第28話 悪魔掃討Ⅱ
今回は場面の都合で短めです。すみません。
大仰にエルハートケープを振り回し、相手から背後のミィエルとついでに俺の姿を一瞬隠した後、今度はケープをたなびかせながら前進する。迎撃すべく3体の悪魔が攻撃姿勢を取り、虫頭と多眼獣がそれぞれ味方への支援と俺への攻撃と神聖魔法を詠唱し始める。
俺は右足を軸に身体を横回転させながらケープで俺自身を覆い隠し、雑囊から投擲用のハンドアクスを3本取り出して“カオス・ベトレイヤー”と“ミレニアム・アイ”へ投擲。残り1本は“プルフラス・デーモン”へ届くように山なりに投げる。
身体が一回転すると同時にさらに速度を上げてジグザグに移動しながら間合いを詰める。
ハンドアクスはそれぞれに命中することはなかったが、回避行動を誘発させたことで魔法の詠唱は中断。俺を迎撃し、再び魔法の詠唱時間を稼ごうと一歩踏み出した“プルフラス・デーモン”の足下へ投擲した最後のハンドアクスが突き刺さる。
三者三様にハンドアクスに気取られた隙に30m離れていた距離は消失し、俺の攻撃が届く範囲になる。先制判定――成功。
完全に視界に納めたことにより“プルフラス・デーモン”と“ミレニアム・アイ”のアビリティが俺を襲うが、当然抵抗成功。
〈エンハンサー〉技能から〈スピード・ブースト〉〈ストレングス・ブースト〉〈ホークアイ〉と上位技能〈チーゴン〉より〈ハイパワー・ブースト〉を起動。体内の魔力が対応する身体能力を上昇させる。そのまま左右に持った深紅の布は悪魔たちの視覚から再び俺を隠し、美しい弧を描いた布が“カオス・ベトレイヤー”と“プルフラス・デーモン”の顔面を撫で――布とは思えぬ硬質な打撃音と共に2体を仰け反らせる。
ケープを引き戻し、中空を流れるように舞わせながらケープに隠れるように身体を動かしながらとろい動きの“ミレニアム・アイ”には鞭のようにしならせてケープで殴打。瞼を閉じる間もなく眼球にダメージを受けて耳障りな悲鳴を上げるそいつを、俺は見下した笑みを見えるように浮かべ、再びケープで身を隠す。
絶妙に3体の視覚をケープで隠しながら残りの雑魚へ目を向け、最も近い“ヘルハウンド”にナイフを投擲し突き刺しておく。
俺が最も得意とするコンボ特技――【布操術】と【双盾術】、そして【攻盾術】。
アビリティ〈編糸は幻惑の盾〉で布アイテムを〈カテゴリー:盾〉として扱うことができ、〈若木を担う二つの手〉で両手に盾を装備し、それぞれの盾の修正値を受けることができる。さらに〈盾は護るだけに非ず〉の効果で盾を武器として扱うことができるようになる。
さらに布の盾を装備しているときに使えるスキル〈幽鬼からの鼓吹〉によって「回避判定に+1」の修正を受けつつ、効果中に物理攻撃が命中した対象のヘイト値を上昇させ、ターゲットを俺に集中させる。この効果はスキルを切り替えるまで続くため、攻撃してきた相手の攻撃を躱し、マジックベルト・マナブレイダーによって発生した物理ダメージでもヘイト値を上昇させることができる、このキャラクターの黄金コンボ。
3体すべてに一撃ずつを入れた。瞳に宿る怒りの視線からしっかりとヘイトを稼げているのは確認できた。ナイフを突き立てられた”ヘルハウンド”も周りの雑魚を引き連れて向かってくる。上出来だ。この世界に来てから得た〈ヘイトリーダー〉の効果も抜群と見える。後は残りの雑魚も同様にすれば敵は俺しか見ない。
だから奴らは気づかない。ミィエルが3体の背後に回り込み、必殺の一撃を入れる瞬間であることを。
「紡げ一と三――〈大旋風〉っ!」
神速とも言える速度で振るわれた霊刀は空気すらも斬り裂き、余波で鎌鼬をも発生させた回転斬りが3体の悪魔に二重の切り傷を刻む。薄汚い血を噴出させ汚い悲鳴を上げる悪魔に、俺はケープの動きで視線を操作し、身体の半身を隠した後にわざわざ剣を抜いて悪魔に見せる。まるで俺がお前らを斬ったんだと言わんばかりに。
わざと見せた剣を収め、咆哮をあげて拳に炎を纏わせ殴りかかってくる“プルフラス・デーモン”の攻撃を全て不敵な笑みを浮かべて躱す。俺を攻撃したがために茨のローブによる魔力の茨とマジックベルトによるマナの刃で両腕を切り裂かれる。同様に甲高い声をあげながら触手を幾重にも伸ばす“カオス・ベトレイヤー”を全て捌きお礼のダメージをプレゼントする。
“ミレニアム・アイ”だけ俺に直接攻撃をするでなく、邪眼にて動きを奪う行動をとるが、俺は堂々と抵抗し不敵な笑みを浮かべ続ける。
リーダー格の悪魔が叫べば周りの悪魔も全て俺に視線を向けて動き出す。
いいね。凄く良い。
ナイフを突き立てられ敵意をむき出しにしたヘルハウンドの嚙みつきを躱し、刻まれる悲鳴を耳にしながら視線を後ろの十数体に向ける。数体が魔法の詠唱に入っている。使えるのは神聖魔法。このレベル帯で使える攻撃魔法など高が知れている。そこでふと思いつく。
〈キャスリング〉の魔法は視界に対象が映っていなければ発動できなかった。なればもし、相手の魔法発動可能な時にエルハートケープで俺の姿が視認できなかったのならどうなるのか。
俺は魔法詠唱者の視覚から隠れるようにケープを操り身体を隠し、もし魔法が飛んできても直撃しないようポジションを調整。
直後、俺を隠していたケープに複数の衝撃が走り、上方へ弾かれたケープの耐久力を減少させる。
まさか俺が見えないからってケープを対象にぶっ放したのか!?
耐久力の減少によりいくらか破れたエルハートケープを引き戻し、状況を覗けば予想通りやつらは魔法を発動していた。それも詠唱していた奴ら全員だ。成程、ゲームではできなかったがこの世界ならこういう使い方もできるのか!
魔法を打てないやつらが俺に殺到すべく距離を縮めている。取り合えず無視し、ちらりとミィエルを見れば、ポジションを整え次の一撃を放とうとしている。さて、HPはどうなってる?
プルフラス・デーモン「HP:42/122」
カオス・ベトレイヤー「HP:26/87」
ミレニアム・アイ「HP:2/66」
ミィエルの構えは先程と同じ。範囲内にいる複数体同時に攻撃を行う範囲攻撃だろう。であればとさらに俺はミィエルに魔法を付与すべく詠唱する。
「――〈ソニック・エンチャント〉」
「〈大旋風〉っ!」
ミィエルが主に使う風属性をさらに重ねて付与することにより、魔法の風が彼女の霊刀に集約され、物理ダメージをさらに「3点」とクリティカル性能を「1段階」上昇させる。
前回の一撃よりも大きく刃が風を纏い、一閃。
“ミレニアム・アイ”は身体を真っ二つにされ、“カオス・ベトレイヤー”は触手ともども下半身と上半身が離脱する。一番HPを残していた“プルフラス・デーモン”だけが左腕と胸部半分まで切り裂かれ、残り「HP:2」だけ残し生きながらえるも、刀の軌道を追うように訪れた鎌鼬が切断しきれなかった胸部を貫通し、命の灯を吹き消した。
「見事だミィエル! 後は雑魚を掃除するぞ!」
「っ! はい~!」
足元で息も絶え絶えな“ヘルハウンド”をケープで殴って止めを刺し、やっと距離を縮めた悪魔のために〈魔力攻撃Ⅰ〉へ切り替えて攻撃を躱してからの斬撃で半数を灰へと帰す。
残り半分はソードスパイクで蹴り飛ばして命を焼失。再び魔法の詠唱に入る半数は背後から音もなく現れたミィエルに切り捨てられ、動揺したやつらはケープを捨てて間合いを詰めた俺の魔剣にてこの世界から姿を消した。
「ふぅ。ミィエル、お疲れ様」
「お疲れ様です~、カイルくん~」
剣を収め、捨てたエルハートケープを回収し、今度は頭にマナポーションを振りかけてMPを回復する。豆知識だが、ポーションは飲んでもかけても効果は同じなのだ。不思議だね。
さて、まだ悪魔を召喚していたら面倒ではあるが、この程度なら敵ではないかな。むしろ今回は対魔法への良い情報が手に入って満足できたし、俺自身の動きとミィエルの働きも確認できた。
やはりこの娘はレベル詐欺と言える強さを持っている。HPが低いことはどうしようもないが、それ以外は全てにおいてLv11相当の力を持っている。この先連れて行っても問題ないだろう。
「んじゃま、囚われのお姫様と助けに行くとしますかね」
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