を使える術者なんてそうそう存在しないので、公式の歴史で捕らえられたのは1名だったはずだ。



 ではTRPG(ゲーム)的に説明するとどうなるのか。まず《烙印》を刻まれるたびに、数に応じたランダム表からダイスを振ってデメリットを取得。保有できる《烙印》の数は通常ルールでは原則5つでキャラクターロストとなるため、実質蘇りは4度までと言うルールになっていた。

 ステータス減少等のデメリットは重いが、ゲーム的には言うほど蘇生にリスクを伴っていない。RPの都合で不都合が出るぐらいでしかなかったため公式は物足りない方々用に選択ルールも用意してくれている。


 当然俺達も選択ルールを採用しており、恐らくこの世界でも適用されていることだろう。


 選択ルールでは「蘇生限界回数」が取り払われ、代わりに3つ目以降《烙印》を取得するたびに『烙印取得表Ⅱ』――別名『暴走表』や『大惨事表』と呼ばれる――を振ることになり、運が悪ければ確率でキャラクターロストとともに『災厄の魔物』が誕生する、と言うものだ。

 『烙印取得表Ⅱ』の確率は、《烙印》を所有するごとにロストの確率が上昇する。そして《烙印》の数が多ければ多い程より強力な『災厄の魔物』が生み出されると言う実にスリリングなルールとなる。また、『災厄の魔物』によって死亡した場合は復活する際の《烙印》数が3倍になるおまけつきだ。

 しかも『災厄の魔物』は基本蘇生対象となったキャラクターベースで作られるため、思わず引いてしまった日にはPVPへと発展する楽しみ方も存在する、とてもおいしい選択ルールとなっている。


 まぁ「おいしい」と感じるのはゲームだからであって、現実となった今では恐ろしい爆弾でしかないけども。



「だからこそ蘇生魔法1度では【暴走】はないと言う確証が欲しいんだよね」



 最悪今ここで『災厄の魔物』誕生に立ち会ってしまったとしても、素体が弱い場合は大したことにはならないはずだ。俺一人しかいないから周りを気にする必要もない。本当、都合の良い環境だ。


 思考を巡らせているうちに魔法陣と鎖に反応が表れる。鎖はゆっくりと魔法陣から遺体へと引き寄せられ、その先には薄緑色に淡く光る球体がしがみ付くように浮遊していた。恐らくこの球体が遺体の魂なのだろう。



「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか」



 球体が遺体の胸部へと吸い込まれていき、魔法陣が光を失うと同時。遺体だったエルフの胸がゆっくりとを上下し始めた。


閲覧ありがとうございます。

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