表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/136

第135話 高危険度生物接近

「なぁ兄弟。もう半年経ってんだが?」

「え? あ!?」


って感じです。久しぶりですが、まだ私は死んでませんよ

 こちらの守りは既に前衛3部隊を一周し、俺の周辺からも恐怖の感情が薄れ始めた頃――ソレ(・・)は来た。





高危険(レッド)接近! 距離は1500! 推定双頭獣(オルトロス)! 数は――6ッッ!!』





 今は後方で指示を飛ばすに留め、【マナポーション】を水代わりに飲むのも飽きてきたな……なんて思った頃。

 焦りを含んだ警告が響く。高危険度接近――つまりこの拠点防衛(レギオンレイド)の平均レベルよりも上位の相手が訪れたことを意味する。モンスター名は“オルトロス”――解析判定:成功。






名:オルトロス 種族:魔神 Lv9

【頭部1・2】

HIT:12 ATK:14 DEF:9 AVD:13 HP:40 MP:30

行動:敵対的 知覚:五感(暗視) 弱点:魔法ダメージ+2

【胴体】

HIT:11 ATK:10 DEF:10 AVD:13 HP:70 MP:18

MOV:24 LRES:13 RES:12

【特殊能力】

【全身】

毒無効:あらゆる毒属性によるダメージを無効化する。

【胴体】

〈攻撃障害〉:胴体のHPが「0」以下にならない限り、他者からの攻撃に対し、頭部への近接攻撃に関する回避判定に「+4」の補正を得る。

〈蛇の尾〉:尾による近接攻撃が命中した対象は、基準値「18」の生命抵抗判定を行い、失敗した場合は毒属性の魔法ダメージを与える。


【特殊行動】

【頭部】

〈猛毒の息〉:「対象:20体」「形状:射撃」「範囲:前方扇状20m」に対し、瘴気をまき散らすブレスを吐き、毒属性魔法ダメージを与える。基準値「17」の生命抵抗判定に失敗した者は1ターンの間、サブアクションを行うことができなくなる。

また2つの頭部が同時に使用した場合、達成値に「+2」とダメージに「+6」の補正を得る。

〈噛み砕く〉:ATKに「+8」の修正。AVDに「-3」の修正を得る。

【胴体】

〈薙ぎ払い・尾〉:範囲内の対象「5」体まで同時に尾による攻撃判定を行う。

【解説】

2頭の頭を持つ犬型の魔神。3頭型よりも気性が荒く攻撃的であり、獲物である弱者をいたぶって殺すことを好んでいる。





 あー……野犬(わんちゃん)の“オルトロス”か。有名なのは三つ首(ケルベロス)の方だけど、三頭(あっち)は気性も知能も二頭(こっち)より優れているから守護も可能である、なんて感じだっけかなぁ。代わりに“オルトロス”は追われるものに恐怖を与えるには適している、とかなんとか……正直フレーバーテキストの部分はあんま覚えてないけど。


 しっかし数が数だな。排除するにも安定して出来るとすれば俺とセツナ、後は――



 どうするかと意識を割いていた時、緊急時に使用される腕輪型の通信水晶が点滅する。触れると『聞こえますか、カイル?』と総指揮官――ナップの声が響く。



「こちらカイル。問題なく聞こえている。“オルトロス”の件だな?」


『はい。率直に伺います。カイルならどう対処し(捌き)ますか?』


「どうって……高危険度出現(やべぇ相手の)時は決められた人員で対処するんじゃなかったのか?」



 事前に決めた内容は、危険度の高い魔物が出現した場合――厳格に述べるならばレベル「8」以上が現れた場合は、この防衛線任務(レギオンレイド)の中でも高い能力を持ったパーティーが対応することになっている。対象となるパーティーは少なく、ナップ達“妖精の護り手”、“一撃の美学”、“不言実行”、後は衛兵長を交えた6名の守備隊のみだ。俺達“瑠璃の庭園”はパーティー内でのレベル差が大きいため、パーティーと言うよりは個々の戦力としてカウントされている。故に、



「俺とセツナで1体ずつ、他4体を各パーティーで対応ってところじゃないか? それとも損害を覚悟して数で押すか?」



 勿論数による暴力で対抗することは可能だ。魔法攻撃であれば、抵抗されようがダメージは通る。故に被害を考えなければ対処は可能だ。しかし、



『……まだ“大氾濫”も始まったばかり。損害は出来る限り抑えたいですね。ですので問い方を変えます。カイル、貴方なら何体まで(・・・・)対処できますか?』


「何体って、お前……」



 慮外の質問に思わず口ごもる。ナップはあのアーリアが認めた冒険者だ。レベルだけで判断するような者ではないが、それでも彼が知りえている情報では俺――レベル「9」単体(・・)で複数を対処すると言う発想は出にくいはず……だと思うんだが……



『ミィエルから聞いておりますので、率直にお答えいただいて構いませんよ』


『そ~ですよ~。ミィエルが~、伝え~ました~』


「……ミィエル、お前魔法部隊(後方)に姿が見えないと思ったら司令部(そっち)に居たのかよ」



 『総司令(そ~しれ~)の指示~です~』と水晶からやや不満げなミィエルの声が響く。まぁ知名度から言っても、前半からミィエルが沈むようなことがあれば士気に関わるし、この采配はわからなくはないんだけども。しっかしまぁ――



「今度は何を企んでるんだ?」


『ぅん~? な~にも~? ミィエルはただ~、カイルくんに~、我慢(・・)~しなくても~、良~ですよ~って~、伝えたいだけ~ですよ~?』



 声色から目に浮かぶはニコニコと笑みを浮かべたミィエル。それもいつぞやボコしてしまった上位冒険者を釣った時の表情(それ)と似ている気がする。つまりまた――真偽判定:成功――何か企んでいると言う事だ。


 ただまぁ、ミィエルが何かを企んでいたとしても――この話は正直に美味しい。渡りに船と言っても良いだろう。俺としても経験点が欲しいし。

 なんせレイド中の取得経験点を確認していたが、瑠璃の庭園(パーティーメンバー)が撃破した魔物でなければ、手に入っていた経験点は雀の涙ほどでしかないのだ。経験点の減算が少ないだろう“オルトロス(この獲物)”は逃したくない。



『だから~、全部(ぜ~んぶ)でも~良~ですよ~?』


「そうか? なら申し訳ねぇけど(・・・・・・・)、全て貰おうか」



 水晶の奥で息を飲んだのは果たして誰か。まぁ、ミィエル(リーダー)が我慢しなくて良いと言うのだから構うまい。



「いや待て。経験を積ませたいから、セツナに2体、単独(ソロ)で殺らせよう」



 俺が前衛()をするとヌルくなりすぎるし、単独ぐらいが丁度いいだろう。そもそも“バトルドール”は野犬と相性が良いしな。

 本音を言えばリルとウルコットも引き連れていきたいところだが、ちと事故が怖いからなぁ……いや、“オルトロス”の〈サブアクション〉を封じちまえば何とかなるか?


 自身の持つ魔法を確実に決めれば〈ブレス〉は防げるな、など思考を巡らせていると、『カイルくん~?』と話を続けるミィエルの声が耳朶を打つ。 



「なんだ?」


『出来れば~、魔法(まほ~)で~対処して~、みてくれませんか~?』


「“オルトロス”を、か?」


『はい~。忘れがち~ですけど~、カイルくんは~高レベルの~術師でも~ありますから~』


「つまり近接戦闘能力だけではなく、魔法戦闘能力も見せて欲しいってことか」


『ですです~』



 ふむ。俺自身も忘れがちだが、言われれば確かにその通りであるし、現状を鑑みれば攻撃魔法の方が効率も良い。何も攻めてくるのは“オルトロス”だけではない。他の雑魚もいるのだから。であるならば、



「了解。ならたまには魔法で一掃してくるとしよう」


『ふっふ~♪ 〈ド~ルマスタ~〉の本気~、期待して~ますね~?』


「あいよ。任せろリーダー」



 丁度お誂え向きな魔法もあることだしな。



 うんうん、と自身の考えに頷いていると、『成程』と言う何かを納得するナップの声が響き、続く言葉は俺からすれば手間が増える内容だった。



『カイル。1体は魔法部隊に対処させてください。今後を考え、彼らにも経験を積ませたいと考えます』


「……おいおい、ここで難しい要望を出さんでくれないか? そもそも安全面を考慮したうえで俺に話を通したんだろう?」


『その通りではあるのですが、誰か1人に支柱になられすぎても困るのです。ですから、高危険度(レッド)1体程度は対処させましょう』


「まぁ言いたいことは解る。解るんだが6体とも貰った方が楽なんだがなぁ……」



 特に敵愾心(ヘイト)管理がさー。セツナには遠距離攻撃で釣らせるつもりだったが、他の奴らにってなると――



『それにセツナさんで思い出しましたが、使い減りのしない(・・・・・・・・)良い“盾”と“射手”もいるではありませんか。この2体なら相性も悪くないでしょう?』



 俺の思考を遮るように響くナップの声に、俺も思わず顎に手を当てる。



「……あいつらは内のメンバーの護衛も兼ねているんだがな」


『えぇ。なので彼らは下がらせますし、もし消費されるようなら(・・・・・・・・・)再度、創造する時間ぐらいは取りま――』


『あなたは何てことを言うのむがむが――!!』


『――あぁすみません、ちょっと後ろが騒がしいですがお気になさらず』



 突然通信に割って入った女性の声――言うまでもなくオリヴィアの声に思わず苦笑いが浮かぶ。もう本当あの娘は“バトルドール”が好きすぎるだろ……。確かにうちのはセツナに似て(・・・・・・)人に近しいけどさ。所詮は1日で効果が切れる魔法のⅠ種でしかないんだよなぁ。そういう意味では確かに使い減りは確かにしないな。

 そも状況からしてあいつらの護衛だけってわけにもいくまい。



「ははは、構わないぜ総指揮官。なら早速編成と、2体を俺の所へ合流させてくれ。今のままじゃどうしたってあいつらに1体分のヘイトを持たせられないからな」


『わかりました。ではすぐ合流させますので、後はよろしくお願いします』


「任された。ただまぁ言質通り、壊れたら創り直す時間は貰うぜ?」


『えぇ。その程度の時間は軽く捻出してみせますよ』


『では~、カイルくん~。頑張って~ください~』


「あいよリーダー」



 通信が切れ、後方からナップの指示が飛ぶのを尻目に再度前線へ。

 さてと……折角のミィエルの“お願い”だ。勿論応えようとも。丁度お誂え向きの魔法があることだしな。ただ、



「6体とも貰いたかったなぁ……経験点的に」



 そこだけはつい、ぼやかずにはいられなかった。







 ★ ★ ★







「さて、もうオリヴィアを離してくれて構いません。どうもありがとうございます」



 僕は通信を切り、指示を飛ばし終えたうえで、ようやっと未だに怒り心頭でもがもが言っているヴィアを開放してもらう。僕の指示に即座に反応して頂いた衛兵である彼は、本当に優秀ですね。



「――ぷはっ! ナップ! あなたと言う人は、なんてものの言い方をするのです!? あれほど素晴らしい“バトルドール”達に向かって!」


「素晴らしいと言うのは同意しましょう。ですが確かに彼らは言葉を話せますが、本質は魔法生物(ゴーレム)と何ら変わりはないでしょう? 現に彼らの創造主(マスター)であるカイルも同様に思っていますよ」


「えっ!? まさかセツナさんも――!?」


「あはは~。それは~ない~ですね~」


「セツナさんは別でしょうね」



 泣きそうな表情でミィエルに視線を飛ばすヴィアに、彼女は苦笑いで首を振り、僕も眉尻を下げて否定します。



「そもそも冒険者登録までされ、認められた存在ですから。カイルの言動からも疑う方が失礼でしょう」


「ですです~。カイルくんは~、娘の(よ~)に~、可愛がってますよ~」


「ですよね! はぁ、良かったです」


「そもそも~、ミィエルの~親友(しんゆ~)に~、そんな扱いは~許しませんし~、する人が居たら~許しません~」


「私もです! 天誅を下しましょう!」


「ははは……まぁそれは程々にお願いしますね」



 実際問題、セツナさん本人は同様に扱われたいと言う色が見えるのですが……。何やら女性2人の物言いが物騒になり始めたので言葉は飲み込んでおきましょう。特にミィエルのふわっとした言動とは真逆の殺気が特に恐ろしいですし。

 咳ばらいをして間を取り、真剣な表情でヴィアに伝えます。



「ヴィア。貴女が〈ドールマスター〉を目指すのは構いません。が、“バトルドール”に入れ込みすぎて支障が出るような事態だけは避けてくださいね?」


「うっ……はい。すみませんでした」



 あくまで僕らはパーティーの戦力として十分実益があると考えるからであって、趣味趣向を満たすためだけではありませんよ、と。それに恐らくカイルに師事したからと言って、彼と同様の“バトルドール”が得られるとは限りませんし。それ程に僕は“異質”であると考えます。ですがもしヴィアがその域に達せられるのであれば儲けものでしょう。


 僕はヴィアに釘を刺したうえで、他の部隊間の情報共有に向かわせ、他に聞き耳が立てづらい状況にしたうえで彼女に問う。



「ミィエル。ご要望にはお応えできましたか?」


「ん~? はい~。ありがと~ござい~ました~」



 笑顔で頷くミィエルに、そうですかと僕も頷き返します。


 総指揮官として、元々はカイルの言う通り、僕ら“妖精の護り手”を含めた主要パーティーで“オルトロス”には対応する予定でした。ですが、



「貴女とアーリア(マスター)の言葉でなければ、総指揮官(僕の立場)として聞き入れることはなかったでしょう。いくら格上の冒険者を決闘(デュエル)で倒せたからと言っても、今は状況が違いますから」


本当(ほんと~)に~、ナップくんが~総指揮官で~助かりました~」



 にへら~っと笑うミィエルに、他ではしないでください、と口にしつつ内心で僕は溜息を吐く。敢えて口にはしたが、それでも比較的長い付き合いになっているからこそ思うのです。恐らく僕でなくとも彼女は提案を受け入れさせたでしょう、と。事実、まだ序盤である現状で損失を極限まで小さくできる手であるのですから。使わない選択肢はないでしょう。



「それで、情報を提示して迄為したかったのはやはり――」


「さっすが~、ナップくんですね~。その(と~)りですよ~」



 困ったように溜息を吐くミィエル。



「まだ相談を持ち掛けないのですか? 直感でしかありませんが、彼なら問題ないと思いますが」


「ぅん~……それは~、ミィエルも~そ~思い~ますけど~…………」



 さらに困ったようにもじもじとするミィエルに、「失礼しました。僕がとやかく言う事でもないですね」と謝罪し、視線の先に見える数人の人影へと意識を飛ばす。



「さて、僕もヴィアも〈ドールマスター〉の魔法に興味はありましたから。良いものを見せてくださいね、カイル」

いつもご拝読いただきありがとうございます!

よろしければ下の☆に色を付け、ついでにブックマークしていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ