第19話 情報共有Ⅲ 魔剣お披露目
更新が遅くなり申し訳ありませんでした。
「あたしに頼むのはいいけど、手間賃もらうわよ?」
「構いません。ついでに宿泊費と先程の食事代も引いておいてください」
俺は羊皮紙に欲しいものを記述してお金ごとアーリアに預ける。自分で買い出しに行ってもいいのだが、出発前に確認したいことがまだあるため、時間が惜しいのだ。
アーリアはお金を受け取ると、「ならあたしも確認したいことがあるのよ」とお金をしまいながら続ける。
「あんたの剣を見せて頂戴」
「俺の剣、ですか?」
「えぇ。結局冒険者ギルドじゃ拳闘術で戦ったじゃない。それにミィエルの霊刀も見せたんだもの。相応のものを見せてくれてもいいんじゃない?」
「えぇ~!? 昇級試験を~、素手でやったんですか~!?」
「見事だったわよ。剣士じゃなく拳士として。ミィエルも教えてもらったら?」
「そこは本職から教わりましょうよ」
しかし魔剣か。別に隠すようなものでもないし見せるのは問題ないか。俺は巾着バッグにしまっていた魔剣を2本取り出し、ともに鞘から抜いてテーブルの上へ置く。
漆黒の鞘に納められしは淡い紫色の両刃の片手剣――飛翔剣シオン。
純白の鞘に納められしは白金色の両刃の片手剣――飛翔剣クレア。
名称:飛翔剣シオン+1
カテゴリー:ソード ランク:B 用法:1H 必要筋力:15 威力:25 命中補正:+1 ダメージ補正:+2 クリティカル性能:B
耐久値:380/400 専用化:カイル・ランツェーベル
〈効果〉
この魔剣は以下の効果を発動できる。
〈斬り墜とし〉コスト:MP7
このアイテムの装備者が「形状:射撃または貫通」の物理攻撃・魔法攻撃・特殊能力の対象になった時、MPを「7」点消費しこのアイテムで命中判定を用いた対抗判定を行う。対抗判定に打ち勝った場合、対象となった物理・魔法攻撃・特殊能力の効果を消滅させる。
〈影縫い〉コスト:MP8
相手の影にこのアイテムを突き刺すことで対象に「移動不可」「回避判定に-2の修正を得る」「飛行の能力を失う」を付与する。この効果はこのアイテムが影に接触している限り効果が持続する。対象となったキャラクターはメインアクションを用い、〈影縫い〉を用いた際の命中判定とRESによる対抗判定を行い、上回った場合解除することができる。
名称:飛翔剣クレア+1
カテゴリー:ソード ランク:B 用法:1H 必要筋力:15 威力:25 命中補正:+1 ダメージ補正:+3 クリティカル性能:B
耐久値:320/400 専用化:カイル・ランツェーベル
〈効果〉
この魔剣は以下の効果を発動できる。
〈ダンシングブレイド〉コスト:MP3+α
刀身を展開し、自身の周りに1本につきMP「3」点消費することで最大8本の短剣を浮遊させ、「最大半径:6m」「最大対象数:8体」まで「形状:射撃」の近接攻撃を行うことができる。
展開した短剣は時間の経過とともに同等のMPをコストとして支払うことで維持することができる。
「これが俺の持つ魔剣です」
見せた魔剣を見てミィエルは目を輝かせ、アーリアは「成程、あの実績は納得だわ」と呟く。かく言う俺も改めて魔剣の能力を見て自分自身で引いてしまう。
あれ? なんか説明文が強化されてないか?
飛翔剣クレアに至ってはターン制でなくなったせいか、『連続したターンで宣言できない』の文言が消失しているからだ。これは要検証だな。MP消費も果たしてどうなっているやら……
「ミィエルも大概だけど、あんたのも相当壊れてるわね」
改めてみると俺もそう思います。
アーリアは顎に手を当てながらしげしげと眺めた後、「ちょっと魔剣を使うところをみせてくれない?」と指で地面を指す。
「うち、多少暴れても大丈夫な地下室があるからそこで魔法を消滅させるところを見せてもらえないかしら」
「それはかまいませんが、ミィエルの報告を聞かなくてもいいんですか?」
「大して時間は取らないわ。終わった後、買い物をさせつつミィエルの報告を受けるわよ」
「ミィエルも見たいです~!」
これは渡りに船である。俺もまだ魔法を斬る検証はできていなかったから大いに助かる。つか地下室あったのか。しかも多少暴れても問題ないほどの。もしかして立地が奥まっているのは地下室を得るためだったりするのかな?
「カイルく~ん、こっちですよ~」
丁度2階への上り階段の裏手側にボタンがあり、ミィエルが押すと床がスライドし地下への階段が姿を現す。降りるミィエルに続きながらふと思う。こう言う仕掛けって心躍るよね!
割と階段を下った先、案内された地下室は想像よりも広かった。これ冒険者ギルドの訓練場と同じぐらいの広さはあるんじゃないかな? 四方をコンクリートでしっかり補強してあり、恐らくこれらは魔法で強化されている。ちょっとしたシェルターじゃないかな。
これなら多少魔法をドンパチやっても壊れなさそうだ。
「結構広いですね」
「これ作るために店を構えたようなものだもの」
「そうだ。どうして“妖精亭”はアーリアさんとミィエルがいるのに、知名度が低いんですか? 訓練できそうな地下室まであるのに」
「誰も~、冒険者の宿だと~、認識してないんだと思いますよ~」
「どゆこと?」
「ここは元々あたしが工房を欲して造ったのよ。冒険者の宿は後からついででやっただけだもの」
「ますた~の~、研究施設であって~、冒険者の宿とは~、思ってないと思いますよ~」
「ということはここは訓練場ではなく――」
「あたしの趣味の実験室♪」
なるほど得心しました。それと今までで一番のドヤ顔ありがとうございます。あー、好き勝手実験しても他人に迷惑かからない地下室とかいいなぁ。俺もほしい。
俺が地下室を見渡していると、アーリアはポーチからポーションをいくつか取り出し、俺に投げ渡してきたので慌てて受け取る。見たところMP回復ポーションだろうか。
「羨ましそうに眺めてないでまずMPを回復しなさい。そこまで消耗してたら十全に魔剣を扱えないでしょ」
「お代は?」
「あたしが頼んだんだからいらないわよ」
大変助かります。俺は素早くMPを回復し、2人から10mほど離れる。「とりあえず魔法を斬るところが見たいわ」とのことなので、左手で飛翔剣シオンを構える。
「じゃあミィエル。あたしはじっくり見たいからカイルくんに魔法を放って頂戴」
「わかりました~。いきますよ~カイルく~ん!」
「いつでもいいぞー」
さて、アーリアのあの様子だと少しと言いつついろいろ試したそうだから、俺もこの機会に試させてもらおう。
左手を俺へと突き出し、ミィエルが可愛らしい声で破壊の意思を込めた言葉を謳う。
「我が手に集い我に従え破壊のマナよ。打ち砕け――〈エネルギー・ボルト〉!!」
光り輝く魔力の奔流がミィエルの詠唱とともに収束し、詠唱終了とともに一直線に俺を破壊せんと撃ち出される。俺は撃ち出された掌大の魔力の塊に向けて魔剣を構え――
「ぐっ!!?」
「ふぇ!?」
斬り堕とす間もなく――直撃した。
左肩へと直撃した掌ほどの大きさしかない魔力の塊。しっかりと抵抗成功はしたのだが、想像よりも大きな衝撃と痛みに思わず声が漏れてしまう。なるほど、これが魔法を抵抗する感覚か! 抵抗に成功しているためダメージは5点と少ないし、身体は慣れているためかそこまで委縮することはない。だが俺の意識は間違いなく引っ張られた。
やはり受けておいてよかった。これは知っておかないと戦闘中に大きな隙になる。
なぜならTRPG時代のLOFに置いて、魔法は必ず命中するからだ。
「大丈夫ですか~?」
「ごめんごめん、ちょっとぼーっとしちゃって」
「心配しなくてもいいわよミィエル。あんたのギャップに驚いただけでしょ」
仰る通りで。元々受けるつもりだったけどさ。普段のぽやぽやした間の抜けた喋り方をするミィエルが呪文を詠唱する姿を見たらギャップが凄いのなんの。可愛い上に格好良い、だからこそのアイドルLv7なのかもしれないね。
アーリアの言葉に何故かむくれるミィエルに、気を取り直してもう一度頼む、と剣を構える。
「ストレス発散だと思って、思いっきり頼む」
「わかりました~。いきますよ~!」
再び放たれる〈エネルギー・ボルト〉に向け、俺は迷わず魔剣を振るう。身体から魔剣へと魔力が流れ、破壊を齎す魔力の塊を一刀の元に斬り捨てた。
斬ったと言う手応え。
衝撃も、爆発もない。斬り捨てられた指向性をもった魔力は役目を果たすことなく2つに分かれ、空気に溶けるように姿を消した。うん、問題なく扱える。
「凄いわね。文字通り魔法を斬り捨てたわね」
「す、す、すごいです~!」
まるで自分の事のようにぴょんぴょん跳ねて喜ぶミィエルと、隣で面白い研究材料を見つけたと笑みを深めるアーリア。見た目がほぼ幼女なのにこの反応の違いは相変わらず面白い。
「これを研究し、量産できれば革命が起こるわね」
「魔法は躱せませんからね」
「えぇ。それをできるのはウィンリフトの特殊神聖魔法ぐらいだものね」
そうなんだよねー。『疾さと勇猛を司る神・ウィンリフト』の特殊神聖魔法なら一応躱せるんだよねぇ。あれ本当いいなぁ。ほしい。
「あれどういう仕組みなんですかね?」
「神の奇跡、御業、祝福……言い方は様々ね。研究してみたいとは思うのだけれど。カイルくん、今度はあたしも撃つから連続で斬ってみせてくれない?」
「いいですよ」
俺ももう少し確認したいことがあるんでどーんと来いだ。俺は2人が詠唱に入ると同時に雑囊からMP消費を肩代わりできるアイテム――魔晶石を取り出す。次確認したいのは、このアイテムは雑囊に入れたままでも使用できるのか、だ。
「――〈エネルギー・ボルト〉!」
「――〈ファイア・ボルト〉」
2人の詠唱が終わると同時に身体を動かし、着弾までの時間をズラす。一直線に向かうはずの魔法が移動した俺に着弾するように方向を変えている。やはり魔法は普通には躱せない。
俺は着弾まで時間がズレたそれぞれの魔法を魔剣で先程のように斬り裂く。ただし1つは右手の魔晶石をコストに。もう1つは雑囊の中にある魔晶石を意識して。
結果は上々。右手に持った魔晶石はMPを使い切って砕け散り、雑囊の中の魔晶石も同様に消失していた。つまり、手に持たなくても使うことが可能ということだ。じゃあポーションも? と思ったがポーションは使えなかった。身体に直接作用させないと駄目なものは使えないということなのだろうか? いや、そもそもポーションの使用はメインアクションだから無理なのか。
まぁでもそこはおいおいで考えよう。今は二刀流スタイルでも魔晶石を扱うことができると言う結果があれば良い。
「見事なものね」
「MPが続く限りは無効化できますからね」
飛翔剣シオンの〈斬り堕とし〉もTRPG時代通り、MPが続く限り使用可能な点に変更がなくてよかった。これからもお世話になるよ!
「座標指定の魔法は無効化できないのよね? なら範囲効果のある射撃・貫通系を試させて頂戴」
その後アーリアの疑問と、俺自身の座標指定魔法は斬れないのかなどMPがなくなるまで試し、検証が終わるまで1時間ほど使ってしまった。
判ったことは飛翔剣シオンの魔法無効化は、魔法の核となる魔力の中心と魔法式を切断することによって無効化しているのではないか、ということ。だから形状が射撃・貫通系ならば魔力が起こす事象が目に見えているため対処できるが、座標指定型は起点から発動、対象への影響を及ぼす時間が極端に短いため対処できないのではないか、という事だった。
「つまり魔法の起点と発動タイミングさえわかれば、先回りして魔剣で斬り裂けば無効化できると思うのだけれど。何とかわからないのカイルくん?」
「……無理ですね」
蝙蝠ピアスにて知覚域を魔法にまで増やしても、座標とタイミングを教えられても俺が斬り裂くより早く俺にダメージが及んでいた。おかげで割とボロボロである。今もミィエルの回復魔法にお世話になっているぐらいだ。
炎に焼かれる体験、身体が凍りついていく体験などなどいろいろ味わえました。
「未来視でもない限り無理ですよ」
「まぁその辺はおいおいね。本当はもう一本も見せてほしかったのだけれど、これ以上はお店が閉まりそうだから後日にしましょう」
「マナポーションも勿体ないですからね……」
「必要経費だから気にしなくてもいいわよ」とアーリアは言うが、魔法を喰らい続ける俺はたまったもんじゃないです。
「いいじゃない。そのマナポーションとこれからの買い出しの手数料はなくしてあげるから」
安くね? まぁいいか。俺にも利益のある内容ではあったし。
俺は回復してくれたミィエルに頭を撫でてお礼を言い、買い出しは任せて借りた自室へ向かうことにした。
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