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第20話 勝利への準備&出発

「お部屋なら~、ミィエルがご案内しますよ~」


「いや、大丈夫だ。ミィエルはアーリアさんに報告して、明日に向けて休んでくれ。明日から大変だからね」



 ミィエルの申し出を断り、アーリアから部屋番号を聞き、俺は当てがわれた自室――2階の202号室へと足を運ぶ。

 ちなみに2階には部屋が全部で4つあり、外観からは気づかなかったが何気に3階まである割と立派な宿だった。ただ冒険者の宿としての規模はやはり小さいほうだ。アーリアの研究施設のついでに開設した、と言うのは本当のようだ。


 部屋に入れば掃除も行き届いているうえに想像していたよりも広い。16畳ぐらいはあるんじゃないだろうか。

 シングルベッドにクローゼット、時計もしっかり備えられており、装備を置くための棚に着替えようの衝立まである。MPを1点消費するが、3時間は明かりを灯せる魔法のランタンが入り口とベッド脇に1つずつ置かれており、2つ点ければ部屋には十分な光量を確保できる。当然トイレも洗面台もある。

 この部屋、日本の下手な民宿よりいい部屋な気がするわ。

 俺は荷物を置き、ランタンを2つとも灯し、明日に向けて最後の準備に取り掛かる。


 間違いなく明日以降に発生する戦闘(イベント)はこの世界に訪れてから一番危険度の高い戦闘が発生するはずだ。下手をすれば俺よりもレベルの高い相手との殺し合いになる。

 今が最後の準備時間。どこぞのTRPGなら「死にに行く準備」とかいうあれだ。勿論死ぬつもりなんて毛頭ないけども。

 幸いなことに1人では確認できなかった飛翔剣シオンの性能は把握できた。

 ならば、と改めて俺自身のフル装備でのステータスを確認する。




名:カイル・ランツェーベル 17歳 種族:人間 性別:男 Lv13

DEX:47(+2) AGI:43(+1) STR:36 VIT:35 INT:24 MEN:27

LRES:18 RES:19(+2) HP:76/76 MP:32/77 STM:76/100


〈技能〉

冒険者Lv13


《メイン技能》

フェンサーLv5→ブレーダーLv5→ソードマスターLv3

コンジャラーLv5→ドールマスターLv5→ネクロマンサーLv2


《サブ技能》

スカウトLv5→ハンターLv2

レンジャーLv3

セージLv2

エンハンサーLv5→チーゴンLv3

アルケミストLv5→ハイアルケミストLv3

コマンダーLv5→ウォーリーダーLv2


《一般技能》

コックLv3

クレリックLv3


《経験値・貢献度》

残りEXP:9580点

貢献度:0点(ビェーラリア大陸)


〈装備〉

武器1・2:マグマタイト加工されたルナライトソード+1×2

武器3:魔剣・飛翔剣クレア+1

武器4:魔剣・飛翔剣シオン+1

武器5:ソードスパイク+1

鎧:荊のローブ+1

盾1:マナコート加工されたエルハートケープ

盾2:マナコート加工されたエルハートケープ


〈装飾品〉

頭:命と代償の冠

耳:蝙蝠ピアス

顔:見通しのモノクル

首:生命と奇跡の首飾り

背中:ウェポンホルダーⅡ

右手(腕):聖なる抗いの腕輪(RES+2)

右手(指1):敏捷の指輪(AGI+1)

左手(腕):匠人の腕輪(DEX+2)

左手(指1):アルケミストグローブ

腰:マジックベルト・マナブレイダー

足:サイレントブーツ

その他(任意):禁書目録『封』


【取得スキル】

〈魔力攻撃Ⅰ〉〈挑発攻撃Ⅱ〉〈ディフェンススタンス〉〈マルチターゲット〉〈マナシールド〉


【取得アビリティ】

〈両手利き〉〈回避力上昇Ⅱ〉〈イニシアティブアクション〉〈ルーンマスター〉〈マナブレイド〉〈ヘイトリーダー〉


【特技】

布操術:〈編糸は幻惑の盾(A)〉〈幽鬼からの鼓吹(S)〉〈惑乱の蜂撃(S)〉

双盾術:〈若木を担う二つの手(A)〉〈風に揺らぐ柳の如し(S)〉〈断ち折れぬは梓の如し(S)〉〈意思を砕くは癒瘡木の如し(S)〉

光陰剣術:〈不破の光壁(S)〉〈吸魂の呪影(S)〉

二双剣:〈双別の舞い(S)〉

攻盾術:〈盾は護るだけに非ず(A)〉〈防御こそ攻めの一手(S)〉〈迫る壁は全てを弾く(S)〉


【加護】

〈窮地逆転の加護〉


【二つ名】

なし




 【特技】欄の「(A)」はアビリティで「(S)」がスキルだな。まぁこの辺は試しようがないし、次だ次。


 さらにステータスウィンドウをスクロールして習得している魔法一覧へと目を向ける。今一番確認したいのは魔法だ。ミィエルのステータスと俺自身のゲーム時代にはなかったスキルやアビリティ、そして先程の魔剣の内容が変更されていると言う事実。これらを鑑みても魔法の効果が変更されている可能性は高い。

 基本物理で殴り殺す俺だが、いざ魔法を使おうとした時に知っている効果と違っていたら致命的結果をもたらす可能性が高い。

 使用感は少し試せている。後はまだ使っていない魔法をしっかりと確認する必要がある。



 LOFは魔法技能を習得する際には2つの選択肢が存在する。

 1つはオーソドックスなのがレベルに対応した魔法を規定通り覚える基本ルール。

 もう1つがレベル上昇に応じて3つずつ魔法を選んで習得でき、且つレベルに応じて上位の魔法を習得できる選択ルール。

 

 基本ルールはレベルさえ上がれば、公式が作成した一覧通り対応した魔法を勝手に覚えてくれるので管理がとても楽で、全ての魔法に精通していなくてもいいと言うメリットがある。さらに1つレベルが上がることに使える魔法の増加数が選択ルールよりも多く覚えることできる。一通りの魔法を覚えられるため、この技能職がどう動けば良いかわかりやすい初心者向けとも言えるルールだ。こちらが基本と言われる元々のルールのため、デメリットはないに等しい。

 強いてあげるのならば、「これいつ使うんだ?」みたいな微妙な魔法もあるため、キャンペーン通してまったく使わない魔法が出てきてしまう点と、規定レベルに達しないと使いたい魔法を覚えられないと言うデメリットがある。


 選択ルールではGM(ゲームマスター)PL(プレイヤー)も初心者を脱した人たちが使う追加ルールであり、その技能職で覚えられる魔法の一覧からレベル1つ上昇に付き3つまで選んで習得できるのが特徴だ。基本ルールと違い、最終的に覚えられる魔法の種類は少なくなってしまうデメリットを伴うが、死に魔法を取得しないで済むことや、基本ルールよりも使いたい魔法を早く覚えることができると言うメリットは大きい。

 何より追加要素なので長期キャンペーンになれば、それぞれの技能職で覚える魔法の上位版を覚えることが可能なのだ。

 その場合上位技能職のレベルを上昇させた際に、上位技能職の魔法最低1つと元となった下位技能職の魔法一覧から選んでも良いルールとなる。勿論上位技能職の魔法だけを覚えても構わない。

 しかし理想のキャラクター成長をするために敢えてピーキーな上位技能職の最低限の魔法のみ習得し、後はより強化された下位技能職の魔法を習得するプレイヤーが多かったりする。

 確か強化魔法のみを取得しまくったバフ極振りキャラなんてのもいたぐらいだ。

 俺が参加しているキャンペーンでも選択ルールを採用している。自由度が高く、最初からやりたいこともできて面白いのだ。


 ではカイル・ランツェーベルは何を覚えたのか。


 今キャンペーンのPTコンセプトは『全員前衛』と言うもので、『殺られる前に殺れ』と言う考えの基にPCが作成されている。

 しかしそれだと攻撃過多になるため、カイルは攻撃面を他PCに任せる回避盾として作成。回復役がいないと何だかんだで詰むため、補助・回復魔法ともに使える〈コンジャラー〉を取得して敵ヘイトを自分に集めつつ仲間を強化することをメインに置いていた。


 結果として俺の場合、コンジャラー、ドールマスタ―、ネクロマンサーで計12レベルのため、36個の魔法を習得。その大半が補助魔法の習得に比重が置かれている。こんなことになるなら攻撃魔法ももうちょっとほしかったなぁ、と思わなくもないがこんな事態を想定できるわけもないので仕方がない。


 さて、一通り確認し、知らない魔法を習得していることはなかった。よく使う魔法も大きく効果が変更されている気はしない。

 ほっとする気持ちと期待を裏切られた残念感。そこでふと俺はとある魔法に興味が惹かれた。〈ドールマスタ―〉で覚えることがでいる魔法の1つ――〈キャスリング【ドール】〉。




【魔法】〈キャスリング【ドール】〉 取得前提条件:ドールマスタ―Lv1以上

コスト:MP8 対象:術者と人形1つ 効果時間:一瞬 射程:30m

効果:術者と魔法射程内に存在する〈カテゴリー:人形〉と位置を瞬時に入れ替える。対象と術者の間に遮蔽があっても使用可能だが、術者が存在できるだけの空間がなければ使用不可となる。この魔法はサブアクションで使用可能。




 〈キャスリング〉は使役獣(ユニット)を扱う魔法系技能職であれば、ほぼ確実に覚えられる魔法の1つだ。

 俺の習得した〈ドールマスタ―〉も例外ではない。しかし他の技能職と比べると〈ドールマスタ―〉の〈キャスリング〉は少し異なる特徴を持っている。

 例えば〈ゴーレムマスター〉であれば自分が作成したゴーレムと位置を交換でき、〈サモナー〉であれば召喚し使役している召喚獣と、〈ネクロマンサー〉であれば作成したアンデッドと入れ替えることができる。

 〈ドールマスタ―〉もバトルドールと言う使役獣を作成できるが、これだけに限らずアイテムカテゴリーが『人形』であれば魔法の対象に出来ると言う他の職にはない特色を持っている。これだけ聞くと〈ドールマスタ―〉だけ優遇されているようにみえるが、作成できるバトルドールは数多ある使役獣系の中でも最弱クラスであり、こんなのにMPを使うぐらいなら低レベルのゴーレムを作った方がマシだったりするため、優遇と言うより救済措置の意味合いが強いのだ。


 しかし他の〈キャスリング〉と違う使い方ができると言う時点で、俺はTRPG時代悪いことができないかと期待していた。PTメンバーそれぞれにぬいぐるみを持たせておけば、ピンチに陥ったメンバーの持つぬいぐるみと俺が入れ替わることでピンチから救ったり。魔法発動時は移動力に制限がかかるため、ぬいぐるみを持つ他メンバーが突貫した後に使用することで移動制限を無視した距離を稼ぎつつ魔法の発動ができると期待していた。

 そう、期待していた(・・・・・・)のだ。


 そして結論を言おう。一度も使うタイミングはありませんでした!


 理由は簡単で、まず全員前衛PTの弊害でヘイトを稼ぐ前に相手を殲滅してしまうためピンチに陥りようもなく(むしろ倒せない時点でピンチ)、移動制限に関してはメンバーにいた〈ドラゴンライダー〉様に一緒に運んでもらって解決。わざわざ1ターン1回制限でMPを消費するような魔法を使う必要がなかったのである。


 しかし待ってほしい! 確かにTRPG時代(あの頃)は使いどころがなかった。でも果たして現実(この世界)ならどう使えるのではないだろうか。お誂え向きに『1ターンに1度だけ使用できる』の文言もない。まぁターン制じゃないしね。



 俺はまず貰ったMPポーションでMPを回復。ぬいぐるみ1つを少し離れた所へ置き、そのぬいぐるみと俺を対象に設定。サブアクションで使える魔法は詠唱を破棄することができるため、頭の中で魔法をイメージするだけで使える。


 ……〈キャスリング〉。


 一瞬の浮遊感とMP消費される感覚とともに、視界が変わる。無事、対象となったぬいぐるみと俺の位置が入れ替わっている。続けて〈キャスリング〉を唱えようとしたら奇妙な感覚に囚われる。直感的にまだ使用できないと確信したのだ。

 であるならば、と使用可能になるまでの時間を数えてみる。7、8、9、10――使える。即座に〈キャスリング〉を発動。再び入れ替わった位置からカウント。やはり、10秒。

 もしかしてこれが『1ターン制限』の弊害かな?


 次に適当な武器に〈ファイア・エンチャント〉を発動し、即解除。すぐに使えない気もするが、詠唱を開始するとその間に使用可能になったな。10秒も経ってないのになぁ。

 なら回復魔法は? 〈アース・ヒール〉を自分対象に発動。同様にと思うと、詠唱中に再使用可能になっている。もしかして詠唱しないもののみ再発動に時間がかかるのか?



「感覚的にはゲームで言うところの再使用時間(リキャストタイム)みたいなものか。ターン制からリアルタイムに変わった弊害なのか?」



 うーむ、わからん。取り合えず〈キャスリング〉は再使用までに10秒かかるとだけ覚えておけばいいだろう。


 俺はさらに実験をする。MPポーションを飲み、衝立の向こう側にぬいぐるみを置き、〈キャスリング〉可能かどうかを探る。視界内にぬいぐるみがないため対象にとれない。あるとわかっていても射線と言うか視界が通ってない場合は対象にとれない。これはTRPG時代と変わらないようだ。ならばと、蝙蝠ピアスで周囲を知覚する。衝立の向こう側も認識できる状態で再び〈キャスリング〉。



「……はは、これは良い」



 俺は無事ぬいぐるみと位置を入れ替えていた。思わず口角が上がる。これはTRPG時代には成しえなかった悪いことができる。いや、もしかしたらそれ以上のことができるかもしれない。先程の実験でもしかしたらと――俺が心から欲したアレができるかもしれない!

 であるならば、と俺は巾着(マジック)バッグから必要な物を取り出し、せっせとその準備をする。さらに検証を繰り返し、



「くくくくく……完成だ。この件が終わったらさらに追加しないとな!」

 


 物凄い満足感と魔法の連続使用による倦怠感で、俺はそのままベッドに横になり眠ってしまった。







★ ★ ★







 この身体になってから本当に朝の目覚めが良い。時計を見れば朝の4時半を示している。丁度太陽が昇り始めているところだ。窓から入る朝日が気持ちいい。

 洗面台で顔を洗い、身体を拭いて寝癖を整える。後は何が起こっても良いように装備も整える。うし、良いだろう。



「カイルくん~! おはようございます~!」



 1階に下りれば既に朝食の準備をしていたミィエルが元気な笑顔で迎えてくれる。いやー、清々しい朝に可愛い娘の笑顔とか最高だね。

 朝食後にすぐ出発のため、いつものメイド服ではなく黒革のベルトで身体にぴったりフィットさせるボディースーツ――コンバットスーツを身に着けている。軽い上に回避にボーナスが付く素晴らしい装備だ。公式のイラストで男だと長ズボンになるが、女性だと短すぎる程のホットパンツになるのも変わっていない。白い太ももが眩しいねぇ。



「おはようミィエル。体調は万全か?」


「もちろんですよ~。もうちょっとで~、朝食の準備が終わりますから~、座って待っててください~」



 頷いて席に着くと、ミィエルとは入れ替わりにカウンター奥から欠伸を抑えながらアーリアが顔を出す。



「おはようございます、アーリアさん」


「おはよ。頼まれてたもの、用意しておいたわよ。お金と一緒にそっちに置いてあるから、後で確かめて頂戴」


「ありがとうございます。後部屋とても良かったです。引き続き部屋をお借りしたいんですがいいですか?」


「あんたなら構わないわ。ついでにあたしの研究に付き合ってくれるなら無料(ただ)にしてあげる」


「……内容次第でお願いします」



 無料(ただ)ほど怖いものはないからね。特にアーリアの場合。

 アーリアも同じ食卓に着くとミィエルも朝食を並べ終える。本日の朝食はロールパンに野菜スープ、ボイルしたソーセージとベーコンエッグサラダ、フルーツジュースのようだ。

 簡単なものではあるが調理する人の腕でこれほど味に差が出るのかと感心してしまう。本当に美味しいです。



「本当、美味いなぁ。こんだけ美味ければもっとお客さん居ても良いのに」


「あたし、意味もなく喧しいの嫌いなのよね」


「でもでも~、お昼だけは~、ますた~も許可してて~。食べに来てくれるお客さんも~、結構いるんですよ~」


「限定10名だけどね」



 なんでここ、冒険者の宿を名乗ってるんだろうね本当に……



「あ、でもこれからはあたしとミィエル、あんたも確定ではいるから、限定7名までね」


「俺は兎も角店員も限定人数内に入るのかよ……」



 さも当然の如く宣うアーリアに、人数に入れてもらえた感謝とともに戦慄も覚える。その顔は物凄い悪い笑みを浮かべていたからだ。



「ふふふ。ミィエルの料理を食べられずに血涙を流すバカ共を見るのは楽しいわよ?」


「……それはちょっと興味沸きますね」


「む~! ますた~も~、カイルくんも~、そんな酷いことを言っちゃ~だめですよ~! お帰りいただくのも~、心苦しいんですから~!」


「ミィエルがそこまで言うなら人数増やしてもいいのよ? ただし、カイルくんと冒険に出る機会は激減すると思うのだけれど」



 「いいのかしら?」とソーセージをパリッと口に含むアーリア。「なら~、仕方ないです~」と即座に掌を返すミィエル。俺、別にミィエルと今後もパーティーを組むとは言ってないんだが?



「実際問題、うちの稼ぎ頭(エース)をコックとして使いつぶすわけにはいかないってのが本音ね。だから保存箱(セーフボックス)に入れられる人数限定にするしかないのよ」


「アーリアさんは料理されないんですか?」


「なんで大事な研究をほっぽってバカの相手しなきゃならないのよ?」



 ……左様でございますか。

 まぁ経営が成り立っているなら問題はないだろう。



「あ、今度ここに所属してる他の冒険者も紹介してくださいね」


「この件が終わったら~、紹介しますね~」



 よろしくなミィエル。ほんと、このアーリアが所属を許していると言うだけで興味が沸いているんだ。楽しみにしておこう。



 美味しい朝食も終え、8530Gと心もとなくなった所持金と頼んでいたアイテム類を巾着バッグへと仕舞う。帯剣ベルトにはいつもの4本をしっかりと差し、投擲ナイフも数本ベルトへ差す。装備に不備がないことも再度確認する。問題はない。

 改めて俺のフル装備を確認したアーリアは「面白いことを考えるわね」と興味津々の眼差しだ。戻ってきたら様々な実験に突き合わされそうな予感がする。

 そんなことよりも、だ。



「昨日勿体ぶったお楽しみ(・・・・)は準備できてるんですか?」


「? あぁ、表にもう停めてあるわ。2人で仲良く(・・・・・・)使いなさいよ」



 ん? それはどう言う――



「ささ~、カイルく~ん。こっちですよ~」



 朝食の片づけを終えたミィエルも腰に狂飆の霊刀を佩き、コンバットスーツの上から外套を羽織って俺の手を引いて外に出る。

 ドアチャイムが早朝の静かな路地裏に綺麗な音色を響かせる。

 瞼に刺さる朝日に一瞬目を細めるも、目の前に用意された『お楽しみ』を見て思わず見開いてしまう。こんな騎獣を俺は知らない(・・・・)


 確かにそれは馬だった。ただそれは俺が良く知る生物()ではなかった。しなやかな曲線で描かれた4足歩行の身体に無機質に輝く赤い瞳。その身に受ける朝日を悉く反射するメタリックボディ。解析判定(アナライズ)――



「山道を走破するなら、バイクよりもこれよね」


「……機械仕掛けの馬、か」



 ――成功。魔力によって稼働する機械仕掛け(クロックワーク・)の駿馬(スティード)





名称:クロックワーク・スティード 種族:魔導機械 Lv5

購入価格/レンタル価格:200,000G/20,000G 適正ライダーLv:5以上

HIT:9 ATK:10 DEF:6 AVD:10 HP:60 MP:―

MOV:35 LRES:7 RES:7

行動:ない 知覚:機械 弱点:魔法ダメージ+2点 搭載数:2

【特殊能力】

〈機械の身体〉:斬属性から受けるダメージのクリティカル性能を1ランクダウンさせる。

〈悪路走破〉:足場の悪い場所でも走破できる(悪環境マイナス補正軽減)。

〈重走行〉:突進でのダメージ+2点。

〈魔力補給〉:MP10点消費することで3時間の走行を可能とする。




 足場が悪くても駆け抜ける能力を持ち、魔力さえ続けば走り続けられる騎獣。生物ではない(・・・・・・)ため俺が乗ることもできる。

 完璧だ。俺が求めた騎獣であることは間違いない。ただ一つ、ライダー技能がなければ乗れないことを除けば。

 つまりはあれか。俺がミィエルに掴まっての2人乗りで行くしかない、と言うことか。

 140cm前後の少女に掴まる成人男性の図……シュールだな。


 はははと乾いた笑いを内心で浮かべていると、ぴょんと身軽にミィエルは馬の背へと跨り、俺に手を差し伸べる。



「カイルくん~、後ろに乗ってください~」


「……オーケー」



 俺は頷き、ミィエルの手を取る前にばっとローブを脱ぎ去る。



「ふぇ!? ふぇえ~!?」



 ローブの下にちゃんとアンダーウェアを着ているから決して半裸ではないぞ? 脱いだローブはさっさと巾着バッグへと仕舞い、別の外套を取り出して羽織る。そして手を差し出したまま混乱するミィエルの手を取り、軽い身のこなしで彼女の後ろに乗り込む。



「んじゃ、気を付けて行ってきなさいよ」


「了解。じゃあミィエル、よろしく!」


「え、え? えと~、はい~!」



 まだ納得しきれていないなりにもミィエルは手綱を持って踵を打ち付け、颯爽とクロックワーク・スティード走らせた。

 俺の行動を理解して笑いこけているアーリアを残して。



 蹄を鳴らし、南門を抜けて駆けるクロックワーク・スティード。流れていく景色がとても気持ちがいい。



「あ、あの~……なんで着替えたんですか~?」



 街道を抜け、山道に入りようやっと疑問を口にしたミィエル。いや、だって、ねぇ? あのままじゃ拙かったんだよ。だってさ――



「あの装備のままだと、ミィエルも馬もケガさせちゃうからさ」


「……ふぇ?」



 ――俺のメイン防具である『荊のローブ』は装備者を除く接触したキャラクターに魔法ダメージを与える効果を持つんだもの。


 TRPG時代なら気にする必要なかったのに! 不便だ……


習得魔法を全て載せるか迷って、省きました。いずれ載せます。



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