第125話 カウントダウン1 セツナちゃんは……
セツナが選択したスキルは以下の通り。
〈ソードマスタリーⅡ〉:ランクSまでの〈カテゴリー:ソード〉を扱え、ATKとHITに+2の修正を受ける。
〈クロースマスタリーⅡ〉:ランクSまでの〈カテゴリー:クロース〉を装備でき、DEFに+2の修正を受ける。
〈ガンマスタリーⅡ〉:ランクSまでの〈カテゴリー:ガン〉を扱え、ATKとHITに+2の修正を受ける。
〈ターゲティング〉:単体を対象とする物理・魔法遠距離攻撃を行う際、範囲内に複数の対象がいても、任意の対象を選択して攻撃・発動可能となる。
〈鷹の目〉:障害物に完全に隠れていない限り、対象の位置を把握し、選択可能となる。
〈ハイドウォーク〉::常にヘイト上昇値を抑える。また、一定値よりヘイトが低い場合、このキャラクターを知覚できなくなる。
〈薙ぎ払い〉:両手武器の攻撃範囲内にいる複数の対象に、同時に攻撃判定を行うことができる。
以上の7つを選択。
「理由を訊いてもいいか?」
「はい。セツナが扱える武器を剣と銃にし、遠距離射撃に必要な誤射しない〈ターゲティング〉と射線確保の〈鷹の目〉を取得することにしました。また、〈ハイドウォーク〉はセツナへのヘイト減少は勿論ですが、前線へ向かう際も魔物の群れを縫って駆けつけることが出来、〈薙ぎ払いⅡ〉も魔物の数を素早く減らせるため、残すことにしました」
「成程。近接も銃で戦う事も出来ると思うが、何故剣に?」
「はい。1体辺りへの平均ダメージがどちらでもほぼ変わらないのであれば、リロードを必要とせず、〈薙ぎ払い〉で複数を対象に出来る剣の方が効率良いからです。またミィちゃんからセツナが剣を扱えるようにしたのは、主様と武器を共有できるようにするためだと伺いましたので、そのまま剣にいたしました」
「如何でしょうか?」と少し不安そうに見上げてくるセツナに、俺は悩む素振りを一瞬だけ見せ、
「俺も近い意見だ。セツナと方向性が同じで、俺も安心した」
「! はい♪」
笑みを浮かべて、よくやったと頭を撫でてやれば、嬉しそうに目を細めた。
「ちなみに〈ソードマスタリー〉はミィエルが言ったように、俺とセツナで武器の共有が出来れば便利だし、何より使用武器率が最も高いのが剣だ。もし今使ってるのが折れたとしても、戦場で使える剣が落ちている可能性は高い。そう言う意味でも銃のみより汎用性は高くなるだろう」
「前線から退いた方々の武器も予備として扱えるという事ですね」
「味方だけでなく、敵の武器だって使えるからな」
まぁ装備の耐久値なんてなければ、こんなことを考えずとも済むんだけどな。
さすがです、と言わんばかりの視線を受けながら、「ただ」と俺はセツナの解答と違うものを口にする。
「俺個人として、〈再生〉は入れておきたいと思っているんだよね」
「っ!?」
「〈限界駆動〉の代償を軽減できるのは大きいし、セツナはSTMを考えなくていい分、HPだけでも自動回復できれば、それだけ生存力も上がるからさ」
俺が想定していたのは〈鷹の目〉ではなく〈再生〉だ。射線確保の〈鷹の目〉は、あくまで前衛と接敵している敵よりも後方を排除するために使われるアビリティだ。【広域炸裂弾】などの範囲攻撃が可能な弾丸を使うなら欲しいところだが、【テンペストブレイカー】では使えないため必要がない。ならば継戦能力を少しでも上げる方がマシと言うものだろう。
「ほら~! や~っぱり~、〈再生〉のアビリティ~の方が良~ですよ~! セっちゃん~!」
「流石カイルだ。セツナ、言う通リ〈再生〉を入れるベキだ」
「ですが射撃時はほぼ使いませんし、より長距離を狙撃できた方が殲滅効率は上がると思うのですが……」
「確かに敵戦力の殲滅で考えれば悪くはない。でもそれなら剣を扱わず、銃に振り切った方が断然いいぞ?」
やっぱりかー、と思う。さすがミィエル達はセツナの事をよく解ってくれている。セツナは自分の身を顧みず、効率を重視する嫌いがあるからなぁ。確かにセツナは使役獣であるし、例えHPが「0」点になろうと素材さえ揃えば創造できるから、“物”と言う意識があっても仕方がないと言えるかもだけど。
「最初にも言ったが、『全員が生き残れる』の中に、勿論セツナも入っているんだからな?」
「そうよセツナ。もし貴女がピンチになったら、主であるカイルが体を張って助けに行くことになるわよ?」
「っ! それはいけません! 従者であるセツナが仕える主様に助けられるなど!」
「なら~、セっちゃんが~ピンチ~に~、ならないよ~にしないと~ですね~」
畳み掛けるような説得(?)に、セツナも神妙な表情で頷く。まぁどんな状態でもセツナが危なければ俺は助けに行くから、仮に〈再生〉を得ていても関係ないんだけどさ。
「なら、此処からは俺も意見を言うから煮詰めてしまおうか」
「はい!」
と言うわけでここからは俺も口を出させてもらう。
そうして決まったのが、〈ソードマスタリーⅡ〉〈ガンマスタリーⅡ〉〈クロースマスタリーⅡ〉〈再生〉〈ターゲティング〉〈薙ぎ払い〉〈射手の体術〉に決定した。
〈射手の体術〉は「移動制限の緩和。〈シューター〉系技能での回避判定可能」となるアビリティだ。今回は「回避判定可能」がおまけであり、メインとなるのは「移動制限の緩和」だ。TRPG時代は魔法を含めた遠距離攻撃全てにおいて、宣言する前提として移動量が「3m以内」と制限されていた。しかしこのアビリティがあれば、最大「15m」の移動にペナルティがなくなるため、敵に囲まれないよう立ちまわりつつ、移動砲台として活躍してくれることだろう。
勿論、GMとしてTRPG中にやられたな萎える、安全圏からの逃げ殴りも可能だ。現実となった今なら実に素晴らしいアビリティと言えよう。
……まぁ本音を言えば俺自身、本当は〈ガンマスタリーⅡ〉〈レザーマスタリーⅡ〉〈再生〉〈ターゲティング〉〈スーパーリロード〉〈二刀流〉〈射手の体術〉の遠近シュータースタイルをやってほしかったんだけどね。これはまたの機会だな。
「よし、こんな感じだろう」
「本来の“ジェーン・ザ・リッパー”では4つまでしかセットできないのよね? 本当、セツナは“特別”ね」
「セツナの基本スペックが優れていることは、主様が創造してくださったのですから当然です。ですので、“特別”と称するなら主様こそが相応しいと断言致します!」
「ふふ。だ、そうよ? 良かったわね、カイル君?」
「ははは……期待に沿えるよう精進しますよ」
と言ったものの、セツナ以外はどう創造してもスペックはノーマルだからなぁ……。そもそもセツナが生まれた原因を主が理解できてないからね……。本当、なんでセツナは生まれたのだろう? 誰か教えて?
とまぁ、考えても答えが降って湧いてくるわけもなく。そこは今後の課題と言うことで、
「じゃあ早速〈能力換装〉をしてみよう」
巾着バッグから必要となる追加素材――大玉の飴玉ぐらいの宝石を取り出しながらセツナに視線を向ければ、笑顔で彼女は頷いて迷わずエプロンドレスの上着を脱ぎ始め――
「スト~~ップ~~~!」
『ちょっ!? あんたは目を閉じなさい!!』
『ぐぁっ!? 目が! 目がぁあああ!!!』
「やっぱり、心臓部の近くに作用させるのだから、そうなるわよね」
「……そっすね」
――阿鼻叫喚である。主にウルコットが、だけども。
前もって予想できたことだから、まぁ俺の失態ではあるんだけどさ。とりま突発的なことが起こるとエルフの2人はエルフ語になっちゃうんだなぁ、と知れただけでも良しとしよう。前向きにね?
「? 皆さま、何をそんなに慌てているのですか?」
「セっちゃんが~、急に脱ぎだすから~です~!!」
「主様に直接触れていただかないとできませんから、脱ぐのは当然かと」
「あ~~! もうっ!! 我が手に集い我に従え闇のマナよ。光を奪え――〈ブラインド〉」
『はっ!? 痛みが取れても見えないじゃないか!? 姉さん!? 少しは加減してくれよ!!』
『あーはいはい悪かったわ。とりあえずあんたは外に行きなさい。後でちゃんとカイルが回復してくれるから』
『謝罪する気がなさすぎるだろう姉さん! 第一、俺は何も見ていないんだぞ! この際言わせてもらうがいくら何でも理不――』
『あーもう悪かったわよ! ちょっとこの弟をつまみ出すから、カイルたちは先にやってて頂戴』
「お、おう」
日頃溜まっていた不安が爆発したのだろう。俺は長男だったからわからないが、世の弟は皆こうなるのだろうか。確か俺の友人も同じように嘆いていた気がするよ。
「さて、気を取り直して。セツナ、俺はどうすればいいんだ?」
「はい。コアに最も近い胸部に触れていただき、いつも通り魔力を送っていただければ大丈夫です」
淡いピンクの可愛らしい下着も脱いで上半身を露出させたセツナは、「主様」と上目づかいで胸を突き出してくる。俺、思うんだけどさ。魔力供給のため〈魔力貯蔵〉でもそうだけども、なんでこうお天道様の下ではやりづらい仕様ばかりなのだろうか?
絶対GMの趣味だろ……
あまりじっとしていてはミィエルにまた邪推されかねないので、膝をついて目線を合わせ、なるべく自然にセツナの胸へと触れ、魔力供給の要領で魔力を送る。
「んっぁ……主様の魔力を認証完了。これより〈能力換装〉を実行致します」
セツナが可愛らしい唇で音を紡ぐと同時、俺の目の前にステータス画面と同様のウィンドウが表示される。そこには現在セットされているスキル群が並び、対応する箇所に触れることによって追加素材の取り出しを行えるようだ。
今回変更が必要なものは3カ所。俺は対応する項目にタッチする。
「対応するアビリティ〈ハイドウォーク〉〈イニシアティブアクション〉、スキル〈全力攻撃Ⅱ〉の取り出し要求を確認。これより該当素材を排出致します」
俺から魔力がセツナに流れていくのを感じ、そいやどうやって素材は出てくるんだろうなんて考えていたら、セツナが両手を自分の口元へ添え、そこに宝石類が糸をひきながら吐き出された。
「お見苦しい所をお見せして、申し訳ありません主様」
「……そんなことはないぞ」
大丈夫だと知らせるように空いた手で頭を撫で、嬉しそうに微笑むセツナに俺も笑みを返す。まぁ正直内心はめっちゃ動揺してますよ。
まさか「排出します」と言って口から出すとは思わなかったんだもの。それも舌も使ってすごくエロ――もとい上品に静かに吐き出すものだからさ。コメントに困るんですよ!
「素材は後程、ちゃんと洗ってお渡ししますので、セツナがお預かりしてもよろしいですか?」
「……あぁ、いいぞ。それで追加する素材はどうすればいいんだ?」
「はい。度々申し訳ないのですが、右手は触れたまま、セツナに食べさせていただけますか?」
成程。経口摂取するのか。俺はそう思って左手で追加素材を手にすると、ゆっくりと素材に魔力が注がれていくのが解る。つまりこれは……術者である俺自身がセツナに直接与えないとダメってやつだな。ただその前に、
「ミィエル?」
「は、はい~? なんで~しょ~か~?」
「さすがにこのままセツナに食べさせたくはないからさ。ちょっと洗ってもらっていいか?」
「りょ、りょ~かい~です~」
「? セツナは病気などには罹りませんし、そのままでも大丈夫ですけど」
「俺が嫌なんだよ」
さすがに口にするものは喩え鉱石や宝石とて綺麗にしたいよ。そう言うわけで少しのぼせたような顔をしているミィエルに頼み、〈ウォッシュ〉の魔法で綺麗にしてもらう。
「ど~ぞ~」
「サンキューミィエル」
「ミィちゃん、ありがとうございます」
「……カイルくん~。このまま~、ミィエルが~セっちゃんに~食べさせましょ~か~?」
「それじゃ無理なのよミィエル。術者であるカイル君が魔力を込めながらセツナちゃんに与えることで、術式が成り立つの」
さすがアーリアさん。よくお分かりで。
「そう言う事だ。ありがとなミィエル」
「い~え~。なら~、カイルくんが~食べさせ~やすいよ~に~、1つずつ~渡します~ね~」
ミィエルの心配りに笑みを返し、早速最初の素材をセツナの口元へと運ぶ。セツナの小さな口が開き、そこに押し込むように含ませてやる。刹那、セツナの身体がびくりと震え、何かに耐えるように目を瞑った彼女の喉がコクリと鳴る。
俺の横目にはウィンドウに新たな項目が追加され、スキル適用準備中と表示されている。問題なく〈能力換装〉は行えているが、ぶっちゃけそれどころじゃない。
「主様、次を」
「お、おう」
とろんと潤んだ瞳と開かれた口に誘われる様に、俺は次の素材をセツナの口へと運ぶ。口に含み、嚥下するたびに震えるセツナの表情は、恍惚と言える色を露わにする。そして最後の1つを俺が手にした瞬間、
「……っ」
「セツナっ!?」
勢いあまってセツナは俺の指ごと咥え込む。ざらりとした舌の感触に嬲られながら、コクリと素材が嚥下される。そしてセツナの身体の震えが止まり、ウィンドウに対応する項目が表示されることによって、ようやっと俺からセツナへと流れる魔力も止まった。
こちらを窺うように視線をはしらせたセツナが、ゆっくりと俺の指から口を離し、「申し訳ございません」と取り出したハンカチで俺の指を拭いた。
「主様の魔力があまりにも美味しくて、つい咥えてしまいました。その、怒っておられませんか?」
「い、いや……大丈夫だ。怒ってなどいないよ。噛みつかれたわけじゃ、ないからね」
「ありがとうございます。それと〈能力換装〉は無事、完了いたしました。適応されるまでしばらくお待ちくださいませ、主様。ミィちゃんも、手伝ってくださりありが――ミィちゃん? どうなさいました?」
「はっ!? な、なんでも~ない~ですよ~!!」
顔をトマトのように真っ赤にしたミィエルは慌てて反応するも、心配そうに覗き込むセツナが額に手のひらを当てる。
「熱があるように思うのですが?」
「それは~セっちゃんの~せい~!」
「? セツナの?」
「そんな~ことより~! セっちゃん~、服~! 服~!!」
「いえ、先にこの素材を洗浄してからでなければ服も汚れてしまいますので」
「〈ウォッシュ〉~! これで~だいじょ~ぶですよ~!」
「! ありがとうございます、ミィちゃん」
ミィエルに世話を焼かれてひまわりの様な笑顔を浮かべるセツナ。微笑ましい姉妹のような光景で、実に心が洗われる――
「事実から目を背けても意味ないわよ?」
「解ってます。解ってますけど……はぁ…………」
魔力供給の時と言い今と言い、なんでこうセツナは色っぽい感じになっちゃうかなー!?
「外ではできないわね」
「やりませんよ」
「あたしたちの前でも控えて欲しいわ」
「……えぇ、そうします」
がくりと肩を落とす俺。その俺の肩に手が置かれ、
「ねぇカイル? これはあなたの趣味じゃないわよね?」
「断じて違う!」
さらに注がれるリルの冷めた視線に、置かれた手の重み以上に俺は項垂れるのだった。
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