第18話 情報共有Ⅱ
「さて、国教選抜が今回の件に関わっているのはいいとして、問題は誰が首謀者か、よね」
「今回の指揮を執っているもの、と言う意味でジョンからはマイルラートの司祭以上の情報を買いました」
直感的にマイルラートと決めていたって言うのも理由にあるけど、正直お金の都合で多宗教の情報購入は今回見合わせた。結果、マイルラート神殿に勤める司祭以上の役職者だけに絞った情報の購入となった。
対象者は全部で5名。バファトの息子であるヴァシト司祭、エッディニカ司祭、ヨヨザルト高司祭、ギッディーニ高司祭、そして本日顔合わせをしたザプラ高司祭。
高司祭の方が人数的に多いのには驚いたが、現在はハーベスター王国のマイルラート神殿に召還されているらしい。一応召還を掛けられたのは〈プリースト〉技能を所持する神官のみだそうで、ザード・ロゥに出向していた司祭以上で召還されないのはヨヨザルト高司祭とギッディーニ高司祭だけらしい。
数日前まではザプラ高司祭も召還されていたのも確認はとれている。
「現在ザード・ロゥに出向している対象者の中で、ヴァシト司祭とザプラ高司祭が過激派、エッディニカ司祭、ヨヨザルト高司祭、ギッディーニ高司祭が穏健派に属しているみたいです」
『秩序と平和を司る神・マイルラート』は『混沌』の勢力に対して特に排他的な勢力であり、その中でも過激派はそれらを殲滅することを良しとしている。俺の居るアルステイル大陸ではマイルラート過激派が何度も彼らの支配領域に出兵して領土拡大を図っている。
かと言って穏健派と呼ばれてる派閥は名前の通りではなかったりする。彼らは『魔族』や『蛮族』を殲滅するのではなく、自分たちの支配下に置くことで平和的に運用することを目的としている集団だ。決して自分たちと対等の良き隣人なんて考え方は1ミリもない。
殺すか殺さないかだけで”過激”と”穏健”と言い方が変わっているだけで、内容は大して変わりがない。
「フレグト村と交易を行っていた行商と関りがあったのはヨヨザルトとザプラ。行商がフレグト村へ行った時期を鑑みるとヨヨザルトの線濃厚ですかね? 非合法取引を見ると関係業者、奴隷売買御者との繋がりと南門の利用からしてむしろこっちの方が怪しいですかね?」
「もしかして~、カイルくん首謀者まで~、自分の手でって思ってます~?」
「いや、その辺はアーリアさんに任せるさ。ギルドマスターとも話してたからね」
「でも~、これだけの情報にかかった経費が~」
「心配しなくてもこっちで賄うわよ。と言うより冒険者ギルドからあたしがぶんどってくるから安心なさい」
「勿論期待してますよ」
俺はただ自分の勘が当たっていたのかどうかの補填をしたかっただけで、それ以上身一つで首を突っ込むつもりはない。見知らぬ大陸まできて、また神殿勢力に目を付けられるなんて真っ平だしね。
「心配しなくても、カイルくんには現地での対処だけ考えて頂戴。折角手に入れた使い勝手のいい駒が手に入ったのだもの。あたしがちゃんと守ってあげるわ」
「物凄く悪い顔をしてますねアーリアさん。思わずドン引きですよ!」
「え、えぇ~!?」
言葉を額面通りに受け取ったミィエルはとりあえず置いといて。非合法取引の内容物であるものがふと目に留まる。
悪魔召喚に関連する〈デーモンサモナー〉は基本的にPCが扱うことが難しい。世界観的に十全に能力を発揮するには犯罪を犯さなければならない。そのため勢力としては『混沌』でありアライメントは『悪』に固定されやすい。『秩序』でもアライメントが『悪』であればそこそこの活躍を見込めるのだが、如何せんPCを動かす上でGMの管理が難しくなる。
故にユニット操作系が好きな俺でさえGMに拒否られて〈デーモンサモナー〉系のPCを扱ったことがないのだ。
俺かて好きなTRPGとは言えすべてを覚えているわけではない。こと自分が触ってきていない技能ならなおさらだ。引っかかるんだけど、答えが出ない。
うーん……こう喉元に小骨が引っかかってるようなこの感じ。念のため俺1人でも対応できるよう警戒はしとこう。
「……あ、アーリアさん」
「ん? なにかしら?」
ミィエルを弄って遊んでいたアーリアに冒険者ギルドで言ってた同行者について訊いておかないとな。大体想像はつくけど。
「俺の同行者。“蒼嵐”でしたっけ? それって――」
「ミィエルですよ~」
「ミィエルよ」
何を今更、的な表情を師弟揃って向けてくる。いや、まぁだろうなーっとは思ってましたけども。
「Bランク成りたてのあんただけじゃ各所を納得させるのが少し骨が折れるのよ。だから“妖精亭”の主力――“蒼嵐の剣姫”ミィエル・アクアリアを同行させて黙らせるのよ」
「ミィエルだって~、【二つ名】持ちなんですよ~」
おぉ、【二つ名】持ちは凄いな。俺持ってねーもん。
【二つ名】は冒険者であるならばその実績と貢献度が一定値に達すると冒険者の特色を表した別の名を授けられることがある。簡単に言えば名声から他者が勝手に呼ぶ通り名だ。
ちなみに俺のパーティーメンバーは全員【二つ名】をとある王族から授けられている。GMが俺だったために俺のPCには授けられなかったわけだけど。一応プレイヤーが望めば自分が考えた【二つ名】を貢献度に応じてつけることはできるのだけど、結局俺はつけなかったなぁ。
「ミィエル先生が優秀なのは重々承知してますとも」
ただ軽くステータス見るだけに済ませてしまったため、改めてっと……
名:ミィエル・アクアリア 3歳 種族:精霊 性別:女 Lv8
DEX:25 AGI:32 STR:9 VIT:12 INT:19 MEN:22
LRES:10 RES:11 HP:36/36 MP:30/30 STM:91/100
〈技能〉
冒険者Lv8
《メイン技能》
フェンサーLv5→ブレーダーLv3
ソーサラーLv4
フェアリーテイマーLv5→エレメンタラーLv3
《サブ技能》
スカウトLv5→ハンターLv2
レンジャーLv4
ライダーLv5
《一般技能》
コックLv8
ウェイトレスLv5
アイドルLv7
【取得スキル】
〈魔力攻撃Ⅰ〉〈マルチタスク〉〈マルチターゲット〉
【取得アビリティ】
〈回避力上昇Ⅰ〉〈ファストスペル〉〈ターゲッティング〉〈イニシアティブアクション〉
【特技】
風霊刀術:〈風妖刀(A)〉〈一ノ太刀・旋風(S)〉〈二ノ太刀・突風(S)〉〈三ノ太刀・大風(S)〉
水霊刀術:〈水妖刀(A)〉〈一ノ太刀・水月(S)〉〈二ノ太刀・村雨(S)〉〈三ノ太刀・八雲(S)〉
妖精指揮:〈フェアリーコマンダー(A)〉
【加護』
〈6大聖霊の加護〉
【二つ名】
蒼嵐の剣姫
ザード・ロゥのアイドル
これってレベル詐欺じゃね? 知らない【アビリティ】や【特技】もあるし。でもこのステータスでこのMP量って……
「なぁミィエル」
「なんです~?」
「ミィエルの魔法技能に対してMP量がやけに少ないような」
「ん~、これです~」
ミィエルはスカートの中から60cm程の黒塗りに鮮やか金色で装飾された短刀を取り出し、鞘から抜いてテーブルの上に見せるように置いてくれる。当然解析――失敗。なら宝物判定――成功。
名称:狂飆の霊刀
ランク:SS 用法:1H 必要筋力:1 威力:15 命中補正:+2 ダメージ補正:+2 クリティカル性能:A
耐久値:550/550 専用化:ミィエル・アクアリア
〈効果〉
このアイテムは妖精族または聖霊族のみ装備できる。また上記種族であるならば装備ランクを気にすることなく装備できる。
このアイテムを装備したキャラクターの最大MPは半分となる(端数切捨て)。
戦闘時、このアイテムを装備したキャラクターのDEX・AGI・STRは減少した最大MPの1/3上昇する。
このアイテムに「風属性」または「水属性」を付与した場合、このアイテムで与えるダメージを「3」点上昇させる。
また、条件達成により追加効果あり。
「…………」
なにこのチートアイテム。ミィエル自身の技能レベルから言ってすでにレベル詐欺的強さなのに、これはヤバいわ。俺の持ってる魔剣も大概だけど、ここまでじゃないんじゃないかな? さらに追加効果ありとかどんだけだよ……
と言うか、絶対に死なせてはならないNPCとして登場するキャラクターだよねこれ。絶対シナリオの根幹を担うNPCの立ち位置だよねこれ。
「あら? 顔が引きつってるわよ」
「そりゃこんだけの物見せられたらそうなりますよ……」
「意外ね。あんた程の規格外でも驚くのね」
心底意外、という表情を浮かべるアーリア。……俺を何だと思ってるんですか? まぁいいか。何にしろミィエルが同行してくれるのはありがたい。剣士だったのは意外だったけども。
「んじゃ、よろしくなミィエル。君がいてくれると心強いよ」
「えへへ~♪ お任せですよ~!」
尻尾があれば子犬の様に振れているだろうミィエルの頭を撫でる。これなら最悪の想定でもない限りはミィエルの危険性は低いだろう。
「ミィエル、油断はダメよ」
「わかってるですよ~」
「念のため回復アイテムや軽減系アイテムは多めに持っていこうなミィエル」
「はいです~」
備えあれば憂いなし。準備はしすぎるということはない。後は現地までの移動手段か。俺とミィエルなら自分の足で走った方が速いのだが、現地にたどり着くまでにバテてたら意味はない。
「アーリアさん、バイクかなんか借りれたりしないですかね?」
「山道ならバイクより馬の方がいいんじゃないの?」
「俺、馬乗れないですよ。正確には生物の騎獣はダメなんです」
何言ってんのこいつ、みたいな目。いや、言いたいことはわかりますよ。普通馬に乗れない冒険者なんていないですから。えぇ。ですが本当なんだから仕方ないんですよ。
「生物じゃなければ大丈夫なんで。なんかありませんか?」
「それなら~、良いのがありますよ~!」
「そうね。ミィエルなら操縦も十分だし、アレでいきましょう」
「アレってなんですか?」
「折角だから当日までの楽しみにしておきなさい」
まぁ戦闘面に関わるわけじゃないからいいか。んじゃ後は、
「ではアーリアさん。いろいろ用意してもらいたいものがあるんですけど」
俺は手持ちの44,000Gで用意できるだけのものをアーリアにお願いした。
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