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第30話 VS”簒奪者・キャラハン”

リアルがごたついており投稿が遅れて申し訳ありません。

 膨れ上がる肉体は俺が想定する以上にまで膨れ上がり、全長6~7mはあろう巨体へと姿を変えた。

 頭部は確かに濃紺の蛸と言っても過言ではない外見をしており、人で言う頭髪や髭の部位は全て吸盤付きの触腕が細かくうねりを上げている。髭の部分は顔のパーツとしてみれば大きくはないが、頭髪部分の幾重にも重なるように生える触腕は全長と同等かそれ以上の長さを誇っており、そのうちの一本が鞭のようにしなると衝撃から地面がくだけ、1つのクレーターを穿つ。

 首から下は黒の外套で覆い隠されているが、隠しきれない硬く筋肉質な脚部と、鱗に覆われた触腕よりも太く、先端が注射針のように鋭くとがった尾が今にも俺に攻撃を仕掛けられるように伸縮を繰り返す。


 俺は視界の端で動き出したミィエルを捉えつつも、巨大化した“簒奪者キャラハン”をぽかーんと間抜けな表情でただ眺めていた。

 リルの姿のままじゃ殺り辛いから本性出してね、って軽い気持ちと、こういう奴って大体変身と言うか本来の姿になると完全回復して戦わされたりするんだよなぁ、と思って「本性見せて」と言ったら……こうなりました。

 いやぁ、俺の知ってるブレインイーターと全然違うし。もう魔神っていうより邪神じゃないこれ? あと皮膜の翼でも生やしたらもうクトゥルフって名乗ってもいいんじゃないの?

 しかも――







名:簒奪者キャラハン(グランドブレインイーター) 種族:魔神族 Lv19

【本体】

HIT:20 ATK:18 DEF:15 AVD:21 HP:192/192 MP:210/210

MOV:20 LRES:24 RES:26

行動:中立または敵対的 知覚:五感(暗視) 弱点:命中+1

【触腕】×10

HIT:20 ATK:18 DEF:12 AVD:20 HP:84/84 MP:53/53

【尻尾】

HIT:21 ATK:22 DEF:16 AVD:19 HP:155/155 MP:21/21


【特殊能力】

【本体】

〈異界魔法〉Lv15(MATK:24)

〈真語・空間魔法〉Lv15(MATK:24)

〈状態異常耐性〉:病気・毒・精神属性の効果を受けない。

〈魔法適性A〉:〈マナコントロール〉〈マルチターゲット〉〈エクステンション〉〈ファストスペル〉〈マルチキャスト〉〈ルーンマスター〉〈マルチパーセプション〉〈バイオレンススペル〉を習得しています。

〈劣悪召喚〉:このキャラクターは全ての能力に-4の修正を受けます。他一部能力は封印・制限されており、使用することができません。また、常時MPを消費しなければこの状態を維持することはできません。

〈攻撃障害〉:本体への攻撃を行う場合、近接攻撃は命中判定に-4の修正を受けます。

〈コア部位〉:この部位のHPが消失した場合、他部位の行動はできなくなります。

【特殊行動】

【本体】

〈脳喰らい〉:対象の脳を喰らうことで対象が習得したスキルやアビリティ、記憶を取得します。この効果によって死亡したキャラクターは蘇生できません。

〈二重詠唱〉:このキャラクターは一度に2つの魔法を詠唱・展開できます。

〈畏怖の象徴〉:このキャラクターを視認したキャラクターは精神抵抗判定に失敗した場合、全ての行動をすることができなくなる。

【触腕】

〈肩代わり〉:未行動状態の部位数だけ本体への攻撃を代わりに受けることができます。ただし、〈劣悪召喚〉のため1度に肩代わりできる攻撃は2度までとなります。

〈乱打〉:未行動状態の部位数全てで攻撃範囲内を攻撃します。ダメージ判定が1度になる代わり、参加した部位数1つに付き、攻撃範囲内の対象の回避判定に「-1点」と与ダメージ「+5点」の修正を与えます。

〈束縛〉:触腕の攻撃が命中した場合、相手を絡み取り、以降自動的に攻撃が命中するようになります。

【尻尾】

〈薙ぎ払い〉:範囲内の対象5体まで同時に攻撃判定を行います。

〈吸収〉:先端で対象を刺突することで与えたダメージ分本体のHPを回復します。







 ……精神抵抗、成功――当然のように部位が増えてより強力になってるんだよなぁ。高レベルの『魔神』になればなるほど、部位数が増える傾向にあるから予想はできていたけども。しかし、解析判定を〈アルケミスト技能〉で無理やり自動成功にしといてよかったと思う。


 深紅の瞳で睥睨するキャラハンと目が合うと同時、俺自身に掛けていた〈ディー・スタック〉が砕けるような音が脳裏に響く。どうやら俺のステータスも相手には見抜かれたらしい。こちらのステータスが抜かれることは想定内だが、見抜かれないように相当高いMPを注ぎ込んだはずの〈ディー・スタック〉を簡単に突破されると今後このレベルと戦うのに隠ぺいは難しいかもしれない。


 しっかしまぁ、この世界にきて最初の任務で自分よりもレベルが5以上も高い『魔神』とソロで戦わせられる時点で、TRPGでも随分とハードモードなシナリオだよ。本当、GMが居るならもっとまったりさせてくれよ、と文句を言いたくもなる。

 視界の端では焦った表情で飛び出すミィエルが映る。彼女の解析判定ではキャラハンのステータスは見抜けないはずだが、だからこそ脅威と考えているだろう。あぁ見えてミィエルは賢いから、最もリスクの少ない作戦を考えていることだろう。その上で難しいからこそ余裕のない表情を浮かべているのだろう。


 だから俺は大丈夫だとミィエルに笑顔を向ける。俺なら心配いらない、と力を込めて頷く。一瞬驚きに動きを止めるも、彼女は彼女がやるべきことへと向かったのを確認し、俺は睥睨するキャラハンに、笑顔のまま「随分と窮屈そうだな」と言葉を続ける。



「1秒に付きMP1の消費ってところか? 今その窮屈そうな状態から魔界へ解放してやるよ」


「クカカカカカッ! 私を前にして大層な口を叩く人間は貴様で2人目よ!」


「ちょっと待て。気になるから1人目を教えろよ」


「私に勝てたなら教えてやろう」



 今なおMPが減り続けるキャラハンのあまりのノリの良さにもう少し話していたい気持ちにさせられるが、〈ファストスペル〉(高速詠唱)持ちに喋らせる時間をくれてやる必要はない。


 手にしていたルナライトソードを真上へ放り投げ、右手で雑囊から取り出した赤属性特級魔石を砕き〈ギアブースト〉によってAGIを10秒だけ「48点」上昇させ、さらに〈スピード・ブースト〉〈ソニックムーブ〉でAGIをさらに「18点」上昇させ――先制判定、成功――先制を無理やりでも、もぎ取る。即座に左手で魔符と呼ばれる魔法を封じた消費アイテム――スペルカードを取り出し後方へと投げる。



「クリエイト――〈プリズンゾーン〉」



 俺とキャラハンのみが範囲内になるよう調節し、スペルカード中心とした半径30m以内の空間に内部から外部への脱出を不可能にする空間を作成。〈空間魔法〉持ちにされて最も困る『転移逃げ』を何よりも先に封じる。TRPG時代ならばこんなことをしなくても1ターンで終わらせる自信があるが、現実となった現状では『詰み』まで状況を作らなければならない。



「時の流れを担う精霊よ、我が魔力を糧に我らに嵌められた足枷から解放せよ――〈ヘイスト〉」



 次にキャラハンに掛けられている防御魔法を全て丸裸にしなければならない。

 俺は既に効果が切れている〈ヘイスト〉を自分自身に掛けなおし、〈ストレングス・ブースト〉〈ハイパワー・ブースト〉〈ホークアイ〉〈ドラゴンセンス〉〈エルダーズノレッジ〉でSTR・DEX・INTも強化。落ちてきたルナライトソードを無視し、キャラハンの側面に回りながら2本の投げナイフを本体へ投擲する。当然のように触腕で防がれるが予定通りだ。

 放り投げた剣を無視して行動した俺に楽し気に目を細めるキャラハンは、そのまま後方へと回り込もうとする俺へ触腕すべてと尻尾による攻撃を放つ。



「その程度じゃ喰らえねぇなっ!」



 〈乱打〉の効果により俺の回避判定は「-8点」の修正を両の手にそれぞれケープを握り、アビリティ〈若木を担う二つの手〉で両手に持った〈カテゴリー:盾〉の効果を受けつつスキル〈風に揺らぐは柳の如し〉を起動することで合計「+8点」の修正を受けることで相殺。

 深紅の布と舞う様にステップを刻む俺は唸り迫る触腕と尻尾を危なげ無く躱し、魔力の茨と刃でカウンターダメージを送る。全ての物理攻撃を躱し終えた刹那、ゾクリと悪寒が奔り頭上を見上がればバチバチと弾ける音とともに眩い光球が生み出されていた。直感で攻撃魔法〈サンダーボルト〉と推測した俺は右手の盾をウェポンホルダーへと巻き付け、空いた手で魔剣シオンを――



『オォオォオオォオ……』


「っ!?」



 足元から現れた怨霊の手によって足と腕を掴まれ動きを阻害され剣を――抜くことができない。

 雷の迎撃は不可。怨霊の手〈グリーフ・バインド〉は無効不可。ならばと視線を触腕へと奔らせる。

 視界の端に捉えた光球が一際輝き、轟音を立てて怨霊諸共大地を穿つ。



「あっぶねぇ……とんでもねぇ威力だな」



 〈キャスリング〉で転移し魔法を躱した俺は、うねる触腕を蹴って本体へ向けて走りながら、先程まで俺が立っていた場所を見て肝が冷える。まともに喰らってたら40点以上のダメージは確実だったに違いない。だがまぁ、当たらなければどうという事はない。

 最大速度で触腕を駆け抜け、キャラハンが反応するより早く本体へと肉薄し抜き放った魔剣シオンに〈魔力攻撃Ⅰ〉〈マナブレイド〉を乗せて左目を斬り裂く。確実に斬り裂いたと思った刹那、キャラハンの身体が明滅するように半透明になり、幻影を斬ったかのように刃がすり抜ける。

 想定通り、強制回避魔法〈ブリンク〉が掛けられていた。しかし〈ブリンク〉は一度攻撃を躱せば効果を失う。これで予想している防御魔法は後1つ。


 左手のケープをキャラハンの視界を閉ざすように広げて放し、空いた左手でケープごと射抜くように投げナイフを3本放つ。視覚を潰す目的で放ったケープ付きナイフもキャラハンの外套から彼を護るように姿を現した悪魔――〈デモン・シールド〉によって防がれる。

 自身が身に着ける装備に『悪魔』を宿し、攻撃に対して強制的に身代わりにする防御魔法。これも一度に封印できる悪魔の数は1体のみ。これで俺が想定する全ての防御魔法は使わせた。準備は整った。

 俺は宙空で身をひねりながら右手の魔剣シオンを放し、〈アタックオブフューリー〉のために左手で赤属性の特級魔法石を再び砕く。そして手に握るは俺の切り札――魔剣クレア。

 ナイフを受けた腕が退けられ、キャラハンと視線が合う。俺は刀身を失った魔剣クレアを頭上へと掲げ、勝利の笑みを浮かべる。



「刻み踊れ――〈ダンシングブレイド〉」


「グオオォォオオオオオオ――――ッ!!」

 


 MPを展開と攻撃で「24点」ずつ消費し、宙を舞う最大数である8本の白金の短剣。魔力を纏い青白く輝き、握る柄を振り下ろす動作とともに一斉にキャラハン【本体】へ殺到する。不規則な軌道で背後から、横から、頭上から、地上からステップを刻む短剣はキャラハン自身が反応する間もなく身体に突き立てられていく。

 〈ストレングス・ブースト〉〈ハイパワー・ブースト〉〈エルダーズノレッジ〉〈アタックオブフューリー〉〈魔力攻撃Ⅰ〉〈マナブレイド〉で「30点」のダメージ上昇効果を得た1撃1撃が全て最低「55点」以上のダメージを叩き出す8連撃。クリティカルも重なり、4本が命中し終える頃にはキャラハン【本体】のHPは0を下回り、全てを受ける頃には回復不能なマイナス域へと達していた。


 俺は宙で身体を翻して足から着地し、魔剣クレアの効果を解いて一本の美しい剣へと戻し視線をキャラハンへと向ける。その身に多大なダメージを受け、立っていることも儘ならず大地を揺らして膝をつき肉体が灰へと崩しながら。それでもキャラハンは心の底から愉快だと告げるように嗤っていた。



「クカカカカカ……素晴らしい、素晴らしいぞカイル・ランツェーベル。それでこそ、食し甲斐があると言うものだ」


「……まだ俺を食料として見てるあんたはすげぇと思うよ。それで、1人目ってのは誰なんだ?」


「クカカカカカ……気になるか。ならば答えてやろうとも。次に再会した時にでもゆっくりと、な」


「いや会いたくないし今言えよ。って――」



 途中までゆっくりと灰化していたはずなのに、キャラハンの言葉が終わると同時に砂山のように勢いよく崩れ去った。



「――喋る気ないってことだな」



 やれやれ、と灰の山から視線を外せば、キャラハンが灰へと崩れると同時にミィエルも丁度“シャドウ・デーモン”に止めを刺したところだった。リルを閉じ込めていた魔法も溶けるようになくなっている。

 2人の姿を確認し、安心したのか今更ながら襲い来る命のやり取りへの緊張、うるさい程高鳴る心音に、空を見上げて大きく息を吐いて落ち着かせる。


 ……無事に済んでよかった。


 TRPGならどれだけレベルが高かろうが攻撃さえ当たるのであれば1ターンでHP400点ぐらい余裕で削り切れる自信があったが、本当、現実となった今でも出来てよかった。



「カイルく~ん! リルさんは~! 無事ですよ~!」



 手を振ってこちらに笑顔を向けるミィエルに癒されつつ、俺は手放した剣とケープを回収。ふと気づくと灰の山の中にきらりと光る物が見え、手に持てばボウリング大の蒼暗い宝玉が灰の中に残されていた。

 “簒奪者・キャラハン”の剥ぎ取り(ドロップ)アイテムなのだろう。俺の解析判定じゃ価値までは解らなかったが、このアイテムが本日散財した分を大いに補填してくれることを期待することとしよう。


 俺は宝玉を雑囊へと仕舞い、ゆっくりとミィエルの元へと歩いて行った。




名称:【群青の魔将宝玉】 価格:解析失敗 効果:解析失敗

“簒奪者・キャラハン”を討伐し、灰となった肉体からこぼれ出た直径23cm程の暗い蒼色をした魔力宝石。彼の者の魔力で飽和した魔力結晶であり、触媒として使えば再びまみえることも可能となるだろう。


閲覧ありがとうございます。

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