第27話 悪魔掃討Ⅰ
俺は犬型の悪魔“ヘルハウンド”Lv5を。ミィエルは目玉に皮膜の羽根が生えた“スポーン”Lv4を一刀の元に切り捨てる。
“ジェーン”の報告では30体前後とのことだから、まだ奥に20体ほどおり、かつ3体は比較的強い個体のはずだ。視線を走らせ、一番厄介な「魔法持ち」を最優先で片付ける。
連続して解析判定。必要なのは「レベル」「HP」「特殊能力」の3点のみ。他雑魚のステータスに構っている暇はない。ぱっとみで想像が付く悪魔だから砕く魔石は二級に留める。すでに採算はとれてないが、多少なりとも軽減しないと今後の生活がまずいことになる。
ヘルハウンド「Lv5」「HP:38」「炎の息吹」×2
スポーン「Lv4」「HP:32」「なし」×1
ザルバード「Lv5」「HP:56」「神聖魔法Lv3・炎の息吹」×2
リトルゴーゴン「Lv5」「HP:46」「操霊魔法Lv2・麻痺の邪眼」×2
優先順位「ザルバード→リトルゴーゴン→ヘルハウンド→スポーン」に設定。俺の火力ならばともかく、ミィエルの火力では少し心許ないか? 俺はミィエルとの距離を調整し、視界に入るザルバードが足を止めて詠唱に入るのを確認し次第ナイフを投擲。横目で命中して詠唱が中断されたことを確認しながら剣を鞘に納めて雑囊から明らかに入らないだろう戦旗槍を取り出し、石突を突き立てる。
「ミィエル! 俺を信じ、切り開け! お前の手は戦神の加護と我が信頼が宿る何者にも防げぬ刃となる! 優先対象はザルバードだ!」
「はいっ! です~!」
〈コマンダー〉技能の1つである〈ウォークライ〉をサブアクションで起動。俺がパーティーメンバーと認めた対象を鼓舞し、ATK――物理ダメージを2点上昇させる。さらに戦旗槍を背中のウェポンホルダーⅡへと装着。
「時の流れを担う精霊よ、我が魔力を糧に我らに嵌められた足枷から解放せよ――〈ヘイスト〉」
3分間、移動・攻撃速度を上昇させる操霊魔法〈ヘイスト〉発動。消費MPが1体に付き15点と大きいが、TRPG時代では一定確率でメインアクションをもう一度行える有用な魔法だった。まぁ運が悪ければ発動せず終わるものでもあったが。リアルタイムバトルとなった今では単純に身体の動きが高速化する補助魔法となっている。正直こっちの方が使いやすい。
視界の端で突っ込んできた“ヘルハウンド”の攻撃を躱し、お礼に荊のローブによる魔力の茨と、〈魔力攻撃Ⅰ〉を乗せたマジックベルト・マナブレイダーの刃で斬撃をプレゼント。攻撃したはずの“ヘルハウンド”が逆に絶命する。
TRPG時代とこの辺りは同じで大変助かる。遠距離攻撃がない雑魚など放っておいても勝手に攻撃してきて死滅してくれるのだから。俺は避けてるだけでいい。
ミィエルが無傷の“ザルバード”に肉薄し、魔法を打てぬほどの剣戟で圧倒しているのを確認。ならばと再び詠唱を開始した“ザルバード”を睨み、魔剣クレアを抜きながら〈キャスリング〉を発動。ナイフについたぬいぐるみと座標を入れ替えた俺が〈マナブレイド〉が起動した魔剣を振りぬけば、綺麗に首と胴を離別させた。手応えはクリティカル。“バフォメット”の時といい今といい、やはり急所への攻撃はクリティカルしやすい感覚があるな。
もう一体の“ザルバード”はミィエルが20秒もせずに片付けるだろうから、次点の“リトルゴーゴン”へ対象を変更。どうやら彼(彼女?)らも俺を脅威と認識し、〈麻痺の邪眼〉を集中して発動してくれている。当然抵抗成功だ。
比較的ミィエルの方が近い悪魔たちでさえ、俺を優先して距離を縮めてくれているのは、アビリティ〈ヘイトリーダー〉のおかげだろうか。実にありがたい。狙い通りに思わず口角が上がってしまう。
〈麻痺の邪眼〉が効果ないと“リトルゴーゴン”が悟る頃には、既に間合いは剣の届く範囲となり、右手の剣を囮に左手で抜き放った魔剣シオンを左目から後頭部へと刺し貫き、抉ることで即死のダメージを与える。そう言えば高い火力を維持するために〈魔力攻撃Ⅰ〉に付随して〈マナブレード〉も効果を発揮しているが、ダメージ上乗せせずに同じように眼球から後頭部まで刺し貫いたら悪魔って死ぬのだろうか? 数値的には1撃でHPを全損させるだけの火力はないはずだから、苦しみながらも反撃してくるのだろうか? 気になるなぁ。
〈ヘイトリーダー〉のおかげで寄ってくる悪魔の攻撃を躱しながら防具と装飾品で切り刻みながら、魔法を詠唱する距離をとろうとする“リトルゴーゴン”へ接敵――しようとして高速で駆け抜けてきたミィエルの霊刀で顔上半分が緊急離脱して息絶えた。おぉ“リトルゴーゴン”よ、実験する間もなく死んでしまうとは情けない。
仕方ないので足元に転がっていたヘルハウンドの頭を踏み抜き、後方から突撃してくる“スポーン”をカウンター気味に斬り裂いて灰に帰して差し上げる。これで第一陣は殲滅完了と言ったところか。
視線を奥に向ければ、第二陣が瞳をぎらつかせて俺達との距離を詰めてきていた。数にして20体ほどか?
「ミィエル、MPと身体の調子はどうだ?」
「ぜ~んぜん大丈夫~ですよ~♪ むしろ~、カイルくんの~魔法のおかげで~ぜっこうちょ~です~♪」
マナポーションを飲みながらミィエルを見れば、機嫌良さそうに答える。いつもより頬を紅潮させているところを見るに、実践での興奮、俺の〈ウォークライ〉による士気高揚効果によるもの、またはその両方で気持ちも身体も上昇傾向にあるのは間違いなさそうだ。
HP3点減少は受けているようだが、MPの消費も6点と抑えられているようで、スタミナも67/100と問題はなさそうだ。
なればと俺は緑の二級魔石を取り出して〈ヒールギフト〉を発動。魔石が砕かれ、緑の淡い光がミィエルのHPを5点回復させる。
きょとんとするミィエルに「間を取れるならHPは常に回復させといた方が良い」と頷いておく。
「なんせ次のお客さんは少しレベルが上がるみたいだからな」
大半がさっきの面子と変わらないが、明らかに大型の3体――ライオン頭に触手を蠢かせる虫頭、多眼の4足獣はレベルが高いと見て取れる。白属性一級魔石を迷わず砕き、俺自身とミィエルの解析能力を上昇。
名:プルフラス・デーモン 種族:悪魔族 Lv10
HIT:14 ATK:11 DEF:12 AVD:12 HP:122/122 MP:51/51
MOV:20 LRES:13 RES:12
行動:敵対的 知覚:五感(暗視) 弱点:聖属性ダメージ+2
【特殊能力】
〈威圧〉:このキャラクターを視界に収めた時、精神抵抗判定に失敗した場合、命中・回避判定に-1の修正を受ける。
〈状態異常耐性〉:病気・毒・精神属性の効果を受けない。
〈2回攻撃〉:両腕で1度ずつ攻撃を行う。
【特殊行動】
〈炎の拳〉:ATKを2点上昇させ、炎属性の物理攻撃を行う。
〈噛み千切る〉:部位への攻撃が総HPの1/3以上になった場合、その部位を破壊する。
〈威圧の咆哮〉:周囲30m以内のキャラクター全てを対象とし、精神抵抗判定に失敗したキャラクターは30秒間命中・回避判定に-2の修正を受ける。
名:カオス・ベトレイヤー 種族:悪魔 Lv9
HIT:12 ATK:9 DEF:14 AVD:11 HP:87/87 MP:62/62
MOV:15 LRES:11 RES:12
行動:敵対的 知覚:五感(暗視) 弱点:炎属性ダメージ+2
【特殊能力】
〈神聖魔法〉Lv7(MATK:9):『異形なる神・グリジェププクルド』の特殊神聖魔法を含むLv7までを扱うことができる。
〈状態異常耐性〉:病気・毒・精神属性の効果を受けない。
〈異形種の眼〉:このキャラクターは不意打ちを受けない。
〈吸血〉:触手による物理ダメージを与えた場合、与えたダメージの半分のHPを回復する。
【特殊行動】
〈触手攻撃〉:この攻撃の対象となったキャラクターは回避判定に-1の修正を受ける。
名:ミレニアム・アイ 種族:悪魔 Lv8
HIT:10 ATK:8 DEF:11 AVD:10 HP:66/66 MP:81/81
MOV:12 LRES:13 RES:13
行動:敵対的 知覚:五感(暗視) 弱点:聖属性ダメージ+2
【特殊能力】
〈神聖魔法〉Lv8(MATK:11):『異形なる神・グリジェププクルド』の特殊神聖魔法を含むLv8までを扱うことができる。
〈状態異常耐性〉:病気・毒・精神属性の効果を受けない。
〈異形種の眼〉:このキャラクターは不意打ちを受けない。
〈悍ましい身体〉:このキャラクターを視界に収めた時、精神抵抗判定に失敗した場合、命中・回避判定に-1の修正を受ける。
【特殊行動】
〈麻痺の邪眼〉:「対象:1体」「形状:射撃」精神抵抗判定に失敗した場合、命中・回避判定に-2の修正を受ける。この効果は3度まで重複する。
〈恐怖の邪眼〉: 「対象:1体」「形状:射撃」精神抵抗判定に失敗した場合、精神抵抗判定に-2の修正を受ける。この効果は3度まで重複する。
「ミィエル、解るか?」
「はい~。レベルは兎も角~。数が鬱陶しいです~」
ふむ。主体となる3体の強さよりも数に目が行くか。
俺としては有象無象は兎も角、あの3体は普通に考えてもうすでに一介の冒険者パーティーでは遂行不可なレベルの難易度になってると思うよ。平均Lv7~8の4人以上でなんとかするレベルかな? 問題はこれがまだボス戦じゃないってことだけど。
さて、どう配分してみようか。リルのことを考えればさっさと俺が片付けてしまった方がいいのだろうが、恐らく急がないとリルが殺される――という事にはならないと思っている。むしろ俺なら辿り着いたギリギリで殺してあげて心を折りに行くだろうし、黒幕の狙いはリソース削りをするための捨て駒だと思うんだよね。よし――
「俺が全力でサポートするから、あのライオン頭に虫頭、目玉だらけはミィエルがやるか?」
「ふぇ?」
――俺は雑魚をあしらいながら中ボスをミィエルに任せてみるか。俺はこのタイミングで〈ヘイスト〉を詠唱して効果時間を更新する。
「俺はパーティーでの元々の役割は火力じゃなくて、支援盾なんだよ。もし今後も俺とパーティーを組むようなら、予め見せておいた方がいいだろ?」
両手の剣を鞘に戻し、左手で赤属性の一級魔石を取り出し、〈アタックオブフューリー〉も効果時間を更新する。驚いた表情のミィエルに赤い光がキラキラと舞い落ちる。
「こ、このタイミングでですか~!?」
「今だから、さ。なかなかこれだけの『魔族』と集団戦なんて経験はできないだろうし、俺自身少しでもミィエルと息を合わせておきたい」
「で、でも~……」
ぶっつけ本番すぎる申し出に不安そうな表情を浮かべるミィエルに俺が浮かべられる限りの自信溢れる笑顔を送る。相手はバカみたいに纏まって歩いてきた3体の悪魔と有象無象18体だ。心配に思う理由はない。
左手で雑囊から両端に軽い金属が付いた2mほどの深紅の布を2枚取り出す。悪魔との距離は凡そ30m。右手に戦旗槍を手にし直し、石突を突き立て高らかに謳う。
「心配するなミィエル。俺達ならできるさ! 不敵に笑え! 恐れるな! ただ前だけを見て進め! お前は俺が必ず守る!」
「~っ!」
〈ウォークライⅡ〉へと鼓舞へ更新。ミィエルの「物理ダメージ+2点」から「物理ダメージ+2点・命中判定+1」へと更新。さらに戦旗槍を再びウェポンホルダーⅡに戻しつつ、エルハートケープを両手に装備しミィエルの前に出る。。
ここでようやっと悪魔たちは臨戦態勢を取ろうとする。遅い遅い。それじゃ俺達に追いつけない。
深紅の布は俺の手の動きに沿う様に緩やかに宙を漂い、紅い帯は揺らめきながら俺とミィエルを敵の視線から隠す。
「蹴散らすぞミィエル!」
「はいっ!!」
不安のない返事とともに先制を握るべく第二ラウンドを開始した。
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