第126話 カウントダウン1 準備完了
俺がTRPGとして遊んでいた世界に転生して以来、まさか現在最も一番頭を悩ませるのが、魔力関連のセツナの反応だとは思わなかったよ。とりま人目のない所でやることとしましょう。それしか今はないしね。
「それで、カイル君。あたしにセツナちゃんの反応を見せるために同席を願い出たわけじゃないでしょう? 何を確かめたいのかしら?」
「それは勿論。こうなると知っていたなら、部屋でひっそりやりましたよ」
「それも~、ど~かと思いますよ~?」
いやいやミィエルさんや。俺がセツナの反応を見て間違いを犯すとでも? こちとら気持ちとしては、いきなり娘のあられもない姿を見せつけられたようなもんだぞ。逆にこの気持ちを察してほしいね。
「……ならミィエルが一緒にいてくれ。ミィエルならセツナも嫌がらないからな」
「っ。は、はい~。ミィエルで~、よろしければ~」
なにやらもじもじとしながらも了承してくれる。まぁ友人――いや、親友とも言える相手のあられもない姿など進んで見たいとは思わないだろうからな。本当、俺だってこう、機械的な交換を想像してたんだからさ。応えてくれても良くないGM?
「サンキュー。で、確認したい事なんですがね。セツナの技能レベルが、スキルやアビリティに引きずられるのかを確認しておきたいですよ」
「成程ね。確か前回は〈スカウト〉系がレベル「10」。〈レンジャー〉〈セージ〉がレベル「2」相当だったわね」
「はい。今回は〈ハイドウォーク〉も〈イニシアティブアクション〉もありませんからね。この辺りに左右されるようなら、あまり好き勝手できなくなりますから」
特に周辺警戒に影響のある〈スカウト〉ないし〈レンジャー〉系のレベルは高めにしておきたい。危険察知能力はどんな環境であれ、高いに越したことはないのだから。
「じゃあセツナちゃん。前回やったけれど、またテストをしましょうか」
「かしこまりました」
「ちなみに換装中のスキルは勿論だが、以前まで使えた感覚等の違和感は大丈夫か?」
「特に現状は感じられません。ですが動かすうちに出てくるかもしれませんので、都度報告させていただきます」
「頼む」と頷く俺を確認すると、セツナは【ストレージブレスレット】から【ミスリル製グレートソード+1】を取り出し、少し離れた場所で素振りを開始する。上段からの振り下ろし、逆袈裟懸け、横薙ぎ。「やぁっ!」「たぁっ!」と可愛らしい掛け声とは裏腹な空を切る音が何度か響いた後、
「主様。思い切り振っているはずなのですが、以前はもう少し剣に力が乗っていた感じが致します。ですがそれ以外に違和感はございませんし、しばらくすれば問題ないかと存じます」
「それならば良い。では引き続き他の事を確かめてみよう」
「はい!」
セツナが感じた違和感は間違いなく〈全力攻撃Ⅱ〉を失ったことによる弊害だろう。ただセツナの言う「もう少し」=「12点のダメージ」なところが、感覚的に恐ろしく感じるよ。
その後もいくらかテストをした結果、セツナの技能レベルは大きい変化が見られなかった。つまり構成するスキルやアビリティでは左右されないと言う事だ。とても大きな収穫である。
「よし。時間的にも丁度良いし、着替えてガンショップに向かうとするか」
「はい。皆様、ご協力いただきありがとうございました!」
「ど~いたし~まして~♪」
「私としても勉強になったから問題ないわ」
笑顔で答えてくれるミィエルとリルに俺からも感謝を伝え、当然アーリアにも礼を述べる。
「いいわ。あたしも“バトルドール”の事をより知れたから。ただセツナちゃんにとって、あんたの魔力は極上の美味であり快楽のようだから、その手の事は本当に気をつけなさいよ」
「マジで気をつけます」
なんせセツナは存在自体が特殊で貴重だ。それでいて可愛いうえにあんな表情や反応を見られたら、その手の趣味やそうじゃない奴も目覚めて狙ってきそうだしな。本当に気をつけよう。
「では~着替えて~きますね~。いこ~セっちゃん~」
「はい」
“妖精亭”の仕事着のまま買い物には行けないため、着替える為に1階へ上がり、
『終わったか?』
「「『あ……』」」
『? そう言えば、ウルコットは何故1人上にいるのですか?』
『セツナの所為じゃない。気にしなくていい』
目とその周りを赤くして頬杖をつくウルコットは、セツナには笑みを。俺達には感情のない瞳で出迎えてくれた。
★ ★ ★
本日のお召し物は、ミィエルが明るいブラウスにハーフパンツ、大き目なジェケットを軽く羽織る、言うなればストリートカジュアルファッション。逆にセツナは落ち着いたブラウスに下はロングパンツ、首元にスカーフを巻きカーディガンを羽織るといったきれい系カジュアルファッションだ。ただいつもと違うのは髪型で、ミィエルはポニーテール。セツナがカントリースタイルのツインテールと、ファッションに合わせた髪型と言うのが実に良かった。
「えへへ~、ど~でしょ~?」
「2人共似合ってる。周りを明るくするミィエルらしい感じだし、対比するように落ち着いた感じがセツナらしくて凄くいいよ。可愛い惚れそう」
「っ!?」
実に太陽と月みたいな感じでとても良いね。見ろ、ウルコットなんて完全に見惚れてるぞ?
「べた褒めね」
「素材も良い上にミィエルのセンスが良いからね。リルも見繕ってみたらどうだ?」
「そうね。今度一緒に買い物にでも行った時にお願いしようかしら?」
「えっへへ~。任せて~ください~」
「なら主様にはし――」
「わーわーわーわ~!!」
「? カイルがどうしたの?」
「はは、男の視点から見て似合うかの審査ぐらいならいくらでもするよ」
「役得だものね? なら荷物持ちぐらいお願いしようかしら?」
「お手柔らかに頼むよ?」
「さて、どうしようかしら?」
ミィエルのファインセーブに俺もすかさずリルの意識を別方向へとクリアする。本当ナイスだミィエル。今絶対セツナは俺に下着を選ばせようとしていたからな。セツナのものなら兎も角、リルのは流石に、ね?
はぁ、と息を吐いてセツナの方へ視線を向ければ、ミィエルの耳打ちに驚きの表情を浮かべ、「それはいけません!」と何度も頷いていた。どうやらミィエルの説得が成功したらしい。良かった良かった。
「よし! じゃあ武器を受け取りにいくぞー! ってわけで、行ってきますアーリアさん」
「アーリア様、行ってまいります」
「いってらっしゃい」
そんなわけで準備を終えた俺達が訪れたのが、
「いらっしゃ~い♡ 待ってたわよ~♪」
実に濃いキャラクターをした赤い鱗の『蜥蜴人族』――ジェリーがいるガンショップ“火薬の芳香”だ。
「んふ♪ 今日も共可愛いわね~」
「ありがとう存じます。ミィちゃんが選んで、主様が買ってくださったのですよ」
「あら素敵。アタシも今度ミィエルちゃんに頼もうかしら」
二度目でもかなりインパクトがある存在のジェリーだが、そういった偏見のないセツナは存外になついている。ミィエルが信頼している人物、と言うのも大きいのだろう。
早速ガールズトークが始まりそうだが、その前に「ミィエル」と声をかけて止めておく。
「そうでした~。ジェリ~、今日は~、セっちゃんの~銃を~取りに来ました~」
「勿論、ちゃんと出来てるわよ~♪ ミィエルちゃんのパートナーの注文だもの~。バッッチリよ~♪」
「か、かれ――!?」
ミィエルって自分からくっ付いてきたり、“パートナー”だったり“嫁さん”発言するわりに、他者に弄られるのは物凄く弱いよなぁ。
「もう! そういうとこが可愛いのよね♪」
「はい。ミィちゃんは可愛いです」
「そうだな。で、早速で悪いが全ての最終調整を頼んでいいですかジェリー?」
「大丈夫よ♪ 大氾濫はアタシも聞いているもの。早速仕上げてしまいましょ」
「助かります」
ジェリーが先頭に立って足を運んだのは、店の奥に建てられている試射を行う射撃場。そこに俺が頼んでいた銃器が綺麗に並んでいた。
「まずはセツナちゃんね。主兵装となる【テンペストブレイカー】よ。ボルトアクション方式をとった狙撃銃、二脚も標準装備。カスタムで装弾数を「3」発に上げてあるわ。使い方はわかるかしら?」
【テンペストブレイカー】を軽々と片手で持ち上げるジェリーから両手で受け取ったセツナは、「問題ございません」と頷いてまずは立ったまま構えてみせる。
「……驚いたわ。初めて会った時とは雲泥の差よ。流石は高レベルの“バトルドール”って事かしら? まずは50mの位置に的を出すわね」
「はい。よろしくお願い致します」
ジェリーがリモコンのようなものを操作すると、人の形をした的が床から現れる。瞬間――ダンッ!!
「「っ!?」」
銃声の大きさに身を竦めるエルフ姉弟を尻目に、「ヒット」とジェリーは口角を上げながら告げる。そのまま「次は60mよ」と新たな的を出現させてはセツナが撃ち抜くを繰り返し、【テンペストブレイカー】の最大射程である90mも、1発、2発、3発と――
「――全てヒットね。スタンディングでこの命中力は脅威ね~。膝立ちやバイポットを使用したうつ伏せは――折角の可愛いお召し物が汚れるからやめときましょ♪」
「いいえジェリー様。この銃は主様や仲間の命を護る使命があるのです。ですから、最善の状態でなければならないのです。ですからジェリー様が気を使うべきはセツナの服などではなく――」
「ふふ♪ そうね。セツナちゃんと銃の状態にしっかりと気を配るわ」
「はい! よろしくお願い致します!」
その他必要な確認も終え、「どうかしら?」とウインクするジェリーに、セツナは満面の笑顔で頷いた。
「完璧な仕上がりかと存じます! ジェリー様、ありがとう存じます!」
「ふふふ♪ 満足いただけて嬉しいわ♪ カイルちゃんから見てもどうかしら?」
どうってそりゃあ……格好良い上に可愛いと最高だよっ! やっぱり黒髪美少女&狙撃銃はヤバいね。大剣も良かったけど、銃もたまらんね。
「控えめに言って素晴らしい。最高だセツナ」
「っ! はい♪」
「もー。それはアタシの仕事に対する評価じゃないんじゃないかしら?」
「そんなことないですよ。あれだけ使い心地よさそうにしているセツナを見れば、ジェリーに対する評価など自ずと判かるものです」
「それでも女はちゃんと言葉にしてほしいものなのよ?」
さいですか。なれば「良い仕事です」と口にし、
「この調子で彼女らのもお願いできますか?」
「ま・か・せ・て♪ それと今更だけど、アタシへの態度はそんな他人行儀じゃなくていいわよ♡」
「……ならそうさせてもらうな」
手慣れた投げキスが放られるが、とりあえず無視し、別の銃を手に取って試射するセツナを興味深そうに眺めるエルフの姉弟へ声をかける。
「リル、ウルコット」
『何かしら? 今あなたと話すよりもセツナを見ていたいのだけれど』
『悪いが今は銃の操作方法を見ていたいのだが?』
「つれないな。まぁ銃に興味を持ってもらって何よりだ。そんな2人に俺からプレゼントだ」
そう言って背後から来るジェリーを指し示すと、彼女が転がしてきたカートに2丁の1H銃と2丁の2H銃が並べられていた。
「リルちゃんにはこれ。初心者でも扱いやすい【1Hガン】を。ウルコットちゃんは筋力があるから、【1Hガン《Gクリア13》】よ。そして長銃は同じ【2Hガン】よ」
「2人のサイズに合わせてあるから、最後に試射して最終調整するわよ」とウインクをするジェリーに、リルとウルコットは驚きに目を見張った。
『カイル、これ――』
「愛弟子への冒険者登録祝いって所だな」
『祝いって、こんな高価なもん――』
「気にするな。さ、お前らも試射してみろ」
「使い方がわからなければアタシが手取り足取り教えるわよ♪」
「セツナもお手伝い致します」
「ならセツナ、お願いできるかしら?」
「はい!」
『じゃあアタシはウルコットちゃんね?』
『よ、よろしく、頼む』
頬を引き攣らせながらウルコットはジェリーに。リルはセツナに教えを請いながら銃を手にする。
「セツナは自分の調節もちゃんとやるんだぞ?」
「はい、主様」
それから射撃場には何度も銃声が響き渡る。
自然と暇となるミィエルが俺の隣へとやって来て、
「む~。ミィエルには~ないんですか~?」
「ミィエルに銃は必要ないだろ」
「そ~いうこと~じゃないです~」
知ってるよ。第一、銃は必要だと思ったから渡しただけ。「冒険者祝い」なんてのは辻褄合わせ――受け取ってもらうための方便でしかないんだからさ。
「ふふ~、わかって~ますよ~」
悪戯な笑みを浮かべるミィエルに、揶揄うなと苦笑いを返しておく。
「それで~、カイルくんは~い~んですか~?」
「銃を買わなくて、か?」
頷くミィエルに、今度は俺がにっと笑みを浮かべる。
「勿論買ってあるさ。少し試したいことがあったからな」
「調整は~い~んですか~?」
「あぁ。俺は標準的な体格だからな。無調整で問題なかったのさ」
四方の門を見るついでに前もって此処に寄った際、2人の銃を注文するついでに購入しておいたのだ。ただ技能は習得していないため、まともに扱うことは出来ないのだけど。
「へ~。どんなのを~買ったんですか~?」
「んー」
まぁ隠すようなことでもないんだけども。あれだけ試射で外した手前、あまり公表したいとも思わないわけで。なので俺はミィエルをちょいちょいと手招きしてさらに近づけ、「他の皆には秘密だぞ?」と言い耳打ちをした。
そうして俺とミィエルが話している間に全員の調整も終わり、戻ってきたジェリーにミィエルが思い出したように訪ねた。
「そ~言えば~、ジェリー~ちゃんは~ど~するんですか~?」
「ど~するって、“大氾濫”の時ってことかしら?」
「はい~」
「勿論参加するわよ。アタシのお店がある、アタシの居場所だもの。しっかりと守らせてもらうわよ♪」
『……ジェリーさん、戦えたんですか?』
『当り前じゃない。女手1つで〈ガンスミス〉してるのよ? 不埒な輩から身を護るぐらいはできるわよ』
当然の様にエルフ語入り混じる会話をこなすジェリー。どれ、しれっとこのハイスペック蜥蜴人を視てみるとするか――解析判定:成功。
名:ジェファーソン・リーガル(愛称:ジェリー) 37(21)歳 種族:蜥蜴人 性別:男(乙女) Lv7
DEX:22 AGI:13 STR:26 VIT:24 INT:15 MEN:16
LRES:11 RES:9 HP:45/45 MP:25/25 STM:63/100
《メイン技能》
シューターLv5→ガンナーLv2
マシナリーLv3
《サブ技能》
レンジャーLv3
スカウトLv4
エンハンサーLv2
セージLv5
【取得スキル】
〈ダブルタップ〉
〈テイルスイング〉
【取得アビリティ】
〈ターゲティング〉〈ガンマスタリーⅡ〉
【加護】
〈祖竜の加護〉
【二つ名】
麗しのガンガール
…………突っ込みどころ満載過ぎる気がしてならん。何だよ『性別:(乙女)』って。終いには『37歳(男)ガンガール』って……いや、考えるのは止めよう。ステータスもお前近接やれよって感じだけど、まぁ無視だ。まぁでも、その辺りを無視すれば優秀な後衛だ。確かに参加してくれれば確かな戦力になるだろう。
「アタシと一緒の戦場になったら、よろしくね♪」
「はい。ジェリー様が居てくだされば心強いです」
「アタシも皆と一緒だと心強いわ♪ 『ウルコットちゃんもそう思うでしょ?』」
『あ、あぁ……そうだ、な』
完全に引き攣った表情のウルコットに、思わず憐憫の視線を送ってしまうリル。きっと俺も同じ視線を送っていることだろう。南無。
「カイル、プレゼント。大事に使わせてもらうわね」
「あぁ。弓の射程外の時にでも使ってみてくれ」
「そもそも私や弟が前線に立つことがあれば、だけれどね」
「基本は後方支援だろうからな。まぁ今回使えなくとも、次の任務で使ってみればいいさ」
これで準備は一通り整った。後は2人を含めた低ランクの冒険者達が、後方支援のみに徹せれる状況で終われば良いと思うが――
「――たぶんならないだろうなぁ……」
確信めいた予感。その答案は正解だと告げるように――各迷宮が蠢きだした。
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