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第131話 東門の拠点防衛軍

 到着した東門は、当然のことながら物々しい雰囲気で包まれていた。

 行き交うはラフな格好をした街の住民ではなく、完全武装をした衛兵や冒険者が主だっている。

 外壁上部では設置された大型弩砲(バリスタ)や大砲が外部から訪れる脅威を食い破らんと、その牙を向けている。


 イメージとしては竜を狩るアクションゲームのそれらに近いかな。状況がひっ迫していなければ、ゆっくりと見て回りたいものだ。可能なら自分で撃ってみたいとも思う。まぁ無理だろうけど。



「すみませ~ん。“瑠璃の庭園(アズ~ル・ガ~デン)”の~、ミィエルです~。ナップくんは~、どちらですか~?」


「ミ、ミィエル殿!?」



 俺が周りを確認している間に近場の衛兵にミィエルが話しかけ、舞い上がっている衛兵が丁寧に目的の場所を教えてくれていた。しかも気づけば数人に増えており、上官らしき人間にどやされる場面まで。さすがは“ザード・ロゥのアイドル”様だ。



「カイルくん~。ナップくんは~、ゲ~トハウスに~いるみたい~ですよ~」


「詰所の所か」



 なら早速挨拶と行こう。聞き出してくれたミィエルに「ありがとう」と礼を言い、様々な人の視線を受けながら詰所へ。丁度入り口の前にいる衛兵に声をかければ、



「カイル・ランツェーベルさんですね。お会いできて光栄です、どうぞ、こちらへ」



 まるでミィエルの様に顔パスで奥へと案内される。



「すみません、どこかでお会いしたことがありましたか?」


「いえ、初対面です。ですが貴方は有名ですから」



 「試合、拝見させていただきました」と続く彼の言葉で、そう言えば大々的に試合したな、と思い出す。あまり気にしては居なかったが、思ったよりも顔が売れているらしいな。



「と~ぜんですよ~。ミィエルの~、パ~トナ~なんですから~」


「二桁レベルを圧倒したのだから、当たり前と言えば当り前よね」


「今更だナ」



 背中から聞こえてくる声はとりあえず無視し、衛兵が開けた扉の先に視線を送る。室内では様々な指示を飛ばすナップ。そして書類をもって補佐をするオリヴィアが俺達――いや、セツナに気づいて「セツナさん!!」と満面の笑みを浮かべた。



「――と、カイル師匠!」


「……とってつけたような挨拶をありがとうオリヴィアさん。それと師匠になったつもりはないんですが?」


「す、すみません! でも決定事項ですから諦めてくださいっ!!」


「ちょっと会わない間に随分と図々しさが増してませんかねぇ、おい?」


「すみませんカイル。状況に充てられてテンションが上がってしまっているのです。ご容赦を」



 苦笑いを浮かべるナップは続けて「師匠の件は諦めてよろしくお願いします」と付け加えた。



「……まぁこの状況を乗り越えてからだな、その辺りは」



 「えぇ、それで構いません」とナップは頷くと、居住まいを正して「改めまして」と言葉を続ける。



「“瑠璃の庭園”の皆さん。今作戦――東門拠点防衛線(レギオンレイド)にご協力いただき、ありがとうございます。参加メンバーはお話に合った通り、5名で間違いありませんか?」


「いや、2体の“アーミー・ドール”を創造す(入れ)る予定だ」


「“アーミー・ドール”!?」


戦闘技能(スタイル)前衛型(アタッカー)後衛型(シューター)の予定だ」


「ふむ……レベル「7」の“バトルドール”ともなれば心強い。創造は後程ですか?」


「あぁ。効果時間の都合もあるが、一応認知させておこうと思ってな。作戦上囮に使う分には構わないが、勘違いから誤認攻撃(フレンドリーファイア)されちゃたまらないからさ。創造するところを見せて、俺の使役獣(ユニット)だと顔を覚えてもらおうかと思ってな」


「囮なんてとんでもありません! そんなものはそこらの冒険者(荒くれ者)を使えば――」


「ヴィア? 少しは落ち着いてくださいね?」



 さすがにナップの視線が厳しくなり、「ごめんなさい」と小さくなるオリヴィア。しかしすぐさま「師匠の創造魔法が目の前で~♪」とテンションをぶち上げる。なんか少し見ない間にマジのポンコツになってないか? 彼女。



「僕の補佐役なのですから、平時はどうであれ非常時は冷静にお願いします。それと使役獣の件は了解しました。個人的にも興味がありますので、是非その場に立ち会わせてください」


「構わないさ」


「では前衛部隊の指揮の件も含め、早速顔合わせをいたしましょう」



 周りの者に指示を出し終えたナップは俺達を各部隊に紹介すべく案内を買って出る。ちなみにオリヴィアはセツナにべったりで離れようともしない。まぁいいけどさ。



「そうだ。その件に関してだが、俺の指揮で良いのか? 新参者だぞ?」


「問題ありません。カイルの実力は既に周知されておりますから」


「周知っつっても一対一(サシ)での決闘だけどな」


「それだけではないでしょう? 数十人に囲まれても返り討ちにしたそうじゃないですか」



 随分と耳ざといことで。ただあれに関しても狙いが俺一人であったからできた立ち回りなんだけどなぁ。



「それに東門ではカイル達が最高戦力であることは間違いありません。温存するつもりはありませんので、しっかり働いていただきますよ」



 不敵に笑うナップに、「そいつは頼もしいな」と頷く。総指揮官はこうでなくてはな。


 詰所(ゲートハウス)から階段を上り、外壁上部へと案内された俺達が目にしたのは、東門外に広がる土でできたバリケード。それも段階を置いて作られており、状況に応じて後退できるようになっている。さらにバリケードの外には壁の様に並ぶ複数のゴーレム達。


 思わずリルやウルコットの口から感嘆の声が漏れる。



「壮観でしょう? ゴーレムを創造できる術者全員が最大数を従えておりますから」


「……もしかして全員がゴーレムを前線に配置したのか?」


「いえ。大型のゴーレムのみですね。後は撤退時の壁役にいくつか控えております」


「俺もゴーレムを創造した方が良いか?」



 バトルドールを創造するのはリルとウルコットの護衛兼補助と言う個人的思惑でのことだ。東門の状況を一番把握している者がそうだと言うのであれば、俺もゴーレムへと切り替えるつもりだが、



「いいえ。現状ゴーレムの数は足りているので問題ありません。むしろ小回りと使い勝手を考えればバトルドールの方がありがたいですね。わざわざ性能の劣る(・・・・・)ゴーレムを創る利点がありませんから」


「そうか」



 「カイルが〈ゴーレムマスター〉なら別ですけどね」と笑うナップは、「それに」と前置きをして言葉を続ける。



「これは今後、ザード・ロゥへ所属する冒険者に良い刺激を齎してくれると思いますから」


「? どういう事だ?」


「簡単な話です。現状、僕の知る限りでも〈ドールマスター〉を習得している冒険者は、適性云々を無視してもカイルしかおりません。冒険者でなければ情報屋のジョンぐらいでしょう」


「そうなのかミィエル?」


「そ~ですね~。ミィエルが~、把握してる限り~でも~、居ませんね~」


「確かに主様以外に“バトルドール”を使役している方を見た覚えがありませんね。それほど希少な技能職なのでしょうか?」



 セツナの疑問にナップは苦笑いを浮かべながら「冒険者であれば、同様に適正があるのであれば、〈ゴーレムマスター〉を習得される方が多いのです」と返答する。



「僕の認識でも創造系の使役獣(ユニット)は囮や壁役であり、主戦力足りえませんから。頑丈な道具(・・・・・)であればあるほど良いのです」


「適性が多少低くても他を選ぶ程度に低いんですよ、〈ドールマスター〉は。現に私もセツナさんに出会うまでは選択肢に入りませんでしたから」



 きっぱりと告げるオリヴィアに、この世界での〈ドールマスター〉の扱いのあまりの不遇っぷりに思わず涙が出そうになる。まぁ気持ちはわかるし、俺も〈スケープドール〉のためだけに選んでいるので他人(ひと)のことをとやかく言う権利はないんだけども。



「それにザード・ロゥの扱いの悪さは、情報屋(あの変態)も一役買っているのは間違いないです。本当に気持ち悪いんですから」


「あ~……そ~、ですね~……」



 心当たりがあるミィエルは苦笑いを浮かべ、会ったことのないリルは「そうなの?」と不思議そうな表情を浮かべていた。

 まぁ日本でも人形を趣味にしている人は居たし、ジョンみたいに可愛らしさや綺麗さを求めた少女人形に傾倒する人もいたけども。彼の場合ただ人形を侍らせるだけじゃなく、〈ドール・サイト〉で視覚を共有して情報収集しているだけだから、気持ち悪いと言われても、まぁ仕方ないかと思う。一般的感覚で言えば人形に盗撮カメラや盗聴器を仕込んでいるのと変わらないわけだしね、情報屋なのだから仕方ない気もするけれど、擁護はできないわなぁ。


 俺が思った内容の説明をオリヴィアから受けたリルは、うわぁ、って顔をしながら、



「カイル。貴方も同類と(そう)思われていたのね」


「……気づきたくない真実を俺に突きつけるのはやめてくれないか?」



 思わずジョンに力づくで、この世界の全〈ドールマスター〉に土下座して謝罪するべきだと思ってしまうからさ。



「ははは! でも今後はセツナさんやカイルを見て、今までの価値観は崩れるでしょう。ヴィアのように目指される方も増えるでしょうし、冒険者(ぼく)達の幅が広がるのは間違いないでしょう」


「……別の意味で幅が広がらないといいわね?」



 本当、それな。


 リルの言葉に俺も心から頷いていると、数名の冒険者と衛兵が俺達に気づいて手を挙げた。



「おう! 来たかいカイル! ヴィアは……相変わらずかい」



 その1人がアンジーであり、オリヴィアの様子を見てすぐに呆れた表情を浮かべる。



「わるいねぇセツナ。嫌なら突き放してくれていいからな?」


「そんなことないもん! ね? セツナさん?」


「はい。セツナもこうして親しくしていただき、大変嬉しく存じます」


「ならいいんだけどねぇ……」



 「ほらー!」と非難の視線を向けるオリヴィアをアンジーは無視すると決めたのか、身体ごと視線を切った。



「改めてよろしく頼むよ、カイル。アタイをうまく使いこなしてみせな」


「期待に沿えるよう努力するよ」


「……そろそろ俺もいいかい?」



 “妖精亭”のパーティー同士の挨拶を終えた頃にパッとしない笑みを浮かべた男が視界の中に割ってくる。ぼさぼさの茶髪に無精ひげ、頬に傷跡の中肉中背と、見るからに冒険者と言った風の男だ。



「前衛部隊の副指揮官を任されている、“赤雷亭”所属、“一撃の美学(ビューティースマイト)”リーダーのニルトだ。よろしく、有名人」


「“妖精亭”所属、“瑠璃の庭園”メンバーのカイルです。よろしくお願いします」


「はは! 部隊(ここ)ではあんたが上官なんだ。部下に丁寧すぎる言葉はいただけないね。それとも、あんたもナップ(あいつ)と同じ口かい?」


「いや、それなら崩させてもらうさ」



 試すように告げるニルトにこちらも口角を挙げて返し、堅く握手を交わす。「次は僕ですね」とニルトの後ろから小柄な少年――身長はセツナより少し高いぐらいで、日本では早々見ない緑色の短髪に人好きしそうな笑みを浮かべて顔を出す。



「後衛部隊指揮官を任された“花蓮亭”所属、“花を愛でる者”リーダーのププルィだよ。よろしく! ちなみに君より年上だから間違えないでね!」


「あぁ、よろしく」


「次は私だな。後衛部隊副指揮官、ププルィと同じ”花蓮亭”所属、”不言実行”メンバーのオルトレイトだ」



 次いでまるで前衛のようなガッチリした巨躯の男が口元に笑みを浮かべて右手を差し出す。



「ねねカイル? 君、今前衛(タンク)の間違いでは? と思ったでしょ?」


「いや? 見た目があてにならないことは重々承知しているからな。外見で判断などしないさ」



 筋肉ムキムキでありながら後衛の神官(プリースト)だったり、ミィエルと同じぐらいの小さな女性で鉄壁とも言える騎士(ナイト)だったり、種族柄MPがないのにも関わらず魔術師(ソーサラー)だったりと、様々なキャラクターメイクをしてきたり見てきているのだ。むしろ外見など二の次、信じるべきは解析判定である。



「ふっ。流石はナップ殿が指揮官に推すだけの男だな。君なら後衛(我々)も安心だ」


「こちらとしても頼もしい後衛で安心だよ」


「ははは♪ 確かにオルトレイトになら何匹か通しても大丈夫だけど、僕らは違うからしっかり頼むよ?」


「だそうだ、ニルト。頼むぜ?」


「かーっ。まぁ、努力はしますがね」



 軽口をたたきながらガッチリとオルトレイトと握手を交わす。最後にザード・ロゥの衛兵服と鎧に身を包まれた、この中では最も歳がいっているであろう男性が名乗りを上げた。



「ザード・ロゥ衛兵長のガレオン・キィヴァーだ。貴殿の協力に感謝を」


「いえ、この街に住む一冒険者として当然の事です」



 握手ではなく、胸元に拳を当てて敬礼をするガレオンにこちらも同様に返す。

 “瑠璃の庭園”のメンバーを含め、一通り挨拶を終えたところでナップがププルィに「フレッツァとティティラインさんはどちらに?」と訊ねる。



「ティティラインは物資の確認とパーティーメンバーに指示を飛ばしに行ってると思うよ? フレッツァはどうかな~?」


「あいつはバリケードとゴーレム部隊の確認だ。直に戻ると思うぜ」



 ププルィとニルトの言にナップは頷き、



「では二人が戻り次第軍議を始めましょうか」


もう大氾濫と激突の場面までーっと思ったんですけど、ついつい書いちゃいました。キャラはあまり増やしたくないんですけどね……

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