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第26話 エルフ解放戦Ⅱ

 やっぱりカイルくんは凄いですね~!


 ミィエルは“アイアンゴーレム”と“バフォメット”の戦闘を視界に収めながら離れた位置で同様に悪魔と対峙した少年をへと視線を向ける。


 ミィエルが今回カイルくんに同行したのはステータス上では図ることができない彼の実力をこの目で推し量るのが目的です。これは“歌い踊る賑やかな妖精亭”に所属する冒険者へ必ず行っている隠し試験であり、今所属しているメンバーは必ず、直接依頼をミィエルとともに熟すことで実力を推し量ってきました。


 そうして本来の実力から性格、本質までも確認しミィエルもアーリアも心から迎え入れても良いと思わなければ絶対に所属はさせません。だから眼鏡に適ったのは4人しかいないのです。

 最も今まではミィエルよりも実力が下位の者たちばかり見てきたので、自分よりもはるかに上位者である人間を見定めるのは初めてのことで、それはアーリアも同様なので今回は慎重に成らざる得ません。


 だって正直に言えば、短命な人間種があの若さでこれほどの力を身に着けているなどとなれば、大半の人間は尊敬よりも恐怖を覚えてしまうから。事実、ミィエルの目線の先にいる彼――Lv9の悪魔のブレスを魔法で躱し、的確に首を刎ねて絶命させるカイルくんならば、ザード・ロゥを一人で滅ぼすことも難しくはないのではないかと思うのです。だって高位の悪魔を抵抗の余地なく屠れてしまう存在なんて、この大陸で数えるほどしかいないのだから。


 高レベルの魔法使いであることはわかってましたけど~、これほど高性能の使役獣(ユニット)を2体同時展開するだけでも脅威です~。特にバトルドールが怖いですね~。


 人間に近しい精巧な人形と言うだけでも脅威ですが、バトルドールには追加素材(オプション)によって様々な技能を付加させられると聞きました。しかも他使役獣よりもステータス面で低い代わりにその辺りは自由なのだと。もし“ジェーン”に暗殺向きのスキルやアビリティを多く覚えさせることができたとしたら……

 それ以上にカイルくんは〈ネクロマンサー〉でもあるわけで……より性能の高い“アンデッド”を作成したとしたら脅威度がどこまで跳ね上がるか想像もつきません。


 これら全てが公になればカイルくんは危険視されて自由に動くことも儘ならなくなるだろうことは想像に難くありません。ミィエルとしてはカイルくんがそんなことをする人間じゃないと確信を持てているから、見知らぬ土地で窮屈な思いはしてほしくないな、と思うのです。


 ふと“ジェーン”と話して困ったような表情を浮かべたカイルくんと目が合いました。ミィエルを応援するようにニコリと微笑む彼を見て心がぽかぽかして嬉しくなってきます。


 って喜んでる場合じゃないですよ~! このままじゃ~カイルくん1人でリルさんを探しに行っちゃいますよ~!


 先程ウルコットくんが「姉さんがいない!」と叫んでいたので、そのことを知れば村の安全のためミィエルと使役獣を残して探しに行ってしまうでしょう。カイルくんは最初からミィエルも守る対象に入れてくれているので。嬉しいけれど、それだと彼の傍にいられません!



「ゴーレムさ~ん、交代です~。エルフの皆さんを~、守ってください~」



 まずはミィエルの距離にしなければなりません。接近に気づいた“バフォメット”の口から毒の煙を漏れ始めます。8mと言う彼我の距離を鑑みてブレスで迎撃してくるつもりなのでしょう。でも、遅いです。

 踏み込むと同時、足元に風が渦巻き前へと進む足をさらに加速。狙うは黒い体毛に覆われた左足――〈一ノ太刀・旋風〉。

 〈イニシアティブアクション〉と〈旋風〉の相乗効果により爆発的に加速したミィエルは、“バフォメット”からすれば突然背後に現れたように見えたでしょう。小さい体を利用して股下を潜る刹那に鯉口を切り――一閃。風の魔力を纏った神速の抜刀術から背後に抜けたことでガラ空きの翼にもう一閃。


 ――〈一ノ太刀・水月〉。


 水の魔力を纏った刃は美しい弧を描き、両翼を付け根から切断しようと牙を向きますが、狂飆の霊刀に返ってきたのは堅い手応え。



『グォオオオアアアア!!』



 ……堅いですね~。

 紫色の血をまき散らし、悲鳴を上げていることからダメージは通っていますが、致命傷には至っていないみたいです。カイルくんみたく(急所)を直接狙えればもう少し簡単になるのですが、ミィエルの2.5倍以上ある巨体に対して速度の出ない浮遊では殺してくださいと申告するようなものです。この手は打てません。



名:バフォメット HP:51/104 MP:72/72



 ならば――バフォメットがミィエルを視界に捉えようとする動きを先読みし、



「お願い――〈フラッシュ〉」



 バフォメットの眼前で光の妖精で光を発生させて目を眩ませ、再度膝裏へ〈水月〉で片足を切断。視界を失い、片足を失ってバランスを崩し倒れる頭部へ向けて、



「――〈二ノ太刀・突風〉」



 風を纏った岩をも貫く神速の突きで頭蓋骨ごと貫いた。これにて悪魔退治、完了です♪








★ ★ ★








 ミィエルの見せた美しいと言える剣技に思わず見惚れてしまった。いやー、凄いね。〈魔力攻撃〉に属性攻撃まで乗せてたよねあれ。是非今度教えてもらえないだろうか。


 絶命した“バフォメット”の身体が灰となって崩れていく。それは俺が倒したものも、ミィエルが倒したものも変わらない。思わず溜息が漏れる。

 だから悪魔や魔神と言ったやつらは嫌いなんだよ。今回は苦労してないから良いけども、基本悪魔や魔神(こいつら)の本体は別世界にあるって設定のためか素材の解体ができないので討伐したところで報酬がめちゃくちゃマズい。高レベルになればなるほど厄介なくせに実入りが薄いからGMとしては出してて良いけど、PLとしては相手にしたくなくなるんだよな。


 まぁ今回はミィエルの満面の笑顔とピースサインと言う癒しがあったから良しとするけどさ。


 俺はミィエル達と合流すべく歩きながら、周囲を確認して戻った“ジェーン”の報告を聞くことにする。



「他敵影は?」


「ゴブリン、オーク数体ガ森ノ奥ヘト散開シテシマイマシタ。追イマスカ?」



 うーん、何か敵戦力が少ない気もするなぁ。

 “ジェーン”が屠った蛮族の死体と、灰になった悪魔たちを大まかに見ながら思うことは想定よりも敵戦力が少ないことだ。いや、村の規模を考えたらこんなもんなのかもしれないが、ウルコットの件を考えるともう少し準備されててもおかしくない気がするんだが……。

 なんせ“ダブル”が居れば記憶までコピーすることが可能なはずだ。バファト村長が捕らえられていたのなら俺の存在が把握されているのはほぼ間違いないはず。



「主サマ?」


「……あぁ、すまない。その件は他の者に任せるとしよう。ジェーンは引き続き村を哨戒ししてくれ。敵を発見した場合、可能な限り数の把握。何もなくても10分後に俺と合流してくれ」


「カシコマリマシタ」



 HPも回復させたし、確認が取れてる“ダブル”や黒幕でない限り“ジェーン・ザ・リッパー”が倒されることはないだろう。



「ミィエル、見事だったな」


「えへへ~。楽勝ですよ~」



 俺とは違い、灰となった“バフォメット”から残った素材である「悪魔の指」を、ちゃっかり拾ってマジックポーチに仕舞うミィエル。確か売れば300Gぐらいにはなったんだっけか。



「ウルコットくんも~、頑張ってましたよ~」


『そうか。で、囚われてた人たちの様子はどうだ?』


『8割方無事だ。主にいないのは警邏隊の連中とバファト村長……それと姉さんだ』


『人数にして何人だ?』


『全部で9人ってところだ』



 荷馬車から村人を開放し終えたウルコットが焦った表情を浮かべながら報告をくれる。思っていたよりも無事だ。いない奴は殺されて素材にされたか、生きたまま生贄にされたかだろうな。

 今すぐにでもリルを探しに行きたいのだろうが、ウルコットは焦った行動をするどころか冷静に「まずは皆の治療をしてくれ」と俺に頭を下げる。私情を殺す判断ができるのは良いリーダーの資質だ。これなら任せられるだろう。



『怪我をしたものは集まってくれ。ゴーレム、お前もこっちへ来い』



 俺は頷き、雑囊(マジックポーチ)内の魔晶石を意識しながら範囲回復である〈リジェネ―ト・サークル〉で纏めて傷を癒し、次に戦闘を行えるものは武器を手にするように指示を出す。



『武器ってお前――』


『逃げるための最低限の準備だ。5分で済ませてくれ。これから皆にはザード・ロゥへ逃げてもらう。指揮はウルコットが執ってくれ』


『村には、残れないのかい? 息子が、いないんだよ』



 息子を待ちたい、と女性は言う。その目には「あんたたちがいれば安全だろう?」と言う意味が含まれているだろう。しかし残念ながら俺達は居てやることはできない。俺は首を横に振る。



今は(・・)息子さんのことは諦めてくれ。やつらは十中八九襲ってくる。今逃げなければ――全滅だ』


『……間違いないのか?』


『残念だがな。心配するな、“ジェーン”を護衛に回す。移動が遅いゴーレムはそっちに行かないよう道を封鎖するのに使う』


『二人はどうするんだ?』


『俺とミィエルは元凶の討伐とリルの救出だ。悪魔召喚を行える相手を潰さない限りジリ貧になる』



 この平穏は本当に一時のものだ。実際、相手が仕掛けてくるとしたら今だ。「救われた」と思った時に再び絶望を抱かせれば心を折ることは簡単になる。そして待つのは悪魔に魂は食われ、生贄にされる未来しかない。



『わかった。皆、急ぎ武器になる物を持ってくるんだ! その後ザード・ロゥへ逃げる! 馬や馬車は使えるものはなんでも使うんだ! 5分後に出発する! 急げ!』



 ウルコットの指示に村人たちは頷き、各々が逃げるための準備をする。「それでいい」と俺は頷く。



『……悪いが、カイル。ルナライトソード(こいつ)は借りててもいいか?』


『あぁ、終わったら返してくれればそれでいい』


『すまない』



 頭を下げるウルコットに俺は『心配するな』と肩を叩く。



『リルの事は任せろ。だから村の皆を頼むぜ?』


『……あぁ。よろしく頼む』



 再度頭を下げ、ウルコットも準備のために動き始める。さて、お次はっと。



「カイルく~ん。この人たちは~、どうします~?」


「最後にギルドに突き出す予定だからな。適当な納屋にでも縛り付けて入れとけばいいだろ」



 エサになってもらっても困るからな。

 ちゃっちゃとその辺を片付けていると時間通り“ジェーン”が戻ってきた。報告では、ウルコットが言っていた森の奥方面から30前後の悪魔が接近してきているとのこと。



「比較的強力そうな個体はいたか?」


「3体ホド。ソレ以外ハ大シタコトハゴザイマセン」


「十分だ。ありがとう」



 思わず頭を撫でると言う行動をとってしまった俺に、“ジェーン”は驚いた表情を浮かべてしまう。しまった、ミィエルと同じでつい撫でやすい位置にあったから思わず撫でてしまった。



「……すまない、嫌だったか?」


「イエ。大変嬉シク思イマス。可能デアレバ、オ役ニ立テタノデアレバ、マタ撫デテハ頂ケナイデショウカ?」



 しかし驚いたのは一瞬。目を細めて小動物のように喜び、次回もやってほしいと強請られてしまった。なぁ、効果時間1日の使役獣をここまで感情豊かにする必要、ある? 俺の習得してる魔法にさ、人形やぬいぐるみを爆弾化させる魔法とかあるんだけど……あぁもう使いづらいんですけど!!

 選んだバトルドールが“ジェーン・ザ・リッパー”だからか? と言うか効果切れた後もう一度作ったら同じ人格になるのか? 終わったら検証だな。



「あぁいいぞ。これからもお前の働きに期待している」


「っ! ハイ! オ任セクダサイ!」



 笑顔を浮かべて返事をする“ジェーン”に準備ができ、村を出発するエルフたちの護衛を命じる。彼らが村を出た後、その後を追わせないように“アイアンゴーレム”に指示を飛ばし、駆け寄ってきたミィエルにマナポーションを振りかけつつ、森からぞろぞろと顔を出し始めた悪魔の軍勢を見やる。

 目に見える範囲で12体。どれもLv4~5の雑魚共だ。だからこそ早々にご退場していただこうと思う。

 俺は雑囊から取り出した赤属性の一級魔石を2つ砕き、俺とミィエルに〈アタックオブフューリー〉で3分間の物理攻撃力を4点上昇させる。



「ちゃっちゃと片付けようかミィエル」


「はい~。それは~、お任せなんですけど~」


「けど?」


「なんで~、カイルくんの~、ドールさんは~あんなに可愛らしいのか~、後で教えてくださいね~?」



 じとっとした視線からの有無を言わさない笑顔。まったくもって余裕がある。この状況で気になるとこそれかよ……と言うか俺が知りたいよそれは。

 バレないように心で溜息を吐き、ミィエルの言葉に頷くと、俺達はそれが合図であったかのように最も接近した悪魔を両断した。


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