第130話 東門へ
いつも感想や評価をありがとうございます。やっと話を進めて行けそうです。遅くて本当に申し訳ない!
朝食を終え、俺がまず行うべきはアーリアへ付随させる”アーミー・ドール”を創造する作業だ。勿論、リルとウルコットにも随伴させるが、彼女らの分は守備位置についてからでも時間的に問題ない。
「さて、欲しい技能はありますか?」
「“アーミー・ドール”だと3つだったわよね? なら〈AGI強化〉〈HP強化〉〈ハイドウォーク〉は行けるかしら?」
「大丈夫ですね。連絡役と割り切るなら〈AGI強化〉を2つ重ねることもできますけど?」
「ならそれでお願いできるかしら」
「了解しました」
基礎ステータス上昇と移動妨害回避のための〈ハイドウォーク〉。まさに連絡要員になるべくして生まれた“バトルドール”と言えよう。イメージとしては忍びだな。うん。
「我が意思に従い、生まれし擬似なる魂。虚ろなる器にて生命の鼓動を刻み従属せよ――〈クリエイト・バトルドール〉」
もう既に目を瞑ってでも出来るようになった〈クリエイト・バトルドール〉を完成させ、後は行使時間の20分を待つのみ。だから、
「で、アーリアさん」
「“迷宮主”の件ね。さっきあたしが口にした通り、『想定』よ」
そう。先程アーリアの口から出たのはあくまで予測だった。迷宮主がいることは確定としても、その正体まで確証を得たわけではないのだ。
「本来迷宮の奥――迷宮核近くで出現するはずの“迷宮主”の存在を確定できたということは、相当優秀な冒険者パーティーだったのでしょう? その腕前をもってしても確証を得られなかったんですね?」
「残念ながら、ね。得られた情報も【通信水晶】越しのものよ。確定していることは、アニオスラ遺跡で未発見の地下施設を発見したこと。地下施設で“ダブル”と“迷宮主”と思しき存在と遭遇したこと。そして、その冒険者パーティーが全滅したこと。以上よ」
「全滅ですか。ちなみに――」
「その話~、ミィエルも聞きたい~です~」
「……ミィエル、片付けや準備はいいのかしら?」
「セっちゃんが~、お任せください~って~、言ってくれました~」
「そう」とアーリアが頷くと、ミィエルは真剣な表情で俺の隣へと腰を下ろす。
「やっぱり~、調査班――“暁天”は~、全滅~でしたか~……」
眉尻を下げて呟くミィエル。どうやら“暁天”と言うパーティーはただの知り合い、程度ではなさそうだ。
「やっぱり気づいていたのね?」
「当然ですよ~! セっちゃんがいる手前~、あの場では~スル~しましたけど~」
「? なぜにセツナの名がそこで上がるんだ?」
「ちょ~っと前に~、“暁天”と~食事を~したんですよ~」
言われてみれば、確かに以前「ミィちゃんの知り合いの冒険者の方々とお昼を」ってことがあったな。成程、その時の知り合いが……。
「気を遣わせたな」
「冒険者として~、ミィエルは先輩~ですから~」
「…………」
本当に優しい娘だな。
アーリアの視線からも解るように、ミィエルにとって亡くなった冒険者達はただの知り合いではないことは明白だ。それでも自分の感情よりもセツナを気遣って、気丈に振舞ってくれるのだから。
思わず俺は、ありがとう、と心を込めて彼女の頭を撫でていた。
「カイルくん~?」
「悪い。つい、な」
「……で、続けても良いかしら?」
「お願いします」
呆れの混じったアーリアの視線に苦笑いで頷きながら「それでパーティーの平均レベルはいかほどだったんですか?」と促す。
「平均レベルは「8」の4人パーティーよ。パーティーバランスも盾、物理・魔法の攻撃役に回復役と揃っていたわね」
「贔屓目なしで~、冷静で慎重な~、パ~ティ~でしたよ~」
「ただ今回の行動を冷静であったかは疑問が残るわね。慎重を期するなら応援を待つか、撤退して再度戦力を増やして突入するべきだったわ」
「……難しい所ですね。冒険者として考えるならアーリアさんの言う通りですが、大局的に見れば、おかげで”迷宮主”の存在が明らかになり、且つ”ダブル”の関与も証明できたわけですから」
結果命を落とすことになったけど、な。
「それでアーリアさんはどうして俺への参戦要望を断ったんですか?」
「あたしが断ったわけじゃないわよ? “黒の一閃”のリーダーが、不要と判断したのよ。あんたがいくら腕が立つと言っても、連携まで完璧にこなせるわけではないもの。足並みが乱れるのを嫌った結果よ」
「それに~、彼らにも~筆頭冒険者~としての~、矜持がありますからね~。領主代行も~、彼らに嫌われる~よりも~、信頼~することにした~って~感じ~ですね~」
状況が状況だけに、俺だって別にそれでも実力を隠そうとは思っていない。まだ数日しか滞在していないが、知り合った人たちぐらいは守りたいと思っている。勿論、最優先されるべきは“妖精亭”のメンバーではあるけども、助けを求められれば応じるぐらいの気概はある。
「でも~、どちらにしろ~、マスタ~は断る~つもり~でしたよね~?」
「そうね。でもミィエルも同じ考えでしょ?」
「ですね~」と頷くミィエルに、なんでだ? と俺は訊ねる。
「“ダブル”の存在が~、厄介~です~」
「……成程。そういう事か」
“魔神将キャラハン”の部下である“ダブル”からすれば、俺の存在こそが一番の障害だ。なんせ万全でなかったとは言え、個人で主であるキャラハンを送還せしめたのだから。
「確かに“ダブル”が関わっていることが判明している以上、俺への対策をしていないはずがないわな」
「ですです~」
「そういう事よ。実際、『天使を模した兵器』でカイル君は何を思い浮かべるかしら?」
「う~ん、そうですねぇ……」
『兵器』なんていうぐらいだから、恐らく機械化されたものだと言うのは想像がつく。そういう意味では“機鋼翼獣”は確かに当てはまる気もする。確かにあれらは『天人族』を模したとかいう設定だった気がするけど、個人的にあれらを『天使』と評するのはどうなのだろうか、とも思ったりする。どちらかと言えば鳥人族の方が近い気がするんだよね。
「正直違和感は拭えないところではあります。かと言って他に思いつくか、と言われると微妙ですけど」
「あたしもその程度の情報では思いつかなかったわ。でももし、あたしが相手の立場であるならば、“機鋼翼獣”程度でどうにかできるとは思っていないもの。良くて足止め程度でしょうね」
「……相性から考えればそう言えなくはないですけど、普通に考えれば脅威の存在ですよ? それにそんな都合よく相手を準備できますかね?」
「わからないわ。でも都合よく“大氾濫”を起こすことができるのよ? “迷宮主”を意図的に作成する手管と言い、『魔神』の知識は油断できるものではないわ」
「リルを~狙った奴らの~、協力もあるでしょ~しね~」
「そういう意味でも、カイル君はこちらの手元に置いておく必要があったのよ。こちらの最大戦力を無力化されたらたまらないわ」
まぁ、そうなるか。俺も2人の言葉には同意だし、“妖精亭”のメンバーが人質に取られたら、間違いなく動けなくなる。TRPG時代でも、ぶっちゃけ人質は俺に有効だったわけだし、現実になったらなおさらだ。蘇生魔法を使えるからと言って、死なせていいとは到底思えない。いっそゲーム感覚であれればもっと好き勝手動けただろうなぁ……
「『魔神』からすれば、カイル君への復讐なんかより、主人の現界を優先するでしょう? であれば馬鹿正直に餌に飛びつく必要はないわ」
「魔神将は~、死んだわけではない~ですからね~」
俺も2人の言葉に頷き、このまま筆頭パーティーが迷宮主を倒してくれることを祈ります、と口にした。
「ミィエルも~、カイルくんに~賛成です~」
「あたしもよ。できないにしても、彼らなら情報を持ち帰り、次の対策にうつることができるでしょうしね」
話が一区切りついた段階で俺の〈クリエイト・バトルドール〉も丁度完成した。少々背の高めの少年型“アーミー・ドール”は俺の前で跪き、「マスター、ゴ命令ヲ」と声を発する。
「命尽きるまでアーリアさんの命に従うんだ。できるか?」
「御意」
何か、いつもより堅苦しい感じだな? 見目は割といい少年なんだけど。まぁいいか。
「カイル君ありがとう。じゃあ、あたしはこれから本部に向かうわ」
「俺達も配置に向かいます。ナップとも話をしておきたいですからね」
「意見と~情報のすり合わせは~、大事~ですからね~」
やることを終えた地下室から上がれば、準備を終えたリルとウルコット、そしてセツナが出迎えてくれた。
「準備は良いか?」
「勿論よ。装備もアイテムもばっちりよ」
リルはアーリアが作った腕輪を見せながら、魔法の鞄を叩いて見せた。その表情には程よい緊張感が見られる。本当、リルは冒険者向きの良い性格をしていると思う。
「ウルコットはどうだ?」
「問題ナイ」
ウルコットも笑みを浮かべて頷く。姉も姉なら弟も弟と言ったところか。実に頼もしい。
「準備は万全でございます、主様」
セツナは言わずもがな、だな。俺はいつも通りセツナの頭を撫で、ミィエルに視線で頷く。
「では、フルメンバーでの“瑠璃の庭園”、初陣と行こうか!」
「気を付けて行ってきなさい。あんた達、死ぬんじゃないわよ?」
アーリアから送られる言葉に、俺達全員は了承の返事を重ねる。
さぁ、戦場となる東門へ行こうじゃないか!
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