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第31話 救出完了

「ミィエル、無事でよかった」


「それは~! こっちのセリフです~! あ~んな危険な魔神がいるなんて~、聞いてないですよ~!」


「あぁ、俺もあれ程のやつが出張っているとは思ってなかったよ」



 “ダブル”が付き従っていると言う時点でLv13以上はいるだろうな、とは予想していた。しかしまさか弱体化されていたとは言え、魔神将クラスが出てくるとは夢にも思わなかった。TRPG時代なら兎も角、まだこの世界に慣れたとは言い切れない不確定要素満載の状況で、短期決戦で終えられたことは幸運と言えよう。



「あんなのが出てきたことは不幸だが、倒せたこと自体は幸運だったよ」



 俺の呟きにミィエルもあの『魔神』の詳細は解らなかったけど、強さは肌で感じていて死をも覚悟したと頷く。それにタイミングを見計らって少しでも注意を惹きつけて逃げる隙を作ろうと思って飛び出したのに、逃げるどころか笑顔で戦闘続行したものだから余計に混乱したと、と少しむくれられてしまった。



「そこは自分を囮にするんじゃなくて、逃げて助けを求めに行くところだろ?」


「あの場で~、カイルくんを失う方が~、解決できないと思ったんですぅ~!」


「ははは……。まぁ倒せたから結果オーライってことで」



 ミィエルの直感はある意味で的を射ているだろう。ビェーラリア大陸の最大戦力がどれ程のものかは知らないが、少なくとも複数の国が全力で支援することで討伐できるかできないかと言う相手だ。TRPG時代なら魔法使いの数を揃えて魔法全ぶっぱすればどんな相手でも倒せるシステムだった。なんせ魔法攻撃は回避不可、抵抗はできてもダメージが必ず通る攻撃方法だったため、数の暴力で低レベルだろうが高レベルを圧殺することができた。しかし現実となった今ではそうもいかないだろう。

 現に俺は特定技能以外で回避不可の魔法攻撃を回避できてしまっているし、ターン制でない故にいっぺんに魔法を当てるタイミングはよりシビアになっていると思われる。この辺りの差異は想像以上に大きいはずだ。


 まぁでも、今はそんなことどうでもいいか。


 俺はミィエルの頭を撫でて落ち着かせ、未だ目を覚まさないリルへと目を向ける。今すぐにでもポーションで回復させたいところだが、今回の相手が相手だったがために確認しなければならないことがある。



「確か幾つか持ってたはず……あった。〈センス・マジック〉」

 


 雑囊から透明な水晶球を取り出し、効果を発動させる。俺が使用したのは【センス・オーブ】と言う魔法道具で、その効果は対象に魔法が付与されていないかを確認すると言うもの。今回相手どった“キャラハン”は異界魔法を使えたが故に〈デモンズ・シード〉と呼ばれる魔法は必ず警戒しなければならない。

 〈デモンズ・シード〉とは対象に【悪魔の芽】と呼ばれる種子を埋め込むことにより、術者に隷属させる魔法である。埋め込まれた期間により隷属の度合いが変わっていき、最終的には発芽した種子に意識を支配され、その身を贄として上位の『悪魔』または『魔神』を召喚してしまう時限爆弾的魔法だ。


 もしリルにこの魔法が使用されているとすれば、完全に支配される前に解呪しておきたい。最悪、支配され切っていた場合は殺してから魔法解除を行う必要が出てくるが、果てして結果は――



「ふぅ。どうやら面倒な魔法は掛けられていないようだな」

 


 淡く光ったオーブはすぐに光を失い、砕け散る。どうやら――〈デモンズ・シード〉には掛かっていないようだ。

 俺は一先ず安心し、リルにアウェイクポーションを振りかける。程なくして瞼が震え、うっすらと目を開けるリルに「気分はどうだ?」と声を掛ける。



「……ん……あれ? なんでカイルがいるの?」


「よっ、助けに来たぜ」


「……助け? ………っ!? そうだわ! 確か私たちは蛮族に襲われて――」


「その辺は片付いてるから。まずは水でも飲んで落ち着け」



 がばっと勢いよく起き上がるリルに、雑囊(マジックポーチ)から取り出した水袋を差しだして落ち着かせる。数秒言葉の意味を理解するために費やしたリルは、受け取った水を一口飲んで一息を吐く。そして俺と傍にいるミィエルに視線を向け、驚きの表情を浮かべる。



「カイル、その娘……」


「ん? あぁ、彼女は――」


「はじめまして~。ミィエルです~」



 にこにこと笑顔で自己紹介をするミィエルに、「やっぱりそうなのね」とリルは一度目を伏せる。ミィエル自身は「はじめまして」と言っていたから、リルの方が彼女のことを知っていたのだろう。さすがは二つ名持ち、“蒼嵐の剣姫”様だ。

 はぁ、とリルは息をくと「いろいろ聞きたいことはあるのだけど」と前置きをし、



「村の皆は、無事なの?」


「無事だぜ。今ウルコットとともにザード・ロゥへと避難してるところだ」


「そう、よかったわ」



 ほっと胸を撫でおろすリル。「思ったより落ち着いてるんだな」と俺は呟き、何があったか覚えているかを確認する。

 そしてリルが話す内容は、ウルコットの話から続くもので大体想像通りの物だった。

 蛮族の夜襲を受けたフレグト村は警邏隊とリルが応戦するも力及ぶことなく。また蛮族と村に泊めた商人たちが繋がっており、そして――



「――その商人を村へ連れてきたヴァシトもグルだったわ」


「……だろうな」



 ほぼ間違いなくこの時点でヴァシト・フレグトと言うエルフはすでに殺されていたはずだ。 “ダブル”に情報を読み取られ、脳を“キャラハン”に喰われ、死体は“バフォメット”の供物にされた。こんな所だろう。



「カイル、ヴァシトはどうなったの?」


「亡くなったよ。父親であるバファト諸共、な」


「そう……」



 目を伏せ、うつむくリルに俺は掛ける言葉が思いつかない。死体が、脳が残っていれば蘇生させることができる俺でも、それらがなければなにもできない。そして死者の魂を呼び寄せるような応用魔法でもある〈ポゼッション〉を俺は習得していない。


 だから俺は事実だけを伝えることにした。



「リル、お前が知っているヴァシトと言うエルフは村に帰ってくる前に殺されていたはずだ。だからヴァシトが(・・・・・)お前を裏切った(・・・・・・・)わけじゃないと思うぜ」


「……ありがとう、カイル」



 眉尻を下げて無理にでも笑みを浮かべるリルに、俺はこれ以上気を遣わせるわけにもいかないと「さ、いくぞ」と手を差し伸べて立ち上がらせる。



「まずはウルコットたちと合流だ。その後は、村の皆で話し合って決めると良い」


「村自体は~、多少壊されてますが~、続けて住むことは可能ですからね~」



 ミィエルが言うように村は全壊しているわけではないため、復興作業はそこまで難しくはないと思う。後は村人たちがもう一度あそこで暮らしたいと思うかだけ、だ。


 俺は念のためアイテムの回収忘れがないかをもう一度確認した後、俺たちは一応警戒しながら村へ向けて歩き出す。

 一応何体かの『蛮族』が森の中に逃げ込んでいるはずだ。ただ指導者となりえるレベルはいなかったし、散発的に逃げたため脅威になることはないと判断している。それこそ新人冒険者に経験を積ませるために依頼を出した方がいいぐらいだろう。


 そんなことを考えながらしばらく歩くとリルも落ち着いたのか、しっかりと顔を上げ、その瞳は光を灯して前を向く。強い女性だな、と思う。



「カイル、改めてお礼を言うわ。村の皆を、私を助けてくれてありがとう」


「どういたしまして」


「貴女にもお礼を。えーっと、貴女はザード・ロゥの“蒼嵐の剣姫”さんで間違いないわよね?」



 次に視線をミィエルに向けて、()の有名な冒険者である“剣姫”であるかを確認すると、ミィエルは居住まいを正すようにして頷く。



「改めて~。カイルくんの~、ぱ~とな~の~、ミィエルです~」


「間違いじゃなかったのね。改めて、命を救っていただいてありがとうございます、ミィエルさん」


「いえいえ~。助けられて~よかったですよ~」



 冒険者として依頼を達成しただけ、だから気にする必要はない、とミィエルは続ける。微笑むミィエルにリルはもう一度お礼を述べると、再び視線を俺へと戻す。



「それといくつか質問いいかしら?」


「おう。いいぞ」


「どうしてカイルは村に戻って来れたのかしら? 私たちが『蛮族』に襲われたのは昨晩のことよ。なのに貴方は事態が悪くなる前に現れ、助けてくれた。まるで事前にこうなる(・・・・・・・)ことがわかって(・・・・・・・)いたかのように(・・・・・・・)



 まっすぐなリルの視線に俺は頭を掻き、「知っていたわけじゃないぞ」と前置きをして続ける。



「俺はこうなるんじゃないかと想定して動いただけさ。何もなければいいと願ってもいた。尤も、嫌な予感ってのが当たっちまった結果になったけどな」



 それも想定以上に大きな災厄と出会う結果になった、というだけ。



「なぜ貴方は予想できたの? ある程度の物証がなければ予想なんてしようがないわよね?」


「そうだな。ただ言わせてもらうと、最初は物証なんて1つもなかったんだぜ? あったのは、マイルラート神殿との因縁から来る直感的なものがあっただけだったんだよ」



 そう。最初はただ漠然とした勘だけでしかなかったのだ。リルと夜の川辺で話した時に、ただ何となく俺がGMだったらそうするだろうな、と想像しただけなのだ。

 ただその想像が少し不安の呼び水となり、俺はリルと別れた後で軽く調査を行ったのだ。



「森の異変もここ最近起こってきたと言っていたしな。寝る前に軽く森の中を捜索してみたんだ」



 そうしたら明らかに野生動物や幻獣が残さないだろう人工物――ここ数ヶ月で作成されたと思われる悪魔召喚の儀式に使うような祭壇の発見や、近い日付でこの辺りを徘徊していただろう痕跡を見つけてしまったのだ。一応祭壇は破壊しておいたが、後でまた確認しておかなければならないだろう。



「俺はマイルラート神殿が経験上怪しいと踏んでいたからだろうな。バファト村長自体も多少疑っていたし、ここにいないリルの婚約者も疑った」



 次にバファト村長宅を調べ、ヴァシトの部屋へと侵入した際に明らかに掃除とは違う、使用された痕跡と机の引き出しが二重底になっており、そこに隠された指示書に目を通して予感が予想へと変わっていった。指示書の内容はマイルラート神殿の復権のための手段等がいくつか書かれており、直接この村を襲うような中身ではなかったが、神以外の何かに頼るような表記が見られた。

 それが祭壇と結びつき、マイルラート神殿は『悪魔』か『魔神』を召喚し、従えているのではないかと想定したのだ。


 後はもっと情報を手に入れるためにザード・ロゥへと急ぎ足で駆け抜け、アーリアに話し、俺自身も情報屋から情報を買うことで、ミィエルの助けを借りて今ここにいる、と言うだけのことである。



「つまり――いえ。なんでもないわ」



 何かを口に出そうとして噤むリル。恐らく別れた朝無理やりにでも俺を引き留めておけば……。そこまで予想できていたから俺が「また後で会おう」と言ったのではないか、と考えて。

 だがしかしもしあの時点で俺が引き留められて残っていたとして、事態は好転したかと言えば難しいような気もする。アーリアとミィエルの助力もなしに、そして村長の息子を疑う旅人なんて状況になれば、果たして爪弾きにされるのはどちらなのか。考えるまでもないことだろう。むしろ“キャラハン”が俺を知っており、食材として見ていたことを考えると、俺を仕留めるために村人全てを供物として滅ぼすことになった可能性まである。


 それらを加味すれば、現状がベターな結果だったのではないかと思う。


 自分の考えに自然と頷き、納得する。そしてチラチラと頭をよぎる今回の出費(知りたくない事)を意識的に無視していると、リルが「あともう一つ訊きたいのだけれど」と質問を続けてくる。


「なんだ?」


「カイル、あなた徒歩でザード・ロゥへ向かったわよね?」


「あぁ。生き物には乗れねぇからな」


「ミィエルさんがいるのだから、ザード・ロゥへ辿り着いたのはわかるわ。でもどうやって徒歩で1日もしないで辿り着けるのよ?」



 え? 気になるのそこ?

 思わずリルの顔を見てしまうと「普通じゃないもの。気になるじゃない」と言う。こんなくだらないことが気になるという事に割と余裕があるなと思う。



「あー、普通に走った」


「走った?」


「あぁ。無理しない程度に速く、休憩もそこそこに走り続けたら着いた」


「…………ミィエルさん。それが冒険者の普通なんでしょうか?」


「え~っと~、カイルくんを~基準にしない方が~、良いと思いますよ~」


「そうですか。少し安心しました」



 何やら失礼なことを言われている気がする。言っておくがミィエルもリルも20セッション以上のシナリオ熟せばこれぐらいできると思うんだが……いや、都合良くレベル帯に合った敵と戦えるわけじゃないか。ゲームじゃねぇんだし。



「まぁいいだろそんなことは。それより村に着いたぞ」



 森を抜け、ようやっとフレグト村に戻ってきた俺達は、まず俺が先行して村の中を確認。敵対勢力はおらず、門番として残したゴーレムも多少のダメージは負っているが無事だったことを確認する。俺はゴーレムを〈アース・ヒール〉で回復させ、蛮族の死体を集めるように指示を出す。少しでも金になる物は収集しておきたいし、放置してアンデッドになられても面倒だからだ。



「ミィエルとリルはこのままウルコット達と合流してくれ。俺は死体処理と商人どもを見張っておくからさ」


「はいです~。では~、急いで応援を呼んできますね~」



 頷き、待機させてあるクロックワーク・スティードを回収に向かうミィエルに、リルは「え? カイルが残るなら私も残るわよ」と申し出るが俺は首を横に振る。



「早く合流して村の人たちとウルコットを安心させてやれ。それにミィエルの馬は2人乗りが限界だし、俺には操縦できない」


「ならカイルも並走すればいいじゃない?」


「こう見えて俺はクタクタなんだよ。少しは休ませてくれ」


「なら3人でうちに泊まって休めば――」


「村人に付けている護衛は、明日の昼には効果時間切れでいなくなっちまう。ミィエルにはその代わりに護衛を果たしてもらわなければならないからな。早期合流のためにも、今すぐ向かうべきなんだよ」


「……わかったわ」


「まぁでも、俺が寝泊まりする場所としてリルたちの家を借りてはおくよ。バファト邸は応援が着くまでは現場保持したほうがいいだろうからな」



 頷き、家のカギを渡してくれるリルに礼を言う。後はミィエルが連れてきたクロックワーク・スティードにリルを乗せ、村の入り口から二人を見送る。



「カイルく~ん。ちゃんと~、通信水晶で状況は知らせておいたので~、すぐに応援はくると思いますよ~」


「サンキュー、ミィエル。あ、念のためアーリア以外には『魔神』のことは内緒な」


「わかってますよ~。その辺りはマスタ~もわかってますから~」



 そう言って駆けだした2人を見送り、ステータスを確認してまずは飯にすることに決めた。



「あ……ミィエルに飯だけでも作ってもらえばよかった……」



 思わず出た言葉に精神的疲労がさらに重なり、俺は思わず肩を落とした。


閲覧ありがとうございます。

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